The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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Takeshi Kubota
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2020 Volume 53 Issue 6 Pages en6-

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本稿を東京アラートが発動された翌々日の6月4日に執筆しています.テレビでは見たこともない真っ赤にライトアップされたレインボーブリッジの映像が何度も.5月25日には緊急事態宣言が全国で解除されましたが,すでに第2波コロナ禍に,まだ先が見えないトンネルの中にいるようで,なんとなく気分が晴れない日が続いています.私が勤務しております京都府立医科大学病院は第一種感染症指定医療機関であるが故に,当初から人と物資をコロナ病棟にとられ,手術や検査が制限されてしまい,連日患者さんに謝罪しつつ延期やキャンセルの連絡に追われています.しかし,土日はというと,学会や研究会が全て中止・延期になったことでスライドなどの準備に追われることはなくなりました.そんな時,どこからともなく聞こえてくる「ピンチをチャンスに変える」という発想.そう,今こそその時間を,データーを解析して論文にまとめたり,興味深い症例報告の執筆に回せたりするチャンスでもあるのです.研究の手を止めるわけにはいかず,また,この日本消化器外科学会雑誌も前に進んで行かなくてはなりません.ぜひこの「チャンス」に渾身の一編を御投稿いただきたいと思います.

さて今回,第53巻6号の掲載論文は7編で,臨床経験1編,症例報告6編.第74回日本消化器外科学会総会特別企画「オペレコを極める」の原稿も2編ありました.どれも貴重で示唆に富む報告であり,また「オペレコを極める」ではいずれも丁寧で詳細な解説の入った手書きのイラストが印象的でした.その中で,今月の一押し論文に木村七菜先生らの「肝右葉切除術中の門脈左枝の捻転に対して術中門脈ステントを留置した1例」を選ばせていただきました.本症例では,肝右葉切除後に肝左葉が重力によって右葉のあったスペースに傾くことによって起こる門脈左枝の捻転に対して,門脈ステントを留置することによって血流障害を回避した貴重な症例報告です.術中の後には引けない状況かつ,判断を誤れば肝不全による周術期死亡を免れえない状況で,一般的に行われている予防策では不十分と判断し,門脈ステントを選択したことは称賛に値するものであります.加えて,術中の門脈造影のポイントとなる鮮明な画像がきちんと残されており,非常に冷静かつ学問的であるとも言えます.考察では想定される機序,一般的に行われている予防策もレビューされており,そして門脈ステントの適応や治療成績などについても詳細に記載されています.今後同様の症例を経験したとき,幅広い対処の引き出しを持っておくことは非常に重要です.ぜひご一読いただければと思います.

 

(窪田 健)

2020年6月4日

 

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