The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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SPECIAL REPORT
The Operative Record for Biliary Surgery
Takamichi IshiiShinji Uemoto
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2020 Volume 53 Issue 1 Pages 91-97

Details
Abstract

肝門部領域胆管癌に対して行った手術の記録を提示する.本症例の腫瘍は上部胆管に位置し,背側を走行する右肝動脈に浸潤があるとの術前診断であった.本症例では外側区域のほとんどを占める巨大な血管腫が存在し,腫瘍の動脈浸潤範囲は前区域枝と後区域枝との分岐部をこえていたため,左三区域切除,動脈再建,胆道再建を施行した.動脈再建にあたっては郭清操作で右肝動脈の内膜剥離を認めたため,後上膵十二指腸動脈を分岐したあとの胃十二指腸動脈を用いて顕微鏡下に端々吻合で再建した.手術時間は10時間31分,出血量は2,400 gであった.肝胆道外科は特に立体的な空間認識力が必要な分野であると思われる.手術イラストには,臓器や組織の相対的位置関係の正確さを保ちつつ,省略と強調が必要である.術式に対する理解や認識力があって初めて簡明でリアルなイラストを描くことができ,読む人にわかりやすい手術記録を作成することができる.

はじめに

肝臓外科や胆道外科は特に立体的な空間認識力が必要な分野であると思われる.実質臓器を切離していくときに自分が3次元空間のどの位置を切離しているのか把握していなければ,温存するべき組織を損傷したり腫瘍を遺残したりしてしまいかねない.手術記録では脈管や臓器の立体関係を再現できるようなイラストを描くように心掛けている.今回,肝門部領域胆管癌に対して左三区域切除,動脈再建,胆道再建を行った手術の記録を提示する.

症例

肝門部領域胆管癌に対して左三区域切除,動脈再建,胆道再建を行った手術の記録である.本症例の腫瘍は上部胆管に位置し,その背側を走行する右肝動脈に浸潤があるとの術前診断であった.通常であれば右葉切除ないしは右三区域切除が選択されるであろうが,本症例では外側区域のほとんどを占める巨大な血管腫が存在したため,残肝容積率の関係から耐術不可能であると考えた.主腫瘍から軟部陰影が動脈周囲に進展しており,動脈浸潤範囲は前区域枝と後区域枝との分岐部をこえていると思われた.以上により,左三区域切除,動脈再建,胆道再建を予定術式として手術に臨んだ.動脈再建に関しては,肝外での後区域枝での再建は困難でおそらくは肝内後区域グリソン鞘内で胆管と後区域枝動脈を分離し,肝内グリソン鞘の位置で動脈再建が必要と思われた.

手術は予定通り施行された.胆管はB6とB7の合計3穴となった.胆管断端には腫瘍細胞は存在しなかった.また,動脈再建にあたっては郭清操作によって右肝動脈の内膜剥離を認めたため,後上膵十二指腸動脈を分岐したあとの胃十二指腸動脈(前上膵十二指腸動脈)を用いて,自然な血管走行とするために門脈の背側側面を通して顕微鏡下に端々吻合で再建した.動脈再建の手技はこれまで蓄積してきた我々の肝移植の技術が応用されている.手術時間は10時間31分,出血量は2,400 gであった.

本症例では再建可能な動脈断端が得られなければ手術が完遂できないため,どの段階で手術可能と判断したのかについて,また動脈浸潤範囲,動脈再建方法などについても留意して手術記録を記載した(Fig. 13).

Fig. 1 

The operative illustrations. Page 1 and 2 are shown.

Fig. 2 

The operative illustrations. Page 3 and 4 are shown.

Fig. 3 

The photos of the operation. The cover and text are added to the actual operative record.

考察

手術イラストとは

手術記録は誰のためのものであろうか.手術記録は診療録の一部であるため公的な意味が強いのはもちろんである.しかし,手術記録を作成する際には自分の手術を振り返ることが必要となる.術前の検査結果や手術計画と,実際に行った手術とを突き合わせてみて,この手術が自分の理想とどれくらい合致していたか,あるいは隔たっていたかに思いを馳せながら手術記録を作成しなければならない.術中には気づかなかった反省点もこの時に気づくことも多い.その意味で手術記録は自分のためでもある.

外科医は手術を映像で記憶しているため手術記録の中でも手術イラストが最も重要なパートと思われる.したがって,手術記録は記憶が鮮明な手術当日に作成するべきである.しかし,長時間の手術で疲労もあることから当日の作成は難しいことも多い.少なくとも術後2~3日以内に作成するべきであろう.手術イラストは上述のように外科医の本分に関わるものでありその制作に凝り出せばきりがない.しかしながら,多忙な日常の中で手術記録作成に時間をかけすぎるのも現実的ではない.本症例ではA4用紙4枚,1時間30分ほどで手術イラストを仕上げたが,通常はA4用紙1~3枚,1時間以内で手術イラストを完成させるようにしている.

用具について

紙は普通のA4コピー用紙を使用している.ただし再生紙などはペンが滲んだりするため避ける方がいいと思う.下書きには鉛筆を用いる.消しゴムで消すため4Bから6Bの柔らかい鉛筆を使用している.鉛筆で下書きをしたらペンで清書をする.後述するように色つけはアルコールマーカーを使用しているため耐水性ペンを用いている(Fig. 4A).コピックマルチライナー(株式会社トゥーマーカープロダクツ,東京)またはサクラクレパスピグマ(株式会社サクラクレパス,大阪)を使用し,よく使う線幅は0.05 mm,0.3 mm,および1 mmである.主に線画は0.3 mmで,影は0.05 mmで,矢印などは1 mmで描いている.これらの耐水性ペンは消しゴムの摩擦にも強くほとんどかすむことはなく有用である.カラーマーカーはコピックスケッチを使用している(Fig. 4B).色味はできるだけ淡い色を使用し,目立たないようにしている.コピックマーカーはアルコール染料を用いたマーカーであり通常のコピー紙では裏抜けするため下敷きは必須である(Fig. 4C).

Fig. 4 

Tools for drawing operative illustrations. (A) Water resistant pens. Their line width are 0.05 mm, 0.3 mm, and 1 mm. (B) Color markers. (C) Desk pad.

実際の例

本症例とは別の手術を例にして実際のイラスト作成作業を提示する.転移性肝癌に対する腹腔鏡下肝部分切除術を行った症例である.まず鉛筆で下書きをする(Fig. 5A).この時イラストとイラストとの配置にも配慮して下書きを行う.次に耐水性ペン0.3 mmで輪郭をトレースし鉛筆線を消しゴムで消す(Fig. 5B).次に影や模様を0.05 mmペンで描き足し立体感を出すようにする(Fig. 5C).これにカラーマーカーで色付けを行うが,時間の節約のために全面を塗りつぶさず境界面を中心に色付けを行っている(Fig. 5D).グレーは影を表現するのに有用であるため,色味を少し変えたグレーを複数本用意している.最後に説明文を書き加えて完成となる(Fig. 5E).所要時間は約20分であった.

Fig. 5 

The process of drawing operative illustrations for the other operation, laparoscopic partial hepatectomy. (A) The rough sketch was drawn by a pencil. (B) The line drawing was made by a water resistant pen, and the pencil line was erased. (C) Shadows and patterns were added by a fine line width pen to create a three-dimensional effect. (D) The illustrations were colored, and (E) figure legends were added to the illustrations.

イラストの描くうえでの留意点

手術イラストを描くうえで私が影響を受けているのは劇画と水墨画であると思っている.適宜それらの言葉を借りながら手術イラストを描くうえで留意している点を述べる.

手術イラストには,臓器や組織の相対的位置関係の正確さを保ちつつ,省略と強調が必要である.記録には正確さが求められるが,特に臓器の相対的な位置関係は重要である.ある動脈が胆管の腹側面を走行しているとか,腫瘍がどこまで脈管に交錯浸潤しているか,などの位置関係は特に胆道外科では重要である.むしろ臓器や組織の形や相対的な大きさはそれほど重要ではなく,省略や強調の対象となる.

それでは手術ビデオから代表的な場面を数点ピックアップして貼り付ければより正確な記録ができると思うかもしれないが,それは間違っていると考える.手術写真は外科医にとっても意外にわかりにくいものである.その大きな理由は,外科医が集中して操作をしている箇所にも手術操作に関係のない箇所にも等しく画像情報があるためである.ここに手術イラストで省略と強調が必要な意味がある.手術に重要な箇所を重点的に詳しくイラストで描き込んでいく一方で,それ以外の箇所は「余白」を多用し省略をしていく.水墨画では描かれていない画面の空白部分を余白と呼ぶが,余白は現実の描写の説明をあえて拒否することで描かれている部分と同等の絵画的意味を持つとされる1).劇画においても,省略は労力の節約だけでなく画面を見る人に対して理解しやすい画面を作る効果があるとされている2).逆に重要な箇所は,影をつけて前後関係を明らかにしたり,本来見えない箇所にある構造も点線などを用いて説明的なイラストを作成したり,色を多くつけたりするなど,しっかりと描き込んで強調をつけていく.また,1枚の用紙に複数のイラストを配置するが,横書きの文章と同じく最初のイラストを左上に配置し,後は眼で追いやすいようにジグザクに配置したり,番号を振ったり,矢印で誘導したりしている.

こうしてでき上がったイラストは写真のような正確なイラストではない.しかし,外科医が手術の局面をどのように認識して手術を行っているかが明確に現れてくるであろう3).局所解剖や術式に対する認識と理解があって初めて簡明でリアルなイラストを描くことができ,読む人にわかりやすい手術記録を作成することができると信じている.

利益相反:なし

文献
  • 1)  山田 玉雲.水墨画の基礎描法 新装第2版.東京:日貿出版社;2009. p. 74.
  • 2)  さいとう・たかを.さいとう・たかをの劇画専科 初等科コース.東京:リイド社;1980. p. 241
  • 3)  石井 隆道,海道 利実,上本 伸二.IV 肝臓の手術 肝右葉グラフト採取術(腹腔鏡補助下).消化器外科増刊号 新手術記録の書き方.2019. p. 767–772.
 

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