2020 Volume 53 Issue 11 Pages 908-915
症例は73歳の男性で,原発性十二指腸癌(T3N1M0 Stage IIIA)に対して前医で十二指腸空腸部分切除術を施行された.術後9か月のCTにて下部直腸の右腹側に腫瘤を指摘され,3か月後の検査でも増大傾向であったため,十二指腸癌術後再発が疑われ,精査加療目的に当院に紹介受診した.当院で追加したPETでもFDGの集積を認め,十二指腸癌の再発が強く疑われたが,単発であったことから切除可能と判断し,腹腔鏡補助下低位前方切除術(D3郭清)を施行した.病理組織学的検査では,十二指腸癌の直腸転移という診断であった.十二指腸癌の他臓器転移は非常にまれであることから標準化された治療方針はない.単発であった場合に外科切除は選択の一つとして許容できるものと考えられた.
A 73-year-old man with duodenal cancer underwent duodenojejunal segmental resection at a previous hospital. Abdominal CT performed 9 months after surgery showed an enhanced tumor in the right front wall of the lower rectum. Subsequent CT revealed that the tumor was growing gradually. Peritoneal disseminated recurrence from duodenal cancer was suspected and the patient was referred to our hospital for further examination and treatment. On FDG/PET-CT, the recurrence site was limited to a solitary peritoneal dissemination and was deemed resectable. The patient underwent laparoscopic low anterior resection, including resection of the peritoneal dissemination. Histopathological findings showed that the resected tumor was consistent with metastasis from duodenal cancer. Rectal metastasis of duodenal carcinoma is very rare and there is no established treatment. Resection may be an option in treatment for limited metastases from duodenal cancer.
乳頭部癌を除く原発性十二指腸癌は,消化管原発悪性腫瘍の0.12~0.3%と発生頻度が低く,治療方針や手術術式が確立していないのが現状である1).今回,我々は原発性十二指腸癌根治切除後の孤立性直腸転移に対して腹腔鏡下に切除しえた症例を経験したため報告する.
患者:73歳,男性
現病歴:前医で十二指腸水平部の原発性十二指腸癌に対して,十二指腸空腸部分切除術が施行された.術後診断はT3N1M0 Stage IIIAであった.縫合不全による膿瘍形成のため,術後16日目に再開復・洗浄ドレナージ術を要し,術後53日目に退院となった.
術後9か月目の胸腹骨盤部造影CTにて下部直腸の右前側に腫瘤を指摘された.3か月後の再検査でも3 cm大と増大傾向であり,腫瘍マーカーの上昇も認めたため十二指腸癌術後の播種再発が疑われ,精査加療目的に当院に紹介受診した.
既往歴:虫垂炎(術後),脊柱管狭窄症
家族歴:特記事項なし.
血液生化学検査所見(当院初診時):CEA 8.0 ng/mlと軽度上昇を認めた.CA 19-9は正常範囲内であった.その他特記すべき異常値は認めなかった.
腹骨盤部造影CT所見:直腸右腹側に辺縁中心に造影効果のある腫瘤を認め,3か月で15 mm大から35 mm大と増大傾向であり,播種が疑われた.腫瘤は直腸を圧排浸潤しており,さらに,右精囊への浸潤も疑われた.その他,明らかなリンパ節転移・腹膜播種・遠隔転移は認めなかった(Fig. 1).
(a) Abdominal CT performed 9 months after surgery showed an enhanced tumor of 1.5 cm in diameter in the right front of the lower rectum. (b) Subsequent CT revealed that the tumor had grown to 3.5 cm in diameter and had invaded or was touching the rectum and seminal vesicles. Peritoneal disseminated recurrence from duodenal carcinoma was suspected.
骨盤部MRI所見:直腸右腹側に40 mm大の腫瘤を認め,内部はT1強調画像では均一な中間信号を呈し,T2強調画像では不均一に低信号と高信号が混在していた.播種が疑われ,直腸への浸潤が疑われた.精囊と接しており,癒着や浸潤が示唆された(Fig. 2).
Pelvic T2WI MRI showed a tumor of 4.0 cm in diameter with heterogenous intensity adjacent to the rectum and seminal vesicles (arrowhead).
全身PET-CT所見:直腸右腹側に35 mm大の腫瘤を認め,高度の集積(SUVmax:12.42)を伴っており播種が疑われた.その他,再発・転移を示唆する異常集積は認めなかった.
下部消化管内視鏡検査所見:直腸Ra~RbにかけてSMT様の4 cm大の腫瘤を認めた.腫瘍下縁は肛門縁より8 cmに位置し,粘膜面は正常であった(Fig. 3).
Colonoscopy revealed a submucosal tumor in the rectum about 8 cm from the anal verge (arrowheads).
手術所見:腹腔鏡下に手術を開始し,前回手術の癒着を可及的に剥離後に,腹腔内を観察するも腹水はなく,腹膜翻転部に明らかな播種性病変を認めなかった.腹膜翻転部を切開すると直腸右腹側に既知の腫瘍が同定され,右精囊への浸潤が示唆されたため右精囊を合併切除する形で腹腔鏡補助下低位前方切除術を行い,さらに,一時的回腸双孔式人工肛門造設術を施行した(Fig. 4).手術時間は7時間57分,出血量は50 g,手術診断は直腸壁内への転移性腫瘍もしくは粘膜下腫瘍であった.
Operative findings and schematic illustration. (a) There was no dissemination at the peritoneal reflection. (b) The tumor was located at the right front of the lower rectum caudal to the peritoneal reflection. Invasion of the right seminal vesicle was suspected and en bloc excision was performed. (c) Schematic illustration of b.
摘出標本肉眼所見:下部直腸の粘膜下に5.4×4.2×3.3 cmの弾性硬で,内部は灰白色と黄白色が混在する充実性腫瘤を認めた(Fig. 5).
(a) The resected specimen showed a submucosal tumor (arrowheads) of 5.0 cm in diameter. (b) Macroscopic examination of the maximum sagittal cross-section of the tumor (rectangle in (a)) showed a grayish-white solid tumor with some yellowish-white necrotic areas that was located beneath a normally appearing mucosal layer.
病理組織学的検査所見:固有筋層から漿膜下層にかけて,広範な壊死を伴い,濃染腫大核を有する円柱状の異形細胞が不整な癒合腺管を形成して浸潤・増殖しており,中分化管状腺癌の所見であった.原発の十二指腸癌の組織像との相同性から十二指腸癌の直腸転移と診断した(Fig. 6).合併切除された右精囊に癌の浸潤は認められなかった.
(a, b) Histological examination of the rectal lesion showed that atypical epithelial cells form fused ducts and proliferated invasively in the muscularis propria and subserosal layer (white arrow), indicating moderately differentiated adenocarcinoma. (c) Histological examination of the primary duodenal cancer showed moderate differentiated adenocarcinoma, which resembled that of the rectal lesion.
術後経過:術後麻痺性イレウスを合併したが,保存的加療で改善し,術後24日目に退院した.術後補助化学療法は希望されなかった.術後5か月で人工肛門閉鎖術を施行した.術後2年4か月経過し,無再発生存中である.
原発性十二指腸癌は全消化管癌の約0.3%,小腸癌の中では25~45%と比較的まれな疾患である1).原発性十二指腸腺癌の異時性再発転移に関して,医学中央雑誌で「十二指腸癌」,「再発」もしくは「転移」,「抄録あり」,「会議録を除く」で検索すると1964年から2018年までに治療およびその経過に関する報告は11例認められた(Table 1)2)~12).その中に直腸転移に関する報告は認められなかったが,結腸転移は2例あり,1例が横行結腸転移2),もう1例は多発結腸転移6)で,いずれも手術治療が施行された.前者は1年3か月の無再発生存が得られ,後者は9か月後に新たに生じた肺転移巣を切除した後,1年2か月後に他因死したと報告されている.その他の8例では転移巣切除は施行されておらず,主に化学療法が選択された.本症例は原発巣である十二指腸癌に対する初回手術時に縫合不全を生じて再手術を行った経緯や画像所見より,術前は腹膜播種再発が強く疑われた.術後1年以内の早期再発であり化学療法も選択肢と考えられたが,原発性十二指腸癌に対する化学療法で奏効が期待できるような確立された治療法はなく,画像上も単発であったことからも診断および根治切除を目的に手術治療を選択した.結果的には腹膜播種を認めず,孤立性の直腸転移であり,完全切除が行われ,現在までの無再発生存が得られた.本症例は,十二指腸腺癌の他臓器転移において切除可能な孤発例であれば大腸癌と同様に転移巣切除が有用であることを示唆するものと考えられた.
No. | Author | Year | Age | Sex | Location | Histology | Adjuvant chemotherapy | Recurrent site | Management | Survival time from 1st operation | Prognosis |
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1 | Maruyama2) | 2004 | 64 | F | Unclear | tub1 | (−) | colon | Excision | 8Y+11M | Alive |
2 | Uesugi3) | 2007 | 80 | F | 1st | tub2 | UFT | liver | TACE | 1Y+1M | Dead |
3 | Fujii4) | 2007 | 55 | M | 2nd | tub1 | (−) | PALN, lung | Chemotherapy | 1Y+6M | Dead |
4 | Taniguchi5) | 2009 | 61 | F | 1st | por | (−) | PALN, LN around SMA | Chemotherapy | 3Y+10M | Alive |
5 | Nakagawa6) | 2009 | 69 | M | Unclear | tub2 | (−) | colon, lung | Chemotherapy after Excision | 4Y+3M | Dead |
6 | Yamauchi7) | 2011 | 40 | F | 3rd | tub2 | S1 | PALN | Chemotherapy | 3Y+4M | Alive |
7 | Kabashima8) | 2012 | 65 | M | 1st–2nd | muc | S1 | peritoneal dissemination | Chemotherapy, Radiotherapy | 5Y | Dead |
8 | Yasui9) | 2013 | 60 | F | 2nd | tub2 | S1 | PALN, lung | Chemotherapy | 3Y | Alive |
9 | Nakazono10) | 2014 | 62 | M | 3rd | tub2 | (−) | lung, skin, pleural dissemination | Chemotherapy | 1Y+10M | Dead |
10 | Inoue11) | 2016 | 53 | M | 1st | pap | S1 | LN, lung, peritoneal dissemination | Chemotherapy | 2Y+10M | Alive |
11 | Kurihara12) | 2018 | 59 | M | Unclear | muc | XELOX | lung, peritoneal dissemination | Chemotherapy | 2Y+9M | Dead |
12 | Our case | 73 | M | 3rd | tub2 | (−) | rectum | Excision | 3Y+5M | Alive |
PA: para-aortic, LN: lymph node, SMA: superior mesenteric artery, TACE: transcatheter arterial chemo-embolization, Y: year, M: month
国外ではLeeら13)による2013年の単一施設での報告があり,原発性十二指腸腺癌に対するR0切除施行後の41人のうち19人(46.3%)が術後再発し,その再発部位は肝臓とリンパ節がそれぞれ7人(36.8%),腹腔動脈周囲の局所再発が4人(21.1%),腹膜播種が1人(5.3%)であり,大腸転移は認められなかった.さらに,いずれの患者も無治療か化学療法が選択され,今回のように原発性十二指腸癌術後の孤立性直腸転移に対して手術治療が有用であった症例は,世界的にも極めてまれな報告であると考えられた.化学療法の奏効例の報告も散見されるが5)9),やはり根治は困難と思われ,切除可能な症例では,手術治療を積極的に選択していくことで治療成績の向上が期待できると思われる.
転移性大腸癌は,他臓器癌が大腸壁へ転移・発育した病態の呼称であり,その転移様式としては血行性,リンパ行性および播種性転移がある14).血行性・リンパ行性転移の場合は,固有筋層や粘膜下組織に転移し粘膜下腫瘍の形態をとり,播種性転移の場合は,漿膜面から浸潤・発育していき粘膜下腫瘍または腸管外性の腫瘤などの形態をとりやすいと考えられている15).本症例は,術中所見で明らかな腹膜病変は認められず,さらに,病理組織学的にも病変は固有筋層から漿膜下層に限局していて漿膜には認められなかったことから,播種性転移ではなく血行性もしくはリンパ行性転移と考えられた.また,転移性大腸癌は発症早期には臨床症状に乏しく腫瘍マーカーの上がらない症例もあり16),術後の定期的な画像検査により発見される場合がほとんどである.内視鏡検査での正診率は22%と低いため17),CTなどにおいて転移巣出現を見逃さないことが重要と考えられる.本症例においても内視鏡検査による生検では診断に至らず,最終的には診断の目的もかねて切除を行った.
転移性大腸癌における転移部位は横行結腸が最も多く,次いでS状結腸,直腸の順で,この3区域で83%を占めている14).本邦において直腸転移に関する報告は,1964年から2018年まで医学中央雑誌で「直腸転移」,「抄録あり」,「会議録を除く」で検索した結果57例あり,38例で転移巣切除を施行しているが,そのうち4例で腹腔鏡が用いられた18)~21).原発巣の部位にかかわらず,直腸転移単発であれば診断目的も兼ねて転移巣切除を治療の選択肢に含める施設は多い.また,腹腔鏡手術は低侵襲かつ,播種や他部位への転移の有無を確認するための診断にも有用であり,本症例においては,術前に腹膜播種再発が疑われていたことから,腹腔鏡手術の選択は播種の広がりを確認するという目的でもあった.原発巣切除および合併症に対する手術による癒着の剥離に時間を要したものの,男性狭骨盤にもかかわらず,腹腔鏡による良視野にて確実に腫瘍を切除することが,術後2年4か月間無再発生存という成績につながったものと考えている.さらに,昨今では直腸癌に対するロボット支援下手術が保険収載され,3Dと鉗子の多関節機能が特に骨盤深部では有効であることから,今後このような症例に対しても選択肢の一つとなりうることが考えられた.
利益相反:なし