2019 Volume 52 Issue 1 Pages 53-59
続発性アミロイドーシスを合併したクローン病に対し外科的治療を行い,非典型的な合併症を経験したので報告する.症例は36歳の男性で,瘻孔形成状態で15年間内科的治療が行われていたが症状増悪あり,加療目的に紹介となった.入院後に進行性の腎機能障害を認め,腎生検にて腎アミロイドーシスの診断となり血液透析が導入された.消化管には回腸・直腸の狭窄病変あり回盲部切除術・人工肛門造設術,高位前方切除術を施行した.術後経過良好であったが,第11病日に直腸吻合部の出血を伴う離断あり,ハルトマン手術施行した.再手術後も結腸から消化管出血を認めたため,残存結腸全摘術施行した.病理検査では腸管壁の広範にAA型アミロイド沈着を認め,消化管アミロイドーシスの診断であった.長期間の病勢コントロール不良な炎症病態では続発性のアミロイドーシスを併発し,一見正常な粘膜であっても縫合不全や出血のリスクを伴うことに留意が必要である.
続発性アミロイドーシスは関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に合併するAA型アミロイドーシスである.炎症性サイトカインの活性化に伴い,血清アミロイドA(serum amyloid A;以下,SAAと略記)が肝臓から産生され,さまざまな臓器に沈着し組織障害の原因となる1).消化管にアミロイドが沈着した場合,組織学的には粘膜下の血管壁に沈着することで血流障害を引き起こす.しかし,肉眼的に明らかな粘膜異常所見を呈さない症例も存在し,この点が臨床上問題となる.
今回,我々は内視鏡検査で粘膜面の異常を認めないにもかかわらず,非典型的な縫合不全や消化管出血を来したクローン病(Crohn’s disease;以下,CDと略記)症例を経験した.続発性アミロイドーシスの約90%が関節リウマチに起因し,CDに合併するアミロイドーシスは比較的まれとされているが1),CD患者数の増加に伴い,今後続発性アミロイドーシスに遭遇する機会が増加する可能性がある2).このような病態での外科的治療を行うにあたり,示唆する点が多いと考えたので報告する.
患者:36歳,男性
主訴:腹痛
現病歴:15年前に小腸大腸型CDを発症し,発症から5年後に回腸狭窄に対し,近医にて回腸上行結腸バイパス術施行された.初回手術の翌年に回腸内外瘻を認めたものの,保存的加療されていた.約9年間の内科的治療を行ってきたが,徐々に腹痛の増悪あり発症から15年目,初回手術の10年後に加療目的に当院へ紹介となった.
服薬:mPSL 4 mg,ST合剤
既往歴:亜急性甲状腺炎
家族歴:特記すべき事項なし.
入院時現症:身長165.6 cm,体重50.9 kg,血圧138/102 mmHg,脈拍77回/分・整,体温36.2°C,腹部は平坦・軟,自発痛・圧痛あり,下腹部に前回手術痕あり.
血液検査所見:WBC 10.2×10³/μl,CRP 0.81 mg/dlと軽度炎症反応上昇,Hb 10.4 g/dlの貧血あり.栄養状態はTP 6.5 g/dl,Alb 3.2 g/dlと不良であった.また,血清アミロイドAの上昇(SAA 109 μg/dl)と,腎機能障害(Cre 3.9 mg/dl,BUN 40.0 mg/dl)を認めた.
尿検査:尿蛋白あり.
心電図:心拍数65回/分,洞調律・整,特記すべき波形異常なし.
上部消化管内視鏡検査所見:明らかな粘膜の異常所見なく,十二指腸生検施行したがCDに特徴的な所見は認めなかった.
小腸造影検査所見:上部小腸には狭窄病変は認めなかった.造影剤は初回手術の回腸上行結腸バイパスを介して上行結腸に流入し,バイパス部より肛門側の回腸は描出されなかった(Fig. 1a).

Preoperative medical images. a) Small bowel radiography showed that the contrast agent flowed into the ascending colon through the anastomotic site of the ileum and ascending colon, but the anal side of the ileum from that site is not shown. b) Gastrographine enema showed the stricture of the ileum and rectum, and the fistula created between those lesions. c, d) Abdominal CT revealed thickening of the intestinal wall, misty mesentery and pelvic abscess.
注腸造影検査所見:S状結腸・直腸Rsに高度の狭窄を認め,同部位から回腸末端に向かって瘻孔を形成していた(Fig. 1b).
CT所見:回腸末端・S状結腸-直腸の壁肥厚,腸間膜脂肪織濃度の上昇あり.炎症性に一塊となった回腸末端は骨盤内膿瘍と連続していた(Fig. 1c, d).
入院後経過:入院後に腎機能障害のさらなる悪化を認めたため腎生検施行した.病理所見では,糸球体や間質の血管壁にCongo-red染色で橙赤色に染色されるアミロイドの沈着を認めた(Fig. 2).免疫組織学検査ではアミロイドA抗体陽性でありAA型腎アミロイドーシスの診断となり血液透析が導入された.

Pathological findings of the renal biopsy. Amyloid was found in renal glomeruli and vascular walls.
以上より,CDの消化管病変(回腸末端とS状結腸・直腸の狭窄病変と同部位間の瘻孔・膿瘍形成)による腹痛増悪に対して,腸管切除術を行う方針とした.
手術所見:回腸末端とバイパス吻合部を含む回結腸切除を施行した.また,S状結腸-直腸Rsの狭窄病変部を切除し,肛門縁より約15 cmのところで端々吻合(層々吻合)を行った.CDの炎症により腸管の浮腫が強かったこと,さらに低栄養状態であったことを考慮し,回腸上行結腸吻合は行わず双口式人工肛門を造設した.
病理組織学的検査所見:切除標本からは好中球やリンパ球などの慢性炎症細胞が浸潤したCDの所見に加えて,結腸の粘膜下層の広範にAA型アミロイドの沈着を認めた(Fig. 3).

Pathological findings of the resected colon specimen. Systemic AA amyloid deposition was seen extensively from the intestinal mucosa.
術後経過:術後経過は良好であり,術後5病日より経口摂取開始とした.しかし,術後11病日に突然の下血と腹膜刺激症状を伴う腹痛が出現し,造影CTにて直腸吻合部の縫合不全と吻合部周囲の出血が疑われたため,緊急手術施行した.開腹すると直腸吻合部は完全に離断しており,多量の血腫の付着を伴っていた.直腸断端を縫合閉鎖し,S状結腸の単孔式人工肛門を造設した.右側の双孔式人工肛門はそのままとし,左右のダブルストマ状態で手術を終了とした.
再手術後もS状結腸ストマから断続的な出血あり,貧血の進行を認めたため(Hb 11.6→9.6 g/dl),精査目的に下部消化管内視鏡検査を施行した.S状結腸から上行結腸にかけて,粘膜に潰瘍やびらんなどの異常所見は認めず,出血点は明らかでなかった.右側の回腸ストマより口側腸管からの出血は認めなかった.内視鏡検査の際の生検組織からは,回腸末端・全結腸・直腸よりAA型アミロイドの沈着を認めた.
結腸からの出血コントロール目的に,上行結腸からS状結腸までの残存結腸を切除する方針とした.内視鏡検査同様,残存結腸には明らかな肉眼的異常所見を認めなかったことから,アミロイドーシスに起因する消化管出血が考えられた(Fig. 4).

Resected colon specimen after total colectomy. We did not find any lesions such as ulcers or erosions in the intestinal wall.
縫合不全に対する手術から54日後に手術を施行した.回腸-直腸吻合はアミロイドーシスによる再度の縫合不全が懸念されることから回避し,回腸の単孔式人工肛門とした.残存直腸は空置のままとした.その後の経過は良好で軽快退院した.
CDに合併するアミロイドーシスは比較的まれとされているが1),田中ら3)の報告によると,CDの0.9~5.6%に続発性アミロイドーシスを合併し,また罹患期間が長くなるほど発症頻度は高く4),発症後平均10年でアミロイドーシスの診断に至るとされている5).
AA型アミロイドは主に腎臓への沈着が多く,診断の契機としては腎機能低下や蛋白尿などの腎症状が多いとされる6).本症例のように長期経過の慢性炎症性疾患で誘因なく進行性の腎機能障害を来した場合には,腎アミロイドーシスの合併を想定し腎生検を考慮すると同時に,手術症例においては消化管アミロイドーシスの可能性を検討することが重要と考える.
消化管アミロイドーシスの症状としては難治性下痢,食欲不振,消化管出血,蠕動障害によるイレウスなどがあり,CDの症状としても矛盾はない.また,内視鏡所見においても黄白色調の微細顆粒状隆起が特徴的とされるが,潰瘍やびらんといった非特異的な所見であることも珍しくなく,さらに問題となるのは自験例のように明らかな粘膜異常を認めない症例の存在である7).以上から,CD症例においてアミロイドーシス合併を考慮するのは容易ではない.診断には生検が有用であるため,本症を疑った場合には,一見正常な粘膜からもアミロイドが検出されることを念頭に置いた積極的な生検が求められる.
自験例では,術後第11病日という通常の術後経過では比較的安定した時期に突然吻合部が完全に離断した.縫合不全の原因は術中所見から明らかにできなかったが,少なくとも術後1週間以内に起きる縫合不全とは異なり,良好な術後経過の後の突然発症,全周性の吻合部離断という経験したことのない病態を呈していた点が特徴的であった.
医学中央雑誌で1970年から2017年12月の期間で,「アミロイドーシス」,「縫合不全」をキーワードとして検索した結果,アミロイドーシス手術症例における縫合不全報告例は自験例を含めて8例であった(Table 1)8)~12).アミロイドーシスの分類としては,AA型(続発性)が5例,AL型(原発性)が1例,DR型が2例であった.過去いずれの報告においても,縫合不全の原因は明らかになっていない.AA型アミロイドは消化管の粘膜固有層や粘膜下層の血管壁へ沈着することで7),組織の虚血性変化を引き起こし,消化管出血や潰瘍,さらには穿孔にまで至るとされている5).これらの病態から推察するに,消化管アミロイドーシスに伴う虚血性変化が吻合部に生じ,縫合不全を引き起こした可能性があると考える.
| Case | Author | Year | Age/Gender | Basal disease/Surgery reason | Duration of HD/Disease | Type | Operation |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Tokutome8) | 2001 | 61/F | RA/Perforation | 32yr. | AA | BRA |
| 2 | Tuji9) | 2002 | 56/F | HD/Perforation | 23yr. | DR | BRA |
| 3 | Kaneko10) | 2004 | 53/F | HD/Stenosis·Fistula | — | DR | BRA |
| 4 | Iwahashi11) | 2004 | 73/F | Primary Amy/Melena | — | AL | DG |
| 5 | Tanimura12) | 2006 | 24/M | CD/Stenosis·Fistula | 9yr. | AA | BRA |
| 6 | Tanimura12) | 2006 | 36/F | CD/Fistula | 15yr. | AA | BRA |
| 7 | Tanimura12) | 2006 | 24/F | CD/Fistula·Abscess | 14yr. | AA | BRA |
| 8 | Our case | 36/M | CD/Stenosis·Fistula | 16yr. | AA | BRA |
M: male, F: female, HD: hemodialysis, RA: rheumatoid arthritis, Amy: amyloidosis, DR: dialysis-related, BRA: bowel resection and anastomosis, DG: distal gastrectomy
続発性アミロイドーシスの治療法は依然確立されておらず,基礎疾患に対する集学的な内科的治療および,適切なタイミングでの外科的治療の導入が肝要と考える.その際,血中SAA値はAA型アミロイドの組織沈着量および生命予後と相関しており1),治療効果の指標として有用となる.RA合併症例では,分子標的治療薬トシリズマブ投与後にSAA値改善に伴い,消化管へのアミロイド沈着量が減少すると報告されている13).CD合併症例においても同様に内科的治療が奏効し,血中SAA低下と伴に組織へのアミロイド沈着量が減少するのであれば,一期的に病変の切除と腸瘻造設のみを行い,アミロイド沈着が改善した段階で二期的に腸管吻合を行う手術計画も検討される.
また,外科治療の介入のタイミングについては,CDの罹患腸管切除により組織に沈着したアミロイドが減少し予後が改善したとの報告もあることから14),自験例のような慢性炎症が長期に持続する症例では,アミロイド沈着による多臓器不全の予防の観点から早期の外科的治療介入が不可避と考える.
CDに進行性の続発性アミロイドーシスを合併した症例は術後の縫合不全や出血のリスクが高いとされる.そのため慢性炎症が長期に持続する症例では,本疾患を念頭に置き術前に消化管step biopsyによるアミロイド沈着範囲や病勢の評価が必要となる.続発性アミロイドーシス合併症例では,たとえ肉眼的に粘膜面が正常であっても,消化管吻合の判断は慎重に行わなければならない.
利益相反:なし