The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Ruptured Aneurysm of Proper Hepatic Artery Treated with Interventional Radiology and Surgery
Sho YamadaYosuke KatoKengo HayashiKoichiro SawadaMasahiro OshimaMasahiro HadaMasanori KotakeKaeko OyamaTakuo Hara
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2018 Volume 51 Issue 6 Pages 445-452

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Abstract

症例は69歳の女性で,吐血のため救急受診した.上部消化管内視鏡検査中に出血性ショックとなり,内視鏡的止血は困難であったため,緊急interventional radiologyを施行した.腹腔動脈造影にて固有肝動脈瘤が描出され,TAEを試みたが固有肝動脈内腔が狭小化しており,選択的カニュレーションは極めて困難であった.一方で上腸間膜動脈から膵周囲を経て右肝動脈への血流が確認されたため,総肝動脈から胃十二指腸動脈までTAEを施行し,動脈瘤への血流の大部分は遮断された.その2日後のCTにて,上腸間膜動脈から右肝動脈を経由した固有肝動脈と右胃動脈を介して動脈瘤への血流を認め,再破裂が予想されたため準緊急手術の方針とした.右胃動脈,右肝動脈,左肝動脈をそれぞれ結紮して動脈瘤への血行を遮断した.経過は良好で術後15日で退院した.術後のCTでは動脈瘤は器質化し,右肝動脈からの交通枝によって左肝動脈への血流が保たれていることが確認された.

はじめに

腹部内臓動脈瘤は全人口の1%と比較的まれな血管性疾患であるが,破裂に至った場合は,消化管出血,腹腔内出血を来し致死的な経過を辿ることがある1).今回,我々は固有肝動脈瘤の十二指腸穿破により出血性ショックに至った患者に対して,血管内治療を先行し,準緊急手術で救命しえた1例を経験したので報告する.

症例

患者:69歳,女性

主訴:吐血

既往歴:Sjögren’s症候群(62歳時に腎生検より診断され,代謝性アシドーシス,低カリウム血症に関して,重曹にてアシドーシスの是正,カリウムを補充している.)

家族歴:特記事項なし.

現病歴:仕事中に突然のふらつき,冷汗を認め,失神した.その30分後に,吐血を認めたため,当院救急外来を独歩受診した.

来院時現症:意識は清明,健忘は認めなかった.血圧93/54 mmHg,脈拍74回/分,SpO2 99%,体温36.2°C,眼瞼結膜に軽度の貧血を認めた.腹部は平坦軟で圧痛,腫瘤は認めなかった.

血液生化学検査所見:T-bil 0.7 mg/dl,ALP 140 IU/l,AST 35 IU/l,ALT 41 IU/l,γ-GTP 81 IU/l,TP 7.0 g/dl,Alb 4.1 g/dl,CRP 0.1 mg/dl,WBC 5,500/μl,RBC 311×104/μl,Hb 9.9 g/dl,Ht 30.1%,Plt 28.2×104/μlと軽度の貧血を認めるのみで,血算および血液生化学検査で他の異常を認めなかった.

来院後経過:出血源検索のために,緊急上部消化管内視鏡検査を行ったところ,胃内には大量の凝血塊あり,十二指腸球部前壁の粘膜下腫瘍様の隆起性病変から拍動性の出血を認めた(Fig. 1).粘膜下腫瘍からの出血などを疑い高張Na-Epinephrineによる局所注射を試みるも止血は困難であった.以上の処置を施行中,再度の吐血を契機に,収縮期血圧が70 mmHg台に低下(来院後2時間)したため,急速輸血(赤血球製剤8単位)を開始し,緊急interventional radiology(以下,IVRと略記)の適応と判断した.IVR室でのCTでは十二指腸球部に40 mm大の粘膜下腫瘍様の腫瘤影を認めた(Fig. 2).

Fig. 1 

Upper gastrointestinal endoscopy shows active bleeding from the aneurysm in the duodenal bulb.

Fig. 2 

A plain CT scan shows the aneurysm measuring 40 mm in diameter to be located near the duodenum (arrow).

緊急IVR所見:右大腿動脈からアプローチし,親カテーテルとして4.2 Frのシェファードフック型のカテーテル,マイクロカテーテルとしてProgreat(TERUMO),Labyrinth(PAIOLAX)を使用した.腹腔動脈からの造影で固有肝動脈から囊状に突出する動脈瘤が描出された(Fig. 3a).0.016 inchマイクロガイドワイヤーが血管破綻入り口でひっかかるが,その末梢の内腔狭窄領域を越えて進めることができず,この状態でマイクロカテーテルを追従させようとするも,マイクロガイドワイヤーが落ちてしまい,カニュレーションは不能であった.一方,上腸間膜動脈からの造影では,膵頭部前後のアーケードから肝十二指腸間膜内の細動脈を経由して右肝動脈への血流が確認された(Fig. 3b)ため,総肝動脈から胃十二指腸動脈まで金属コイルおよびn-butyl-2-cianoacrylateにて塞栓を施行し,動脈瘤への血流の大部分を遮断しえた.

Fig. 3 

a) A celiac angiogram shows the proper hepatic aneurysm. CHA: common hepatic artery; GDA: gastroduodenal artery; PHA: proper hepatic artery; LHA: left hepatic artery; RHA: right hepatic artery. b) A superior mesenteric angiogram shows the right hepatic artery to be visualized by the backflow through the pancreaticoduodenal arcades. SMA: superior mesenteric artery.

入院時経過:TAE後は血圧98/54 mmHg,脈70回/分と循環動態が安定し,赤血球製剤8単位の輸血でHb 9.2 g/dlであった.以後,貧血の進行はなく,肝逸脱酵素の上昇など異常値は認めなかった.TAE後2日目のダイナミックCTで上腸間膜動脈から右肝動脈を経由した固有肝動脈と右胃動脈を介して動脈瘤への血流を認めた(Fig. 4a, b).動脈瘤の大きさに変化はなかったが,再破裂が予想されたため同日に準緊急手術の方針とした.術前の予定術式は固有肝動脈瘤切除,不可能であれば固有肝動脈,右胃動脈を処理して動脈瘤への血行遮断の方針とした.

Fig. 4 

a) Enhanced CT after TAE shows the hepatic artery aneurysm has blood flow from the proper hepatic artery and right gastric artery. b) Three-dimensional CT. RGA: right gastric artery.

手術所見:上腹部正中切開にて開腹し,肝十二指腸間膜内に40×35 mm大の動脈瘤を認めた.まずは右胃動脈を結紮切離した.次に固有肝動脈周囲の剥離を試みたが,動脈瘤と固有肝動脈の交通路を承握することは危険と判断した.また,固有肝動脈から左右肝動脈への分岐部も明らかにすることは困難であった(Fig. 5).左右肝動脈それぞれの血行を同時に遮断したところ,ドップラー血流計にて肝内動脈血流は確保されており,肝左葉の血色不良も認めなかった.以上から,両動脈の結紮切離が可能で,血行再建も不要と判断した.

Fig. 5 

On the intra-operative view, the hepatic artery aneurysm is located in the hepatoduodenal ligament. The RGA is already detached. LHA: left hepatic artery; RHA: right hepatic artery; RGA: right gastric artery.

手術時間は120分,出血量は10 mlであった.

術後経過:術後は良好にて経過し,血液生化学検査の変動もなく15病日に退院となった.術後の2か月のCTでは動脈瘤は器質化し,右肝動脈からのcommunicating arcadeまたは横隔膜下動脈からの側副血行路によって左肝動脈への血流も保たれていることが確認された(Fig. 6).

Fig. 6 

Enhanced CT of 2 months post­operatively shows the cured hepatic artery aneurysm. The left hepatic artery has bood flow through the communicating arcade from the right hepatic artery (arrow).

考察

腹部内臓動脈瘤のうち肝動脈瘤の頻度は約20%あり,肝外性が80%,肝内性が20%に分類される2).肝外性の発生部位別にみると総肝動脈22%,固有肝動脈16%,右肝動脈47%,左肝動脈13%である3)

動脈瘤は真性と仮性に分類され,動脈壁構造を持たない仮性動脈瘤は真性動脈瘤より破裂の頻度が高いことが知られている.発生原因としては,宇野ら4)によると外傷性が41.7%(医原性34.4%を含む)と最も多く,次に動脈硬化性が18.8%,炎症性が6.3%,細菌性が5.2%,その他として結節性多発動脈炎,線維筋性形成異常,Malfan症候群など先天性によるものと報告されている.本症例はSjögren’s症候群の患者であったが,成因は特定できなかった.

肝動脈瘤の発見契機としてO’Driscollら2)は約80%が破裂によると報告したが,最近では症状のない動脈瘤の発見される機会が増え,破裂の頻度は20%以下と低くなってきている5)

破裂など有症状の肝動脈瘤は原則治療適応である.しかし,未破裂の肝動脈瘤の治療適応に関しては,明確には定まってはいない.Abbasら6)によると破裂のリスクが高い症例として結節性多発動脈炎,線維筋性形成異常の存在や,多発肝動脈瘤を挙げている.また,それに加え瘤径2 cm以上の肝動脈瘤について治療を検討すべきとされている.

治療に関しては外科治療として動脈瘤縫縮術,動脈瘤切除術,血行再建術,肝切除術が考慮される.最近ではIVRの進歩によりTAEなどの血管内治療が選択されることが多くなっている.特に動脈瘤破裂例では出血性ショックなど全身状態が不良であることが多く,TAEが治療の第一選択との報告もある7).塞栓法に関しては2通りあり,動脈瘤内腔のみ塞栓するpackingと,動脈瘤の親血管の近位側,遠位側を塞栓するisolationがある.仮性動脈瘤の場合,金属コイルなどによるpackingは動脈瘤破裂の危険性を指摘されており,isolationが望ましいとされる8)

これら治療選択に関しては動脈瘤の局在と動脈系解剖を十分に把握したうえで決定する必要がある.すなわち動脈瘤縫縮術,動脈瘤切除術,TAEによる血行遮断のみで可能なのか,あるいは肝血流低下から術後肝不全のリスクを考慮し,血行再建が必要なのかどうかが重要である.

肝内動脈瘤の治療に関しては,原則TAEが可能である.しかし,十二指腸乳頭括約筋機能が廃絶された症例の場合TAEによる循環障害から胆管壊死,肝細胞壊死を来し,さらに胆汁うっ滞による逆行性胆道感染が加わることで膿瘍形成に至る可能性が報告されている9)

肝外動脈瘤の治療に関しては,処理する血管にて治療法が選択される.①総肝動脈のみを処理,②固有肝動脈(末梢側の左右肝動脈処理を含む)のみを処理,③総肝動脈,胃十二指腸動脈,固有肝動脈(末梢側の左右肝動脈処理を含む)を処理,④右もしくは左肝動脈のみを処理,といった場合分けが可能である.①の場合,総肝動脈レベルでの血行遮断であれば,上腸間膜動脈から胃十二指腸動脈を介して肝血流は保たれる2).④に関しては,一方の肝動脈を結紮切離してもcommunicating arcadeが全例に存在すると報告されており10),血行遮断のみで肝血流の低下を引き起こさないと考えられる.以上より,①,④に関して,原則血行再建は不要であり,血行遮断のみで治療可能である.しかし,肝硬変症例など肝予備能が低下している症例に関しては,血行再建を前提とした術式の検討も必要である2)

②,③に関しては肝血流の低下による術後肝不全,肝膿瘍,胆囊壊死の可能性があり,動脈瘤切除,血行再建が望ましいとされている11)

医学中央雑誌にて「肝動脈瘤」をキーワードに1970年から2017年で検索したものの中(会議録は除く)で,②,③の症例で治療されたものは19例であった(Table 112)~30).血行遮断のみで治療されたものは10例であり,血行再建が行われたものは9例であった.術後合併症は,肝機能障害が9例(5例が血行遮断のみの症例),肝膿瘍,胆囊壊死が1例(血行遮断のみの症例)であったが,致命的となる術後肝不全など重症の合併症に至った症例は認めなかった.さらに,自験例に関しては術前のIVRによる動脈解剖の把握,術中のドップラー血流計の使用により肝血流を確認することで,術後合併症は認めなかった.これら肝血流が保たれる理由として以下2点が挙げられる.一つ目は胃十二指腸動脈を処理しても,下横隔動脈,副腎動脈,上腸間膜動脈から膵周囲,epicholedochal plexus,傍胆管動脈などの肝動脈への側副血行路が存在することである31).二つ目は左右肝動脈のどちらかを処理しても,④で述べたようにcommunicating arcadeが存在することである.

Table 1  Twenty cases of hepatic artery aneurysm
No Author Year Age/Sex Lesion Pthological classfication Cause Chief complaint Rupture Shock Liver cirrhosis Size Site of vascular embolization Treatment Complication Prognosis
1 Kitaoka 12) 1971 58/F CHA TRUE arteriosclerosis abdominal distension 5 cm aneurysmectomy liver disorder Alive
2 Fukuda13) 1987 63/M CHA TRUE arteriosclerosis gastrointestinal bleeding + N/A aneurysmectomy+revascularization N/A N/A
3 Morita14) 1989 68/M PHA N/A iatrogenic (biliary resection) intraperitoneal bleeding + + N/A TAE (Isolation) liver disorder Alive
4 Yoshida15) 1996 58/M CHA N/A iatrogenic (gastrectomy) gastrointestinal bleeding + N/A aneurysmorrhaphy gallbladder necrosis Alive
5 Iimuro16) 2000 65/M PHA TRUE N/A No 2 cm aneurysmectomy+revascularization none Alive
6 Yoshida17) 2000 20/M PHA-LHA N/A N/A abdominal pain + + 5 cm aneurysmorrhaphy+cholecystectomy liver disorder Alive
7 Sakuma18) 2000 72/F PHA TRUE arteriosclerosis No 3.2 cm aneurysmorrhaphy+revascularization+cholecystectomy none Alive
8 Maemura19) 2004 36/M CHA N/A N/A No 4 cm aneurysmectomy+revascularization liver disorder Alive
9 Yamazawa20) 2005 76/M CHA-PHA TRUE arteriosclerosis No 1 cm aneurysmectomy+revascularization none Alive
10 Hokotate21) 2006 74/M CHA-PHA N/A N/A jaundice 6.5 cm TAE (Isolation) none Alive
11 Ueda22) 2007 56/M CHA TRUE arteriosclerosis No 3.5 cm aneurysmectomy+revascularization liver disorder Alive
12 Fukazawa23) 2008 64/M CHA N/A N/A gastrointestinal bleeding + + N/A TAE (Isolation) liver disorder Alive
13 Takemoto24) 2008 76/F CHA-PHA TRUE N/A No 4 cm aneurysmectomy+revascularization none Alive
14 Kida25) 2011 74/F PHA N/A iatrogenic (gastrectomy) intraperitoneal bleeding + + 3 cm TAE (packing) none Alive
15 Hatogai26) 2012 41/M CHA-RHA N/A SAM gastrointestinal bleeding + 4 cm aneurysmectomy+revascularization+cholecystectomy liver disorder Alive
16 Ikeno27) 2012 77/M CHA-PHA N/A N/A No 5.5 cm TAE (Isolation)⇒aneurysmectomy none Alive
17 Kubo28) 2013 81/M PHA N/A iatrogenic (gastrectomy) intraperitoneal bleeding + + N/A TAE (Isolation) liver disorder
liver absess
Alive
18 Nakamura29) 2015 59/M CHA TRUE N/A gastrointestinal bleeding + 3 cm aneurysmectomy+revascularization liver disorder Alive
19 Imai30) 2017 72/M PHA N/A N/A No 2.5 cm TAE (Isolation) none Alive

CHA: common hepatic artery, PHA: proper hepatic artery, LHA: left hepatic artery, RHA: right hepatic artery, N/A: not applicable, ② dissection of proper hepatic artery, ③ dissection of common hepatic artery, gastroduodenal artery and proper hepatic artery.

破裂例の予後は,重要な規定因子として破裂部位とショック状態の有無が挙げられている.破裂部位は,腹腔内への破裂が43%,胆道系への破裂が41%,消化管への破裂が11%,門脈への破裂が5%とされ,腹腔内への破裂の50%,消化管への破裂の42%が死亡していると報告されている32).また,ショック状態に陥った症例に関しては50%以上死亡すると報告されており,的確な対応が求められる33).松本ら34)は腹部内蔵動脈瘤の検討で,年代別にみるとTAE施行例が増加しており,死亡率37%が9%まで改善されたと報告し,TAEによる予後改善の可能性を述べている.

今回の検討での出血性ショックであった5例に関しては,全例血行遮断のみ(4例がTAEによる血行遮断)が実施されていた.自験例は③の症例であり,出血性ショックの状態であったこと,上腸間膜動脈から右肝動脈への側副血行路が確認できたため,総肝動脈から胃十二指腸動脈に対してTAEを先行し,出血コントロールを優先した.後日施行した外科治療では血行再建も考慮されたが,幸い左右肝動脈を遮断しても肝左葉の血行が保たれていると判断できたため,それぞれの切離を行い,術後経過は問題なかった.

以上より,血管処理が総肝動脈,胃十二指腸および左右肝動脈におよぶ肝動脈瘤の症例であっても,血行遮断のみで安全に施行しうる可能性が示唆された.さらに,動脈瘤破裂,出血性ショックの患者である場合はIVRを先行することで側副血行路など動脈解剖の認識が可能であり,さらにTAEへ治療をつなげ救命率向上に寄与できる可能性が示唆された.

利益相反:なし

文献
 

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