The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Hepatic Sarcomatous Carcinoma with a Long Recurrence-Free Survival after Rehepatectomy
Ryusuke AmemiyaShigeo HayatsuSeiya SannoheMari UenoHiroto IshidukaJae-Hoon RyuShinichi TsuwanoYumi EgashiraAkio Hara
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2019 Volume 52 Issue 11 Pages 629-636

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Abstract

症例は69歳の女性で,右側胸部痛を主訴に前医受診,炎症反応上昇と肝胆道系酵素異常を指摘され当院紹介となった.CTにて肝外側区域に乏血性で早期輪状濃染を伴う60 mm大の腫瘍を認め,肝内胆管癌の診断で腹腔鏡下肝左葉切除を施行した.病理組織学的検査所見では,腫瘍は紡錘形細胞で構成され,腺管構造や肝細胞への分化傾向を認めなかった.肝臓原発の肉腫様癌と診断した.S-1による補助化学療法を施行したが,術後4か月で肝前区域に56 mm大の腫瘍が出現し再発と診断した.Gemcitabine+cisplatin療法を6か月施行し腫瘍の縮小が得られたため,肝腹側前区域+左尾状葉切除術を施行した.その後補助化学療法を施行せずに初回肝切除後55か月,再肝切除後45か月経過し無再発生存中である.肝臓原発の肉腫様癌はまれで治療に難渋することも多い.集学的治療が奏効した症例を経験したので報告する.

Translated Abstract

Hepatic sarcomatous carcinomas are rare and are associated with poor prognosis. We report herein on a case of hepatic sarcomatous carcinoma with a long recurrence-free survival following intensive combined therapy. A 69-year-old Japanese woman with right chest pain visited a local hospital where elevation of CRP and elevation of liver and biliary enzymes were found. She was referred to our hospital and abdominal CT showed a hypoattenuating 60 mm lesion in the left lateral segment and the peripheral areas of the mass were enhanced in the arterial phase, yielding a diagnosis of intrahepatic cholangiocarcinoma. A laparoscopic left hepatic lobectomy was performed. Histopathological examination revealed the resected specimen consisted of spindle-shaped cells and had no component of glandular structure or hepatocytes. The patient was given a diagnosis of hepatic sarcomatous carcinoma. Although adjuvant chemotherapy with S-1 was performed, a recurrent 56 mm tumor was detected in the anterior segment of the right hepatic lobe 4 months after the operation. Gemcitabine+cisplatin therapy was introduced for 6 months and the tumor gradually decreased in size. Subsequently the patient underwent a ventral anterior segmentectomy and Spiegel lobectomy. The patient has survived for 55 months from the first hepatectomy and 45 months from the rehepatectomy with no recurrence and with no adjuvant chemotherapy.

はじめに

肝臓原発の肉腫様癌には肉腫様肝細胞癌と,肉腫様肝内胆管癌が存在する.いずれもまれな腫瘍で悪性度が高いことが知られている1)2).根治には切除を要するが術後の再発も多い.有効性が確立された化学療法も認められず,極めて予後不良である.また,肝臓原発肉腫様癌には肝細胞癌や胆管癌成分が明確でない症例も存在する.今回,我々は根治切除後早期に肝再発を来したものの,gemcitabine+cisplatin療法が奏効し,再肝切除にて長期無再発生存が得られた症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

症例

患者:69歳,女性

主訴:右側胸部痛

既往歴:34歳時左乳癌に対して左乳房部分切除術を施行された.36歳時卵巣囊腫にて子宮全摘+付属器切除術を施行された.46歳時S状結腸癌に対してS状結腸切除術を施行された.また,糖尿病にて近医通院中である.

家族歴:母 子宮癌,姉 大腸癌.父と他3人の兄弟には悪性疾患の罹患はない.

現病歴:右側胸部痛にて近医を受診し,血液検査にて炎症反応高値と肝胆道系酵素異常を指摘された.腹部CTで肝腫瘍を疑われ当院紹介受診となった.

入院時現症:身長151.5 cm,体重54.3 kg,血圧146/71 mmHg,脈拍78回/分,体温36.9°C.全身状態は良好.腹部は平坦,軟で腫瘤は触知しなかった.

入院時血液検査所見:WBC・CRPの上昇と胆道系酵素の上昇を認めた.腫瘍マーカーは正常範囲内であった(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission
ALB 3.7​ g/dl WBC 10,310​/μl
T-Bil 0.5​ mg/dl RBC 404​×104/μl
D-Bil 0.2​ mg/dl Hb 11​ g/dl
GOT 16​ U/l Plt 29.4​×104/μl
GPT 17​ U/l PT-INR 1.11​
ALP 448​ U/l PT (%) 80.9​%
LDH 267​ U/l APTT 31.1​ sec
γ-GTP 60​ U/l
UN 17.2​ mg/dl CEA 0.5​ ng/ml
CRE 0.54​ mg/dl CA19-9 <1​ U/ml
CRP 4.69​ mg/l AFP 1​ U/ml
HBs-Ag (−)
FBS 145​ mg/dl HCV-Ab (−)
HbA1c 7.1​% ICG R15 5​%

腹部超音波検査所見:肝外側区域に境界不明瞭な60 mm大の等エコー腫瘤を認めた.また,腫瘍末梢の胆管拡張を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

US revealed a poorly-marginated mass with an isoechoic lesion of 60 mm (arrow) and dilated biliary ducts (arrowhead) in the left lateral segment.

腹部CT所見:単純CTで肝外側区域に60 mm大の境界不明瞭な低吸収腫瘍を認めた.造影検査では腫瘍は乏血性であったが,早期相で辺縁が輪状に濃染された.腫瘍末梢の肝内胆管拡張を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Plain CT revealed a hypoattenuating lesion of 60 mm (arrow) in the left lateral segment (a). Contrast-enhanced CT scan revealed a hypoattenuating lesion (arrows) and dilated biliary ducts (arrowheads) (b, c, d). The peripheral areas of the mass were enhanced in the arterial phase (b).

既往の悪性疾患からは20年以上経過しており,また全身検索にて他に原発巣を疑う病変を認めなかったことから,肝内胆管癌の診断にて2014年8月腹腔鏡下肝左葉切除術を施行した.

手術所見:肝臓は正常肝であった.外側区域に腫瘍を確認した.リンパ節転移や腹膜播種は認めなかった.腹腔鏡下に肝左葉切除術を施行した.手術時間350分,出血量459 gであった.

切除標本肉眼所見:腫瘍は6.5×6×4 cm大の境界不明瞭な灰白色の充実性腫瘍であった.腫瘍は出血・壊死を伴っていた(Fig. 3).

Fig. 3 

Macroscopically, the tumor measured 6.5×6×4 cm and the resected specimen revealed necrosis and hemorrhage (circles).

病理組織学的検査所見:腫瘍は,多形性の核を有する紡錘形細胞で構成されていた.腺管構造は認めず,また肝細胞への分化傾向も認めなかった.腫瘤内部では壊死や線維化が目立ち,viableな腫瘍細胞は辺縁に多く存在した.免疫染色検査では,AE1/AE3(+),CK7(+),vimentin(+),αSMA(−),desmin(−),S100 protein(−),CD31(−/+),CD34(−)であった(Fig. 4).背景肝では門脈域に中等度のリンパ球浸潤を認めた.線維化はほとんど認めず,脂肪沈着も大滴性の脂肪変性1%未満と目立たなかった.また,胆管上皮の異型も指摘できなかった.

Fig. 4 

Histopathological findings of the resected specimen showed sarcomatous elements with spindle-shaped cells (a, HE). Immunohistochemical staining: AE1/AE3 positive (b), CK7 positive (c), vimentin positive (d).

腺管成分,肝細胞成分のいずれも確認できなかったことから肝臓原発の肉腫様癌と診断した.原発性肝癌取扱い規約第6版に従った記載では,ig,fc(−),sf(−),s1,vp2,vv1,va1,b1,sm(−),NL,f0,pT3N0M0,Stage IIIであった.高度の脈管・胆管侵襲を認めたものの,切除断端は陰性であった.

術後経過:術後経過良好で第10病日に退院となった.上皮系マーカーであるCK7がびまん性に陽性であったことから,肝内胆管癌に類似した腫瘍と考え,術後補助療法としてS-1(80 mg/m2)を開始した.しかし,2014年11月(術後3か月)のCTにて前区域に4.5 cmの再発腫瘍を認め,gemcitabine(1,000 mg/m2)とcisplatin(25 mg/m2)による化学療法を開始した.好中球減少のため2週間毎の投与とし,2 cycle(2か月)おきに画像での治療効果判定を行った.腫瘍径は治療開始前46 mmであったが,GC療法2 cycle終了時33 mm,4 cycle終了時25 mm,6 cycle終了時16 mmにまで縮小した(Fig. 5).縮小率は65.2%で,RECISTの効果判定はpartial responseであった.化学療法により病勢の制御が得られたため,切除の方針とし,2015年6月肝腹側前区域+左尾状葉切除術を施行した.術後経過良好で第17病日に退院となった.病理組織学的検査では,ほぼ全域にリンパ球・形質細胞や組織球の混じる炎症細胞診潤を認め,組織の大部分が線維化組織で置換されていた.紡錘形細胞には線維芽細胞・組織球系細胞が多く,初回手術標本に比べると異型・多形性は不明瞭であり,腫瘍細胞のviability低下が認められた.肉腫様癌の再発として矛盾せず,標的結節治療効果度はTE3であった(Fig. 6).背景肝では中心静脈周囲に脂肪沈着が目立ち,大滴性の脂肪変性は10%程度であった.

Fig. 5 

Time course of enhanced CT (a–d). The recurrent tumor in the anterior segment of right hepatic lobe showed a decrease in size gradually after chemotherapy.

Fig. 6 

Macroscopic appearance of resected specimen showed a 1.5 cm tumor (circles of a, b). Histopathological findings of the resected specimen consisted of spindle-shaped cells, compatible with recurrence of sarcomatoid carcinoma (c).

その後補助化学療法は行わず,2019年3月現在(初回肝切除後55か月,再肝切除後45か月),無再発で外来通院中である.

考察

肝臓原発の肉腫様癌には肉腫様肝細胞癌と,肉腫様肝内胆管癌があり,また肝細胞癌や胆管癌成分が明確でない症例も存在する.

肉腫様癌は組織学的には紡錘形から類円形の核を有し,紡錘形の腫瘍細胞が束状に錯綜配列する.免疫染色検査では肉腫様癌が間葉系と上皮系の両者の性格を有することを反映して,間葉系マーカーのvimentin,上皮系マーカーのcytokeratin(以下,CKと略記),epithelial membrane antigen(EMA)いずれでも染まることが多いとされる1)2)

本症例では,腫瘍に肝細胞成分・腺管成分のいずれも認めず,免疫染色検査では間葉系マーカーであるvimentin,および上皮系マーカーであるAE1/AE3,CK7がいずれも陽性であった.

肉腫様肝内胆管癌だけでなく,肉腫様肝細胞癌も上皮系マーカーが陽性となるため,本症例ではいずれかを断定することは困難であった.しかし,CK7がびまん性に陽性であったこと,腫瘍組織の50%程度に壊死を認め,腺管成分を確認できなかったことは悪性度の高さを反映したものと推測し,肉腫様肝細胞癌よりも肉腫様肝内胆管癌に類似した腫瘍と考え,肝内胆管癌に準じた化学療法を行った.結果的にgemcitabine+cisplatin療法が奏効したことからも,本症例は肉腫様肝内胆管癌に類似した腫瘍であったと考えられた.

肉腫様変化を伴った肝内胆管癌は,紡錘形細胞を伴う肝内胆管癌と定義され,原発性肝癌取扱い規約第6版3)においては肝内胆管癌の組織分類の特殊型として分類されている.

頻度は肝内胆管癌の4.5%1),男性にやや多く,初発症状は腫瘍の出血・壊死や増大速度を反映した上腹部痛・発熱が多いとされる4).肝内胆管癌では一般的にCEA,CA19-9が上昇することが多いが,肉腫様変化を伴う肝内胆管癌では腫瘍マーカーの陽性率はCEA 16%,CA19-9 48%とそれほど高くなく5),本症例のように正常を示す例も多いとされる.画像所見については特異的な所見はなく,通常の胆管癌との鑑別は困難と考えられている6)

腫瘍は出血・壊死を認めることが多く,病理組織学的には肉眼的に塊状型あるいは結節型の形態をとり弾性硬で,色調は灰白色から黄褐色で内部には出血・壊死を伴うことが多い1)

治療については完全切除が唯一長期予後を期待できる方法と考えられており,Kaiboriら6)は切除例の方が非切除例よりも予後が改善すると報告している.

しかし,通常の肝内胆管癌と比べてさらに予後不良で,術後早期に血行性やリンパ行性転移,腹膜播種を来し,急速な転帰を来すことが多く,発症からの平均生存期間は4か月といわれる7)

肉腫様肝内胆管癌の術後再発に対する治療奏効例は非常に少なく,医学中央雑誌で1964年から2017年12月の期間で「肝内胆管癌」,「肉腫」,「再発」もしくは「化学療法」をキーワードに検索した結果2例5)8),PubMedで1950年から2017年12月の期間で「intrahepatic sarcomatoid cholangiocarcinoma」,「recurrence」もしくは「chemotherapy」をキーワードに検索した結果,1例のみであった9).Malhotraら9)は術後5週間で多発肝転移・腹膜播種を来した症例に対して,gemcitabine+cisplatin投与を施行し,術後29か月生存中と報告している.塚原ら5)の報告では術後8か月で多発肝内転移・縦隔リンパ節転移を来した症例に対してgemcitabine・gemcitabine+cisplatin・S-1による化学療法を施行し,術後27か月生存を得られている.正司ら8)は局所再発に対する再切除と縦隔リンパ節転移に対する放射線療法によって,初回手術後29か月生存を得ている.

肉腫様の混合型肝癌の症例ではあるが,術後多発肝転移に対して肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization;TACE)とS-1による化学療法を行い,術後52か月生存が得られたという報告もある10)

また,肉腫様肝細胞癌であってもその予後は不良で,術後早期に再発するため,平均生存期間は5か月といわれる11).肉腫様肝細胞癌の術後再発に対する治療奏効例も非常に少なく,医学中央雑誌で1964年から2017年12月の期間で「肝細胞癌」,「肉腫」,「再発」もしくは「化学療法」をキーワードに検索した結果1例12),PubMedで1950年から2017年12月の期間で「sarcomatous hepatocellular carcinoma」,「recurrence」もしくは「chemotherapy」をキーワードに検索した結果0例のみであった.奏効例では,術後副腎転移・膨大動脈リンパ節転移に対してソラフェニブを使用し,RECISTの効果判定で20か月の長期stable diseaseが得られている12)

以上のように,肉腫様肝内胆管癌,肉腫様肝細胞癌はいずれも術後再発に対する治療奏効例が非常に少なく,また報告例も担癌状態での報告に限られている.

本症例は初回肝切除後早期に肝内に再発を来し,予後不良と思われたが,幸い通常型の肝内胆管癌に準じたgemcitabine+cisplatin療法が奏効し,再肝切除施行後現在まで無再発で,初回肝切除後55か月,再肝切除後45か月の長期生存を得られている.

本症例の再発様式については,初回手術検体の断端が陰性であったことから当初単発の肝内転移と考えていたが,肝内転移は肝内胆管癌の予後不良因子であり,本症例のように長期無再発生存を得ることは難しい.また,初回手術検体の断端近傍にまで高度脈管侵襲を認めていたことから,脈管侵襲を介した断端への局所再発の可能性は否定できない.

再発様式が局所再発であったとすれば,化学療法が奏効したこと,肝内胆管癌の予後不良因子である肝内転移・リンパ節転移を認めなかったことが,本症例が再肝切除後長期無再発生存を得られた要因と考えられた.

肝原発の肉腫様癌は肉腫様肝内胆管癌・肉腫様肝細胞癌いずれも術後再発に対する治療奏効例が非常に少ない.しかし,化学療法・放射線療法が奏効する症例が存在し,本症例のように局所再発に対して化学療法と再肝切除を施行することで長期無再発生存を得られる症例も存在する.

肝原発の肉腫様癌は予後不良であるが,術後再発が見られた場合には,病理組織型と再発形式に応じた集学的治療を行うことが長期生存を得るためには重要であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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