2020 Volume 53 Issue 10 Pages en10-
10月も半ばとなり,朝晩の肌寒さがいっそう感じられるようになりました.もう一月も過ぎますと,京都は一年で最も美しく色づく紅葉の時期を迎えます.天も地も,この世のものとは思えぬほどの紅に覆われた真如堂の眩しさ.磨かれた漆黒の中に,淡い紅がやさしく浮かび上がる岩倉実相院の床もみじ.苔に映える大原三千院の,時を忘れさせるような緑赤黄のハーモニー.思い描くだけで,郷愁の波に心が揺さ振られます.例年,数えきれないほどの外国人観光客で賑わっていたことが,今は只々,何故か遠い日のことのように思い出されます.日常が日常でなくなるような現実に,人類の想像の域を遥かに超えた自然界の力を思い知らされたような気がいたします.
Web会議にオンライン授業,学会に向けての音声付きスライドの作成など,慣れないことのオンパレードに,最初は付いていくのが精一杯の日々でした.しかし時間が経ってふと考えてみると,思いもよらず便利な点が多いことや,慣習的に行ってきたことの中にも改善すべき点があることに気付かされます.世界の歴史や医学の進歩を振り返ってみましても,危機的状況が発展を推し進めたケースが多々見受けられ,改めて人類のたくましさを実感いたします.ピンチをチャンスに変える発想のもと,Web化やIT活用がもたらす働き方改革の推進,延いては若手消化器外科医の新たな確保や育成に繋がるような,コロナ後の消化器外科の明るい未来に,思いを馳せる毎日です.
さて,第53巻10号の掲載論文は,原著1編,総説1編,症例報告6編,臨床経験1編の計9編です.加えて第74回日本消化器外科学会総会特別企画「オペレコを極める」の原稿2編も掲載されています.いずれも興味深い内容のものばかりですが,今月の一押し論文には,髙𣘺一哉先生の「腺扁平上皮癌と低分化型腺癌の同時多発胃癌1切除例」を選ばせていただきました.胃原発腺扁平上皮癌は胃癌全体の約0.2~0.6%に認められますが,腺扁平上皮癌を含む多発胃癌の報告例は極めて少なく,本邦での報告は3例目になります.今回経験された症例における組織発生メカニズムや,胃原発腺扁平上皮癌におけるリンパ節転移巣における組織像の特徴,手術や化学療法の治療効果や予後について,学術的意義の高い考察がなされており,非常に興味深い内容となっています.ぜひ,ご一読ください.
(塩﨑 敦)
2020年10月15日