The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
Reanastomosis of Interposed Jejunum for Abdominal Esophageal Carcinoma
Kenjiro IshiiHiroaki SekiNobutaka YasuiAkihiko ShimadaHidetoshi Matsumoto
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 51 Issue 8 Pages 505-511

Details
Abstract

症例は76歳の男性で,8年前に他院で腹部食道扁平上皮癌に対して,中下部食道噴門側胃切除・胸腔内空腸間置再建を施行された.その後再発なく経過したが,2年前から食事摂取低下・体重低下を認めるようになった.器質的原因は同定できず経過観察となり,通院困難のため当院へ紹介となった.来院時,経口摂取はごく少量しかできず,るい痩を認めた.CTで間置空腸の拡張を認め,透視下上部消化管内視鏡にて間置空腸の著しい蛇行・拡張を認めた.残胃に胃瘻を造設し経胃瘻的空腸チューブを挿入し,経腸栄養を施行した.3か月後に栄養状態が改善したため再々建手術の方針となった.斜胴切開左開胸開腹にて,食道空腸吻合部から3 cm程度のところの間置空腸から空腸残胃吻合部までを含めて,間置空腸への血流は温存しながら切除し,Kocher授動を十分に行い,胸腔内残存間置空腸残胃吻合を行った.術後食事摂取も常食まで可能となり,逆流も認めず栄養状態も良好となった.

はじめに

中下部食道噴門側胃切除・胸腔内有茎空腸間置再建は下部食道癌・食道胃接合部癌に対して施行される術式である.空腸間置を行うことで食道残胃吻合よりも逆流性食道炎の頻度低下などを認めるとの報告もあるが,他因子の改善に関しては一定していない1)~4).また,以前の報告では空腸囊間置のほうが有用であるとするものも認めるが近年では有用性の報告は少ない5)~8).また,この術式に関する晩期合併症の報告は少ない.

下部食道癌空腸間置術後の間置空腸の蛇行・拡張による機能不全に関する報告はごくまれであり,再切除・再吻合に至った報告は認めない.今回,我々は下部食道噴門側胃切除・胸腔内空腸間置再建後に間置空腸の著しい蛇行・拡張を認め再々建手術を施行した1例を経験したので報告する.

症例

患者:76歳,男性

主訴:食事摂取不良・体重減少

既往歴:食道癌術後・高血圧

現病歴:元々8年前に,他院で腹部食道扁平上皮癌に対して,左開胸開腹による中下部食道噴門側胃切除・胸腔内空腸間置再建を施行された.(AeLt,pType 2,pT3,pN1,cM0,pStage III)その後再発なく経過していたが,2年前から食事摂取低下・体重低下を認めるようになった.器質的原因は同定できず経過観察となっていたが,体力低下に伴う通院困難のため近医である当院へ紹介受診となった.来院時体力低下が著しく,本人希望もあり,入院にて精査加療の方針となった.

入院時現症:160 cm,40 kg,るい痩,栄養状態は不良,移動は少しの杖歩行と主には車いす移動であった,食事は軟食をごく少量摂取のみで他は流動物や半固形の食事を摂取していた.

血液生化学検査所見:Hgb 7.9 g/dl,TP 4.2 g/dl,ALB 2.4 g/dl,Ca 6.8m g/dl,と低値あり.腫瘍マーカーはCEA/CA19-9/SCCともに陰性であった.

その他特記すべき所見は認めなかった.

頸部-骨盤部造影CT所見:間置空腸の著しい拡張を認めた.明らかな狭窄機転はなかった.リンパ節腫大など再発所見は認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

A, B) Contrast-enhanced abdominal CT shows the dilated interposed jejunum in the thoracic (arrow) (A) and abdominal cavity (arrow) (B).

上部消化管内視鏡検査所見:食道間置空腸吻合部口側に逆流性食道炎(Los Angeles分類,Grade C)を認めた.間置空腸の蠕動運動は乏しいが,粘膜面に異常はなかった.間置空腸残胃吻合部も狭窄などはなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

A) Upper gastrointestinal endoscope shows reflux esophagitis (Los Angeles Classification Grade C) at esophagojejunostomy. B) There was no remarkable stenosis at jejunogastrostomy.

PET-CT所見:頸部から骨盤まで,明らかな異常集積は認めなかった.

上部消化管透視造影検査所見:食道間置空腸吻合部から3 cm程度のところから間置空腸が蛇行・拡張を始め,横隔膜下からさらに顕著となり残胃に連続していた.間置空腸の蠕動運動は非常に乏しかったが,残胃は比較的に運動良好であった(Fig. 3).

Fig. 3 

Contrast X-ray fluoroscopic examination shows that interposed jejunum laterally curls and becomes dilated. Its peristaltic action is very weak.

再発や他の疾患は認めず,上記所見から間置空腸の蛇行拡張による機能不全のために経口的食事摂取が著しく阻害されている,との診断となった.再々建の手術が必要であると考えたが,著しい低栄養のため,まずは栄養確保として経静脈的栄養併用で経鼻栄養チューブを残胃内に挿入するも,逆流による誤嚥が多く抜去とした.CT所見上,残胃下部は腹壁直下にあり経皮的胃瘻造設は可能と判断し,入院後2週目に施行した.その際に,ボタン型胃瘻チューブを通して空腸内に栄養チューブを留置した(経胃瘻的空腸チューブ;カンガルーPEJキット,covidien®).そこから経腸栄養剤を投与し,逆流や誤嚥なく栄養確保が可能となった(Fig. 4).

Fig. 4 

An enteral feeding tube is inserted to the jejunum through the gastric fistula.

2か月間,自宅での経腸栄養投与を続けた.食事摂取は少量続けていたため,途中で軽度誤嚥性肺炎を一度起こすも,他は大きな問題なく経過した.体重45 kg,採血上ALB 4.0 g/dlまで改善を認め,耐術能はあると考え,再々建手術の方針となった.

手術所見:斜胴切開による左開胸開腹を行った.前回手術の影響で左胸腔内の癒着が強固であり,左開胸にかなり難渋した.画像所見通り,間置空腸は腹腔内から連続して胸腔内でもかなり左側方向に蛇行・拡張しており,空腸壁自体も肥厚していた.食道裂孔は大きく開大しており,周囲臓器との癒着は高度であった.そのため,まずは肝外側区から,左肺・心囊との間を慎重に剥離していった.食道間置空腸吻合部は自動吻合器で吻合してあり,周囲との癒着は高度であること,また画像所見上から吻合部から3 cm程度は蛇行拡張が強くないことから,吻合部から3 cmは間置空腸を残し,再々建する方針とした.間置空腸と大動脈との間を慎重に剥離し,比較的通しやすいところでtapingを行い釣り上げた後,より頭側の再吻合予定部まで大動脈間を剥離した.辺縁動脈を残すため,間置空腸すぐそばで空腸間膜を処理した後切離し,アンビルヘッド25 mmを挿入した.その後残胃方向に間置空腸間膜を空腸すぐそばで切離していき,間置空腸残胃吻合部を切離する形で,残胃側で自動縫合器にて切離した.その後,Kocher授動を十分に行ったところ,残胃が問題なく残存間置空腸切離部まで挙上されるため,残存間置空腸残胃吻合を自動吻合器によって施行した(Fig. 5, 6).食道裂孔開大部はかなり硬くなっており縫い縮めるのは困難と考え,挙上残胃を周囲組織に固定し,胸腔内へ引き込まれないようにした.

Fig. 5 

Diagram of the preoperative condition of the remnant esophagus, interposition jejunum, and remnant stomach.

Fig. 6 

Diagram of the postoperative condition of the remnant esophagus, interposition jejunum, and remnant stomach.

術後経過:術後左胸水貯留が遷延するも,利尿剤投与により徐々に減少した.再吻合部左に留置したドレーン廃液がやや混濁あるも明らかな縫合不全は認めず,ドレーン交換を行い徐々に引き抜いてくる方針とした(Fig. 7).挙上残胃や小腸全体の蠕動が非常に緩慢のため,食事摂取は術後10日目から開始となった.食事摂取後は特に問題なく経過し,逆流症状・誤嚥など認めず常食摂取まで可能となった.腹部部分の創部に深層切開部創感染を起こすも,陰圧閉鎖療法にて良好に改善し,術後30日目に軽快退院となった.

Fig. 7 

Postoperative gastrografin contrast examina­tion reveals no remarkable anastomotic leakage (arrows) and good flow of gastrografin from the esophagus to the gastric remnant.

退院後1か月目の外来でも,状態は非常に良好で食事摂取はほぼ何でも摂取可能で,体重47 kg,ALB 4.1 g/dlと栄養状態も良好であった.自力での杖歩行も可能となった.

考察

有茎間置空腸による再建は,上部早期胃癌に対する噴門側胃切除に伴い行われることが多い.残胃食道吻合と比べ,逆流症状や逆流性食道炎の頻度の低下や食事摂取量の増加を認め,近年では腹腔鏡下での再建の報告も多く,手技も安定してきているといえる2)3).しかし,逆流性食道炎の頻度の低下以外は大きな差がないとの報告も認める1).また,単管式の空腸間置よりは空腸囊間置のほうが逆流症状・食事摂取量・体重減少低下において優れているとの報告があるが5)7),近年に限れば空腸囊間置に関しては有用性の報告が少なく,腹痛,もたれ感が多く,パウチの拡張による食物停滞のためとの報告もあり8),当院でも施行はしていない.腹部胸部下部食道癌に対しても有茎間置空腸再建は時に行われるが,同様にその評価は一定ではない4)9)

空腸間置法においては,間置空腸がたるまないように長くしすぎないことが重要であり,約15 cm程度が適当と考えられているが2)3)10),本症例でも他院での前回手術で約18 cmの空腸間置を施行されていた.今回,術後6年間は特に問題なく食事摂取が可能であったことから,非常にゆっくりと間置空腸が滑脱型に胸腔内に引き込まれるようになり,それに伴い少しずつ蛇行が始まり,蛇行が強くなったところで蠕動運動だけでは食物の流れが滞るようになり,間置空腸内に食事が貯留するようになり,さらに蛇行拡張が悪化するという悪循環に陥ったと考えられる.前回手術の記載をみると,食道裂孔の部分的切離による開大を行ってはいるが,挙上間置空腸の固定に関する記載は認めなかった.挙上小腸の長さは18 cmとそこまで長すぎたわけではない点を考慮すると,脚を適度に縫縮し食道裂孔の開大を調節することと挙上小腸の周囲臓器への固定が,今回のような腸管拡張・蛇行を防ぐ一助となると考えられた.

下部食道切除後の間置空腸の拡張による再手術に関する報告は非常に少なく,本邦例では医学中央雑誌で1970年から2017年4月まで「間置空腸」,「拡張」,「食道」をキーワードとして検索した結果(会議録除く),間置空腸が胸膜ヘルニアにより通過障害を来した例,が1例報告されている11).この報告例では,切除は施行されておらず間置空腸を胸膜ヘルニア門から還納し,胸膜欠損部をメッシュで閉鎖して間置空腸を横隔膜に固定していた.自験例では,蛇行・拡張した間置空腸は蠕動運動も乏しく,残した場合に食物ルートして正常に機能しない可能性があるため,切除する方針とした.その際に,前回手術の食道小腸吻合部は癒着が高度であり,そこでの剥離・切除はかなり危険であると考え,蛇行が始まっていない間置空腸3 cmは残す方針とした.

術後,患者本人も約2年ぶりに常食が摂取可能となり,体力も開腹し,満足度は非常に高く得ることができた.しかし,本手術は悪性疾患ではなくあくまで機能回復の手術であり,かつ再開胸・重要臓器周囲の剥離を必要とする合併症も多くなりうる術式であるため,適応は慎重にするべきである.本症例では,患者・家族と術式とそのリスクを何度も話し合い手術の選択となった.また,本症例のように栄養チューブの胃内留置では逆流による合併症が起きる場合,経胃瘻的空腸チューブは,外科的空腸瘻造設術を行わずに栄養投与を施行でき,非常に有用である12)13)

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top