2020 Volume 53 Issue 8 Pages 627-634
症例は60歳の男性で,自殺企図でアルカリ性剤を服用して救急搬送された.咽頭から幽門まで腐食性変化を認め,保存的治療を試みたが,吐血を繰り返すため手術適応となった.第30病日に胸腔鏡腹腔鏡下食道亜全摘術・胃全摘術+食道瘻・腸瘻造設術を施行した.術後4か月の経過観察期間を設け,残食道の遅発性狭窄の有無を確認してから二期的再建を行う方針とした.再建前の検査で食道入口部に狭窄を認めたが,喉頭は温存可能と判断し,初回手術後121日目に残食道全摘術+胸壁前遊離空腸再建術+喉頭挙上術を施行した.咽喉頭・吻合部の浮腫により食事摂取までに時間を要したが保存的に改善し,再建術後78日目に退院した.アルカリ性剤による腐食性食道炎・胃炎は遅発性狭窄を来すことがあり,二期的再建が妥当であると考えられた.また,炎症の程度によっては胸腔鏡下手術が良い選択肢となりえると考えられた.
A 60-year-old man ingested an alkaline detergent in a suicide attempt. He was taken to a local hospital, and upper gastrointestinal endoscopy revealed corrosive changes from the pharynx to the pyloric region of the stomach. Despite conservative therapy, prolonged hematemesis occurred. He was transferred to our hospital for surgery, and we performed video-assisted thoracoscopic esophagectomy and laparoscopic total gastrectomy 30 days after ingestion. Considering the risk of delayed stenosis, we planned second-stage reconstruction with a 4-month observation period. Delayed stenosis of the esophageal orifice was confirmed during preoperative upper gastrointestinal endoscopy, but we were able to preserve laryngeal function. We performed residual esophageal resection and reconstruction with a free jejunal autograft through an antesternal approach 121 days after the primary surgery. Although the time to resume oral intake was prolonged because of laryngopharyngeal edema and healing of the anastomotic site, the patient was discharged 78 days after second-stage reconstruction surgery. Because corrosive esophagitis and gastritis caused by alkaline agents can cause delayed stenosis, second-stage reconstruction could be a useful surgical strategy. In addition, video-assisted surgery may be a good choice as an early surgical approach for corrosive esophagitis and gastritis before the inflammation has progressed.
腐食性食道炎・胃炎は,組織障害性の強い薬剤の服用により生じ,薬剤の種類,濃度,量,暴露時間などによってさまざまな病態を呈する.中でも,アルカリ性剤は組織融解作用が強く障害が深部にまで及ぶため,消化管穿孔や遅発性狭窄を来すことがある1).今回,我々はアルカリ性漂白剤の服用による腐食性食道炎・胃炎に対し,胸腔鏡腹腔鏡下食道亜全摘術・胃全摘術を施行し,4か月後に二期的再建を行った1例を経験したので報告する.
患者:60歳,男性
既往歴:うつ病,糖尿病にて内服加療中.
現病歴:自殺企図でアルカリ性漂白剤を服用し,近医に救急搬送された.保存的治療を行ったが吐血を繰り返すため,手術目的で当科紹介となった.
入院時現症:身長167 cm,体重60 kg,意識清明,血圧113/69 mmHg,脈拍75回/分,整.口唇・口腔内には異常所見なく,腹部は平坦・軟で圧痛を認めなかった.
入院時血液検査所見:WBC 3,300/μl,CRP 2.69 mg/dl,Hb 8.0 g/dlであり,炎症反応の上昇と貧血を認めた.
上部消化管内視鏡検査所見(前医・服用当日):咽頭から粘膜の発赤を認め,胸部中部食道から幽門にかけての粘膜は暗赤色~黒色で浮腫状であった.十二指腸には異常所見を認めなかった.
上部消化管内視鏡検査所見(当院・第23病日):食道入口部に粘膜のひきつれを認めた.門歯より25 cmの中部食道には全周性狭窄を認め,10 mm径スコープは不通過であった(Fig. 1a).胃内は壊死し剥脱した粘膜と思われる褐色の組織が充満しており,幽門部には白苔を伴った全周性潰瘍と狭窄像を認めた(Fig. 1b).穿孔の可能性があり,十二指腸への挿入は行わなかった.咽頭喉頭の粘膜には異常所見を認めなかった.

Upper endoscopy on the 23rd day after ingestion shows stenosis (arrow) in the thoracic esophagus (a) and circumferential ulcer (arrowheads) in the pylorus of stomach (b).
造影CT所見:食道全域に壁肥厚像を認めるが,食道穿孔や縦隔炎の所見は認めなかった(Fig. 2a).胃の拡張と壁の菲薄化を認めたが,造影効果は保たれており,穿孔の所見は認めなかった(Fig. 2b).十二指腸・膵胆道系には異常所見を認めなかった.

Contrast-enhanced CT scan taken on the 25th day shows the wall thickness (arrows) of the thoracic esophagus (a) and dilation of the stomach with thinning of the gastric wall (arrowheads) (b).
治療経過:絶飲食・中心静脈栄養・抗生剤投与による保存的治療を継続し,術前評価を行った.全身状態が改善してから手術を行う方針であったが,第24病日に再度吐血し,Hbが6.9 g/dlまで低下した.輸血を行ったが貧血が改善せず,持続的な出血が疑われたため,第30病日に手術を施行した.手術は,胸腔鏡腹腔鏡下食道亜全摘術・胃全摘術+食道瘻・腸瘻造設術を施行した.再建は二期的に行う方針とした.
手術所見:(胸部操作)腹臥位・両肺換気とし,患者右側,第10肋間肩甲骨線より12 mmトロッカーを挿入しカメラポートとした.右胸腔内圧を8 mmHgとし,第7肋間後腋窩線に5 mmポート,第5肋間後腋窩線に12 mmポート,第3肋間中腋窩線に5 mmポートを留置し,4ポートで手術を行った(Fig. 3a).胸腔内には癒着や胸水貯留を認めず,食道周囲にも炎症の波及を認めなかった.食道壁は柔らかく,肥厚は認めなかった.上縦隔から下縦隔まで食道に沿って剥離し,気管分岐部で食道を切離した(Fig. 3b).(腹部操作)仰臥位とし,臍部に開腹法で12 mmトロッカーを挿入,10 mmHgで気腹した.左右の肋弓下に5 mmトロッカーを挿入し,各々のポートと臍部ポートとを結ぶ中線上に12 mmトロッカーを挿入,5ポートで手術を行った(Fig. 3c).胃壁はびまん性に肥厚し,把持が困難であった.胃の後壁に大網と横行結腸間膜が強固に癒着していたため,横行結腸間膜は一部合併切除した(Fig. 3d).十二指腸はエンドステープラーで切離し,断端は埋没縫合を追加した.食道を胸腔内から引き出してバッグで回収した.食道裂孔は縫合閉鎖した.Treitz靱帯より30 cm肛門側の空腸に腸瘻を造設した.(頸部操作)襟状切開をおき,食道周囲を剥離した.頸部食道で切離し標本を摘出し,頸部食道断端を単孔式の食道瘻とした.手術時間は332分,出血量は100 mlであった.

Port placement in thoracoscopic surgery procedure (a). No adhesion or inflammation is found around the thoracic esophagus (arrowheads) (b). Port placement in laparoscopic surgery procedure (c). Adhesion of omentum (arrow) and mesentery of transverse colon (arrowhead) on thickened dorsal gastric wall is observed (d).
切除標本所見:中下部食道には瘢痕狭窄を認めるが,粘膜は保たれていた.胃の粘膜は体下部を中心に広い範囲で欠損しており,壁はびまん性に肥厚していた.切除範囲の十二指腸粘膜には異常所見を認めなかった(Fig. 4).

Macroscopic findings of the resected specimens from the mucosal side (a) and serosal side (b). Stenosis at the lower esophagus (arrow) and mucosal defect of the middle-to-lower stomach are observed. The partly-resected mesentery of transverse colon is observed on the serosal side of dorsal gastric wall (arrowhead).
病理組織学的検査所見:粘膜固有層~固有筋層を主体に,出血と炎症細胞浸潤を伴った線維化の所見を認めた.胃の穹窿部では,壁全層性の出血・炎症細胞浸潤,固有筋層の断裂と線維化を認めた.
術後経過:合併症なく経過し,術後27日目に退院した.術後104日目(第134病日)に残食道の評価を行ったところ,食道入口部に瘢痕狭窄を認めた(Fig. 5a).同部より口側の下咽頭には島状に白色調の瘢痕性変化を認めたが,狭窄は認めなかった(Fig. 5b).喉頭温存は可能と判断し,術後121日目(第151病日)に再建術を行った.

Findings of upper endoscopy on the 104th day. Delayed stenosis (arrow) is found at the esophageal orifice (a). There are spotty scarring lesions without stenosis (arrowheads) at the hypopharynx (b).
再建手術所見:食道入口部の瘢痕狭窄を確実に切除するため,内視鏡的咽喉頭手術(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery;以下,ELPSと略記)により下咽頭粘膜の切離を行った後に,残食道全摘術+胸壁前遊離空腸再建術(第2空腸動静脈-第3肋間動静脈吻合)を施行した.咽頭空腸吻合はGambee法で端々吻合を行い,全周性に漿膜筋層縫合による補強を加えた.誤嚥予防目的に喉頭挙上術も行った.
再建術後経過:手術による吻合部・咽喉頭の浮腫と長期間の絶食による嚥下機能低下のため,食事摂取までに時間を要したが,再建術後46日目にゼリー食から食事を開始し,再建術後63日目に全粥食が全量摂取可能となった.再建術後78日目に退院となった.
腐食性食道炎・胃炎は,酸・アルカリに代表される組織障害性の強い薬剤の飲用により生じる.一般的に酸は粘膜表面の凝固壊死を生じるため,浅在性の粘膜障害にとどまることが多い.一方,アルカリは鹸化を伴った強い融解作用によって障害が深部にまで及ぶため,瘢痕狭窄を来しやすく,時に消化管穿孔を起こし重症化することがある1).
腐食性食道炎の臨床経過は,①急性壊死期(細胞の蛋白壊死,周囲組織の炎症;受傷後数日間),②潰瘍・肉芽形成期(壊死組織の脱落,潰瘍形成,肉芽形成;5日~3週),③瘢痕狭窄期(線維化による瘢痕収縮;3週~3か月)に分けられる2).急性壊死期および潰瘍・肉芽形成期には保存的治療が行われることが多く,呼吸・循環器系の全身管理のほか,消化管洗浄や活性炭の投与,牛乳の投与などが有効とされている3).以前は中和剤の投与も行われていたが,ガス産生や中和熱によって消化管穿孔を助長する可能性があり,現在は禁忌とされている3).急性期の手術適応に関しては,一定の見解が得られていないのが現状であるが,重症化の可能性を常に考慮し緊急手術も念頭に置いて初期治療にあたる必要がある.自験例は保存的治療を行ったが,出血コントロールが困難であったこと,腐食の進行で消化管穿孔が危惧されたことから,受傷後1か月で手術治療を行う方針とした.
急性期を乗り切った後は,瘢痕狭窄と癌化が問題となる.瘢痕狭窄は腐食性食道炎の40~80%に発生し,狭窄の完成は受傷後1か月で58%,2か月で80%,8か月で99%とされている4).瘢痕狭窄期には内視鏡的拡張術やステロイドの投与が行われるが,治療抵抗性の場合は外科治療の適応となる5)~7).自験例では,狭窄が完成するとされる時期を待たずに手術治療が必要な状況となった.そのため,一期的再建は行わず,状態が固定するのを待って二期的再建を行う方針とした.結果,残食道に遅発性狭窄が発生し,残食道全摘術が必要となったが,喉頭を温存することは可能であった.
腐食性食道炎後の発癌率は高く,八坂ら8)は腐食性食道炎218例中12例(5.5%)に食道癌が発生したと報告している.腐食性炎症後の頭頸部癌の発生率について検討した報告は検索範囲内で存在しなかったが,当院における食道癌患者の検討では頭頸部表在癌の合併率は11.4%であり9),通常の食道癌と同様と考えれば,頭頸部癌の発生率も高いものと推察される.自験例では,患者にうつ病の既往があり,術後のQOLを維持する目的から喉頭を温存する術式を選択したが,残った下咽頭には複数の瘢痕性変化を認めており,今後癌化する可能性を念頭において咽喉頭の長期的な経過観察が必要であると考える.
外科治療を行う場合,術式としては食道切除あるいはバイパス術が選択肢となる.食道切除を行うか否かは,炎症の程度や将来的な癌化の可能性,患者背景を含めて検討する必要があるが,高齢者や手術リスクの高い場合を除いては,原則食道切除を行うべきだと考えられる.一期的に咽喉食摘術を施行した報告も散見されるが5)6)10),自験例のように二期的再建までの経過観察期間を設け,咽喉頭・残食道の遅発性変化を慎重に評価することで喉頭温存での食道切除術を施行できる可能性があり,患者背景に合わせた治療選択肢の一つとして考慮すべきだと思われた.また,自験例では残食道の瘢痕狭窄を確実に切除範囲に入れるためにELPSを併用して手術を行った.ELPSは頭頸部表在癌に対する経口的切除法の一つであるが11)12),本症はELPSの良性疾患への良い適応であると考えられた.十二指腸・膵胆道系に関しては,当院初診時に上部消化管内視鏡検査での評価ができず,注意深い経過観察が必要であったが,二期的再建前の血液検査・造影CTで異常所見を認めなかったため,手術操作を加えずに経過観察を継続する方針とした.我々が検索しえた範囲内で,腐食性食道炎・胃炎に対して急性期に腐食腸管の切除を行い,追加切除が必要かどうかを判断するための観察期間を設けて二期的再建を行った報告は自験例のみである.
手術方法としては,侵襲の少ない非開胸食道抜去術が推奨されているが13)14),腐食性食道炎の慢性期には食道周囲の線維化が高度になっていることが多く,開胸開腹下に食道切除術が行われる場合も多い5)15)16).当科では,受傷直後の腐食性食道炎であれば,手術侵襲を考慮して非開胸食道抜去術を第一選択としているが,穿孔症例や長期間保存的に経過を見た症例については高度の炎症波及や癒着・線維化を考慮し,開胸開腹下あるいは胸腔鏡下の食道切除術を第一選択としている.自験例では,術前検査で食道穿孔や縦隔炎の所見を認めなかったものの,受傷後1か月が経過しており,胸腔鏡下手術を選択した.実際の胸腔内操作においては,食道周囲に線維化の所見を認めず,安全に手術が施行可能であった.医学中央雑誌で1964年~2018年の期間で「腐食性食道炎」をキーワードに検索した結果,腐食性食道炎に対し胸腔鏡下に食道切除を施行した症例報告は自験例を含めて6例であった(Table 1)7)10)17)~19).受傷から手術までの期間は中央値で100(30~330)日であり,自験例が最短であった.術中所見の記載があった報告に関してはいずれも胸部食道周囲に高度の癒着を認めており,時間の経過に伴って癒着が進行し手術操作も困難になると考えられる.特にアルカリによる腐食性食道炎で高率に瘢痕狭窄が予想される場合には,自験例のように二期的再建を前提として,急性期に胸腔鏡下食道切除術を行うことも選択肢となりえると思われた.
| No. | Author/Year | Age/Sex | Causative substance | Time after ingestion to surgery (days) | Surgery | Reconstruction routes | Reconstruction organs | Operation time (min) | Bleeding (ml) | Time after surgery to discharge (days) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Kobayashi17)/2005 | 44/M | Alkaline | 89 | Subtotal esophagectomy | Retro-steranal route | Gastric tube | — | — | 38 |
| 2 | Suzuki18)/2010 | 2/M | Alkaline | 330 | Subtotal esophagectomy | Posterior-mediastinal route | Pedunculated jejunum | 771 | 110 | — |
| 3 | Kato10)/2011 | 45/M | Hydrochloric acid | 105 | Pharyngo-laryngo-esophagectomy | Ante-thoracic route | Transverse colon | 763 | 148 | 109 |
| 4 | Matsuda19)/2014 | 18/M | Alkaline | 95 | Subtotal esophagectomy | Posterior-mediastinal route | Gastric tube | — | — | 47 |
| 5 | Enomoto7)/2018 | 53/F | Alcohol | 150 | Subtotal esophagectomy and total gastrectomy | Retro-steranal route | Right colon | — | — | — |
| 6 | Our case | 60/M | Alkaline | 30 | Subtotal esophagectomy (primary surgery) | Ante-thoracic route | Free jejunum | 332 | 100 | 27 |
利益相反:なし