The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Pancreaticoduodenectomy for an Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm with Multiple Anomalies of the Pancreas
Jun IshidaHirochika ToyamaSachio TeraiHideyo MukubouHironori YamashitaSachiyo ShirakawaMotofumi TanakaHiroaki YanagimotoMasahiro KidoTakumi Fukumoto
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2020 Volume 53 Issue 8 Pages 650-656

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Abstract

膵管癒合不全,門脈輪状膵,重複膵管の膵多重奇形を合併した膵管内乳頭粘液腫瘍に対して膵頭十二指腸切除術を施行した1例を経験した.門脈輪状膵,重複膵管に対しては術前と術中の膵管走行の評価により通常通りの1穴再建が可能であったが,術後に門脈輪状膵の癒合部断端が原因と思われる膵液瘻を発症した.術前CTで腹腔動脈起始部の狭窄は軽度であり,術前には正中弓状靱帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome;以下,MALSと略記)の診断には至らなかったが,術後に撮影したCTで腹腔動脈起始部の狭窄,肝血流低下を認めた.膵液瘻に伴う仮性動脈瘤破裂,MALSによる肝梗塞などの合併症を発症したが,第74病日に軽快退院した.膵奇形に対して膵切除を行う場合は最適な膵切離位置や膵管再建法を考慮する必要がある.本症例のような膵多重奇形は極めてまれであり,かつ示唆に富む1例と考えられたため報告する.

Translated Abstract

We report an extremely rare case of an intraductal papillary mucinous neoplasm with pancreas divisum, portal annular pancreas, and bifid pancreas treated by pancreaticoduodenectomy. The patient underwent a normal pancreaticojejunostomy after pre- and intra-operative assessment of portal annular pancreas and bifid pancreas, but developed a postoperative pancreatic fistula from the stump of the transected pancreatic tissue posterior to the portal vein. We did not diagnose median arcuate ligament syndrome preoperatively, but postoperative CT showed stenosis of the celiac axis and hepatic ischemia. The patient developed a rupture of the arterial pseudoaneurysm due to the pancreatic fistula and hepatic ischemia due to median arcuate ligament syndrome, but recovered and was discharged on postoperative day 74. This case indicates that in planning a pancreatectomy for a patient with a pancreatic anomaly, the location of pancreatic transection and the appropriate method for reconstruction should be carefully considered.

はじめに

膵臓は胎生期に背側膵と腹側膵が癒合することで形成されるが,その過程における発育異常によりさまざまな奇形を生じうる.膵奇形には膵管の走行異常を伴う場合が少なくなく,膵切除の際には注意を要する1)~11).膵管癒合不全,門脈輪状膵,重複膵管の膵多重奇形を有し,さらに正中弓状靱帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome;以下,MALSと略記)を合併した膵管内乳頭粘液腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasms;以下,IPMNと略記)に対して膵頭十二指腸切除術を施行した1例を経験したため報告する.

症例

症例:62歳,男性

主訴:なし.

既往歴:糖尿病,緑内障

家族歴:特記事項なし.

生活歴:非飲酒,喫煙歴あり(本数不明)

現病歴:3年前に膵鈎部のIPMNと診断され,定期フォローされていた.造影超音波内視鏡検査で囊胞内に造影効果のある壁在結節を認め,手術適応と判断され当科に紹介となった.

現症:164.4 cm,62.5 kg.腹部平坦,軟で明らかな腫瘤を触知しなかった.

血液検査所見:血算,肝機能,腎機能,凝固系に異常を認めなかった.血清膵アミラーゼ47 U/l,CEA 2.2 ng/ml,CA19-9 74 U/ml.

腹部CT所見:膵鈎部に最大径45 mmの多房性囊胞を認めた.囊胞内に造影効果を伴う壁在結節を認めた.主膵管は最大9 mmに拡張していた.門脈の左背側で膵鈎状突起と膵体部が癒合しており,門脈輪状膵と診断した(Fig. 1a).Thin slice画像でも癒合部に明らかな膵管の交通は認めなかった.また,中結腸動脈から背側膵動脈と発達した前下膵十二指腸動脈が分岐する破格を認めた.腹腔動脈起始部に軽度の狭窄を認めたが,術前にはMALSの診断には至らなかった(Fig. 1b, c).

Fig. 1 

Preoperative dynamic CT images. a: The uncinate process communicating with the body of the pancreas over the superior mesenteric vein (arrowheads). b: No evidence of narrowing of the celiac artery (arrowhead). c: Dilated arterial arcade of the head of the pancreas (arrowheads). The middle colic arteries, dorsal pancreatic artery, and anterior inferior pancreaticoduodenal artery branched from the common duct. DPA: dorsal pancreatic artery, AIPDA: anterior inferior pancreatoduodenal artery, r-MCA: right branch of the middle colic artery, l-MCA: left branch of the middle colic artery.

MRCP所見:膵頭部に多房性囊胞を認めた.膵体部で主膵管が2本に分岐しており,重複膵管と診断した(Fig. 2a).

Fig. 2 

a: Preoperative MRCP showed pancreas bifidum (arrowheads). b: Contrast image of the major duodenal papilla. The Wirsung duct did not communicate with the Santorini duct. c: Contrast image of the minor duodenal papilla. There was dilatation of the branched pancreatic duct in the head of the pancreas. The main pancreatic duct was also dilated and branched into two ducts at the neck of the pancreas (arrowheads).

ERCP所見:十二指腸には主乳頭の他に副乳頭が開口していた.主乳頭は正常であったが副乳頭は開大しており粘液の排出を認めた.主乳頭からの造影では膵頭部の膵管のみが造影され,膵管の拡張は認めなかった.副乳頭からの造影で膵鈎部の囊胞が造影され,尾側の膵管は軽度拡張していた.以上より,膵管癒合不全,Santorini管から発生するIPMNと診断した.MRCP所見と同様に,膵体部で膵管は二股に別れ2本の膵管が描出された(Fig. 2b, c).

造影超音波内視鏡検査所見:膵頭部に多房性囊胞を認め,内部に造影効果のある8.5 mmの壁在結節を認めた.明らかな膵実質内への浸潤所見は認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Enhanced endoscopic ultrasound showed an enhanced mural nodule in a cystic lesion in the head of the pancreas (arrowheads). a) Non-enhanced image. b) Enhanced image.

以上の所見から,膵管癒合不全,門脈輪状膵,重複膵管の膵多重奇形を有する膵頭部のIPMNと診断した.門脈右縁レベルでは重複膵管は合流しており,同部位で切離することにより通常通りの膵空腸吻合が可能と考えた.門脈輪状膵については,膵鈎状突起と膵体部の癒合部に膵管の交通は認めず,癒合部の膵実質切離は可能と考えた.

手術所見:亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.中結腸動脈,背側膵動脈は温存し,前下膵十二指腸動脈を結紮切離した.術中超音波で門脈直上の重複膵管の合流部を確認し,門脈右縁で膵切離を行うことで再建する膵管を1本にしえた.術中迅速診断で膵断端に異型や癌は認めなかった.門脈輪状膵の癒合部はvessel sealing systemを用いて切離した.再建はChild変法で行い,膵空腸吻合はBlumgart変法(ロストステントを使用)で行った.背側の癒合部切離断端は有意な膵管の断端はないと判断し,吻合は行わずそのままとした.

病理組織学的検査所見:膵管内乳頭粘液腺腫.中等度の異型を認めた.

術後経過:ドレーンアミラーゼ高値であり膵液瘻と診断し,ドレナージを継続していた.第9病日に腹腔内出血を認め,造影CTで背側膵動脈の出血,腹腔動脈起始部の狭窄,肝動脈の狭小化を認めた(Fig. 4a~c).背側膵動脈の出血に対してcoilingを行い止血を得た.翌日,血腫貯留によるドレナージ不良が危惧されたため再開腹ドレナージを行った.再開腹所見では膵空腸吻合部はすでに癒合していたが,吻合部下縁背側に強い炎症と壊死物質を認め,門脈輪状膵の癒合部切離断端からの膵液瘻が疑われた.また,coiling後の血液検査でトランスアミナーゼの著明な上昇(AST 2,813 U/l,ALT 2,386 U/l)を認め,第12病日の造影CTではびまん性に散在する肝梗塞巣を認めた.MALSを合併していたため,背側膵動脈のcoilingにより背側膵動脈を介した肝動脈血流が著減し,肝梗塞を来したと考えられた.ドレナージを継続し,膵液瘻,肝梗塞ともに徐々に改善を認め,第74病日に退院した.

Fig. 4 

a: Abdominal hematoma due to bleeding from the dorsal pancreatic artery on dynamic CT on postoperative day 9 (arrowheads). b, c: 3D image of dynamic CT on postoperative day 9 showed narrowing of the celiac artery (arrowhead on b) and the hepatic arteries.

考察

膵臓は胎生期には腹側膵と背側膵の二つの膵原基に分かれており,胎生6~8週にかけて腹側膵が胆管とともに背側からまわり背側膵に癒合する.その際に腹側膵の主導管と背側膵の遠位側主導管が癒合することで主膵管(Wirsung管)が形成されVater乳頭に開口するが,この発生過程において異常が生じると膵管癒合不全が生じる.門脈輪状膵は膵鈎状突起が上腸間膜静脈を輪状に巻き込むように膵体部に癒合する形態異常であり,腹側膵が背側膵と癒合する際に門脈を輪状に包み込むことが成因とされている.重複膵管は主膵管が膵頸部から体部で2股に分岐する形態異常であるが,その成因はあきらかになっていない.これら膵奇形の発生率はそれぞれ,膵管癒合不全:2.9%1),門脈輪状膵:0.8~2.5%2)~4),重複膵管:0.9~2.7%5)6)と報告されている.これらは無症状のことが多くERCPや膵切除の際に偶発的に遭遇することも少なくない.それぞれの発生率が低いため,これらの膵奇形が重複して存在することは極めてまれであるといえる.膵奇形が重複する例としては輪状膵と膵管癒合不全が挙げられ,Sandrasegaranら7)は輪状膵の37%に膵管癒合不全が合併していたと報告している.その他の膵奇形重複例としては門脈輪状膵に膵管癒合不全が合併した1例報告8)があるのみであり,自験例のように膵管癒合不全,門脈輪状膵,重複膵管の三つの奇形が合併した報告はこれまでない.

今回認めた三つの奇形のうち,門脈輪状膵と重複膵管は膵管の走行異常を伴うため膵切除の際に注意を要する.その対処は腫瘍の位置や予定術式によっても変わるので,個々の症例について適切な膵切離位置や癒合部の処理方法を検討しなければならない.門脈輪状膵に対する膵頭十二指腸切除の場合,門脈前面と後面でそれぞれ膵切離を行い膵断端が2面になる場合と,膵鈎状突起と膵体部の癒合部より膵尾部側で追加の膵切離を行い膵断端が1面になる場合がある.門脈輪状膵はJosephら9)により3タイプに分類され,自験例は癒合部に膵管が交通しないタイプIIIであったが,重複膵管を合併していたため膵切離位置には特に注意を要した.膵切離位置の選択肢として①重複膵管の合流部の右側で門脈前面と後面でそれぞれ膵切離を行う方法と②重複膵管の左側で膵切離して2穴の膵管を再建する方法が考えられたが,膵管2穴の再建は経験に乏しかったため,門脈前面と後面でそれぞれ膵切離を行い通常の膵空腸吻合を行った.術前画像で門脈後面の癒合部には膵管が交通していなかったためvessel sealing systemで癒合部を切離したが,術後膵液瘻を認めたことから腹側膵管が末梢レベルで離断された可能性がある.門脈輪状膵の癒合部はメスで切離し,断端の膵管の存在を確認すべきと考えられた.

重複膵管症例に対して膵頭十二指腸切除を行う場合は,腫瘍の位置によっては膵断端の膵管が2穴になる可能性がある.医学中央雑誌(1964年~2019年12月)およびPubMed(1950年~2019年12月)で「重複膵管」,「膵空腸吻合」,「bifid pancreas」,「pancreaticojejunostomy」をキーワードとして検索したところ(会議録除く),これまで2穴膵管に対して膵空腸吻合を施行した報告は5例のみである.Shimら10)は2穴膵管に対して,片方の膵管を結紮処理した後に通常の膵空腸吻合を行い,術後膵液瘻を発症するも軽快退院したと報告した.残りの4例は2本の膵管を腸管に吻合する膵空腸再建を行ったと報告されている11)~13).2穴膵管に対して確立した再建方法はなく,個々の症例において最善と思われる再建方法を選択すべきである.鈴木ら12)によると,10例の重複膵管膵切除例のうち術前に重複膵管と診断できていたのは4例のみであった.特に細径膵管の場合,重複膵管を術前に診断することは困難かもしれない.しかし,重複膵管症例においては膵臓の切離位置と再建方法が非常に重要であるため,術前CTのthin slice像で重複膵管が疑われる場合はMRCPで重複膵管の有無を確認すべきと思われる.

本症例では膵奇形の他に,中結腸動脈から背側膵動脈と前下膵十二指腸動脈が分岐する動脈の破格を認めた.Yilmazら4)は門脈輪状膵55例中16例(29%)に動脈の破格を認め,中でも右肝動脈が上腸間膜動脈から分岐するいわゆるreplaced right hepatic arteryが最多であったと報告している.膵奇形を有する症例では特に術前に血管走行を確認しておくことが重要である.

今回,三つの膵奇形を伴う極めてまれな症例を経験した.近年の画像診断の進歩により,以前であれば見過ごされていた膵奇形も術前に診断できることが多くなってきている.これらを術前に把握し適切な手術を行うことで,膵液瘻などの重大な合併症を防ぐことが肝要である.

利益相反:なし

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