The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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SPECIAL REPORT
Surgical Records Using Ballpoint Pen and Intraoperative Photographs: Make All Surgeries Illustrations
Yukihisa NakazawaTakumi Sakakibara
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2020 Volume 53 Issue 6 Pages 542-548

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Abstract

一般市中病院において開腹手術の手術記録として手術イラストを毎回作成している.通常のボールペンや色鉛筆を用いて,開腹所見や手術のポイントや流れなどをできるだけ分かりやすく記載している.手術イラストは,①術後できるだけ早く描き始め,②手術書や術中写真などを見ながら正確に記載し,③他医やスタッフに手術の内容が伝わるようになることを工夫し努力している.手術写真は詳細できれいであるが,情報量が多いために術者以外が記録を見たときに重要なことが伝わらない欠点がある.手術イラストは,術中情報を1枚の絵に記載することができるため術者以外の者が後で見ても,その手術の経験を追体験することができると考える.イラストは手術内容を伝えるツールとして不可欠なものだと考える.電子カルテ化された昨今の手術記録は効率的に作成できるようになっているが,手術の上達には,毎回コツコツと手術イラストを描くことが大切である.

はじめに

著者が所属する病院は病床数約300床(外科約50床)の二次救急病院で,年間手術数は約600例,外科常勤医師は6名である.

外科研修開始当初から,手術記録には必ず絵(イラスト)を添えるようにしてきた.電子カルテになった現在も必ず所見や手順,完成図は解説付きのイラスト(時に写真と対比したPowerPoint画像)を作成して記録してきた.イラスト作成を中心に,手術記録についての自分の経験を報告する.(なお今回の内容は開腹手術を対象にしている.)

1. 私の手術イラストの変遷

著者は,1991年卒業,卒後2年目より外科研修を開始した.当初は紙媒体での手術記録であり,虫垂切除,ヘルニアなど必ず1枚は印象に残る絵をペンで記載していた.1997年に東京都立駒込病院外科で研修をさせていただき,その際に胃外科のA先生の手術記録の美しさに魅了された.毎回簡潔に開腹所見,切除法,再建後の数枚の絵を記載されるのであるが,何とか真似をして美しく描けるように努力した.その後,国立がんセンター中央病院の肝胆膵外科での研修の機会に恵まれた.若手外科医が手術後に遅くまで残り,上級医の施行した手術を何枚ものスケッチにしている中で,自分も負けないように手術記録をイラスト中心に記載し続けた.上手な研修医や上級医のスケッチをカラーコピーさせていただいて参考にした.手術に入れない時は,外回り中にメモを取り,後でメモと自分の記憶を頼りに医局でスケッチして,なんとか理解し記録することにより手術ができるようになろうと努力した.

研修から一般病院勤務に戻り,2004年頃から手術記録も電子カルテ化された.またデジタルカメラやプリンターの普及に伴い,絵でなく写真を手術記録に添えた時期があった.医局で写真を印刷し,紙に貼り付け,文字で解説を入れるのであるが,術後のconferenceでは写真では自分以外の医師の理解にはあまり役に立たず,また時間がたつと写真を見ても自分でも手術が思い出せないことがあった.写真による記録が自分では後々の参考にならないことが分かった.

その後,胃全摘や膵頭十二指腸切除(PD手術),肝切除などを執刀させてもらう機会が増え,できるだけ所見と再建終了後の手術イラストを作成するようにした.当院の場合,PD,肝切除が年間10数例のため,手術記録は次回執刀時の参考となるように,手順の部分もイラストを残すようにしてきた.完成したイラストは看護師など他職種からの評判が良く,コピーを必ず保存してもらい,スタッフの振り返りと,次回の同様手術の準備に役立ててくれるようになった.手術内容によって力の入れようの強弱はあるが,このような経過で,現在はほぼ全ての手術でイラストを作成している.

2. 現在の手術イラスト作成

使用している文具:A4のコピー用紙,病院支給のHBの鉛筆,消しゴム,黒ボールペン,赤青鉛筆などの基本的に病棟にあるものを使用している.色彩をつける場合の「サクラクーピーペンシル」は自費で3セット購入し,手術室・病棟・自宅に置いて用いている.

実際の手順:[よくある手術の場合]には,赤青鉛筆でのスケッチないしシェーマのみを記載することが多い.A4用紙1~2枚に記載し,手術室ないし病棟で完成させる.

[力を入れてイラストを描く場合]には,スマートフォンを用いた術中写真も撮影しておく.そして術直後に鉛筆や赤青鉛筆で簡単なラフスケッチを記載しておく.また必要な術前画像を電子情報化しておく.それらを元に,その日の夜か翌日に病棟か自宅にて鉛筆で下書きをしたうえで黒ボールペンを用いて手術イラストを作成する.枚数が多い場合や色彩を入れたい場合などは週末に記載することもある(Fig. 1).

Fig. 1 

Posterior lobe resection. From left, “Rough sketch with pencils”, “Clean copy with ballpoint pen”, “Add color with colored pencil”.

[貴重な症例や高度な手術](肝胆膵疾患や高度進行癌,絞扼性イレウス,捻転などの急性腹症)については,イラストや術中写真を用いてPowerPoint上に貼り付ける形で作成することが多い.この際,症例によっては術前画像も対比のため添付する.また捻転解除などは動画をもとに数コマの絵を作成している(Fig. 2).合併症手術などの場合も穿孔部やチューブ類を時にデフォルメして病態を理解しやすいイラストになるように心がけて描くようにしている(Fig. 3).

Fig. 2 

The reposition of sigmoid colon torsion and sigmoidectomy were illustrated using the video recording as a reference.

Fig. 3 

A case of complications case. When the ileus tube was inserted for a case of peritoneal dissemination of cecum cancer, the duodenum was perforated due to tumor stenosis in the Treitz’ ligament, and the tip of ileus tube prolapsed into the retro peritoneal space.

[作成したイラストの保存]については,スキャナーで個人PCと電子カルテに保存する.またカラーコピーして手術室用に保存,場合によって患者にも渡すことがある.個人としても原画とコピーは保存している.

[スケッチ作成にかかる時間]であるが,ラフスケッチであれば10分程度で仕上げるようにしている.鉛筆で下書きしボールペンで仕上げる場合や,色彩をつける場合には1枚につき30分以上はかかる.数枚の合計で2~3時間以上かかる場合もある.時間はかかるが手を加えたほど,他医やスタッフへの伝達や教育面でもインパクトが高い絵になり後々参照されることと信じている.

3. 手術記録(イラスト)作成上,特に気をつけている点やポリシー

① 少なくともその日に書き始めること.数時間で記憶が薄れることをよく経験する.

② 所見や臓器の関係などの解剖は正確に記載すること.術中写真,画像,イラスト付き手術書1),外科手術アトラス2)などを参考に描いている.自分の手術イラストを正確に作成することは手術自体の重要なトレーニングでもあると考える.

③ 後輩外科医や研修医の手本となるように描く.手術や術後ケアにかかわるスタッフにケア上で重要な記録になるように描く.特に研修医には,アートの部分を含めて外科への興味を持ってもらい,外科医獲得の一助になれたらと思っている.

症例

症例1:絞扼性イレウス(Fig. 4, 5

Fig. 4 

Case 1. Strangulated ileus. The patient was diagnosed with strangulated ileus through CT images. The laparotomy findings were the same as preoperative diagnosis.

Fig. 5 

The band was removed, and intestinal blood flow was improved.

症例は,脳梗塞や虫垂炎手術既往がある高齢男性である.前日からの腹痛で受診され,造影CTにてclosed loopが確認され手術となった.絞扼解除のみで腸管切除はすることなく終了した.

手術記録の特徴:術前CTで絞扼と診断できたため,その部分の冠状断写真での3つのbeak signを参考に載せた.絞扼状態の写真とシェーマ,絞扼解除後の腸管の状態などをイラストで示した.

症例2:十二指腸腫瘍(Fig. 6

Fig. 6 

Case 2. A case of duodenal adenoma. The duodenal wall was incised, and resected according to submucosal dissection methods.

症例は,貧血精査中の高齢女性に発見された十二指腸乳頭に近い5 cm大の腫瘍である.ESDも検討されたが,合併症のリスクを考慮し開腹手術を選択した.術後経過は極めて良好であった.十二指腸壁の開放の際のスケッチを示した.

考察

外科医にとって手術イラストを書くことの意義について,馬場3)は「術者にとって,手術イラストを描くことは手術の術野を再現し,そこで行った手術操作や考察(手術戦略)を思い出してその場面をイラストに表す」,「このことは次の手術への工夫にもなり,自らの手術手技向上にも繋がると考えられる」,「この手術記録を参照しようとする他医にとっては,描かれたイラストを見ることで手術記録をより詳細に,正確に理解することが可能となる」と述べている.著者も同感であり,他医,後輩外科医以外にも外科を目指す研修医にも影響を与え,手術にかかわるスタッフにも参照してもらうことで,より質が高く安全な手術が可能になると考える.また学会発表などでも手術のポイントとなる部分をイラスト化することで理解しやすくなることを経験してきた.著者は個人情報に配慮した方法で,希望があれば患者様にイラストのコピーをわたすことがある.病気の理解につながるかどうかはわからないが,安心感と満足感が得られたことを話されることが多い.

なぜ手術写真よりも,イラストがいいかについてであるが,写真は詳細できれいであるが,情報量が多いために何が重要かがわかりにくい.特に後で術者以外が記録を見たときに重要なことが伝わらないことが顕著になる.ところが術者自身が描く手術イラストは,術中の情報を取捨選択し,また手術の流れを含めて1枚の絵に記載することができる.そのため術者以外の者が後で見ても,その手術の経験を追体験することができると考える.

イラストの巧拙については,著者の経験では毎回愚直に書き続けることで克服できると考えている.特に他医に見せて批評してもらうことを躊躇わないことが重要と考える.絵の専門書を読むことは必須でないと考えるが,常に解剖書や手術書は参考書として熟読し,時にはトレースなどをすることも厭わない.レオン佐久間4)は「複雑に絡みあっている臓器をわかりやすく強調し,解剖学上齟齬のないように表現するのはイラストレーションにしかできない」と述べている.イラストは手術内容を伝えるツールとして不可欠なものだと考える.

多忙な外科医が手術記事を描く時期については,馬場3)は「手術終了後,患者さんが覚醒するまでの10~15分の間に」「ラフスケッチ」を作成することを勧めている.著者の経験でも術直後に鉛筆で記載しておくことは重要で,数時間経過すると鮮明な記憶が曖昧になり,術中写真を見ても描きにくくなっていることをよく経験する.詳細なイラストはラフスケッチの延長にあると考える.

電子カルテ化された昨今の手術記録は,文字や絵を描かず,ワードパレットや画像テンプレートの貼り付けだけで効率的に作成できるようになっている.自分の経験を考えると,手術の上達には,パソコンソフトに頼らず毎回コツコツと手術イラストを描いてきたことが有効であったと思っている.

今後も,イラストの重要性を次世代の後輩外科医に伝えながら,臨床診療に邁進していく所存である.

(最後に)

今回このような論文を作成する機会を与えてくださった日本消化器外科学会に心より感謝申し上げます.

なお,本論文の要旨は第74回日本消化器外科学会総会(2019年7月,東京),特別企画「オペレコを極める」においてポスター発表した.

利益相反:なし

文献
  • 1)  Zollinger RM Jr, Ellison EC,安達 洋祐訳.ゾリンジャー外科手術アトラス.東京:医学書院;2013.
  • 2)  Trede M. The Art of Surgery Exceptional Cases-Unique Solutions 100 Cases Studies. New York: Thieme Stuttgart; 1999.
  • 3)  馬場 元毅.Dr. BABAのメディカルイラストレーション講座.東京:三輪書店;2017.
  • 4)   レオン  佐久間.医描(医を描き,伝え,学ぶ)日本のMiの今後.日本メディカルイラストレーション学会雑誌.2018;1(1):6–10.
 

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