The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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ORIGINAL ARTICLE
Prevention of Surgical Site Infection by Negative Pressure Wound Therapy for Stoma Closure
Toshimichi TanakaHeita OzawaTeppei MiyakawaHiroki NakanishiAkira HirataEri SatoShin Fujita
Author information
Keywords: stoma closure, NPWT, SSI
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 53 Issue 12 Pages 945-951

Details
Abstract

目的:人工肛門閉鎖術(stoma closure;以下,SCと略記)において,環状皮膚縫合と局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy;以下,NPWTと略記)を組み合わせることで,創感染減少が期待されている.本研究では,SCにおけるNPWTの有用性を明らかにすることを目的とした.方法:対象は2015年8月から2018年7月にSCを施行した52例とした.環状皮膚縫合20例(以下,K群と略記),環状皮膚縫合とPICO®併用群32例(以下,KP群と略記)に分類し,術後短期成績を比較した.結果:Superficial incisional SSIは2群間で有意差を認め,K群10%,KP群0%であった(P=0.047).手術時間,出血量,および術後在院日数は2群間に有意な差は認めなかった.創感染の因子分析では,K群が独立した創感染の危険因子であった(P=0.047).結語:SCにおいて,環状皮膚縫合とPICO®の併用によって創感染を減少できる可能性があり,本法は有用である.

Translated Abstract

Purpose: In stoma closure, a combination of circular skin suture and negative pressure wound therapy is likely to reduce surgical site infection (SSI). The aim of the study was to examine the effectiveness of negative pressure wound therapy in stoma closure. Materials and Methods: A retrospective study was performed for 52 patients who underwent stoma closure from August 2015 to July 2018. Postoperative short-term outcomes (surface SSI, organ space SSI, intestinal obstruction, postoperative hospital stay) were compared by classifying the patients into those who underwent circular skin suture alone (group K, n=20) and those treated with circular skin suture and PICO® (group KP, n=32). Results: The rate of superficial incisional SSI differed significantly between groups K and KP (10% vs. 0%, P=0.047). There were no significant differences between the groups in operation time, blood loss, and postoperative hospital stay. Group K was an independent risk factor for SSIs in stoma closure (P=0.047). Conclusion: In stoma closure, combining PICO® with circular skin suture may be effect for further prevention of SSIs.

はじめに

直腸癌に対する肛門温存手術の増加にともない,直腸癌根治切除とともに一時的に人工肛門(temporally stoma;以下,TSと略記)を造設する機会が増えている.一時的なTSは吻合部の安静を保ち,術後縫合不全にともなう重症合併症を減少させる1)2).TSを造設する機会が増えるのにともない,TS閉鎖手術(stoma closure;以下,SCと略記)も増加している.従来SCでは1次創傷治癒を目指した皮膚縫合として真皮埋没縫合が行われてきたが,創感染率が高いことが欠点であった.そこで創感染を減少させる方法として2次創傷治癒を目指した環状皮膚縫合法が行われるようになり3),我々も導入してきたが,十分な結果とはいえなかった.そこで本研究では,開放創に対して施行されている局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy;以下,NPWTと略記)を環状皮膚縫合法と組み合わせることで,さらに,創感染を減少させることができるかどうかを明らかにすることとした.

目的

環状皮膚縫合法および環状皮膚縫合とNPWTを併用した方法の2法を比較し,環状皮膚縫合にNPWTを組み合わせることの意義を明らかにすることを目的とした.

方法

1. 対象患者

2015年8月から2018年7月に当センターでSCを施行した52例を対象とした.TS造設の理由と症例数はそれぞれ以下の通りである;直腸癌術後42例,潰瘍性大腸炎による大腸癌術後1例,直腸間葉系腫瘍術後2例,直腸神経内分泌腫瘍術後3例,その他の大腸癌術後縫合不全2例,直腸膣瘻術後1例,卵巣癌局所再発術後1例.TSは全症例で回腸を用いて造設しており,既往に悪性腫瘍がある症例では,SC直前に癌の再発がないことを確認した.また,本研究の対象患者には維持透析を必要とする腎不全合併症例や周術期にステロイド補充を要するステロイド使用中の症例は含まれなかった.

本研究は文部科学省と厚生労働省が提示する「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成26年12月22日,一部改正:平成29年2月28日)」に従い,研究対象者から手術に関する内容以外のインフォームド・コンセントを受けることを必ずしも要しない条件下で施行した.また,当センターの研究倫理委員会で承認を得た.

2. 周術期管理

手術前日の夜まで経口摂取を継続し,機械的および化学的腸管前処置は行わなかった.手術前日にシャワー浴と臍部処置を施行したが,剃毛と除毛は施行しなかった.予防抗菌薬としてセフメタゾールナトリウム1 gを執刀30分前,および術後6時間毎に術後1日目まで投与した.これらは当センターで作成したクリニカルパスに従い,全例に対して施行した.

3. 手術手技

【環状皮膚縫合群(以下,K群と略記)および環状皮膚縫合とNPWT併用群(以下,KP群と略記)】ストマ腸管の仮閉鎖は行わず,ストマから約5 mm離して皮膚を環状に切開した.腸管は切除せず,モノフィラメント吸収糸による粘膜縫合と絹糸による漿膜筋層縫合(層々吻合)を基本術式としたが,腸管を切除した場合には自動縫合器による機能的端端吻合を行った.術者,助手および介助看護師は腸管吻合後に手袋を交換した.腹壁はモノフィラメント吸収糸による結節縫合とし,200 ml生理食塩水による皮下洗浄を行った.皮下洗浄は,50 mlシリンジに18ゲージ針を装着し,約10 cmの高さから用手的に圧をかけて創洗浄を行った.皮膚は吸収性モノフィラメント糸で環状真皮縫合とし,直径約10 mmの開放創となるように巾着状に縫合した.創部はガーゼと創傷被覆材で保護し,K群では第4病日まで閉鎖創として浸出液の量により適宜開放しガーゼを交換した.KP群では第1病日よりPICO®(Smith & Nephew Wound management KK)を用いたNPWTを開始した.PICO®は10×20 cm大のパッドを使用し,第4病日に交換したのち第7病日に終了した.

4. 周術期短期成績と創感染に関わる因子分析

患者情報は医師および看護カルテより収集した.周術期短期成績として,手術時間,出血量,術後在院日数,術後早期合併症(創感染,腹腔内膿瘍,縫合不全,吻合部出血,腸閉塞)を各群で比較した.術後創感染(surgical site infection;以下,SSIと略記)は,Centers for Disease Control and PreventionのSSIガイドライン4)に従って分類し,表層創感染はsuperficial incisional SSIに分類し,腹腔内膿瘍と縫合不全はorgan/space SSIに分類した.創部浸出液の培養陽性例を創感染陽性,培養陰性および創部発赤のみの場合は創感染陰性とした.また,腹腔内膿瘍はCTで膿瘍を認めた症例とし,縫合不全は腸管内造影検査で吻合部からの造影剤の漏出が確認された症例とした.

創感染の危険因子を明らかにするために,創感染をイベントとした単変量解析を行った.臨床学的因子として年齢,性別,body mass index(kg/m2:以下,BMIと略記),糖尿病既往の有無,喫煙の有無,縫合不全の既往の有無,TS形成状態の期間,PICO®使用の有無,腸管吻合法(手縫いまたは器械)をカルテから抽出した.

5. 統計学的解析

統計分析は,JMP® pro 14 software(SAS Institute Inc., Cary, NC)で行い,度数データはχ2検定,連続データにはMann-Whitney testを用いた.また,因子分析には単変量ロジスティック回帰分析を用い,P値0.05未満を有意差ありとした.

結果

1. 患者背景

本研究の対象患者を皮膚縫合法別にしてTable 1に示す.手術時年齢,性別,BMI,糖尿病の有無,喫煙歴,縫合不全によるストマ造設,TS期間は2群間に差はなかった.腸管吻合方法では2群間に有意差を認め(P=0.04),K群では器械吻合の割合が多い傾向であった.

Table 1  Characteristics of the patients
K KP P value
n=20 (%) n=32 (%)
Age, y, median [range] 66 [40–86] 61 [23–85] 0.14
Gender Male 13 (65.0) 23 (71.9) 0.60
Female 7 (35.0) 9 (28.1)
BMI, median [range] 22.7 [15.7–27.0] 21.6 [16.0–33.2] 0.74
Diabetes mellitus YES 1 (5.0) 4 (12.5) 0.37
NO 19 (95.0) 28 (87.5)
Smoking YES 6 (30.0) 5 (15.6) 0.22
NO 14 (70.0) 27 (84.4)
Past history of leakage YES 5 (25.0) 4 (12.5) 0.25
NO 15 (75.0) 28 (87.5)
Ostomy period, d, median [range] 103 [48–350] 122 [41–1,184] 0.21
Anastomosis Hand 16 (80.0) 31 (96.9) 0.04
Device 4 (20.0) 1 (3.1)

2. 周術期短期成績

Table 2に各群の周術期短期成績を示す.2群間には,手術時間と出血量と術後在院日数に差は認めなかった.Superficial incisional SSI発生率は2群間で有意差を認め,K群10%であり,KP群ではsuperficial incisional SSIは認めなかった(P=0.047).Organ/space SSI,術後出血,術後腸閉塞の発生率については2群間に有意な差はなかった.KP群ではPICO®が原因と思われる疼痛や皮膚障害,出血は認めなかった.PICO®はKP群の腹腔内膿瘍合併例を除いた全ての症例で第7病日まで使用した.

Table 2  Perioperative results
K KP P value
Operation time, min, median [range] 67 [41–124] 68 [43–103] 0.53
Blood loss, ml, median [range] 33 [0–119] 24 [0–162] 0.42
Post-op. hospital stay, d, median [range] 8 [5–20] 8 [3–66] 0.57
Post-op. complication
Superficial incisional SSI 2 (10.0%) 0 0.047
Organ/Space SSI 1 (5.0%) 1 (3.1%) 0.73
Bleeding 0 0
Obstruction 0 1 (3.1%) 0.42

3. 創感染の危険因子

Table 2において,2群間で発生率に有意差を認めたsuperficial incisional SSIについて,因子分析を行ったところ,PICO®不使用群(P=0.047)が独立した創感染の危険因子として同定された(Table 3).

Table 3  Statistical analysis of clinical factors for surface SSI
Patient variable Univariate analysis
OR (95%CI) P value
Age
≥75 vs. 75> 0 vs. 2 (4.6%) 0.41
Gender
Male vs. Female 0.43/1 (0.03–7.31) 0.56
BMI
≥25 vs. 25> 0 vs. 2 (4.7%) 0.38
Diabetes mellitus
YES vs. NO 0 vs. 2 (4.3%) 0.52
Smoking
YES vs. NO 4/1 (0.23–69.64) 0.36
Past history of leakage
YES vs. NO 0 vs. 2 (4.7%) 0.38
Ostomy period (day)
≥180 vs. 180> 2.57/1 (0.15–44.0) 0.52
PICO
NO vs. YES 2 (10.0%) vs. 0 0.047
Anastomosis
Hand vs. Device 2 (4.3%) vs. 0 0.52

SSI occurrence rates are listed for the patient variables: age, BMI, diabetes mellitus, past history of leakage, PICO, and anastomosis.

4. 創感染の原因菌

Superficial incisional SSIの原因菌とClavien-Dindo分類について,Table 4に示す.Superficial incisional SSIを来した2例で4菌体が培養され,内訳はEnterococcus属(25.0%),Bacteroides属(50.0%),Staphylococcus属(25.0%)であった.1例は創開放によるドレナージのみで軽快し,他1例は抗生剤治療を行った.

Table 4  Bacterial strains of superficial incisional SSI
No. Bacterial strains Skin suture Clavien-Dindo
1 Enterococcus faecalis
Bacteroides fragillis
K II
2 Staphylococcus capitis-ureo
Bacteroides fragillis
K I

考察

本研究において,SCに対して環状皮膚縫合とPICO®を併用することにより,創感染率を減少できることが示された.

PubMedで1950年から2019年の期間で「stoma closure」,「surgical site infection」をキーワードとして検索すると,1983年頃から真皮埋没縫合法によるSC後創感染が問題視されるようになり,創感染率の改善を目的として2002年にSuttonらによって環状皮膚縫合法が提唱された5)6).また,本邦では医学中央雑誌(1964年~2019年,会議録除く)で「環状皮膚縫合」をキーワードとして検索すると,白ら7)によって,環状皮膚縫合が単純皮膚縫合(ナイロン糸を用いた皮膚の結紮縫合閉鎖)に比べて創感染率を有意に減少させることがはじめて報告された.その後のいくつかの研究によって環状皮膚縫合はsuperficial incisional SSIの発生率減少に有効であることが示され8)~12),近年の研究では環状皮膚縫合後の創感染率は2.3%~12.2%と報告されている(Table 5).当施設で以前に施行していた真皮埋没縫合によるSC後創感染率は19.3%であり,既報に比べて高値であったことから,環状皮膚縫合を導入した.その結果,創感染率は10.0%まで減少したが,まだ満足のいく結果ではなかったことから,KP法を導入することとした.環状皮膚縫合では5~10 mm程度のドレナージ孔を確保することが重要であり,不十分なドレナージは創感染の原因となる7)10)11).KP法では,NPWTがドレナージを補助することで創感染を軽減でき,本研究におけるKP法での創感染率は0%であった.この結果は十分満足できるものといえる.KP法を用いることによる術後在院日数の短縮はならなかったが,NPWTが原因の皮膚合併症は認めておらず,KP法は患者の満足度にも貢献しうるものであると考える.

Table 5  Previous reports of superficial incisional SSI
No. Author Year Methods n SSI (%)
1 Haku7) 2007 S 33 27.0
K 33 0
2 Milanchi8) 2009 S 25 40.0
K 24 0
3 Marquez9) 2010 S 61 23.0
K 17 0
4 Mori10) 2012 S 42 21.4
K 44 2.3
5 Sugimoto11) 2013 S 35 34.3
K 49 12.2
6 Yamamoto12) 2018 S 64 21.9
K 64 4.7
7 Our case K 20 10.0
KP 32 0

NPWTは閉鎖環境とした創部に陰圧をかけることによって創傷治癒を促進させる治療法であり,本邦では2010年に入院診療で保険収載され,形成外科領域の開放創に対してその有用性が報告されてきた13)14).悪性腫瘍や壊死組織が残存する創では使用禁忌であることから,NPWTの効果を最大限にいかすためには壊死組織を除去し,感染や炎症が改善された創面で行うことが重要である.我々は術後第1病日に創部の止血と壊死物質が残存していないことを確認してからNPWTを開始している.また,本邦ではSC後の創傷治癒促進機器として4種類のNPWTが保険収載されており,これまでにSCにVAC®(KCI社)を併用した報告はあるものの15),PICO®を用いたNPWTの有用性を明らかにした報告はまだない.本研究の使用法でSCにPICO®を併用した場合,処置として約10,000点の診療報酬の加算が見込まれる.PICO®はVAC®に比べて,浸出液が少ない比較的小さな創部に対して有効であり,さらに,他のNPWT器機よりコンパクトで軽量であることから,携帯性に優れ,外来診療にも対応できるという利点がある.

我々は52例のSC術後患者に対して,PICO®を用いたNPWTの有用性を報告した.SC術後の創感染率において,環状皮膚縫合群と環状皮膚縫合/NPWT併用群を直接比較した報告はいまだなく,SC後の環状皮膚縫合とPICO®の併用は,創感染を減少できることが示唆された.

利益相反:なし

文献
 

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