2020 Volume 53 Issue 1 Pages 36-45
症例は73歳の女性で,2010年2月に上行結腸癌が先進部の腸重積,横行結腸穿孔,汎発性腹膜炎の診断で,当科にて拡大結腸右半切除術+D2リンパ節郭清術,回腸人工肛門造設術を施行した.病理学的診断は粘液癌でpSS,pN0,ly1,v1,pPM0,pDM0,pRM0,fStage IIであった.初回手術から4年,6年後に後腹膜再発を指摘され,いずれも摘出術を施行し,播種再発と診断した.初回手術から7年半後に腸閉塞のため当科紹介となり,CTにて狭窄部に腫瘍を認め,小腸部分切除術を施行した.狭窄部粘膜に1型腫瘍を認め,原発性小腸癌と診断した.術後化学療法は施行せず,14か月無再発生存中である.大腸癌と小腸癌の重複はまれであるが,各種癌の治療成績向上に伴い多臓器癌を重複する大腸癌に遭遇する機会は増えてくると考えられる.今後は再発だけでなく重複癌も念頭に置いた治療の選択をする必要がある.
A 73-year-old woman underwent subtotal colectomy with D2 lymph node dissection for invagination due to ascending colon cancer and perforative peritonitis 7 years previously. The patient underwent 2 surgeries for dissemination; the first was 3 years previously, followed by a second surgery 1 year previously. At this time, she complained of abdominal pain. Abdominal CT showed obstruction in the small intestine with enhanced tumor. Dissemination of ascending colon cancer was suspected and partial resection of the ileum was performed. On the resected specimen, type 1 tumor was identified, which did not invade the serosal membrane side. Pathological findings revealed that papillary adenocarcinoma continued to the small intestine epithelium, and the tumor was diagnosed as primary small intestinal cancer. Her postoperative course was uneventful, and she was discharged on postoperative day 31. Presently, she is alive after 14 months without tumor recurrence or metastasis. Patients that present with small intestinal cancer after colorectal cancer are very rare. However, the number of patients with cancer of other organs after colorectal cancer has been increasing. It is important to pay attention not only to recurrence, but also to cancer of other organs including the small intestine.
大腸癌の治療成績は向上し,重複癌に遭遇する機会は増えてきている1).しかし,大腸癌の重複癌のなかで,小腸癌との組み合わせは1%程度であり2),極めてまれである.今回,我々は2度に渡る大腸癌腹膜播種再発切除後に原発性小腸癌を併発した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
症例:73歳,女性
主訴:腹部膨満感
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:2010年2月,上行結腸癌が先進部の腸重積および横行結腸穿孔,汎発性腹膜炎の診断で,当科にて拡大結腸右半切除術+D2リンパ節郭清術,回腸人工肛門造設術を施行した(Fig. 1).上行結腸腫瘍の病理組織学的検査所見は腺癌を認め,muc(>tub1>pap),SS,ly0,v0,PM0,DM0,N0(0/6),fStage IIであった(Fig. 2).2011年3月に前医にて人工肛門閉鎖術を施行した後,2011年5月よりS-1の内服が開始された.画像上は明らかな再発・転移は認めないものの,CEAが上昇傾向であったため,2013年8月よりFOLFOX4に変更された.2014年3月(初回手術から4年後)のCTにて左腎下極の後腹膜再発と診断,当科へ紹介となり,後腹膜腫瘍切除+小腸部分切除術を施行した(Fig. 3).病理組織学的検査では上行結腸癌と同様の組織像を呈するmucinous adenocarcinomaであり,播種に矛盾しない所見であった.後腹膜腫瘍は小腸粘膜下層まで浸潤しており,粘膜を持ち上げるように進展していた.
The resected specimen of initial operation shows Type 1 tumor at the ascending colon and perforation of transverse colon (a: whole image, b: photomacrograph of ileocecal).
Histopathological findings of the resected tumor show a mucinous adenocarcinoma invading to the serous area (a: HE stain ×1.25, b: HE stain ×10).
The resected specimen of the second operation shows a 70×50 mm outer-parietal tumor (a). Histopathological findings show a mucinous adenocarcinoma such as ascending colon cancer invading to the submucosal area (b: HE stain ×1.25).
その後,初回手術から6年後のCTにて脾下極の後腹膜再々発を認め,脾合併尾側膵切除術を施行した(Fig. 4).病理組織学的検査では上行結腸癌,後腹膜腫瘍に類似したmucinous adenocarcinomaであり,腹膜播種再発に矛盾しない所見であった.腫瘍は脾実質への浸潤を認めた.切除された播種巣以外に遠隔転移・再発は認めず,切除後は初回治療後の化学療法の有害事象が強かったことも考慮のうえ,いずれも化学療法は行わず,前医と連携で経過観察を行っていた.
The resected specimen of the third operation shows a 35×30 mm tumor proximal to the spleen (a). Histopathological findings show a mucinous adenocarcinoma such as ascending colon cancer invading to the splenic parenchyma (b: HE stain ×1.25).
現病歴:2017年9月(初回手術後7年半)に腹部膨満感を自覚し前医を受診しCTで腸閉塞と診断された.保存的加療を行ったが改善に乏しく,精査加療目的に当科転院となった.
入院時現症:体温36.1°C,血圧100/75 mmHg,脈拍70回/分,整.
腹部は膨隆していたが,圧痛・反跳痛は認めなかった.
入院時血液生化学検査所見:TP 4.7 g/dl,Alb 2.8 g/dlと低栄養を認めた.
腫瘍マーカーはCEA 1.9 ng/ml,CA19-9 8.9 U/mlと上昇は認めなかった.
腹部造影CT所見:造影増強効果を伴う病変があり,同部に腸管のcaliber changeを認めた(Fig. 5).
An abdominal contrast-enhanced CT shows obstruction in the small intestine with contrasted tumor (in circle) (a: plain CT, b: contrast-enhanced CT).
転院後経過:播種に伴う腸閉塞と考えられ,転院後再度イレウス管を留置・絶食管理とし,腸管減圧後に手術を行う方針とした.
手術所見:4度目の開腹手術の影響もあり広範に癒着していたが癒着による通過障害は認めなかった.回腸に漿膜側の変化を伴わない結節を認め,同部が腸閉塞の原因と思われた.術前のCTでは周囲リンパ節の腫大は認めておらず,郭清を伴わない小腸部分切除術を施行した.手術時間は3時間40分,出血量は580 mlであった.
摘出標本所見:小腸粘膜面に全周性1型腫瘍があり,口側腸管の拡張を認めた(Fig. 6).
The resected specimen shows Type 1 tumor in the mucosal side, but no nodes in the serosal side.
病理組織学的検査所見:腫瘍は既存の回腸粘膜から連続し,乳頭状構造を示しながら増殖し,乳頭状腺癌を認めた.一方で漿膜下組織内にはこれまでの上行結腸癌と類似した異型上皮による粘液湖の形成も認められた(Fig. 7).免疫染色検査では,3度目の手術で切除した播種病変においてmucin core protein(以下,MUCと略記)-1,MUC-2,MUC-5ACおよびMUC-6で陽性を示したが(Fig. 8),小腸腫瘍で陽性所見を示したのはMUC-2のみであった(Fig. 9).播種病変と小腸腫瘍は異なる染色形態を示しており,原発性小腸癌pap>muc,SE,ly1,v1,PM0,DM0と診断した.
Histopathological findings show the papillary adenocarcinoma continues to the mucous membrane of small intestine and mucosal pool in the subserosal layer (a: HE stain ×1.25, b: HE stain ×10 of mucosal side, c: HE stain ×10 of serosal side).
Immunohistochemical staining of dissemination of specimens collected from the third operation reveal MUC1-positive (a), MUC2-positive (b), MUC5AC-positive (c) and MUC6-positive (d).
Immunohistochemical staining of the small intestinal tumor reveal MUC1-negative (a), MUC2-positive (b), MUC5AC-negative (c) and MUC6-negative (d).
術後経過:術後経過は概ね順調であり,第31病日退院となった.術後化学療法は施行せず,14か月無再発生存中である.
重複癌は1889年にBillrothらによって初めて報告され,現在ではWarrenやMoertelら3)によって提唱された定義が広く支持されている.その定義は①各種癌がそれぞれ明らかな悪性像を示す,②それぞれが別個に離れて存在する,③一方の腫瘍が他方の転移ではないこととされている.大腸癌取扱い規約第9版4)においては,重複癌は他の臓器や器官に悪性腫瘍が発生したものであり,第1癌から2か月以上の期間に第2癌が診断された場合を異時性としている.自験例では大腸癌および腹膜播種と小腸癌の優勢な組織型が一致しないことや,浸潤様式が異なることから原発性小腸癌が考えられた.小腸と大腸は別々の腫瘍であっても同じ染色パターンを示す可能性は高いと報告されているが5),自験例では免疫染色検査において異なる染色パターンを示し,原発性小腸癌と診断した.また,第1癌である大腸癌切除から7年以上経過し発生しており,異時性の重複癌と診断した.
原発性小腸癌は全消化管悪性腫瘍の0.3%~1.0%と比較的まれである6).特異的な症状が乏しく,検査も困難であることから進行癌として発見される場合が多く7),5年生存率は空腸癌で37.6%,回腸癌で37.8%と不良である8).原発性小腸癌の治療は,切除可能な場合は外科的切除が基本であり,癌から口側肛門側ともに5~10 cm離して行い,辺縁動静脈に沿う領域リンパ節を郭清することが一般的である9).一方で,切除不能例や再発例に対する化学療法は,確立された治療法がないのが現状である.カペシタビン/オキサリプラチン(CapeOx)やFOLFOX(5-FU持続静注/LV/オキサリプラチン)の有効性を示した第II相試験の報告はあるが10)11),その症例数は十分ではない.NCCNガイドライン201712)においてもエビデンスの高い報告が欠けていることを認識したうえで,結腸癌ガイドラインに従って全身化学療法を行うことを推奨しており,今後も症例の蓄積が必要と考えられる.
大腸癌をはじめとした各種癌は,診断技術や治療成績の向上によって,他臓器重複癌症例と診断される機会は多くなってきており,従来大腸癌が他臓器癌を重複する頻度は6.5%であったが13),近年では塩澤ら1)が18.1%(同時性5.0%,異時性13.5%)と報告している.重複癌の発生要因としてはLynch症候群などにみられる遺伝的素因,環境の影響,第1癌に対して施行した化学療法や放射線療法などの医原性要因などがあげられるが,重複例の増加傾向には環境要因が強く影響していると考えられている14).また,頭頸部癌においてcommon clonal originという概念も提唱されており15),がん化を引き起こした細胞に引き続いてその子孫細胞が粘膜内を拡がり,異なる部分に遺伝的に関連のある腫瘍を引き起こすと考えられている16).重複癌症例における検討では,多発大腸癌との関連が報告されており17),自験例のような単発大腸癌においても小腸癌のリスクとなった可能性が考えられた.
大腸癌に重複する臓器の頻度は胃癌が最も多く,男性では肺癌,前立腺癌,女性では肺癌,乳癌,子宮癌の順で続くとする報告が多いが,小腸癌は1%程度である2).異時性重複癌診断までの期間の中央値は大腸癌先行例で3~6年,他臓器先行例では9~11年であり17)18),さらに須藤ら17)は,重複癌例は男性,右側結腸,癌家族歴や多発癌に多く,組織型との関連は認めなかったと報告している.一方Guanら19)やBromanら20)は,結腸癌患者は小腸癌の標準化罹患比が高く,特に右側結腸癌は左側結腸癌や直腸癌と比較し高くなると報告している.右側結腸に多い理由は腫瘍径や深達度,組織型などの臨床病理学的な特徴や,CIMPやMSI,BRAFなどの分子機構,治療方針などが関与していると考えられている.
小腸癌との重複例はまれであり,医学中央雑誌において「大腸癌」,「異時性重複癌」,「小腸癌(十二指腸癌を除く)」をキーワードに1970年から2018年3月までの文献(会議録を除く)を検索したところ,小腸癌を重複した大腸癌の報告は自験例を含め12例2)21)~30)であった(Table 1).男性6例,女性6例で年齢の中央値は66歳(32~84歳)でありいずれも大腸癌先行例であった.大腸癌の占居部位は右側結腸7例,左側結腸7例であった.多発大腸癌は5例に認め,小腸癌との重複癌においても右側結腸癌・多発癌に多い傾向を認めた.播種再発を伴う症例は自験例のみであり,異時性腹膜播種再発の生存期間の中央値が1年31)と予後が不良であり,発見されぬまま死亡することも予測される.一方小腸癌の占居部位は空腸7例,回腸5例であり,全ての症例でMP以深の進行癌であった.重複癌診断までの期間中央値は4.5年(1~11年),半数が5年以内の診断であり,これまでの報告と同様であった.
Case | Author/Year | Age/ Sex |
Colorectal cancer | Interval | Small intestinal cancer | Prognosis | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Location | Invasion depth | Pathology | Location | Invasion depth | Pathology | |||||
1 | Nakagawa21)/1995 | 68/F | R C |
AI SS |
tub1 tub1 |
17Y 3Y |
I | SI | tub1 | |
2 | Nakasato22)/1998 | 53/M | A(2) R |
SS, SS M |
por, tub2 tub1 |
8Y 1Y |
J | SS | tub1 | |
3 | Honda23)/2002 | 81/M | R T |
SS | por | 26Y 3Y |
J | SS | tub1 | |
4 | Karube24)/2003 | 70/F | R | A | tub1 | 2Y | I | SE | tub2 | 1.3 years survival |
5 | Nakazaki2)/2005 | 54/M | R | SM | tub2 | 5Y | J | SI | por | |
6 | Kosuge25)/2007 | 32/F | T | SS | tub2 | 5Y | J | SS | tub1 | 7 years survival |
7 | Saito26)/2008 | 64/M | R | MP | tub2 | 11Y | J | SS | tub1 | Dead in 2 years |
8 | Yamasaki27)/2010 | 81/F | R A |
16Y 5Y |
J | SI | tub1 | Dead in 4 months | ||
9 | Fujita28)/2010 | 55/F | S | 1Y | I | SE | tub1 | Lymph node recurrence in 1.3 years | ||
10 | Egashira29)/2013 | 63/M | A | tub2 | 8Y | J | SS | tub1 | ||
11 | Sato30)/2016 | 84/M | A, S, R | SS, SS, M | tub1 | 4Y | I | MP | tub2 | |
12 | Our case | 74/F | A | SS, dissemination | muc | 7Y | I | SE | pap | 14 months survival |
C: cecum, A: ascending colon, T: transverse colon, D: descending colon, S: sigmoid colon, R: rectum, tub1: well differentiated adenocarcinoma, tub2: moderately differentiated adenocarcinoma, por: poorly differentiated adenocarcinoma, muc: mucinous adeno carcinoma, pap: papillary adenocarcinoma
大腸癌重複例の5年生存率は,重複のない症例と比較し差がないとする報告が多く32)33),重複癌を標的とした術後サーベイランスの有効性は示されていない.一方で大腸癌重複例の死因の半数が他癌死であり,重複癌が大腸癌の予後に影響するという報告もされている34)35).そのため,早期診断し根治術を行うことが予後の改善に必要であると考えられる.
また,自験例のように播種再発を繰り返している症例においても,その都度肉眼的に完全切除可能であれば長期予後が期待できるとされている36).大腸癌術後サーベイランスの画像検査において,腹膜播種と原発性小腸癌との鑑別は困難となることがある.いずれにおいても切除することが予後の改善につながるため,切除可能であれば,診断的治療も含めた切除を考慮する必要があると考えられた.
謝辞:稿を終えるにあたり,ご協力いただきました岐阜大学医学部付属病院病理部の宮崎龍彦先生,酒々井夏子先生に深甚なる謝意を表します.
利益相反:なし