The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Advanced Gastric Cancer with Diffuse Cystic Malformation Presenting Diagnostic Difficulty
Satoko MonmaShinji MoritaIchiro OdaShigetaka YoshinagaHiroshi MoroTakahiro KinoshitaHirokazu TaniguchiHitoshi Katai
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2019 Volume 52 Issue 11 Pages 620-628

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Abstract

症例は56歳の男性で,定期検査の上部消化管内視鏡検査で胃体上部に広範な胃粘膜下異所腺と0-IIa+IIc病変を認めた.生検の結果,Group 5(高分化型腺癌)と診断された.超音波内視鏡検査ではびまん性に粘膜下層に囊胞性病変を認め,癌の範囲診断および深達度診断は困難であった.CTでは明らかなリンパ節転移や遠隔転移は認めなかった.以上より,びまん性胃粘膜下異所腺(diffuse cystic malformation;以下,DCMと略記)に併発した胃癌と診断した.粘膜下異所腺が噴門近傍まで広がっていたことから,術式は腹腔鏡下胃全摘術を選択した.病理学的検索では,癌は固有筋層まで浸潤する進行癌であった.また,粘膜下異所腺周囲の線維化のため,癌の範囲診断が困難であったと考えられた.DCMに併発した胃癌については,時に術前の範囲診断や深達度診断が困難なことがあり,治療方針や切除範囲の決定には注意が必要であると考えた.

Translated Abstract

A 56-year-old man was referred to our hospital for treatment of gastric cancer detected during an annual health check. Gastroendoscopy showed a depressed lesion surrounding enlarged folds at the lesser curvature of the middle gastric body. The biopsy specimens revealed well-differentiated adenocarcinoma. Endoscopic US showed the thickened second layer with multiple cystic components. The boundary between the tumor and diffuse cystic lesions was unclear. Enhanced CT showed no evidence of regional or distant metastasis. The patient underwent laparoscopic total gastrectomy with lymph node dissection at the time of diagnosis of early gastric cancer with diffuse cystic malformation (DCM), since heterotopic mucosa widely spread close to the cardia. In the resected specimen, multiple cysts were focally lined in the submucosa under the irregular mucosa under low power view. The histological type of the tumor was well to poorly differentiated adenocarcinoma invading into the muscularis propria. DCM is relatively uncommon. The accuracy of preoperative investigation of tumor depth and lateral spread was not satisfactory because of submucosal cystic lesion with fibrosis.

はじめに

びまん性胃粘膜下異所腺(diffuse cystic malformation;以下,DCMと略記)は胃粘膜下に非腫瘍性腺管が多発する病変として知られている1)2).今回,我々はDCMに合併した進行胃癌を経験した.術前検査として通常の上部消化管内視鏡に加え超音波内視鏡(endoscopic ultrasound;以下,EUSと略記)を施行したが,背景にDCMが存在することにより,胃癌の範囲診断および深達度診断が困難であった.DCMに合併した胃癌の診断および治療法の選択について,文献的考察を踏まえて報告する.

症例

症例:56歳,男性

主訴:なし.

既往歴:胃潰瘍,高血圧症,脂質異常症

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:胃潰瘍に対して,定期的に上部消化管内視鏡検査を受け,経過観察されていた.2015年10月に施行された健診の上部消化管内視鏡検査にて,胃体中部小彎に陥凹性病変を指摘され,生検でGroup 5,高分化型腺癌の診断となり当院紹介受診となった.当院での上部消化管内視鏡検査では,胃体部に広範囲に広がる粘膜下異所性胃腺に併発した胃癌が疑われ,加療目的に入院となった.

入院時現症:身長165 cm,体重73 kg.栄養状態良好.

入院時検査所見:血液一般,血清生化学,尿検査では異常を認めなかった.腫瘍マーカーはAFPが14.7 ng/mlと軽度上昇を認めた.

上部消化管内視鏡検査所見:胃体中部小彎前壁寄りに周辺隆起を伴う30 mm大の陥凹性病変を認めた.陥凹部からの生検にて,Group 5,高分化型腺癌と診断した.陥凹周囲には,周辺隆起に連続するように,境界不明瞭な肥厚した粘膜下腫瘍様の領域が約100 mmの範囲で広がっていた(Fig. 1).

Fig. 1 

Endoscopic view. Irregular enlarged folds spread in the gastric body (a). A depression lesion surrounding elevation was seen on the lesser curvature to anterior wall of the middle gastric body (b).

超音波内視鏡検査所見:第2層の肥厚と第2層深層から第3層に多発する囊胞成分を認め,異所性胃腺に併発した早期胃癌と考えられた.癌と異所性胃腺の充実部分の鑑別は困難であり,癌の正確な範囲診断および深達度診断は困難であった(Fig. 2).

Fig. 2 

Endoscopic US showed the thickness of the 2nd layer of the gastric wall and multiple cystic lesions in the deep 2nd layer to 3rd layer, early gastric cancer with diffuse cystic malformation (DCM) was suspected (a). The boundary between DCM and tumor was not clear (b).

腹部造影CT所見:胃体部小彎に限局する壁の肥厚を認めた.明らかなリンパ節転移や遠隔転移はなく,腹水も認められなかった.

以上の所見より,背景に粘膜下異所腺が存在しているため正確な範囲診断および深達度診断は困難であったが,DCMに併存した早期胃癌,0-IIa+IIc,大きさ30 mm,cT1b(SM)N0M0と診断した.異所性胃腺が噴門近傍含め胃体部中心に広がっているため,広範囲に癌が浸潤している可能性を考慮し,術式として腹腔鏡下胃全摘を選択した.

2015年12月15日に腹腔鏡下胃全摘術(D1+郭清,R-Y再建)を施行した.食道空腸吻合は,空腸を結腸後経路で挙上しoverlap法にて行い,空腸空腸吻合はリニアステープラーを用いて吻合した.手術時間は5時間29分,出血量は74 mlであった.術後経過は良好で合併症を認めず,術後3日目に飲水開始,4日目に食事開始およびドレーン抜去,術後9日目に退院となった.

切除標本肉眼所見:切除標本では胃体中部前壁を中心として,およそ120×120 mmの範囲に境界不明瞭な粘膜不整面と粘膜襞の不規則な肥厚がみられた.不整粘膜の中央部に,襞の集中を伴い,周辺隆起を伴う5 mm大の辺縁整な陥凹性病変を認めた.肉眼型は0-IIa+IIcとした(Fig. 3).

Fig. 3 

Macroscopic appearance of the resected specimen. 0-IIa+IIc lesion surrounding irregular enlarged folds like submucosal tumor was seen on lesser curvature of the upper gastric body (a, b). An ulcer scar was seen in the posterior wall of the upper gastric body (a). Schematic drawing of the resected specimen (c).

病理組織学的検査所見:ルーペ像では,粘膜不整部分では粘膜下層に大小の囊胞が散在していた.中心の陥凹部分では周囲の線維化が目立っていた.

組織学的には,粘膜下層の囊胞性変化は非腫瘍性の粘膜下異所腺で,デスミン免疫染色検査では粘膜筋板を含む粘膜全層が粘膜下層に落ち込むようにして形成されていることが明らかとなった(Fig. 4).中央部の陥凹およびその口側にかけて高>低分化腺癌が固有筋層まで浸潤していた.この陥凹部分では,粘膜下異所腺に浸潤した腫瘍が異所腺の構造を一部破壊することで,辺縁整の陥凹が形成されていた.陥凹部およびその周囲では線維化が高度であり,癌の最深部では線維内に腫瘍が散在していた(Fig. 5).

Fig. 4 

In cross section of the DCM lesion (HE staining), multiple cystic lesions in the submucosal layer (a). With anti-desmin immunostaining, mucosal components with muscularis mucosae fell into muscularis propria (b).

Fig. 5 

In cross section of the cancerous lesion, well to moderately differentiated adenocarcinoma invaded into the muscularis propria in the depression area (a: HE staining). With anti-desmin immunostaining, smooth muscle fiber became clear around the carcinoma and multiple cystic lesion in the muscularis mucosae and muscularis propria (b). In microscopic view in HE staining, each lesion had mucosal lesions both near the edge (c) and center of the depression area (d). With Masson’s trichrome staining, fibrosis became clear around the carcinoma and multiple cystic lesions (e: carcinoma lesion, f: DCM lesion, g: normal membrane).

原発巣については,陥凹内および陥凹辺縁の両方に粘膜病変が見られるため,粘膜面原発であるか,異所腺原発であるかの判断は困難であった(Fig. 5a~d).背景胃粘膜には萎縮や腸上皮化生は認めなかった.静脈侵襲,神経浸潤を認めたがリンパ管侵襲は認められなかった.郭清リンパ節に転移を認めなかった.マッソントリクローム染色では粘膜下異所腺周囲および癌の周囲に線維化を認めた(Fig. 5e~g).以上から,DCMに併発した胃癌pT2N0M0 Stage IBと診断した.

考察

胃の粘膜下層にびまん性に異所腺が存在する病態を初めて報告したのはBergenfeldtであり,その後Scottら1)も同様の報告をしている.胃粘膜下異所腺(heterotopic gastric gland),胃粘膜下異所性囊胞(heterotopic submucosal cysts of stomach),異所性囊腫(multiple cystic disease of the stomach)など呼称は複数あり,疾患概念が重複する部分が多いものの,一部合致しない部分もある.本邦では,岩永ら2)が胃粘膜下層の10か所以上で異所腺が認められる場合をDCMと定義している.その発生頻度は胃切除例の1.1~2.3%と報告され,比較的まれな病態である2)3).DCMの特徴は,胃壁内に囊胞が多発し,囊胞周囲に平滑筋繊維が増生する点にある.さらに,巨大皺壁を呈するなど肉眼像が多彩であり,高頻度に胃癌を合併する2)

胃粘膜下異所腺の成因には先天説と後天説が考えられている.Scottら1)は先天的な胃腺の迷入が成因であるとし,Obermanら4)は胃腺上皮の先天性発育障害によるものとしている.それに対し,岩永ら2)は後天説を主張している.理由として,中高年に多く発症し,表層にびらんと再生を伴うものが多いことを挙げている.異所腺の表層は萎縮性胃炎や腸上皮化生を示すことが多いことから,慢性的な炎症とそれに続く再生が成因としている.DCMにおける先天説および後天説の相違については,小田ら5)や赤穂ら6)の検討が理解しやすい(Table 1).小田ら5)の報告例は,巨大鄒壁症を呈する多発囊胞性病変で,①囊胞が中村ら7)のいうF境界線の口側に存在すること,②背景胃粘膜に萎縮が見られず,腸上皮化生も見られないことなどから先天的なDCMに当てはまるとした.これに対し後天的なDCMは,①囊胞がF境界線の肛門側に分布し,②背景粘膜に萎縮性変化と腸上皮化生が見られることを挙げている.赤穂ら6)は,先天的なDCMは①囊胞が粘膜固有層または粘膜下層に存在し,②広範な胃壁の肥厚を伴い,③背景胃粘膜には萎縮や腸上皮化生がないが,後天的なDCMは①囊胞は粘膜下層に限局し,②胃壁肥厚は必須でなく,③背景粘膜には高度の萎縮性変化や腸上皮化生を認めると述べている.本邦で報告されているびまん性粘膜下異所腺は,そのほとんどが後天的なDCMに相当すると考えられる.本症例は背景の胃粘膜に萎縮がほとんどなく,生検検体のHE染色ではヘリコバクター・ピロリ菌は認められなかった.さらに,囊胞性病変がF境界線よりも口側に存在し,背景粘膜に腸上皮化生は見られず,胃壁肥厚は広範囲であった.以上より,Scottら1)の報告にある先天的なDCMに相当すると考えた.

Table 1  Comparison of congenital and acquired DCM
Congenital Acquired
Genesis of cyst congenital aberrant gastric gland/congenital development disorder Repeated chronic inflammation and regeneration of mucosa
Background gastric mucosa atrophy (−)
intestinal metaplasia (−)
wall thickness
atrophy (+)
intestinal metaplasia (+)
Location of cyst · lamina propria or muscularis propria
· anal side of F line
· limited in muscularis propria
· boundary area between gastric and pyloric glands
Age/Sex unknown middle-aged and older men
Relation with gastric cancer unknown associated with a significant rate of gastric cancer (especially simultaneous multiple cancer)

癌との関連では,後天的DCMで高率に癌を合併し,同時性多発癌の発症率も高いことが報告されている2).岩永ら2)は,切除胃1,230例の検討で,DCMを認めた28例の全例に胃癌が合併したと報告している.全例にびらんや再生上皮を認めたとあるため,全て後天的DCMであったと推測される.他の報告でも胃癌を70~90%に合併していたが3)8),大規模な検討はなされておらず正確な癌化率は不明である9)10).江頭ら11)は多発胃癌230例の検討で,DCMが独立したリスク因子の一つであると報告している.後天的DCMにおいて癌化のリスクが高い原因として,背景胃粘膜の繰り返す炎症および再生,ヘリコバクター・ピロリ菌感染などが考えられる.DCMとピロリ菌感染について直接的な報告はないが,一般的なピロリ感染胃炎では萎縮が高度になるほど胃癌の発生率が高くなることから12),背景胃粘膜の炎症が高度な後天的DCMはピロリ感染胃炎の中でも発癌率が高いと推測される.Choiら13)は,DCM合併胃癌症例のEpstein-Barr virus(以下,EBVと略記)感染率が非DCM症例と比較して31.1%対5.8%と有意に高く,DCM合併胃癌の臨床病理学的特徴がEBV関連胃癌と類似していると報告しており,DCM合併胃癌とEBV感染の関連も考えられている.異所腺自体の癌化については後天的DCMをparacancerous lesionとしている報告もある2).安田ら14)は,加齢に伴いF境界線が口側へ移動するにしたがって,肛門側近傍の偽幽門腺が粘膜下層へ侵入して増殖するため後天的DCMが生じると推測している.この仮説に因れば,後天的DCMも癌と同様に萎縮の高度な粘膜から発生しているため,paracancerous lesionと考えられるとしている.近年では胃粘膜下異所腺由来と考えられる癌の症例も報告されている6)15)16).しかしながら,これまでの報告は内視鏡的に診断された後天的DCM症例の検討ではなく,病理組織学的に診断された切除例での検討が主であるため,癌化率がセレクションバイアスにより見かけ上高くなっている可能性も否定できない.先天性DCMについての発癌頻度は不明である.DCMの成因を考えると,一般的な非ピロリ感染胃癌の発生率と同程度と推測される.先天的DCMに癌が併存している症例の報告もあるが,背景胃粘膜に関する考察がなされていない報告例が多いため,本症例に類似する報告例は極めて少ない.そのため,先天性DCMと発癌の関連性については依然として不明な点が多い.

多発異所性胃腺に併存する癌の症例において,胃癌の深達度と範囲の診断は困難となることが多い.梶山ら17)はEUSが深達度診断に有用であったと報告しているが,本症例では異所性胃腺および腫瘍周囲の線維化のため,異所腺と腫瘍との鑑別が困難であった.線維化を伴う病変では,深達度ならびに範囲診断も難渋することも多いと考えられる.また,本症例では,癌の一部が異所腺に浸潤し一部異所腺の粘膜を置換するようにして粘膜下層に達しており,囊胞部分では深達度診断および範囲診断が困難であった.

一般的には,粘膜下異所腺に併存する胃癌は,粘膜下層までにとどまることが多いと報告されている18).近年ではEUSで早期癌と診断した際には内視鏡的粘膜切除を施行して良好な成績を得たとの報告も散見され19)20),診断的内視鏡切除も選択肢の一つとして考えられている21).一方で,粘膜下異所腺には内視鏡検査で検出困難な微小癌が多発して併存する可能性があるため,胃切除術を選択すべきとの意見もある22).また,残胃に異所腺が残存した場合は将来的に残胃癌を発症する可能性が高いことも念頭に置かなければならない23)24).これらのことから,現時点では治療法の選択について見解が定まっていない.術前のEUSで病変の範囲および深達度を診断できない症例では,病変が広範囲あるいは浸潤癌である可能性も考慮し,内視鏡的切除を施行するか否かは慎重を要する.背景胃粘膜に慢性的な炎症を伴っている後天的なDCMでは,多発癌のリスクが高いためESDはより慎重に行うべきである.一方で先天的なDCMでは癌化のリスクは非ピロリ感染胃癌の発生率と同程度と考えると,診断的ESDを施行し非治癒切除であれば追加外科切除を行うことも治療の選択肢として考慮すべきである.先天的,後天的にかかわらず,胃が温存された場合は,残胃の定期的なサーベイランスは必須である.

なお,血液検査におけるAFPとDCMの関連については,これまでの報告例では記載されているものはなく,因果関係は依然不明である.本症例では術前の血液検査にてAFPの軽度上昇がみられたが,術後検査でも値に変化がなく,本疾患との明らかな関連はないと考えた.

本症例は癌が胃体中部に位置しており,術中観察で胃体上部まで漿膜面が軽度発赤調に肥厚しており,広範囲なDCMの広がりと付随する癌の浸潤が疑われたため胃全摘を施行した.また,術前は粘膜下層までの癌と考え,明らかなリンパ節転移もないことより,腹腔鏡下に手術を行った.最終病理診断では癌は固有筋層まで浸潤していたが,リンパ節転移はなく,Stage IBで根治切除が得られた.DCMに合併した胃癌は粘膜下層にとどまることが多いため,腹腔鏡手術は良い適応と思われる.切除範囲に関しては,背景胃粘膜や病変の部位など条件が揃えば,症例によっては胃が温存できる可能性もある.

これまでの報告では背景胃粘膜に関する記載がないものも多いため,今後は背景胃粘膜に関する検討も含めて症例の蓄積が必要である.

利益相反:なし

文献
 

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