The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Surgical Treatment of Killian Jamieson Diverticulum Effectively Using Intraoperative Neural Monitoring
Kazuyuki OishiYuichi ShibuyaYoshihito FurukitaYasuo FukuiYusuke OtaniMasaki SakamotoNobuo TakataRyo InadaKenta SuiYasuo Shima
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2018 Volume 51 Issue 6 Pages 391-399

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Abstract

症例は63歳の女性で,頸部違和感と圧痛を主訴に前医を受診し,頸部超音波検査で甲状腺左葉に2 cm大の甲状腺癌が疑われ,精査目的に当科を受診した.精査によりKillian Jamieson憩室(Killian Jamieson diverticulum;以下,KJDと略記),腺腫様甲状腺腫と診断した.診断時,症状が消失しており経過観察としたが,以後頸部圧痛を訴えるようになり手術を施行した.手術は憩室切除術,輪状咽頭筋切開,甲状腺部分切除術を行った.KJDでは手術の際,解剖学的に反回神経の同定と温存が必須である.憩室炎を繰り返し,癒着が強い場合や甲状腺腫瘍を合併した場合には反回神経の同定が困難となることがあるが,術中神経モニタリング(intraoperative neural monitoring)を使用することで反回神経を容易に同定し,確実に温存することが可能であった.

はじめに

咽頭食道憩室は食道内圧により圧出し形成される圧出性形室で,筋層が欠損した仮性憩室である1).その発生部位よりZenker憩室(Zenker diverticulum;以下,ZDと略記),Killian Jamieson憩室(Killian Jamieson diverticulum;以下,KJDと略記),Laimer憩室(Laimer diverticulum;以下,LDと略記)の三つに分類されるが,KJDは輪状咽頭筋直下で食道縦走筋外側のKillian Jamieson areaから突出するものと定義されている.KJDの治療は外科的切除であり,憩室切除時に反回神経を同定,温存することが必須であるが,頸部切開による咽頭食道憩室手術時の反回神経麻痺発生率は2~23%と高い2).昨今,甲状腺外科領域において術中神経モニタリング(intraoperative neural monitoring;以下,IONMと略記)により反回神経を同定,温存する方法が普及している3).今回,甲状腺腫瘍を合併し,憩室炎を繰り返していたため癒着が強く,反回神経周囲の安全な操作のためにIONMが有用であった1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

症例

患者:63歳,女性

主訴:頸部違和感,頸部圧痛

既往歴:高血圧,高脂血症

現病歴:1か月前からの左前頸部違和感と圧痛を主訴に前医を受診し,甲状腺左葉に約2 cm大の甲状腺癌を疑われ,精査目的に当科紹介受診となった.

初診時身体所見:左頸部に約2 cm大の嚥下により可動性良好で弾性軟な腫瘤を触知した.当院初診時には頸部圧痛は認めなかった.

血液生化学検査所見:WBC 4,700/μl,FT3 3.07 pg/ml,FT4 1.02 ng/dl,TSH 1.293 μIU/ml,サイログロブリン12.1 ng/ml,抗サイログロブリン抗体11 IU/ml,抗ペルオキシダーゼ抗体 6 IU/ml.明らかな異常を認めなかった.

頸部超音波検査所見:甲状腺左葉中央に3.2×2.4 cm大の形状不整,境界不明瞭,内部エコーは点状高エコーが散在する不均一な低エコー腫瘤を認め,甲状腺乳頭癌を疑った(Fig. 1a).その下方に囊胞変性を伴う2.3 cm大の結節を認め,腺腫様甲状腺腫を疑った(Fig. 1b).前者は腫瘤として触知できず,後者のみ触知可能であった.乳頭癌であれば通常硬く触知するため,咽頭食道憩室の可能性を考えて嚥下時の内部エコー変化や経時的変化を確認したが,変化は見られなかった.

Fig. 1 

Cervical US showing a 3.2×2.4-cm tumor suspicious of thyroid cancer in the center of the left lobe (arrows) and a 2.3-cm thyroid tumor suspicious of adenomatous goiter with cystic lesion below (arrowhead) (a, transverse view; b, longitudinal view).

頸部造影CT所見:甲状腺左葉頭側にガスおよび食物残渣を含む憩室様構造を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Coronal contrast-enhanced CT showing the diverticulum with food residue and air in the upper left lobe of the thyroid.

食道X線造影検査所見:下咽頭から頸部食道の左側に憩室を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

Upper gastrointestinal tract X-ray showing the pharyngoesophageal diverticulum between cervical esophagus and hypopharynx on the left side (a, front view; b, right anterior oblique view; c, left anterior oblique view).

上部消化管内視鏡検査所見:左梨状窩直下の左側方に食物残渣が充満した憩室を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

Pharyngoesophagography showing the diverticulum with food residue on the left side of the cervical esophagus, just below the left pyriform sinus.

食道内圧検査所見:上部食道括約部(upper esophageal sphincter;以下,UESと略記)静止時圧44.2 mmHg(健常者平均値44 mmHg),最大内圧410 mmHg(177 mmHg),平圧化持続時間1.3秒(0.99秒).UES最大内圧が高く,平圧化までに少し時間がかかっていた(Fig. 54)

Fig. 5 

High-resolution manometry. Arrows indicate relaxation failure of the UES and high pressure (↔).

臨床経過:咽頭食道憩室(KJD),腺腫様甲状腺腫と診断し,初診時は頸部圧痛症状が消失していたため経過観察としたが,その後頻回に頸部圧痛が出現したため,3か月後に手術の方針となった.

手術所見:IONMにはNIM-Response 3.0(日本メドトロニック社)を使用した.胸骨上縁より2 cm頭側に7 cmの襟状切開をおいて皮弁形成を行い,ラッププロテクターを装着した.左側前頸筋群を横切し甲状腺左葉下極の腫瘤を脱転させて咽頭食道憩室を確認した.憩室周囲は炎症のため癒着が強かったが,IONMを用いて甲状腺左葉下極の腫瘤と憩室の間を走行する左反回神経を早期に同定し,確実に温存しながら周囲を剥離した(Fig. 6).左反回神経は気管食道溝を走行しており解剖学的に正常な走行であった.甲状腺腫瘤は部分切除し,憩室を露出させたが,憩室を確実に切除するために輪状咽頭筋を切開し,憩室の頭側を十分に展開した.憩室はバルーンを拡張させて切離ラインを決定し,Endo GIATMで切離したが,断端の補強は行わなかった.

Fig. 6 

Intraoperative view of the left side of the neck. (a) APS electrode is placed around the left vagus nerve for continuous IONM, and stimulation probe is used for intermittent IONM. Arrowheads and yellow line indicate left recurrent laryngeal nerve that is easily located by intermittent IONM. (b) Asterisks show both sides of the stump of the cricopharyngeus muscle. (c) Dotted lines show the cut line of the diverticulum, clearly observed by inflation of the balloon catheter in the esophagus. (d) Moving border shows the stump of KJD cut with the Endo GIATM device.

術後経過:合併症はなく,頸部症状は消失,食道X線造影検査で憩室は消失しており,第7病日に退院した.

病理組織学的検査所見:憩室は固有筋層成分が見られず粘膜筋板を含む食道粘膜からなっており仮性憩室と,甲状腺腫瘍は腺腫様甲状腺腫と診断した(Fig. 7).

Fig. 7 

Diverticulum and thyroid tumor are diagnosed as pseudodiverticulum and adenomatous goiter, respectively. (a) Macroscopic appearance of the resected thyroid tumor (left) and diverticulum (right). (b) Histopathological examination shows lack of muscularis (HE stain, 20×).

考察

咽頭食道憩室は発生部位より下咽頭収縮筋と輪状咽頭筋の間のKillian’s triangleから突出するZD,輪状咽頭筋直下で食道縦走筋外側のKillian Jamieson areaから突出するKJD,輪状咽頭筋と食道縦走筋の間のLaimer’s triangleから突出するLDの三つに分類される.KJDは食道側方へ突出するが,ZDとLDは食道後壁に突出する違いがあるため,KJDはZDやLDよりも反回神経と接することになる.KJDの治療は手術であるが反回神経を確実に温存する必要があるため,憩室炎による炎症が強い場合や甲状腺腫瘍を合併する場合には注意深い操作が必要となり,KJDと術前診断することが重要である.

医学中央雑誌で1970年から2017年12月の期間で「Killian Jamieson diverticulum」と「咽頭食道憩室」をキーワードとして検索した結果,KJDの報告は21例認めた(会議録含む)(Table 15)~20).平均年齢64歳,男性9例,女性12例,主訴は咽頭痛,嚥下困難,嗄声,咳嗽,頸部腫大,嘔吐,頸部痛などさまざまで,中には蜂窩織炎を呈した症例も認めた.初診時診断は咽頭食道憩室16例,甲状腺腫瘍4例,副甲状腺腫瘍1例であった.平均サイズは2.8 cm,左側に多いが1例のみ両側に発生していた.有症状例は手術を行い,無症状例は経過観察となっていた.ZDに癌を合併する確率は0.4~1.5 %とされているが21),KJDに癌を合併した報告はなかった.

Table 1  Reported cases of Killian-Jamieson diverticula in Japan
No Author Year Age Sex Chief complaint Complication Initial diagnosis Size (cm) Side Treatment Cancer
1 Seto5) 1999 52 F Sore throat TT 1.8 Left Surgery ND
2 Yuasa6) 2007 69 M Dysphagia PED 4 Left Surgery ND
3 Nishitani7) 2008 56 F Cough, Dysphagia PED 2.5 Right Surgery ND
4 Kitazawa8) 2010 53 F Swelling, Dysphagia Cellulitis PED 4.5 Left Surgery
5 Lee9) 2012 50 F Neck lump, Dysphagia PED ND Left ND ND
6 Nagai10) 2012 69 M Dysphagia PED 4.5 Left Surgery ND
7 Nagai10) 2012 78 M Dysphagia, Vomiting PED 2 Left Surgery ND
8 Mimatsu11) 2013 74 F Dysphagia PED 4.0, 1.5 Bilateral Surgery
9 Niihara12) 2013 71 M Dysphagia TT 1.5 Left Surgery
10 Tanijima13) 2014 60 M Dysphagia PED 3 Left Surgery
11 Yamaguchi14) 2014 79 F PED 2.1 Left Observation ND
12 Yamaguchi14) 2014 65 M PED 1.6 Left Observation ND
13 Yamaguchi14) 2014 78 M PED 1.3 Left Observation ND
14 Sumitomo15) 2014 60s F Dysphagia PED ND ND Surgery ND
15 Tominaga16) 2014 46 M PT 1.4 Right Observation ND
16 Tsukamoto17) 2015 65 F Dysphagia PED 0.5 Left Surgery ND
17 Nishimura18) 2016 71 F Pain, Horseness TT ND Left Surgery ND
18 Ishinaga19) 2016 69 M Cough PED 7.8 Right Surgery ND
19 Ishinaga19) 2016 54 F Dysphagia PED 2 Left Surgery ND
20 Kobayashi20) 2017 60s F Dysphagia, Pain, Horseness PED ND Left Surgery ND
21 Our case 63 F Pain, Dysphagia TT 3.2 Left Surgery

TT: thyroid tumor, PT: parathyroid tumor, PED: pharingoesophageal diverticulum, ND: not discribed

KJDの原因は,①憩室下の食道輪状筋のspasmや高圧状態,②憩室炎による食道の運動障害などが報告されているが22),本症においては食道内圧の上昇と憩室炎による食道運動障害が原因と考えられた.

KJDと診断するには食道X線造影検査が有用である.ZDは側面からの造影で憩室が描出されやすく,cricopharyngeal barが憩室の直下で認められるが,KJDは正面からの造影で憩室が目立つ.しかし,その部位的特徴のため超音波検査で甲状腺腫瘍と誤認されてしまうことがある7).超音波検査で甲状腺疾患と鑑別をする際には,内部エコーをリアルタイムで観察することで病変が嚥下運動で変化することや食道との連続性を確認することが有用とされる14).本症例では,食道X線造影検査で左側方へのバリウムの貯留を認めたためKJDを疑うことができたが,初診時の超音波で嚥下運動による変化や食道との連続性を確認することはできなかった.両者の検査結果を考えると,水分を摂取しながら超音波検査を施行すれば容易に咽頭食道憩室と診断できた可能性は高い.

手術に関しては有症状例に対して憩室切除を行うが,ZDが除圧目的に輪状咽頭筋切開を併施するのに対して,KJDでは輪状咽頭筋直下に存在する憩室であり輪状咽頭筋切開は必要ないとされている.また,反回神経麻痺を回避するために憩室下部で食道輪状筋を切開する内視鏡的治療の報告もあるが22),反回神経に対しては盲目的となるため反回神経の確実な温存という点では不十分である.本症例においては食道内圧が上昇していたことと憩室根部での確実な切離を行うために輪状咽頭筋切離を併施し,良好な視野を得ることができた.切離前にはバルーン付きシリコンチューブを用いて憩室を拡張させ,固有筋層が欠損する明瞭な境界を確認し,筋層欠損の境界部をEndo GIATMで切離した.通常切離断端は甲状腺による被覆を行うが,本症例では甲状腺左葉部分切除を行っており,甲状腺による被覆が不可能であった.さらに,切離ラインが約3 cmと長くなったため,食道外膜筋層補強を行うと食道狭窄を来すリスクがあると判断し補強は行わなかった.また,自動縫合器の切離断端は外翻のままでは強固な瘢痕を形成するが,本症例では切離断端と左反回神経は十分離れていたことより,瘢痕による反回神経麻痺のリスクは少ないと判断した.

本症例ではこれまでに憩室炎を来していた可能性が高く,さらに甲状腺腫瘍を合併していたため,反回神経の同定が困難となる可能性を考えIONMを使用した.IONMは甲状腺や副甲状腺手術において反回神経を同定する方法である.表面電極付挿管チューブを用いて電極と声帯を密着させ,反回神経を直接神経刺激プローブで電気的に刺激を行い筋肉の誘発筋電図をモニターし,その振幅波形を変換した音により神経機能を評価する方法である3).現在甲状腺,副甲状腺の悪性腫瘍におけるIONMに対して保険収載されている.食道疾患に適応はないが,近年食道癌手術時の反回神経確認に対して有効であるという報告が散見される23)24).このIONMを8例の咽頭食道憩室(KJD 1例,ZD 7例)に対する手術で使用した報告では,2例で正常走行していない反回神経を確認し,良好な反応を確認することができている2).これまでは反回神経を直接刺激する間欠的IONMが主流であったが,2016年1月より迷走神経に直接装着し,自動で周期的に刺激するautomatic periodic stimulation(APS)電極が薬事許可を受け,持続的IONMが併用されるようになった.反回神経損傷の原因と考えられる牽引や圧迫操作,熱刺激などを振幅(amplitude)の低下(50%以下)かつ潜時(latency)の遷延(10%以上)でcombined eventsとしてリアルタイムに認識できるため,認識した場合には手術操作を中断することにより回復が可能であり,これまでの間欠的IONM単独よりも有用な方法である.本症例においては間欠的IONMと持続的IONMの両者を使用したところ,間欠的IONMにより反回神経を早期に同定することができ,持続的IONMによりcombined eventsは認めなかったが,振幅の低下は甲状腺腫瘤切除時と憩室切除時に確認することができたため,危険な操作を回避しながら反回神経を温存することができた(Fig. 8).IONMの報告が散見される食道癌領域において広く普及しにくい理由は,増加傾向にある胸腔鏡下手術に使用できる腹腔鏡専用刺激プローブがないこと,縦隔リンパ節郭清時の気管脱転による電極と声帯のずれが引き起こす反応消失の問題,持続的IONMを行う際にはAPS電極の迷走神経への取り付けに体位変換が必要なことが挙げられる.しかし,咽頭食道憩室では頸部手術であることから甲状腺手術と同様の術野で使用できるため,IONMの手順が簡便で再現性がある.反回神経を不必要に露出させることなく容易に走行を確認することができ,神経損傷の有無を確認して手術を終えることができ,持続性IONMによりどのような手術操作の際に神経を損傷する可能性があるかを検証することができるという点において非常に有用性がある.

Fig. 8 

Results of continuous IONM show a <50% drop of amplitude without >10% prolongation that occurred at mobilization of both thyroid (①) and diverticulum (②) for resection.

咽頭食道憩室は比較的まれな疾患であるが,KJDか否かの診断は術式決定や反回神経麻痺のリスク軽減という点で非常に重要である.さらに,憩室炎の程度や甲状腺腫瘍の合併などにより反回神経麻痺を来すリスクが高くなるが,IONMを用いることで反回神経を短時間で安全に確認,温存することが可能である.

利益相反:なし

文献
 

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