The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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SPECIAL REPORT
Significance of the Operation Record in the Practice of Heparobiliary-Pancreatic Surgery
Yosuke InoueYu Takahashi
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2020 Volume 53 Issue 10 Pages 835-843

Details
Abstract

手術記録は外科医にとって最も大切な業務の一つである.自身の手術のポイント,こだわり,発見を客観的に表現し,シェーマに表現する.Drawing技術の巧い下手はあるかもしれないが,実際の手術の場面,操作の機微を客観的に表現するためには,手術や解剖に対する真の理解が必要である.本稿では,膵癌に対する膵頭十二指腸切除の手術記事を取り上げ,その作成のポイントにつき解説する.

はじめに

外科医にとって手術はライフワークであり,手術記録は重要なツールである.手術所見・手順・手技の正確な記録とともに,日々の技術の反省・自己評価を繰り返して自身の手術を高めていく.同時に,日進月歩で進歩する技術やデバイスを習得して自身のskillをupdateしていく必要がある.自身の手術のポイント,こだわり,発見を客観的に表現し,シェーマに表現する.Drawing技術の巧い下手はあるかもしれないが,実際の手術の場面,操作の機微を客観的に表現するためには,技術と解剖に対する真の理解が必要である.本稿では,膵頭十二指腸切除術の手術記事を取り上げ,その作成のポイントにつき解説する.

方法

1. 術前

Dynamic CTを丹念に観察し,脈管構造および病変の進展範囲をシェーマに描き,手術プランの予想図を作成しておく.

2. 術中

意識としては,“答え合わせ”である.術前にイメージした解剖,病変の進展の仕方が本当に正しかったかを,1か所1か所確認しながら行程を進めていく.理想は全ての解剖,切除がイメージ通りであることである.その場合,術者の手が止まることは一切なく,最短の手順と出血量で手術は完遂される.

術中写真を要所要所撮影する.当院では耐水性のハウジングを滅菌し,デジタルカメラにかぶせて清潔野で手術メンバー自ら至近距離で撮影している.綺麗な写真が撮影可能である.

初めての操作や,解剖学的構造に出会った場合は,それを三次元的に頭の中で咀嚼しながら記憶し,後にその再現を手術記録で行うことになる.

3. 術後

手術記事は,必ずその日のうちに描き上げる.夜中に手術が終わった場合でも,シェーマだけは必ず描く.当院は週に2回のカンファレンスで術後報告を行う必要もあり,数日手術記事を寝かせておくことはありえない.書き出しが遅くなればなるほど,かかる時間と労力に対するシェーマのクォリティは低くなってしまう.どんなに疲れていても,手術室の片隅で帰室待ちのうちにシェーマの線画は描いてしまう.iPadを使うようになって,これが容易に可能となった.

4. シェーマ作成

手書き:普通紙(白色)に,0.3~0.5 mmの水性ボールペン(ZEBRA SARASAなど)などで線画を行う.鉛筆での下書きは行っていない.気に入らなければ新たに描き直す.色づけは,24色の色鉛筆(トンボ)を用いる.線は全て黒で統一し,太さで強弱をつけている.続いて構造物が立体的に見え,前後関係がわかるように色を塗る.動脈はそのツヤまで表現する.構造物の種類によって配色は統一している.動脈:朱色,門脈:青,肝静脈や下大静脈:水色,胆道系:黄緑……といった具合である.シェーマ自体に文字や矢印は書き込まず,のちのPowerPoint上で注釈をつける.完成したシェーマは,スキャナーでJPEGとして取り込み保存する.詳しくは,拙著も参照されたい1)

iPad:2019年より使用している.iPad pro 11インチを使用し,画面の保護フィルムを「書き味向上ペーパーライク」といった種別のものを貼付している.イラスト作成ソフトは「Procreate」を使用している.これらのツールにより,手書きとほぼ同等の書き味に加えて,図の自由自在な拡大縮小・回転,線の強弱,タッチ,配色,修正と無限の調整が可能となる.前述の通り,iPadとApple Pencilがあればいつでもどこでもシェーマ作成が可能である点が優れており,再建行程など,ほぼ同一のシェーマであれば細部を修正するだけで使い回ることも容易で,作成時間の短縮にも貢献する.一度使用すると紙手書きには戻れなくなる便利さとクォリティである.

5. PowerPointでの手術記事作成

作成したシェーマ,および術中写真をPowerPoint上に配置し,注釈や矢印などを入れてさらに情報量を加えている.各スライドをJPEGなどで写真として保存し,Wordで作成した本文中に配置していけば手術記事は完成である.

症例

浸潤性膵管癌に対する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)を取り上げる.本症例は61歳の男性で,切除可能境界(上腸間膜動脈(以下,SMAと略記)に対するBR-A(膵癌取扱い規約第7版))膵癌として当院に紹介された.術前精査で,右肺に転移を疑う結節を指摘され,UR-M(膵癌取扱い規約第7版)の扱いで化学療法の方針となったが,腫瘍浸潤に伴って十二指腸狭窄も生じており,安定した化学療法のために胃空腸バイパス術を施行している(梶谷式).その後8か月のGEM+nab-paclitaxel療法が奏効,肺結節が消失し,conversion surgeryとなった.主病変も縮小が得られていたが,SMA周囲の軟部陰影は消失せず,切除の際はSMA周囲神経叢(以下,PL-SMAと略記)の半周郭清を含む,いわゆるLevel-3郭清を行う必要があると判断した2)~4).しかし,本症例が特殊かつ本稿で取り上げる理由となった点は,空腸静脈の取り扱いである.B-II式に挙上しているループは第2空腸動脈(jejunal artery 2;JA2)の支配域にあたり,その排血路は太いjejunal venous trunk(以下,JVTと略記)5)であった(Fig. 2参照).上腸間膜静脈(以下,SMVと略記)からJVTの根部にかけても一部腫瘍からの軟部陰影は及んでおり,この根部が残せないと胃への挙上空腸の排血路は辺縁静脈だけとなる.しかし,膵・胆管空腸吻合にもループを届かせるとなると辺縁動静脈を切らねばならぬ可能性もあり,その際は胃への挙上ループがうっ血壊死に至る可能性が高いと予想した.したがって,術前プランとしては①JVT根部の癌浸潤がなければ温存し,排血路を確保,②JVT根部をsacrificeせざるをえない場合は,JVTの再建を試みる,③JVT再建が技術的に困難≒胃への挙上ループがうっ血著明となる場合は,うっ血ループは全てsacrificeし,うっ血のない領域で膵空腸/胆管空腸+胃空腸再吻合,の3通りを想定した.

以上,踏まえて手術に臨み,最終的に①のプランで完了し,手術記録を作成した.作成に要した時間は4時間ほどであった.行程のポイントなった部分を重点的に抜粋する.日常の手術記事の転載であるため,略語は以下の如くである.

ICV/A: ileo-colic vein/artery

MCArt: middle colic artery right branch

RCA: right colic artery

MCV: middle colic vein

IPDA: inferior pancreatoduodenal artery

CHA: common hepatic artery

GDA: gastroduodenal artery

CBD: common bile duct

PV: portal vein

①手術開始

上中腹部に20 cm長の正中切開を置き~(略)

②Kocherization~16b1int wide sampling

Kocherから右結腸を後腹膜より授動~(略)

③Mesenteric approach(Fig. 1

Fig. 1 

Illustration of dissection around the superior mesenteric artery (SMA). Based on preoperative imaging findings and intraoperative findings, anatomy and dissection extent of relevant vasculatures is depicted. If the nerve plexus around the SMA was dissected, the location and extent of dissection should be documented. In this case, the nerve plexus around the SMA was hemi-circumferentially resected at the length of 4 cm. The mesocolon and arcade vessels were co-resected around the cancer invasion. As for the drainage vein of the jejunal-loop anastomosed to the stomach in previous bypass procedure, the origin of the jejunal venous trunk could be preserved and we judged division of the mesojejunum as safely feasible.

続いて,mesenteryの裏にタオルを置いて高くし,腸間膜全体を平面化して,主要浸潤部の1.5 cm尾側から,十二指腸起始部に向けて,腸間膜を横切開し,SMV,SMAの末梢を露出.ICV+iliac Vの合流部をtaping.ICAを同定露出.そのままSMAに沿って剥離を進め,MCArtを根部でtaping→本幹を温存.RCAはMCA途中より分岐し,膵頭部で巻き込まれていたため,segmentalに結紮・切除.温存した.さらに,膵頭部に結腸間膜をつけてcoring outし,MCAはアーケード手前から全長剥離して,温存.MCVもある程度剥離しておいた.続いて,胃結腸間膜の剥離を行い,盲囊を解放.先のcoring out部につなげ,横行結腸を尾側に展開して,結腸上前方アプローチの視野に戻して剥離を続けた.

④SMA周囲郭清(Fig. 1

MCAをlandmarkにSMAに達し,PL-SMAを10時方向から分け入り,腫瘍浸潤が疑われる範囲の神経叢を4時まで半周剥離しつつ,SMAの根部に向かった.PL-SMAは板状に硬かった.腫瘍から離れたレベルはPL-SMA全周温存とした.膵頸部をPD鈎で牽引し,視野を作った.単独分岐のIPDAを2重結紮処理.さらにJ1,J2 arteryを2重結紮処理.太いJ vein trunkがSMA背面を走行しており,これが温存できないと,胃空腸挙上空腸の排血路がなくなってしまうことが懸念されていた.JVTの前面を十分にSMAから剥離し,SMA hanging法にて,左右の剥離層をつなげた.

⑤SMA左側郭清(Fig. 1

まず,視野をよくするために,Treitzから出てくる近位空腸を,胃への挙上空腸への吻合部で離断.この近位ループはほぼJA1-2領域に一致していたため,これを切除範囲と定めた.先のhanging tape pointからSMA左側の郭清を行い,PL-SMA左側は全て温存した.Treitz靱帯は形状を保ったまま,SMA左側から剥離し,SMA根部付近レベルで離断した.さらに,JVTからJA1-2領域に向かう枝を結紮切離.すると視野が良くなり,JVT本幹は首を長く剥離可能となった.最終的にilial veinと合流したSMV本幹での切離が可能そうであった.→胃空腸吻合および挙上ループはそのまま使用可能と判断した.

切除測空腸を右側に脱転し,さらに良好な視野でSMA右側の剥離を根部まで行った.浸潤がないレベルのPL-SMAは全周温存.

★手術記事記載のポイント

SMA周囲処理の行程の手術記載で重要なのは,

1)アプローチをどの方向から,どの手順で行ったか

→本症例では,mesenteric approachから途中,結腸上前方アプローチに転換した.

2)結腸間膜の合併切除をしたか

→腫瘍浸潤部を合併切除した.

3)SMAのどの枝をどの順番で,処理したか

→MCA左枝,右枝,IPDA,JA1,2を処理した.

4)SMA周囲神経叢(PL-SMA)の郭清の有無と,どの範囲を郭清したのか

→腫瘍周囲で10-4時方向のPL-SMAを郭清した.

5)SMVの枝,特にJVTをどういった処理をしたのか

→JVTの根部は剥離温存した.Henle胃結腸幹は合併切除

6)その他,合併切除した臓器はないか?

→結腸間膜浸潤部切除の影響で右結腸の合併切除を追加した.

以上をはっきりを明記し,図にも対応するように描写する.必ずしも実写風景の写生である必要はなく,一つの図になるべく多くの情報を過不足なく盛り込むことが重要と考えている.また,イレギュラーな出血が生じた場合は,その原因・出方の詳細・対処の仕方と反省点も記載する.

⑥胃切離~CHA郭清~GDA taping(Fig. 2

Fig. 2 

Divisions of relevant organs. We describe dissection of hepatic hilum, stomach division, pancreas division, and right hemi-colectomy in one picture.

ENBDを抜去ののち,大網小網をそれぞれ処理し~(略)

⑦肝門郭清(Fig. 2

続いてnormogradeに胆摘.CBDは15 mmで~(略)

⑧膵頭神経叢⇒I部切離⇒標本摘出(Fig. 3

Fig. 3 

Resection and reconstruction of the superior mesenteric vein (SMV). We describe details of the resection and reconstruction procedure of the SMV. Way of clamping, reconstruction method, and suturing method are depicted.

膵頭神経叢I部を切離し,膵頭部がSMA,celiac axisから外れ,SMVのみで標本がつながっている状態となった.SMAをクランプし,SMVを浸潤部の上下で血管鉗子でクランプの後,3 cm長に切離し,標本を摘出した.

⑨SMV再建(Fig. 3

SMV再建は端端吻合で,tension freeでの吻合が可能であった.

・SMVの正中線をピオクタニンでマーキングしてある.

・SMV末梢とSMV中枢を左右2点支持のもと,5-0 proleneの連続縫合で吻合.後壁はintraluminal法.12 mmのgrowth factorを置いた.

再建後,USで肝内血流の問題ないことを確認した.

止血を確認しながら,生食1,000 ccで腹腔内を洗浄.

USで肝内血流も問題なし.

★手術記事記載のポイント

門脈合併切除・再建行程記載時の留意点は

1)門脈系のどの範囲を何cm切除したのか

→SP junction尾側のSMVを3 cm長に合併切除

2)クランプの仕方

→浸潤部上下で血管鉗子でクランプ.先行してSMAも遮断

3)再建の仕方,使用した糸,growth factor有無

→端端吻合,intraluminal法にて,5-0 proleneを使用.12 mm長のgrowth factorを置いた.

以上を,過不足なく記載することである.

⑩再建(Fig. 4

Fig. 4 

Gastrointestinal reconstruction. Details of each reconstruction part and materials used were described. The location and way of drain insertion was precisely depicted.

再建は以下の順序で行った.

i)挙上空腸は,横行結腸間膜右側に作成した孔から頭側に導入.空腸盲端より,10 Fr栄養チューブを挿入,腸瘻とした.

ii)胆管空腸吻合は,後壁5-0 Maxonにて,後壁結節14針,前壁は連続.後壁中央に4-0 rapide バイクリルをかけ,固定糸とし,2.5 mm胆管tubeをB-postに挿入留置.吻合部airleak testで問題なし.

iii)膵管空腸粘膜吻合は,6-0 PDS 8針.後壁中央の糸で4-6膵管tubeを固定.膵空腸密着は柿田×2針.

iv)Double Roux-en-YのY脚吻合は,4-0PDS+4-0バイクリルのAlbert-Lembert.

⑪閉腹(Fig. 4

腹腔内をのべ温蒸留水,生食6,000 ccで洗浄し,止血を確認.Winslowに8 mmソフトプリーツを挿入.腸瘻,挙上空腸は左腹壁に固定し,tubeを導出した.層々に閉腹し,手術を終了した.

⑫標本写真・固定の詳細を記載6)Fig. 5

Fig. 5 

Resected specimen. Pictures of specimen just resected and fixed to the board using 3-D fixation method of the pancreatoduodenum6). By this method, we reproduce the in-situ position of the pancreatoduodenum, and it facilitates precise pathological evaluation of the margin clearance and extent of perineural invasion.

★手術記事記載のポイント

再建行程は定型化された行程であり,さほどバリエーションは生じないが,使用した糸,本数,結節/連続の別,空腸の挙上の仕方などを記載している.また,重要なのは,チューブ・ドレーンの配置と体外への導出の仕方を正確に記載しておくことである.再手術や,術後ドレーンの入れ替えなどが必要となった際に役に立つことがある.

考察

何のために手術記録を書くのか? 第一に,自身の行った医療行為を客観的かつ詳細に公式文書として残すためである.第二にご紹介元の医療機関に,正確な治療内容を報告するため,もしくは患者が再度腹部手術を行う場合に,既往としての手術内容を詳細に把握できるようにするためである.上記二つの目的だけであれば,手術記録は単純な記録業務であるが,第三の目的:自己研鑽が外科医にとっては最も重要かもしれない.外科医が成長するにおいて,手術内容を詳細に思い出しながら描き起こす行程は,その場面を克明に脳裏に焼き付けることになる.と同時に違うパターンの解剖だったらどうか,腫瘍の浸潤がより広範囲だったらどんな切離ラインになったか,と考察する時間にもなる.こういった試行錯誤と自己表現の作業は,特に若い外科医の成長曲線を大いに上昇させる.もちろん人一倍手術件数を稼いで“慣れる”ことでも手術は巧くなるが,それはパターン認識作業の要素が強く,裏も表もわかっている状態になるまでには人一倍の件数を要する.手術の件数は限られている.効率的に手術を巧くなる最大のポイントは,手術をしていない時間の過ごし方であり,数少ない執刀のチャンスでいかに多くの学びを得るか,その鍵は日々の手術記録と自己反省,次の手術へ向けての考察にある.しかし,同時に,手術記録をきれいに書き上げることで満足してはいけない.手術記事は自己研鑽の目的ではなく,あくまでツールなのである.限られた時間の中でシンプルかつ情報量多く,見やすい手術記事を書ける人は例外なく手術が巧い.実際の手術場面においても,脈管構造や剥離層の把握が的確かつ,手術の流れに淀みや迷いがないため,綺麗かつ早い手術ができるからである.これは私が20年間の外科医人生の中で学んだ真理であると考える.

利益相反:なし

文献
 

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