The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
Acute Exacerbation of Dermatomyositis-Associated Interstitial Pneumonia after Resection of the Descending Colon Cancer Requiring Differential Diagnosis from Anastomotic Leakage
Shintaro HashimotoTakashi NonakaTetsuro TominagaHideo WadaMasaki KunizakiShuichi TobinagaYorihisa SumidaShigekazu HidakaMasataka UmedaTerumitsu SawaiTakeshi Nagayasu
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2018 Volume 51 Issue 5 Pages 365-372

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Abstract

症例は65歳の男性で,筋痛・手指腫脹を主訴に内科を受診し抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎・間質性肺炎と診断された.全身精査の下部消化管内視鏡検査で下行結腸癌(cStage IIIa)が発見されたため,腹腔鏡下結腸左半切除術を行った.術後4日目に間質性肺炎急性増悪を来し,ステロイドパルス療法・シクロスポリン内服・シクロホスファミド間歇静注を開始した.術後7日目に腹痛が出現しCTで腹腔内遊離ガスおよび後腹膜気腫を認めたことから縫合不全も疑われたが,腹膜刺激症状やバイタルサインの変動に乏しく,間質性肺炎急性増悪に伴う縦隔気腫の腹腔内波及と判断した.抗菌薬治療を追加したところ,その後の経過は良好で,術後41日目に軽快退院した.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎は急速進行性間質性肺炎を併発する可能性が高いため,合併した悪性腫瘍に対して外科的治療を行う場合は注意が必要であると考えられた.

はじめに

皮膚筋炎は悪性腫瘍を合併しやすいことが知られている1)2).また,間質性肺炎(interstitial pneumonia;以下,IPと略記)を併発することも多く,その急性増悪は致死的となりうる.皮膚筋炎患者に悪性腫瘍とIPが同時に併発した場合,どちらの治療を優先すべきか切実な問題となるが,両者が併発することはまれで3),本邦報告例も限られている4).今回,抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に合併した下行結腸癌の術後4日目にIP急性増悪を来した症例を経験した.ステロイドパルス療法(以下,パルス療法と略記)+免疫抑制剤による治療を開始したところ,術後7日目に腹痛・腹腔内遊離ガスが出現したことから縫合不全との鑑別を要したため,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:65歳,男性

主訴:筋痛,手指腫脹

既往歴:高血圧症,2型糖尿病

生活歴:喫煙40本×45年,機会飲酒.

薬歴:アセトアミノフェン,テネリグリプチン,ベニジピン

現病歴:1か月前に出現した腹部・両大腿・両肩の筋痛,両手指の腫脹,爪周囲の紅斑・点状出血のため近医を受診した.当院膠原病内科を紹介され,精査の結果,抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎と診断された.全身精査のため施行した下部消化管内視鏡検査で下行結腸脾彎曲部に2型腫瘍を認め,生検でadenocarcinomaと診断され当科紹介となった.

入院時現症:身長165.7 cm,体重70.3 kg,血圧136/90 mmHg,脈拍110回/分,SpO2 95%(room air),体温37.0°C,心音 整・雑音なし,呼吸音 清・左右差なし,腹部 平坦・軟・圧痛なし,四肢近位筋の把握痛あり,顔面紅斑・ヘリオトロープ疹・爪周囲紅斑・ゴットロン徴候あり.

血液生化学検査所見:AST 112 IU/l,ALT 131 U/lと肝逸脱酵素の高値を認め,CRP 2.2 mg/dlと炎症反応高値を認めた.抗MDA5抗体陽性でフェリチンも720 ng/mlと高く,CEAは9.9 ng/mlに上昇していた(Table 1).

Table 1  Preoperative laboratory data
​RBC 5.24​×104/mm3 ​Cr 0.75​ mg/dl
​Hg 15.9​ g/dl ​TP 6.9​ g/dl
​Hct 46.5​% ​Alb 3.3​ g/dl
​WBC 5,300​/mm3 ​CRP 2.2​ mg/dl
​Plt 18.6​×104/mm3 ​KL-6 412​ U/ml
​PT-INR 1.05​ ​SP-D 56.0​ ng/ml
​APTT 31.5​ s ​SP-A 39.3​ ng/ml
​T-Bil 0.7​ mg/dl ​ferritin 720.0​ ng/ml
​AST 112​ IU/l ​CEA 9.9​ ng/ml
​ALT 131​ U/l ​CA19-9 29.1​ U/ml
​LDH 362​ IU/l ​ANA*1 (−)
​ALP 241​ U/l ​anti-ds-DNA Ab*2 (−)
​CK 234​ IU/l ​anti-RNP Ab*2 (−)
​γ-GTP 77​ IU/l ​anti-SM Ab*2 (−)
​Na 142​ mEq/l ​anti-SS-A Ab*2 (−)
​K 3.4​ mEq/l ​anti-SS-B Ab*2 (−)
​Cl 106​ mEq/l ​anti-Scl-70 Ab*2 (−)
​Ca 8.3​ mg/dl ​anti-MDA5 Ab*2 (+)
​BUN 8​ mg/dl

ANA*1: anti-nuclear antibody, Ab*2: antibody

呼吸機能検査所見:VC 3,300 ml,%VC 97.9%,FEV1.0 2,110 ml,FEV1.0% 63.94%と軽度の閉塞性障害を認めた.

下部消化管内視鏡検査所見:下行結腸脾彎曲部に5 cm大の2型腫瘍を認め,同部位の生検でadenocarcinomaと診断された(Fig. 1).

Fig. 1 

Colonoscopy reveals a type 2 advanced cancer in the splenic flexure.

胸部・骨盤部CT所見:両側上中葉,両側下葉末梢の胸膜下に網状影・すりガラス影を認めた(Fig. 2a, b).肝臓には転移を疑う所見はなく,下行結腸脾彎曲部に壁肥厚と近傍の腸間膜内リンパ節の腫大を認めた.

Fig. 2 

A CT scan shows the interstitial changes and emphysematous changes in the bilateral upper lobe (a) and interstitial changes in the bilateral lower lobe (b).

以上により,進行下行結腸癌,cT3(SS)N1M0,cStage IIIaと診断した.IPを併発する抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に対し,パルス療法・シクロスポリン(以下,CyAと略記)内服・シクロホスファミド間歇静注(以下,CPAと略記)による内科的治療が必要と考えられたが,①治療期間中に癌が進行する可能性や,②治療後のステロイド減量に長期間を要すること,③腫瘍切除により皮膚筋炎の症状軽快も期待されることから,手術を先行する方針とした.

手術所見:5ポートで腹腔鏡下にアプローチし,血管処理は下腸間膜動脈から上直腸動脈を温存し,左結腸動脈分岐部・中結腸動脈左枝分岐部で切離した.内側剥離は左腎前筋膜前面で行い,結腸脾彎曲部近傍まで後腹膜切開を行い外側剥離し,結腸を授動した.臍部より小開腹を行い,体外操作で腫瘍を含め左半結腸を切除し,再建は機能的端々吻合を行った.左横隔膜下ドレーンを留置し終了した.手術時間3時間37分,出血量20 gであった.

摘出標本所見:下行結腸に3/4周を占める45×40 mm大の2型腫瘍を認めた.

病理組織学的検査所見:中分化腺癌(tub2),pT3(SS),N0,INFb,ly1,v1,またAuerbach神経叢に浸潤を認めpN1a,pStage IIと診断された.

術後経過:術後3日目夜半に38°C台の発熱が出現した.翌朝施行したCTで両肺上葉の間質影の増強を認めたが(Fig. 3),腹腔内には術後相応と考えられる少量の腹腔内遊離ガスを認めたのみで,膿瘍形成や縫合不全を示唆する所見は指摘できなかった.酸素化は不良で経鼻酸素3 l/分でPaO2 76 mmHgと低下していたが,痰培養は陰性で,胸部X線所見上心拡大も認めなかった.IP急性増悪と診断し,縫合不全や感染症のリスクを十分に説明したうえでパルス療法・CyA・CPAによる治療を同日に開始した.術後4日目より食事を開始し,ドレーン性状・量ともに問題なく術後5日目に抜去した.その後速やかに解熱したが,術後7日目に突然腹部全体の疼痛が出現した.背部痛はなく,腹部所見上,全体に軽度の圧痛を認めたが反跳痛や筋性防御は認めなかった.CTで術後3日目の撮像時に比べ肝表面の腹腔内遊離ガスは増加し,吻合部近傍や左腎周囲を中心とした後腹膜気腫を認めたが,縫合不全を示唆するような吻合部周囲膿瘍は認めず腹水は少量であった.開腹に伴う腹腔内の空気の残存の可能性に加え縫合不全も疑われたが,腹部と連続して広範囲に縦隔気腫を認めたことから,IP急性増悪による縦隔気腫の腹腔内への波及と考えた(Fig. 4a~d).抗菌薬(タゾバクタム/ピペラシリン)を開始したところ症状は次第に軽快し,術後12日目に酸素を中止した.術後25日目のCTで間質性陰影は改善しており,術後41日目に軽快退院となった(Fig. 5).皮膚筋炎による筋痛は術後約1週間ごろより改善傾向を認めた.

Fig. 3 

A CT scan on postoperative day 4 shows progressive interstitial changes in the bilateral upper lobe.

Fig. 4 

A CT scan on postoperative day 7 shows pneumoperitoneum seen at the anterior surface of the liver and stomach (a, arrowheads) and around the anastomotic site (b, arrowheads). Gas also exists at the retroperitoneum (c, arrowheads) and pneumomediastinum (d, arrowheads).

Fig. 5 

Clinical course.

考察

皮膚筋炎患者は約32%に悪性腫瘍を合併し1),その標準化罹患比は診断1年以内で17.29倍,1から5年以内で2.7倍,5年以降で1.37倍と報告されている2).このため皮膚筋炎と診断された患者に対しては全身スクリーニングが必要であり,発見された悪性腫瘍に対する治療を先行することで皮膚筋炎やそれに伴うIPが軽快する可能性がある4)~6)

一方,皮膚筋炎は約46%にIPを併発するとされ,その急性増悪は致死的となりうる7)ため,皮膚筋炎患者に悪性腫瘍とIPが同時に併発した場合,どちらの治療を優先すべきか切実な問題となる.IP併存患者に比べて非併存患者の方が悪性腫瘍の発生率は低い(30 vs. 60%;P<0.05)ことが報告され3)8),その原因としては自己抗体の関与が示唆されている9)10).医学中央雑誌で「間質性肺炎」と「大腸癌」をキーワードに1970年から 2017年3月まで「会議録を除く」文献を検索したところ92件の報告がみられたが,皮膚筋炎と関連したものは1件4)のみであった.その論文において國土ら4)は,腫瘍切除により皮膚筋炎症状とIPが劇的に軽快したことを報告している.

自験例は,皮膚筋炎に大腸癌とIPが同時に併発した稀有な症例であるが,特筆すべきは抗MDA5抗体陽性であったことである.抗MDA5抗体は皮膚筋炎の22~26%で陽性を示し11)12),その79%が急速進行性IPを併発し50%が死亡することから11)予後不良因子として注目されている.また,抗MDA5抗体陰性例と比較して縦隔気腫を伴う頻度が高いことも特徴的であると報告されている12).IPの活動性と相関することから治療導入の指標にフェリチンが有用であることも示されており13),自験例においてもフェリチン上昇はIP増悪と相関する傾向にあった.治療としてパルス療法+CyA・CPAにより予後改善が得られたとの報告14)がある一方,これらの治療によってもIP症例の約半数が3か月以内に呼吸不全で死亡した15)との報告もある.Nishiguchiら16),Ichiyasuら17)はそれぞれ胃癌・大腸癌,子宮頸癌を併発した抗MDA5抗体陽性clinically amyopathic dermatomyomitis(以下,CADMと略記)に対して内科治療導入後に悪性腫瘍に対する切除術を行った症例を報告しているが,いずれも術前からIPによる呼吸器症状を呈しており,内科治療が優先された症例であった.自験例は術前に呼吸機能検査において軽度の閉塞性呼吸障害を呈していたが呼吸器症状を認めず,またKL-6やLDHの値は正常範囲内であり,結腸癌が進行癌であったことから手術を優先したが,抗MDA5抗体陽性例に対して手術を行う場合にはIP増悪に細心の注意が必要であると考えられた.

大腸癌手術において術前ステロイド投与は縫合不全のリスクであるが18),術後早期にパルス療法を施行した症例については報告が少なく,その影響は明らかにされていない.医学中央雑誌で「術後」および「ステロイドパルス」をキーワードに1970年から2017年3月までの「会議録を除く」文献を検索したところ769件の文献が抽出されたが,そのうち消化管吻合を含む手術で術後10日以内にパルス療法がなされたものは3例19)~21)Table 2)のみであった.自験例を含めた4例のいずれも縫合不全や腹腔内膿瘍形成など腹腔内の合併症なく経過しているが,パルス療法を施行することで重篤な合併症のリスクが上昇する可能性はあり,開始前の十分なインフォームド・コンセントが必要である.

Table 2  Reported cases in Japan of steroid pulse therapy in the early period (10 days) after operation including digestive tract
Case Author/Year Age Sex Preoperative diagnosis Operation Treatment The day of the treatment started Targeted disease Clinical course Intraabdominal complication
1 Kiribayashi19)/
2004
69 M*1 Small bowel perforation Small bowel resection Hydrocortisone Succinate 200 mg×1 day with Silvelestat Sodium Hydrate POD*70 Acute lung injury Improved
2 Tsunemi20)/
2006
73 F*2 Bile duct carcinoma Pancreaticoduodenectomy mPSL*3 1,000 mg×2 days with IVIg*4 POD*71 Hemophagocytic syndrome Improved
3 Endoh21)/
2008
83 M*1 Bile duct carcinoma Pancreaticoduodenectomy mPSL*3 (the dose was not reported)×3 days with IVIg*4 POD*78 Guillain-Barre syndrome No improvement
4 Our case 65 M*1 Discending colon cancer Laparoscopic left hemicolectomy mPSL*3 1,000 mg ×3 days with CyA*5, CPA*6 POD*74 Interstitial pneumoniae Improved

M*1: male, F*2: female, mPSL*3: methylprednisolone, IVIg*4: intravenous immunoglobulin, CyA*5: cyclosporin A, CPA*6: cyclophosphamide, POD*7: post operation days

さて,自験例はパルス療法施行後に腹痛と腹腔内遊離ガスの増加が出現したため縫合不全との鑑別が問題となった.腹腔内遊離ガスは多くの場合管腔臓器の穿孔に伴うものであり,外科的介入を要さないnon-surgical pneumoperitoneumとの鑑別が重要である.Čečkaら22)は,①偶発的に発見され,②腹腔内遊離ガスを呈しうる頻度の高い病態(人工呼吸器管理,気胸・縦隔気腫,高度の咳嗽,腹部手術後,内視鏡操作後,膣洗浄後など)にあり,③腹膜刺激症状・敗血症兆候・発熱がなく,④腹水を認めない場合,後者の可能性が高いとするアルゴリズムを提唱している.自験例は術後腹痛の原因検索で発見された腹腔内遊離ガスであったが,縦隔気腫を認め,腹膜刺激症状や発熱はなく,腹水も少量で3日前のCT所見からの増加は認めなかった.以上より,non-surgical pneumoperitoneumの可能性が高いと考えた.原因として抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に併発したIP増悪に併う縦隔気腫が後腹膜を経由し,手術操作で解放された後腹膜腔より腹腔内に侵入したものと考えた.Non-surgical pneumoperitoneumにおいては症状や腹膜炎の所見を認めなくとも厳重なモニタ管理が必要であるとの指摘もあり23),自験例でも経時的な身体診察を含め厳重に経過観察を行った.なお,縦隔気腫や後腹膜気腫を伴わなかった場合には縫合不全の否定が困難だった可能性もあるが,吻合部周囲膿瘍や腹水貯留の所見がなく,腹膜刺激症状を含めた臨床所見に乏しかったことからやはり厳重経過観察の方針としたと考える.

術後早期にIP増悪に対してパルス療法を施行したところ,縦隔気腫の波及による腹腔内遊離ガスから縫合不全との鑑別を要した下行結腸癌の1例を経験した.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に併発した消化器癌に対して手術を行う場合はIP増悪に細心の注意が必要であり,その治療としてパルス療法を行う際は併存疾患の特性を十分に理解したうえで総合的に病態を把握し治療に臨むことが重要である.

利益相反:なし

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