The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Advanced Gastric Cancer Leading to a Perforation during Neoadjuvant Chemotherapy with S-1 plus Oxaliplatin
Hiromitsu KinoshitaAkira MikiDaichi NakamuraTomohiro SugiyamaShigeki UchidaMichihiko TsubonoYasushi Adachi
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2019 Volume 52 Issue 1 Pages 11-18

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Abstract

高度進行胃癌に対する術前化学療法は有用と考えられるが,確固たるエビデンスはなく開発途上にある.当院では高度進行胃癌に対し臨床試験に登録後,術前化学療法S-1+oxaliplatin(以下,SOXと略記)を行ってきた.1例で,化学療法中に穿孔を来した症例を経験した.症例は76歳の男性で,体上部後壁の3型進行胃癌cT4aN1M0 cStage IIIA(胃癌取扱い規約第14版)の診断で,術前SOX療法2コースを予定した.1コース終了後腹痛を訴え救急受診した.汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.胃癌穿孔に対し根治的胃全摘術を施行した.病理:穿孔部には繊維結合組織の増生と炎症細胞浸潤を伴うものの腫瘍細胞はわずかであった.化学療法中の胃癌穿孔の報告は少ない.本症例ではSOX療法の抗腫瘍効果により胃癌潰瘍底の穿孔を来したと推測され,深い潰瘍を伴う胃癌に対する化学療法では穿孔に留意する必要があることが示唆された.

はじめに

局所進行胃癌に対する標準治療は,まずD2 郭清を伴った根治切除を行うことである.さらに本邦では,術後補助化学療法としては,①ACTS-GC試験1)を根拠に術後1年間のS-1 内服,あるいは,②CLASSIC試験2)を根拠に術後6か月間のCapeOX,が推奨されうる.しかしながら,Stage IIIの予後には,まだ改善すべき余地があり,ここに術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy;以下,NACと略記)を開発していく意義があるとされている.術後補助化学療法に対するNACの利点としては,①全身状態の良好な時に化学療法を行うため,強度の高い化学療法が可能であり,また化学療法のコンプライアンスが高い,②化学療法によって腫瘍やリンパ節転移が縮小すれば,結果的に切除割合が向上する,③化学療法の効果判定が可能となる,などが挙げられる.しかし,現時点で本邦では,NACに関するphase III試験のevidenceはなく,NACの有効性は証明されていないのが現状であり,まだまだ発展途上にある.

NACに関して種々の臨床試験が行われているが,そのうちの一つにNeo G-SOX PIIがある.局所進行胃癌に対して,S-1+oxaliplatin(以下,SOXと略記)療法を2コース施行後に根治的胃切除術を施行し,術後S-1補助化学療法を行う集学的治療法について,neo G-SOX療法の有効性,安全性を検証することを目的としている.①cT4aもしくはcT4b,②大型3型(長径が8 cm以上),または4型胃癌でcT3,③高度リンパ節転移(bulky N2)を適格基準としている.

当院では,局所進行胃癌に対するNACは有効な治療と考え,適格基準を満たす症例に対し十分なインフォームドコンセントの後に,臨床試験(Neo G-SOX PII)に参加していただいたうえで,術前化学療法としてSOX療法を行ってきた.そのうち1例で,術前化学療法中に穿孔を来した症例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:76歳,男性

主訴:心窩部痛

既往歴:15歳時に急性虫垂炎で虫垂を切除した.

現病歴:心窩部痛を自覚し,近医を受診した.上部消化管内視鏡検査にて体上部に胃癌を認め,精査加療目的に当院を紹介受診した.

内服薬:近医よりプロトンポンプ阻害薬,緩下剤の処方あり.

初診時現症:身長167.5 cm,体重53.6 kg.眼瞼結膜に貧血なし.黄疸なし.腹部平坦・軟.Virchow転移触知せず.

血液検査所見:白血球7,100/μl,血色素量13.4 mg/dl,血小板9.5×104/μlと血小板減少を認めた(CTCAE Grade 1).PT活性77.9%,APTT 23.8秒と凝固能に異常なし.腫瘍マーカーはCEA 4.9 ng/ml,CA19-9 14.3 U/ml,CA125 8.2 U/mlと正常範囲内であった.

上部消化管内視鏡検査所見:胃体上部後壁に3型の潰瘍性病変を認めた(Fig. 1).生検でadenocarcinoma,tub2の診断となった.

Fig. 1 

Esophagogastroduodenoscopy shows gastric cancer (Type 3) at the posterior wall of the fundus.

腹部CT所見:胃体上部に壁肥厚を認め,癌の漿膜浸潤も疑われた.小彎リンパ節が12 mm大に腫大し転移が疑われた.明らかな遠隔転移,腹水,腹膜播種結節は認めなかった(Fig. 2a, b).

Fig. 2 

CT scan shows thickening of the posterior wall of the fundus (a) and lymphadenopathy (No. 3) in the lesser curvature (b) (arrow).

治療前診断所見:体上部の3型病変で,臨床病期cT4aN1M0 cStage IIIA(胃癌取扱い規約第14版)の進行胃癌と診断した.

治療経過:高度進行胃癌であり,十分なインフォームドコンセントのもと,NAC施行後,根治手術を行う方針とした.NACに先立って審査腹腔鏡検査を施行した.左横隔膜下腹水とダグラス窩腹水で細胞診検査を施行し,悪性細胞がないことを確認した.また,腹膜播種がないことを確認した.cT4aN1M0 cStage IIIA(胃癌取扱い規約第14版)であり,cT4aの適格基準を満たす局所進行胃癌症例であることから臨床試験(Neo G-SOX PII)に参加していただいたうえで,NACとしてSOX療法を2コース予定した.NAC期間中もプロトンポンプ阻害薬の内服は継続した.SOX療法(S-1 120 mg+oxaliplatin 130 mg/m2)1コース目を開始したところ,16日目に突然の上腹部痛を自覚し救急搬送となった.来院時意識清明,血圧130/70 mmHg,心拍数74回/分,呼吸数30回/分,体温36.0°C,腹部は板状硬であり,腹膜刺激兆候を認めた.腹部CTで腹腔内にfree airを認め,消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を行った(Fig. 3).

Fig. 3 

CT scan shows free air in the abdomen.

手術内容:上腹部正中切開で開腹すると混濁腹水を中等度認め,体上部小彎後壁に約10 mm大の穿孔部を認め,胃癌穿孔の診断であった.術中バイタルサインは安定していたため,根治術としてD2郭清を伴う根治的胃全摘術を施行した.

腹水細胞診検査所見:炎症細胞を多く認めるものの,悪性所見は認めなかった.

病理組織学的検査所見:胃癌取扱い規約第14版 U,Post,Type 3,55×35 mm,tub2>tub1,pT3,int,INFb,ly2,v1,pN1(2/35),pPM0(40 mm),pDM0(90 mm).腫瘍は固有筋層を超えて浸潤しており,腫瘍の中心に穿孔性の潰瘍形成を認めた.穿孔部では,繊維結合組織の増生と炎症細胞浸潤を伴っているものの,腫瘍細胞はわずかであった.化学療法の効果判定はgrade 1bと診断した(Fig. 4a~c).

Fig. 4 

Pathological examination shows perforation in the posterior wall in gross image (a). Around the perforation lesion, the tumor is seen and adenocarcinoma (tub2>tub1) is detected in microscopic images (b: HE ×20). In the perforation lesion (arrow), few adenocarcinomas are seen (grade 1b) (c: HE ×10).

術後経過:術後縫合不全は認めなかった.乳び腹水を来したが,利尿剤内服し軽快した.術後39日目に退院となった.術後補助化学療法としてS-1内服を開始した.術後4か月現在,癌の再燃は確認されていない.

考察

胃癌穿孔は,胃癌症例の0.08~3.6%と比較的まれとされる3)4).また,胃癌化学療法中の胃穿孔発症率は0.4~0.9%とされ5),その報告は多くない.

化学療法中に発症した胃癌穿孔症例に関して,「胃癌」,「化学療法」,「穿孔」をキーワードに,会議録を除き医中誌Web(1970年~2017年)で検索したところ,これまでに14例の報告があった.自験例1例と合わせた15例5)~15)についてその特徴を検討した(Table 1).

Table 1  Reported cases of gastric cancer perforation during chemotherapy in Japan
No. Author Year Age Sex cStage Borrmann classification Lesion Area (U/M/L) Histology Reason for chemotherapy (inoperable/NAC) Regimen Duration to perforation, days (course) Perforation size, mm Treatment Response to chemotherapy Complications Post-operative therapy Prognosis, month, alive/dead
1 Nakamura6) 2006 74 M IV type 3 antral L unclear inoperable S-1 90 (2) unclear conservative BSC 2, dead
2 Fujita7) 2007 87 M IV unclear cardia, Ant U unclear inoperable S-1 120 (4) unclear proximal gastrectomy Grade 1a observation 7, dead
3 Yuzawa8) 2007 70 M IV type 2 antral L small cell unclear S-1+Cisplatin+Lentinan 10 (1) 20 distal gastrectomy unclear same chemotherapy 11, dead
4 Imai9) 2008 74 M IV type 2 upper body, Less U por+tub2 inoperable S-1+Cisplatin+Irinotecan 28 (1) 2 total gastrectomy Grade 3 S1 40, alive
5 Mihara10) 2011 70 M IIIC type 3 antral, Ant L tub1+tub2 NAC S-1+Cisplatin+Docetaxel 15 (1) 20 omental wrapping Grade 2 shock surgery unclear
6 Ito5) 2012 52 M IV type 4 upper body U por inoperable S-1+Cisplatin 23 (1) 8 total gastrectomy Grade 1a same chemotherapy 12, alive
7 Ito5) 2012 67 M IV type 3 upper body, Less U tub2+por NAC S-1+Cisplatin 44 (2) 5 total gastrectomy Grade 1a S1 14, dead
8 Ito5) 2012 59 M IV type 3 middle body, Less M mus+tub2 NAC S-1+Cisplatin 18 (1) 40 total gastrectomy Grade 2 unclear unclear
9 Okabe11) 2014 66 M IV type 3 antral L tub1 NAC S-1+Cisplatin 14 (1) 50 distal gastrectomy Grade 2 same chemotherapy 8, alive
10 Okuno12) 2014 60 M IV type 3 cardia, Ant U tub2 inoperable S-1+Cisplatin 70 (3) 5 total gastrectomy Grade 3 same chemotherapy 12, alive
11 Nezuka13) 2016 68 F IV type 3 lower body, Gre M por+tub2 inoperable S-1+Oxaliplatin 3 (1) 10 total gastrectomy Grade 1a same chemotherapy 1, alive
12 Tojima14) 2016 60 M IIIB type 3 EGJ U tub2+por NAC Capecitabine+Cisplatin+Trastuzumab 42 (2) unclear conservative Grade 1a another chemotherapy followed by surgery unclear
13 Matsueda15) 2017 65 F IV type 2 angle, Gre L por inoperable Capecitabine+Cisplatin+Trastuzumab 8 (1) 18 partial gastrectomy Grade 2 same chemotherapy 11, alive
14 Matsueda15) 2017 70 M IV type 2 angle, Less L tub2+por inoperable Capecitabine+Cisplatin+Trastuzumab 38 (2) 5 omental wrapping wound infection same chemotherapy 21, alive
15 Our case 76 M IIIA type 3 middle body, Less U tub2 NAC S-1+Oxaliplatin 16 (1) 10 total gastrectomy Grade 1b chyle S1 4, alive

腫瘍位置に関しては,U領域7例,M領域2例,L領域6例と,傾向は見られなかった.病変の肉眼的分類に関しては,2型/3型/4型/不明:4例/9例/1例/1例であり,潰瘍型がほとんどを占めていた.潰瘍のない病変と比べると,穿孔のリスクが高いことが示唆される.病理組織型では,porを伴うものが7例と多く見られた.治療前の臨床病期に関しては,cStage IIIA/cStage IIIB/cStage IIIC/cStage IV:1例/1例/1例/12例と,全例がcStage III以上の進行胃癌症例であった.

化学療法の内訳に関しては,切除不能胃癌の診断で化学療法を行った症例は8例,根治術を行うことを前提としたNACとして化学療法を行った症例は6例,詳細不明1例であった.化学療法の具体的なレジメンとしてはS-1単独が2例,S-1+cisplatin(以下,SPと略記)が5例,SP+lentinanが1例,SP+irinotecanが1例,SP+docetaxelが1例,capecitabine+cisplatin+trastuzumab(HXP)が3例,SOXが2例であった.SOX療法をNAC目的に行い,その化学療法中に胃癌穿孔した報告としては自験例が初となる.

穿孔の発症時期については,化学療法開始後から1~2コースの間に穿孔したものがほとんどであり(中央値:23日,平均値:35日),比較的早期に穿孔するという特徴が示唆された.穿孔径に関しては,記載のある12例では比較的大きな穿孔を起こすことが示されている(中央値:10 mm,平均値:16 mm).

穿孔時の治療については,胃全摘術/幽門側胃切除/噴門側胃切除/胃部分切除/大網充填被覆/保存的加療:7例/2例/1例/1例/2例/2例であった.化学療法中という環境での胃切除の安全性についての十分な報告はなく,一定の見解は得られていない.経過が良くないために報告が避けられたpublication biasが存在する可能性はあるが,化学療法による有害事象が手術加療の合併症に影響したとの報告は確認できなかった.姑息的手術を行い根治手術を後日待機的に行う場合,術後癒着の可能性や,周術期回復期間を考えると根治術が遅れてしまうこと,などが懸念される.そのため,発症時のバイタルサインが安定しており,手術室や麻酔科との協力体制が許せば,一期的に胃癌根治術を考慮するのも一つの手段と考えられる.自験例では化学療法16日目の穿孔であった.すでに腹膜炎の状態であり保存的加療での改善は見込めず緊急手術は不可避であったが,来院時血液検査でも重篤な血球減少や凝固異常は認めなかったこと,患者のバイタルサインは安定していたこと,術中所見でも組織の浮腫はほとんど見られなかったことより,緊急での癌根治術が可能と判断し,緊急でD2郭清を伴う胃全摘術を施行した.切除標本の組織学的治療効果判定では,Grade 1a/Grade 1b/Grade 2/Grade 3:5例/1例/4例/2例と半数がGrade 2以上であり,化学療法が効果的であったことと胃癌穿孔発症との関連が示唆される.

穿孔に対する治療が落ち着いてからの治療内容に関しては,記載のあった14例のうち11例で化学療法が行われている.記載のあった症例についての遠隔成績(Kaplan-Meier法)は,生存期間中央値14か月であった.遠隔成績については,①もともと高度進行癌の症例が多いこと,②癌穿孔により癌細胞が腹腔内へ播種される可能性があること,などより予後不良であると思われがちである11)15).しかし,今井ら9)は,治療前は肝門部リンパ節や傍大動脈周囲リンパ節が腫大していたにもかかわらず,適切な治療の結果,術後40か月生存している例を報告している.既に述べたように,化学療法中の胃癌穿孔症例では,化学療法の治療効果が良いために穿孔している可能性が考えられ,十分な郭清を伴う手術を迅速に行った後に,同様に化学療法を継続できれば,むしろ長期生存を目指せる可能性があるともいえる.本症例では術中採取した腹水細胞診検査では悪性細胞を認めなかったが,もちろん癌細胞の腹腔内播種によりCY陽性になりうるリスクも有しており11)15),腹膜再発を含めた慎重な経過観察が必要である.

穿孔の機序に関して,諸家らの見解は共通している12)13).化学療法による抗腫瘍効果により,腫瘍細胞の存在するほぼ全層でアポトーシスが急速に起こり,正常細胞の再生が間に合わないことが一因と考えられる.もちろん既存の潰瘍の伸展も一因と考えられる.これらは,化学療法中の胃癌穿孔の特徴として①切除標本の組織学的治療効果判定でGrade 2以上のものが多いこと,②潰瘍型の進行癌が多いこと,から説明可能と思われる.

SOX療法中に胃癌穿孔した報告としては,根塚ら13)についで自験例が2例目であり,NACとしてSOX療法を行い胃癌穿孔した報告としては初となる.切除不能進行・再発胃癌に対するSOX療法の位置づけとしては,2015年5月胃癌治療ガイドライン速報において「推奨度2」に位置付けられるようになった.S-1にシスプラチンを併用したSP療法に対し,オキサリプラチンを併用したSOX療法の非劣性を検討したphase IIIの国内多施設共同試験(G-SOX試験)16)が行われ,SOX療法がSP療法と同等の有効性が示されている.進行胃癌に対する術前化学療法としてのSOX療法の位置づけとしては,確固たるevidenceはまだないが,標準治療である手術+術後補助化学療法に対して,SOXによる術前化学療法+手術+術後補助化学療法が優れていることをランダム化比較にて検証する第III相試験(JCOG1509)が企画されている.SOX療法は末梢神経障害や血小板減少などに注意を要するが,概して重篤な毒性が少ない点,大量の輸液を要さず外来で施行可能である点,腹水を伴う症例でも導入しやすい点,発熱性好中球減少症がSP療法と比較して少ない点,などメリットが大きく,今後も適応が増加する可能性があると考える.

SOX療法による術前化学療法中に穿孔を来した進行胃癌の1例を経験した.深い潰瘍を伴う胃癌症例に対する化学療法では穿孔に留意する必要があることが示唆された.治療成績の向上や患者の安全性の担保を目的として,今後,化学療法に伴う穿孔予測因子が解明されることを期待する.

利益相反:なし

文献
 

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