The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Delayed Penetration of the Esophagus after Mesh Repair for Esophageal Hiatal Hernia Treated with Double Tract Reconstruction
Ryohei AndoYusuke TaniyamaToshiaki FukutomiHiroshi OkamotoKai TakayaChiaki SatohTakashi Kamei
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2020 Volume 53 Issue 11 Pages 855-861

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Abstract

症例は80歳の女性で,前医にて食道裂孔ヘルニアに対し,腹腔鏡下Toupet手術およびメッシュ補強術を施行された.術後に食道胃接合部の狭窄が出現し,バルーン拡張術を繰り返したが,その後の上部消化管内視鏡検査にて腹部食道内腔へのメッシュ貫入・内腔狭窄を認めた.治療目的に当科紹介,手術施行となった.開腹すると食道裂孔周囲は強固に瘢痕化し,メッシュが食道右側を貫通していた.メッシュを横隔膜から剥離し,下部食道から胃噴門側を切除することで病変部を切除した.再建はdouble-tract法にて行い,開大した食道裂孔は残胃を用いて被覆した.食道裂孔ヘルニアにおけるメッシュの使用は,狭窄や穿孔などの合併症が報告されている.今回,我々は食道穿孔症例に対して下部食道・噴門側胃切除,double-tract再建を行った.本術式は瘢痕部での吻合を避けられ,残胃にて食道裂孔を閉鎖することもでき,有用である.

Translated Abstract

An 80-year-old woman underwent laparoscopic Toupet fundoplication and mesh repair for esophageal hiatal hernia. Stenosis of the esophagogastric junction appeared postoperatively, and balloon dilatation was repeated. Subsequent upper gastrointestinal endoscopy revealed mesh penetration into the abdominal esophageal lumen. The patient was referred to our department for treatment and surgery was performed. The area around the hiatus of the esophagus was tightly scarred, and the mesh penetrated the right side of the esophagus. The mesh was removed from the diaphragm, and the penetrated lesion was excised including the gastric cardia side and the lower esophagus. Reconstruction was performed using the double-tract method, and the dilated esophageal hiatus was covered with the remnant stomach. The use of mesh in esophageal hiatal hernia has been reported to lead to complications, such as stenosis and penetration. In this case, we performed lower esophagectomy and proximal gastrectomy with double-tract reconstruction for esophageal penetration. This technique is useful because it avoids anastomosis at the scar lesion of the esophagus and can allow closure of the esophageal hiatus with the remnant stomach.

はじめに

食道裂孔ヘルニアの手術では,NissenやToupetなどの逆流防止術と同時に食道裂孔の縫縮が必須である.また,裂孔が巨大で横隔膜脚が脆弱な症例に対しては,近年補強目的にメッシュが用いられている1)2).しかし,その安全性はいまだ確立されておらず,特に食道狭窄・損傷などのメッシュ使用に伴う合併症の報告があり,その場合の対応策は十分に議論されていない3).今回,我々は食道裂孔ヘルニア術後メッシュによる食道穿孔を来した症例に対して,下部食道・噴門側胃切除術,double-tract再建を行い良好な経過を経たため,若干の考察を加え報告する.

症例

症例:81歳,女性

主訴:嘔吐.

生活歴:喫煙,飲酒なし.

既往歴:狭心症に対し,ホスホジエステラーゼ5阻害薬を内服している.総胆管結石症に対し,前医にて内視鏡的乳頭バルーン拡張が施行された.

家族歴:特記すべきものなし.

現病歴:2016年11月に,前医にて食道穿孔ヘルニアに対し,腹腔鏡下Toupet手術を施行された.その際に食道裂孔の開大と横隔膜脚の菲薄化を認めたため,3-0Prolene糸による横隔膜の縫縮ならびに,食道を全周性に覆うようにコンポジットメッシュによる補強術が付加されていた.術後14日目から嚥下困難感が出現し,上部消化管内視鏡検査にて食道胃接合部の狭窄を認めた.バルーンを用いた内視鏡的拡張術を3回行い,経口摂取が可能となり退院となった.2017年8月,嘔吐の訴えがあったため上部消化管内視鏡検査を施行したところ腹部食道内腔にメッシュが認められ,内腔が狭窄している所見であった.前医では対応困難であったため,治療目的に当科紹介となった.

現症:身長139.6 cm,体重40.2 kg,軽度の亀背を認めた.体温は36°C台.腹部平坦,軟.圧痛などの所見を認めなかった.

入院時検査所見:Hb 11.2 g/dlと軽度の貧血を認めた.WBC 5,100/μl,CRP 0.1 mg/dlと炎症所見を認めなかった.呼吸機能検査では,呼吸障害を認めなかった.

上部消化管内視鏡検査所見:食道胃接合部内腔にメッシュが陥入している所見を認めた.内腔が狭小化し,scopeの胃内への通過は不能であった(Fig. 1).

Fig. 1 

Upper gastrointestinal endoscopy showed penetration of the mesh into the esophageal lumen (arrowhead).

胸腹部CT所見:造影CTでは,噴門部の著明な壁肥厚および内腔の狭小化,周囲に微小なfree airを認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal CT scan findings showed esophageal wall thickening and a small amount of intraperitoneal free air (arrowhead).

以上より,食道裂孔ヘルニア修復で使用したメッシュによる食道穿孔の診断となった.当院転院時は,炎症反応は軽微であったものの,今後消化液の漏出による縦隔炎や膿瘍形成を発症する可能性が高いと判断し,準緊急的に外科的治療を行う方針となった.

手術所見:開腹すると,噴門部右側に著明な線維性変化を認め,小網,横隔膜右脚,および食道右側は境界が不明瞭な状態であったため,メッシュごと病変部を切除することとした.

網囊を開放し,左胃大網動静脈を結紮切離し,胃脾間膜を切離した.また,左胃動静脈を結紮切離し,小網を肝付着部にて切開した.噴門部大彎ではToupet手術での逆流防止弁とメッシュは中等度に癒着しており,食道右側でメッシュが壁を貫通している所見を認めた(Fig. 3a).メッシュと横隔膜の強固な癒着を剥離し,メッシュより口側で,腹部食道を全周性に明らかにした.腹部食道は,特に右側で線維性変化を呈しており,健常部の食道と吻合を行うために可及的に口側まで食道壁周囲を剥離した(Fig. 4a).その際に,左側の横隔膜および胸膜を一部切開し視野を確保した.下部食道・噴門側胃切除を行い,メッシュごと病変部を切除した.切離した食道に21 mmのアンビルヘッドを挿入し,左開胸部の胸膜を縫合閉鎖した.

Fig. 3 

a–b: Operative schema. In the first operation, laparoscopic Toupet fundoplication and mesh reinforcement were performed. During the reoperation, the check valve and the mesh were moderately attached, and the mesh penetrated the wall on the right side of the esophagus (a). Proximal gastorectomy and double tract reconstruction were performed. The giant esophageal hiatus was covered with the gastric remnant and filled with omentum (b).

Fig. 4 

a–c: Operative findings. The mesh penetrated the esophageal wall. We performed lower esophagectomy and proximal gastrectomy (a). We rebuilt using the double-tract method and covered the esophageal hiatus with the gastric remnant (b). The isolated specimen showed that the mesh penetrated from the right wall of the esophagus (c).

再建はdouble-tract法で行った.Treitz靭帯より30 cm肛門側の空腸を切離し,EEAを用いて,食道空腸吻合を行った.残胃空腸吻合をendoGIA 60 mmを用いて側々吻合にて行った.残胃の上部を裂孔背側から左側を回すように固定して,食道裂孔を被覆した(Fig. 4b).また,大網を用いて裂孔腹側から右側を被覆し,Y吻合を手縫い層々吻合にて作成した(Fig. 3b).Petersen孔を閉鎖し,食道空腸吻合部にドレーンを挿入した.先端部が食道空腸吻合部を越えるように経鼻胃管を留置し,閉創した.摘出した標本では,食道右壁をメッシュが貫通し穿孔している状態であった(Fig. 4c).

術後経過:第7病日に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,食道空腸吻合部に縫合不全を認めたが,保存的に改善した.第21病日に瘻孔閉鎖を確認し,経口摂取を開始した.第40病日に退院となった.術後2年が経過し,フォローアップの胸腹部CTでは食道裂孔ヘルニアの再発を認めていない.

考察

食道裂孔ヘルニアに対する手術として,従来はヘルニア門の単純閉鎖が行われていたが,縫縮部が脆弱となり再発した報告が散見される4)~6).Championら1)は5 cmを超える巨大なヘルニア門を有する症例では,メッシュ補強が有効であると報告し,Oelschlagerら7)は,多施設無作為介入臨床試験にて,ヘルニア門の単純閉鎖のみよりもメッシュによる補強を付加したほうが,術後6か月以内の再発率が有意に低いことを示した.Müller-Stichら2)は,腹腔鏡下噴門形成術においてもメッシュ補強を付加したほうが,再発率が低かったと報告している.このような報告もあり,近年ではヘルニア門をメッシュで補強する方法が用いられるようになってきた.

しかし,一方で,動物実験においては,Jansenら8)はウサギに対してメッシュ補強を施行し,下部食道の機能障害および,病理学的変化が起きたことを報告している.ウサギの横隔膜脚の腹側に,食道腹側から3 mm離すように2 cm径のメッシュを展開し,3か月後観察を行うと,全てのウサギにおいて下部食道の蠕動低下および狭窄を認めた.16羽のうち11羽のウサギにおいて,食道内へのメッシュの貫入を認めている.実臨床においても,メッシュの使用による有害事象が報告されており,食道穿孔や狭窄などの重篤な合併症も知られている.Stadlhuberら3)は,メッシュを用いた修復術を施行され,合併症を生じた28例について報告しているが,そのうち食道穿孔例は17例,食道狭窄および線維化は11例に生じていた.合併症例のうち7例が下部食道切除を施行され,2例が胃部分切除術,1例が胃全摘術を施行されていた.また,23例がメッシュ抜去を要した.

このように,メッシュによるヘルニア門の補強は,機械的原因による食道狭窄・穿孔といったリスクを伴う場合がある.本症例でも,食道胃接合部に狭窄を生じており,メッシュが狭窄の原因と考えられた.また,それに加えて狭窄部に対する複数回の内視鏡的拡張術は,食道壁の脆弱化を増長させたと考えられ,遅発性穿孔を来した要因の一つと考えられる.メッシュの使用による合併症を回避するため,食道からメッシュを離して固定するなどの手段が提唱されている9).しかし,それらの工夫を行った場合でも合併症を完全に予防することは困難である.食道裂孔ヘルニアの手術において,裂孔が巨大で横隔膜が脆弱な症例では,ヘルニア門の単純閉鎖のみでは再発が懸念されるためメッシュによる補強を付加するべきだと考えられるが,メッシュの使用による合併症の予防策,また,その対応策を知っておく必要がある.狭窄や穿孔を来す部位やその程度により要する術式はさまざまではあるが,対応策の要点としては,1)狭窄・穿孔部を含む消化管の切除・吻合,2)巨大裂孔の再閉鎖・補強,および 3)感染の制御 である.特にメッシュを用いた修復術を要するような症例では概して裂孔が巨大で横隔膜脚が脆弱であるため,ヘルニア防止の観点からメッシュ抜去後の巨大裂孔の再閉鎖・補強が問題となる.

今回,我々はメッシュによる食道穿孔症例に対して,下記の理由から下部食道・噴門側胃切除+double-tract再建を選択した.その際の留意点を合わせて以下に記す.

1)狭窄・穿孔部を含む消化管の切除・吻合

メッシュは食道右壁を貫通し,横隔膜脚と強固に癒着し,食道は線維性変化が顕著であった.メッシュを抜去し,線維性瘢痕部での吻合を避けるため,下部食道を切除する必要があった.また,これにより吻合部は縦隔内になるため,食道胃吻合は難治性逆流性食道炎を引き起こす可能性が懸念されたため,我々は食道空腸吻合を選択した.

2)巨大裂孔の再閉鎖・補強

巨大裂孔を閉鎖するにあたり,横隔膜脚などの組織は瘢痕化していることから直接縫合による閉鎖は困難と考えられた.また,人工物を用いることは感染には不適切であることから,今回は生体組織である胃を閉鎖・補強に用いることとした.通常残胃は迷走神経の切離による排出遅延を来すため大きく作成しないが,今回は亜全胃管を作成するように胃を切離した.Double-tract法にて再建する際には,やや幽門側で残胃空腸吻合を行うことで残胃の余剰部を用いて裂孔の被覆を行うことが可能であった.

3)感染の制御

感染部に大網を留置することを考えて,大網は大きく残して残胃に付着させておいた.残胃を食道裂孔の補強に用いると,大網を感染部位や縦隔内,さらには食道空腸吻合部周囲に留置することが可能であり,感染への対策をとることが可能であった.本症例では食道空腸吻合部の縫合不全を認めたが,この対策が効を奏したのか重症化することなく保存的に改善した.

これらの点から,下部食道・噴門側胃切除およびdouble-tract再建はメッシュによる食道穿孔例に対し,有効であると考えられた.今後,メッシュを用いた食道裂孔ヘルニア修復術は増加すると考えられ,食道狭窄・穿孔例に対しては本術式および再建法が一つの選択肢となりうると考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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