The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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SPECIAL REPORT
How to Make of the Operation Record as the Attractive Reading
Keisuke OkamuraSatoshi Hirano
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2020 Volume 53 Issue 11 Pages 925-931

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Abstract

手術後に手術記録を作成することは,診療録の一部として法律上必要な書類である以外に,手術で知りえた情報を正確に残す意味がある.手術記録は医師のみならず医療スタッフにも広く情報として伝達され,理解される必要がある.手術記録には,術前のkey画像,術者,合併切除臓器や再建方法を含めた過不足ない術式,手術時間,出血量などの手術情報と,文章による手術手順の説明,イラストによる術野の描写を含むことが必須である.イラストは鉛筆による下書きの後に,製図用サインペンで描き,十分な余白に説明を書き込む.きれいな術中写真を並べたとしても,一場面の切り抜き像では臓器全体や臓器同士の重なりの認識が困難であったり,運針などの“動き”を表すことが不可能であり,イラストに勝るものではない.ドレーン挿入部や皮膚切開の位置と長さ,臓器の切離部位も文章で書くより,イラストで示すことで一目瞭然となる.誰もが読みたくなるような手術記録は,医療チームの技術や質の向上につながると考える.

はじめに

手術後に手術記録を作成することは,診療録の一部として法律上必要な書類である以外に,手術で知りえた情報と手術の内容を正確に残す意味がある.すなわち,解剖学的位置関係,病変の程度,さらに実際に行った手術手技や使用した手術機器を記載することで,手術記録は周術期管理や長期フォローアップの貴重な資料となりうるのである.したがって,手術記録は医師だけでなく,看護師,医療事務などのメディカルスタッフも利用することを意識すべきであり,広く読んでもらうためには,誰もが理解しやすい読み物である必要がある.

本稿では,著者の手術記録作成の過程を示し,その作成時に気を付けている点や使用している用具を説明し,わかりやすくかつ魅力的な手術記録作成のための工夫について説明する.

手術記録の作成過程

読みやすい手術記録には,文章とイラストが併記されている必要があると考える.医療端末からアクセスし作成する手術記録は,文字の記載には適しているが,イラストを描画するには仕様が悪い.そのため,医療端末では文章での説明や主要画像の記載を行い,イラストは別紙に作成する.それらを病院指定のフォーマットでプリントアウトし,正式な手術記録として保管する.スキャンされた手術記録は電子媒体で保管され医療情報管理下におかれ,コピーは紙媒体で医局に保管し必要時に閲覧できるようにしている.

①手術前日(~手術開始前まで):可能であれば,現病歴,重要画像の説明を記載する.これは,術前に患者情報を確実に理解しておく他に,術後の手術記録完成の時間短縮のためにも有用である.特に3D血管再構築像は,正確な解剖の理解に非常に役に立つ.PCモニター上で血管像を回転したり,特殊な装置を用いてVR(仮想現実:virtual reality)やAR(拡張現実:augmented reality)を利用し確認することもできるが,筆者は視野角の異なる2枚のプリントを並べて立体視している.これにより,いつでも,どこでも余計な機器を使わずに血管構築を立体的に確認できるからである.立体視で得られる情報は,2次元情報の何倍にもなるため,立体視ができない後輩には立体視の訓練をすることを勧めている.

②手術終了時:手術台帳に,術式,手術メンバーを記載する.特に手術メンバーは,たくさんの医師が交代で参加した手術では,後日思い出すことが難しいこともあるため,速やかに記載する.当科では手術記録に基づいてNational Clinical Database(NCD)登録1)を行うため,個人の手術履歴との食い違いを防ぐためにも速やかに記載する必要がある.その後,医療端末の手術記録に手術および麻酔医の氏名,術式,手術時間,麻酔時間,出血量,輸血量,輸液量を記載する.胆膵領域の手術記録では吻合時に運針した針糸の数や吻合法の記載にチェックリストを使用している.チェックリストに記入後,それを手術記録にコピーすることで,手術の大まかな情報,特にルーチンで行っている部分の記載を終えることができる.さらに,手術の要約を文章で記載する.特に通常とは異なる手順を重点的に,文章で記載する.

③イラスト下書き:可能なかぎり手術終了直後に作成する.はじめは,鉛筆書きによるいわゆる“なぐり書き”程度でよい(Fig. 1).ストーリーを考えながら,また説明文を記載するスペースを考量しながらイラストを配置する.現在では,全症例の手術をビデオ撮影しているので常に参照し,正確性を保っている.1ページに1個のイラストを描き,説明文を付ければ紙芝居的なものになり非常に読みやすくなるが,A4紙一面に大きなイラストを描き続けるのは非常に時間がかかるため,実際には十分に解剖がわかる程度の7 cm角から10 cm角のイラストを順次配置している.皮膚切開のイラストから始まり,閉創後のドレーン配置を示して締めくくる.

Fig. 1 

A rough sketch drawn with a pencil. The draft showed a scene about resection of the common bile duct after lymph nodes dissection of the hepatopancreatic ligament. The names of the organs were written down.

③インク入れ:下書きをなぞるようにサインペンでインク入れを行う(Fig. 2).イラストの焦点がどこか,つまり視線がどこに集まるかを意識しながら臓器の配置を調整する.輪郭線はその交差を意識しながら,腹側にあるか背側にあるかを判断しながら書き込んでいく.サインペンは製図用サインペンを使用しているが,これはペン先の太さのバリエーションが多く,筆圧によって線の太さがかわらない利点があり使い易い.輪郭線,影,臓器のtextureに合わせてペン先のサイズを決めておけば,いつでも同じ太さの線で同じタッチのイラストを描くことができる.動脈は赤,門脈,静脈は青のサインペンで強調する.配色は自分でルールで決定し,全イラストの統一感を出す.

Fig. 2 

A line drawing was drawn with a felt-tip pen. Drawing ink was traced over the draft made with a pencil. Lines of cross-hatching were added.

④補助線の書き込み:臓器を描く.支持糸は定規を使って直線的に書き込むことで,tension(緊張感)が表現できる.この緊張感が実際の術野のリアリティを再現する重要な要素であり,臨場感の高いイラストとなる(Fig. 3).

Fig. 3 

An illustration of a scene after right lobectomy, caudate lobectomy, and bile duct resection. Stay-sutures were expressed by straight lines using a ruler (arrowheads).

⑤説明の書き込み:図の傍に設けたスペースに説明を書き込む.これにより手術記録が読み物として各段に理解しやすいものとなる.血管吻合などで運針の手順を示す場合などは,イラスト枚数が多くなるが,左上から右下へイラストと説明分を配置することで自然に時系列を感じることとなり,読み手に優しい手術記録となる(Fig. 35).臓器名だけでなく,臓器の硬さ,剥離の困難性,出血コントロールの状況,がんの遺残の可能性(肉眼的な腫瘍との距離)なども説明に加える.術後合併症の治療や再手術の際に臓器の配置が明確にわかるように記載する必要がある(Fig. 5).彩色は,臓器の配置をわかりやすくするために必要な場合にのみ,彩度や明度を統一して行っている.

Fig. 4 

An illustration of a scene after right a reconstruction of the portal vein. It became easy to understand the operative procedure by locating illustrations from the left to the right.

Fig. 5 

An illustration of a scene after reconstruction. The illustration was drawn to explain the placement of organs and drains.

⑥用具:鉛筆,消しゴム,製図用サインペン,色鉛筆などは使いやすいものを少しずつ集め,使用してきた(Fig. 6).

Fig. 6 

Tools for drawing medical illustrations. a) Kent paper, b) Pencils: trade name Uni made in MITSUBISHIPENCIL CO., LTD, c) Rubbers: trade name MONO made in TOMBOW PENCIL CO., LTD, d) Felt-tip pens: trade name Pigment liner made in STAEDTLER NIPPON K.K and DR pigment ink made in PILOT CO., LTD, e) color pencils: trade name PRISMALO AQUARELLE made in Caran d’Ache CO., LTD.

考察

手術を終えた後に手術記録を作成することは,外科医の日常診療である.医療法施行規則(昭和二十三年十一月五日)に,診療に関する諸記録として手術記録を保存することが義務付けられている.記載されていなければならない事項は,手術を行った医師の氏名,患者の氏名など個人を識別できる情報,手術施行日,手術を開始した時刻および終了した時刻,行った手術の術式,病名と明示されているが,細かなイラストを描くことは規定されてはいない.また,ルーチンワーク故に手術記録作成に多くの時間を費やしたくはないが,自ら読み返したくないような記録は他のスタッフも読みたいとは思わないはずであり,情報伝達のツールとして有効な記録となるよう,ある程度の時間をかけてでも作成すべきである.

手術の技術向上には,手術記録により手術を謙虚に振り返ることが有用である.かつて,研修医による左鼡径ヘルニアの手術記録を指導した際,描かれたイラストは左下腹部に横切開の皮切ラインだけであった.手術手順の文章は問題なく書けていたが,皮切のイラストのみの手術記録に落胆し,ヘルニア鞘を引き出した様子やメッシュを当てた状況を描くよう指導した.本件は外科医のモラルとしての手術記録の重要性が軽視されつつある現れかもしれない.一方で,最近では術中写真を貼りつける例も多くなってきた.写真では現実の視覚情報のみが記録されているだけで,臓器の前後関係,距離感,動きなどが含まれにくく,情報が多いとはいえない.写真だけを並べた手術記録では,作成した術者さえ後で読み解くことは難しくなるほどであり,まして手術に参加していない読者はその記録を見ても多くを理解できないことを意味する.イラストでは必要のない情報を極力除き,写真では表すことができない情報を加えることで,必要な情報をシンプルに伝えることができる.もし,写真を貼りつけるにしても,その説明としてイラストを描く習慣を身に着けるべきである.

臓器を正確に配置した読みやすい手術記録は医師以外のメディカルスタッフのニーズに適合している.例えば,ドレーン挿入部と皮膚切開との位置関係,臓器の残存程度などは文章で書くより,イラストで示すことで一目瞭然となり,多忙を極める多職種にとっても有用であることは明白である.ただし,瞬時に理解するためには主要臓器の大きさの比率が重要であり,ゾリンジャ―外科手術アトラス2)などの手術書を参照にトレーニングを積んでいる.

電子カルテが導入されて久しく,院内のPC端末には作画の画面もあるが,通常は臓器のイラストがあるものの切離ラインを書き込む程度に留まる.今後,手術記録作成時間の短縮を考えると手術記録をPCで描くことにはなるが,スタイラスよるフリー描画機能を有する電子カルテが普及するまでは,手描きイラストを含めた優れた手術記録を作成する技術を高めていくべきと考える.

まとめ

著者の手術記録作成の実際を説明した.誰もが読みたくなるような手術記録は,医療チームの技術や質の向上につながると考える.手術記録の書き方をテーマにしたワークショップやハンズオンセミナーを利用した自己学習とともに若手外科医への指導が,今後も大切になると考える.

利益相反:なし

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