2019 Volume 52 Issue 11 Pages 646-653
症例は62歳の男性で,体底部の胆囊癌に対して胆囊床切除術を施行された.郭清した#12bおよび#12cリンパ節は術中迅速病理検査にて転移陰性であった.最終病理診断はpoorly differentiated adenocarcinoma,Gbf,30×25 mm,pT3a(S),pN0,M0,pStage IIIAであった.術後1年8か月目に#12aリンパ節転移再発を認めた.Gemcitabine+cisplatin療法,gemcitabine+S-1療法を施行したが,転移リンパ節が増大したためS-1併用の化学放射線療法(50.4 Gy)を施行した.著明な縮小効果が得られ,新規病変の出現を認めなかったため転移リンパ節の摘出術を施行した.最終病理診断は病理学的完全奏効であった.胆囊癌術後再発の予後は極めて不良であるが,化学放射線療法が著効し完全奏効を得られた症例を経験したので報告する.
A 65-year-old man underwent gallbladder bed resection for gallbladder cancer located in the body to tail. No metastatic lymph node was observed in the 12c and 12b lymph node areas by intraoperative pathological examination. Final pathological findings were poorly differentiated gallbladder adenocarcinoma, Gfb, papillary expanding type, 30×25 mm, T3 (S). sci INFγ, ly1, v1, ne1, N0, M0, Stage IIIA, R0 resection. CT detected recurrent node (55×38 mm) in the 12a area 1 year and 8 months after surgical resection. Five courses of gemcitabine (GEM) plus cisplatin (CDDP) therapy and 2 courses of GEM plus S-1 therapy were performed. However, the metastatic node increased in size. We performed chemoradiotherapy (CRT: S-1 plus 50.4 Gy). After CRT, the metastatic node shrank remarkably. Since there was no other distant metastasis, we performed surgical resection of the recurrent lymph node. The metastatic node did not show invasion to the surrounding tissues and major vessels, and curative resection was performed. Pathological examination revealed no presence of viable carcinoma cells in the resected lymph node. Prognosis of patients with recurrence of gallbladder cancer was extremely poor. We report a rare case of pathological complete response after chemoradiotherapy for recurrent lymph node with a review of the literature.
胆囊癌に対しては外科的切除が唯一の根治的治療法であるが,術後の再発率は高く,再発後の予後は不良である1).胆道癌診療ガイドラインでは,切除不能胆道癌に対してはgemcitabine(以下,GEMと略記)とcisplatin(以下,CDDPと略記)を併用したGC療法が推奨されており(推奨度1),放射線療法(radiotherapy;以下,RTと略記)は推奨度2となっている2).今回,我々は胆囊癌術後のリンパ節転移再発に対して,GC療法,GEMとS-1の併用療法(以下,GS療法と略記),S-1併用の化学放射線療法(chemoradiotherapy;以下,CRTと略記)を行い,外科的切除により病理学的完全奏効(pathological complete response;以下,pCRと略記)を確認した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
患者:62歳,男性
主訴:上腹部不快感
既往歴:高血圧,急性硬膜下血腫
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2015年4月,右上腹部のもたれ感を主訴に前医を受診した.腹部超音波検査,腹部造影CTにて胆囊腫瘍を指摘され,精査加療目的に当科紹介となった.
身体所見:身長171.5 cm,体重73.7 kg.腹部は平坦,軟で圧痛を認めなかった.
入院時血液検査所見:血算,生化学に異常はなく,血清CEAおよびCA19-9の上昇を認めなかった.
腹部造影CT所見:胆囊体底部の腹腔側に内腔に突出する24×15 mm大の腫瘍を認めた.明らかな周囲リンパ節の腫大や遠隔転移を認めなかった(Fig. 1A).

A: Abdominal enhanced CT showed a tumor located in the body to the fundus of the gallbladder (arrow). B: 18FDG-PET showed increased uptake of the FDG (SUVmax 8.3) in the gallbladder tumor (arrow).
EOB-MRI所見:胆囊体底部に21 mm大の腹腔側の漿膜浸潤を疑う腫瘍を認めた.周囲リンパ節の腫大や肝転移を認めなかった.
超音波内視鏡検査所見:胆囊体底部に22×15 mm大の乳頭状腫瘍を認めた.胆囊壁の外側高エコー層は断裂しており漿膜浸潤が疑われた.肝臓への浸潤は認めなかった.
18FDG-PET所見:胆囊内にFDGの異常集積(SUVmax 8.3)を認めた.リンパ節転移や遠隔転移を疑う集積は認めなかった(Fig. 1B).
以上の所見から,胆囊癌T3a(S)N0 M0 Stage IIIA(胆道癌取扱い規約第6版)と診断し,外科的切除の方針とした.
手術所見:腹膜播種や肝転移を認めず,洗浄腹水細胞診は陰性であった.胆囊床切除術を施行した.#12bおよび#12cリンパ節の郭清と#12aおよび#12pリンパ節のサンプリングを行い,術中迅速病理組織検査でリンパ節転移陰性を確認した.
切除標本所見:胆囊体底部に漿膜の引き連れを伴う30×25 mm大の腫瘍を認めた(Fig. 2).

The resected specimen showed a papillary expanding tumor which was 30×25 mm in size and located in the body to the fundus of the gallbladder (arrow).
病理組織学的診断:Poorly differentiated adenocarcinoma,Gbf,papillary expanding type,perit,30×25 mm,por1>tub1,pT3a(S),sci,INFc,ly1,v1(VB),ne1,CM0,EM,PVX,AX,pT3a N0 M0 pStage IIIAであり(Fig. 3),R0切除であった.

Histopathological examination of the primary tumor revealed poorly differentiated adenocarcinoma (×200).
術後経過:術後合併症なく経過し,術後6日目に療養目的にて近医へ転院となった.術後1か月目から補助化学療法として,S-1(100 mg/day)の内服を6か月間行った.術後補助化学療法終了後も近医にて3か月ごとの腫瘍マーカー測定と造影CTによる経過観察を継続した.術後1年8か月後の2017年1月に腹部造影CTで固有肝動脈周囲に55×38 mm大の楕円形の腫瘤性病変を指摘され,#12aリンパ節転移再発と診断した.近医にて3か月前に施行されていた単純CTをretrospectiveに見直すと,同部位に34 mm大の軟部陰影を認めていた.血清CEAやCA19-9の上昇は認めなかった.画像上,門脈および固有肝動脈と接しており,浸潤を否定できない所見であった.胆道癌ガイドラインの切除不能胆道癌治療に準じて,GC療法(GEM:1,000 mg/m2,CDDP:25 mg/m2)を開始した.3コース終了時点で転移リンパ節は36×19 mm大に縮小し,治療効果判定はpartial response(以下,PRと略記)であった.治療奏効と判断しGC療法を2コース追加したが,転移リンパ節は47×33 mm大へと再増大し,治療効果判定はprogressive disease(以下,PDと略記)であった.2次治療として,GS療法(GEM:1,000 mg/m2,S-1:100 mg/day)を2コース行ったが,転移リンパ節は73×50 mm大へとさらに増大し,治療効果判定はPDであった(Fig. 4A).FDG-PETでは転移リンパ節にFDGの高度異常集積(SUVmax 15.41)を認めた(Fig. 4B).3次治療として,CRT(S-1:80 mg/day+50.4 Gy)を施行した.CRT終了1か月目の腹部造影CTでは転移リンパ節は40×21 mm大に縮小しており,治療効果判定はPRであった.さらに,S-1(80 mg/day)内服を2か月間施行後の腹部造影CTでは,転移リンパ節は35×20 mm大と縮小を維持していた(Fig. 4C).FDG-PETでは,CRT前と比較して転移リンパ節へのFDGの異常集積の著明な低下(SUVmax 4.4)を認めた(Fig. 4D).新規病変の出現を認めず,外科的切除の方針とした.

A: Abdominal CT after chemotherapy showed increased size of the metastatic lymph node (73×50 mm) (arrow). B: 18FDG-PET after chemotherapy showed increased uptake of the FDG (SUVmax 15.41) in the metastatic lymph node (arrow). C: Abdominal CT after chemoradiotherapy showed remarkable shrinkage of the metastatic lymph node (35×20 mm) (arrow). D: 18FDG-PET after chemoradiotherapy showed remarkable decrease of the abnormal uptake of the FDG (SUVmax 4.4) in the metastatic lymph node (arrow).
手術所見:肝転移や腹膜播種を認めず,洗浄腹水細胞診陰性であった.肝十二指腸間膜周囲には前回手術と術前治療の影響で高度の炎症性線維化所見を認め,転移リンパ節の同定は困難であった.術中超音波検査にて転移リンパ節を同定し,周囲組織を慎重に剥離し転移リンパ節を露出した.転移リンパ節は圧排性の発育形態であり固有肝動脈や門脈への浸潤を認めず,完全切除が可能であった(Fig. 5).領域リンパ節の完全郭清も検討したが,肝十二指腸間膜領域に高度の癒着を認め,術中超音波検査で他に腫大リンパ節がなかったことから追加郭清は施行しなかった.

Intraoperative findings. LN: lymph node. GDA: gastroduodenal artery. PHA: proper hepatic artery. RHA: right hepatic artery.
病理組織学的検査所見:切除リンパ節内の大部分は壊死組織であり,フィブリンやヘモジデリン沈着,泡沫細胞浸潤を認めた.壊死組織内のghost cellにはAE1/AE3免疫染色検査の陽性像を認め,治療前の腫瘍細胞の存在が疑われた(Fig. 6A, B).残存腫瘍細胞を認めず,治療効果判定はpCRであった.

Immunohistochemical staining for AE1/AE3 of the resected lymph node. A: Broad necrotic area and fibrosis (×40). B: Ghost cell in the necrotic area showed positive reaction to the AE1/AE3 (×200).
術後経過:再手術後は問題なく経過し,術後9日目に自宅退院となった.
術後5か月経過した現在,明らかな再発所見なく外来にて経過観察中である.
胆囊癌に対する唯一の根治的治療法は外科的切除であるが,初期には特徴的な症状がないこと,容易に周囲臓器への浸潤を来すこと,広範な領域リンパ節転移や遠隔転移を起こすことから,進行した状態で診断されることが多い3).診断時にはすでに約30%の症例が切除不能であると報告され4),その場合の予後は極めて不良である.さらに,胆囊癌は根治切除後の再発率が30~66%と高く1)5)6),Margonisら1)は217人の胆囊癌根治手術症例のうち,35.0%の76人が再発し,再発後の3年生存率,5年生存率はそれぞれ28.7%,16.0%であったと報告している.再発部位は肝臓,リンパ節,腹膜,局所が多い1)5)6).
進行胆囊癌に対しては肝十二指腸間膜リンパ節郭清が行われるが,肝外胆管切除を伴わない完全リンパ節郭清は胆管虚血や狭窄を引き起こす可能性がある.術前画像検査にてリンパ節転移を認めず,肝外胆管に直接浸潤を認めない胆囊癌に対する肝外胆管切除を伴う肝十二指腸間膜リンパ節郭清の有用性は不明である7).我々の検討でも,体部から底部に存在する胆囊癌においては肝外胆管切除を伴うリンパ節郭清と予後との相関は認めなかった8).本症例は術前画像検査にてリンパ節転移を認めない体底部の胆囊癌であり,#12bおよび#12cリンパ節の郭清と#12aおよび#12pリンパ節のサンプリングを行い,術中迅速病理組織検査でリンパ節転移陰性であったため,それ以上のリンパ節郭清を行わなかった.進行胆囊癌に対して系統的なリンパ節郭清を行わなかったことは本症例における反省点である.
GC療法は英国でのABC-02試験9)や本邦で行われたBT22試験10)の結果から,切除不能・再発胆道癌に対する標準治療とされている.また,GS療法も国内第II相試験11)~13)においてGC療法に劣らない奏効率を示しており,胆道癌に対する有効なレジメンとして期待されている.本症例でも,固有肝動脈および門脈浸潤疑いのある胆囊癌術後リンパ節転移再発に対して,切除不能胆道癌に準じてGC療法,GS療法を施行した.重大な有害事象なく施行可能であったが,転移リンパ節は一旦縮小した後に再増大した.化学療法施行中に他の遠隔転移出現を認めなかったためCRTを施行した.胆道癌に対するRTの目的は,切除可能病変に対する補助療法,切除不能病変に対する局所コントロール,骨転移などの遠隔転移に対する症状緩和の三つに分けられる14).切除不能の局所進行胆囊癌1,199症例に対するCRT群と化学療法単独群を比較した大規模cohort studyでは,CRT群で有意に全生存期間が延長しており,多変量解析にてCRTは独立予後因子であったと報告されている15).
胆道癌の再発病変に対するRTに関しては,Kimら16)が肝外胆管癌術後再発に対してRTもしくはCRTを行い,2年局所コントロール率および2年全生存率はそれぞれ44%と55%であったと報告している.当科でも再発胆道癌に対して積極的にCRTを施行しており,その有効性および安全性を報告している17).本症例でもGC療法,GS療法施行後の3次治療としてS-1併用のCRTを施行し,著明な抗腫瘍効果を得た.切除再発巣は病理組織学的検査にて広範に壊死しており残存するリンパ組織を認めなかったが,壊死組織内のghost cellに上皮マーカーであるAE1/AE3の陽性像を認めていた.術前の画像検査所見や術前治療中の再発巣の大きさの推移および術中所見も考慮し,#12aリンパ節全体を占拠する癌細胞が術前治療により壊死したと推測しpCRと判定した.我々が検索しえた範囲で,胆囊癌の術後再発病変に対して化学療法もしくはCRTが著効し,外科的切除によりpCRを確認しえた症例の報告はなかった.医学中央雑誌にて1964年から2018年7月の期間で「胆囊癌」,「再発」,「化学療法」,「放射線療法」,およびPubMedにて1950年から2018年7月の期間で「gallbladder cancer」,「recurrence」,「chemotherapy」,「radiotherapy」をキーワードとして検索した.
近年,局所進行胆囊癌の予後改善を目的とした術前CRT(neoadjuvant CRT;以下,NACRTと略記)が試みられている18)19).Engineerら18)はNACRT(GEM+57 Gy)を施行された局所進行胆囊癌28症例のうち,20症例(71%)でPRもしくはCRが得られ,14症例でR0切除が施行可能であったと報告している.そのうち3症例ではpCRが確認された.Hakeemら20)は進行胆囊癌に対する術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;以下,NACと略記),NACRTに関する8編のstudyのシステマティックレビューを行っている.NACもしくはNACRTが施行された進行胆囊癌474症例のうち,35.4%でR0切除が可能であったが,30.6%ではPDと判定された.NACもしくはNACRTが著効する胆囊癌が存在すると考えられるが,その有効性に関してはrandomized controlled trialなどによる検証を要する.放射線感受性は多くの因子の影響を受けるが21),自験例では,初回手術時の胆囊癌原発巣が低分化腺癌であったことが,CRTが著効した原因の一つであった可能性がある.RTの効果が高いのは,(1)細胞分裂の頻度が高い,(2)形態および機能が未分化である,(3)分化,完成するまでに細胞分裂の回数が多い組織であるとされている22).低分化胆囊癌術後の単発再発巣はCRTの良い適応である可能性がある.
胆囊癌再発巣切除の適応や全身化学療法やRT後の切除時期については明確なコンセンサスはない.胆道癌再発巣の切除群が非切除群より予後が良好であったとの報告も散見されるが23)~25),どのような症例が外科的切除によって予後の改善を得られるかに関しては明らかではない.自験例ではCRT施行後に著明な縮小効果が得られた後さらにS-1内服を継続し,腫瘍の再増大や新規病変の出現がないことを確認した後,外科的切除術を施行した.
胆囊癌術後再発に対する治療法におけるエビデンス構築は今後の課題であり,(1)術前治療を施行するべきか,(2)化学療法とCRTのどちらを選択するべきか,(3)術前治療著効症例に対する切除時期など,今後多くの症例蓄積によるさらなる検討を要する.
利益相反:なし