2020 Volume 53 Issue 8 Pages 681-686
まれな疾患であればなおのこと,定型的な症例であっても何らかの“気づき”が認められる.私が心がけている手術記録のポイントを以下に記載する.(1)手術記録は当日に完成させる.(2)Word入力するとコピー&ペーストを多用しがちになるため,可能なかぎり手書きとする.(3)公式文書であることを意識して記載する.(4)時間短縮を考慮し,下書き(下描き)は行わずに直接記載している(そのためには描き始める前のイメージトレーニングが極めて重要).(5)術前画像と術中所見の整合性が理解できるような手術記録を作成する.(6)手術記録完成時は,疾患に対する理解が最も高い状況であり,症例報告などとして迅速に報告することを意識する.手術記録は綺麗に仕上げることが目的ではないが,公式文書である以上,他人が閲覧することを意識する必要がある.手術記録の作成は術前のシミュレーションから始まっている.
手術記録は業務上の公式文書であると同時に,外科医にとっては手術コンセプトの表現形であると考えている.
日々の診療にあたり,まれな疾患であればなおのこと,定型的な症例であっても症例毎に何らかの“気づき”が認められる.画一的な手術,術後管理に陥らないためにも,1例1例から必ず何かを学び取る姿勢が重要である.
手術前シミュレーションから始まり,症例報告までを意識した手術記録作成のポイントについて報告する.
症例:66歳,女性
神経線維腫症I型に合併した腹部大動脈解離に対して大動脈ステントが挿入されていた.下腸間膜動脈領域の血流低下により,上腸間膜動脈系からの血流が増加し,左結腸動脈瘤破裂を来した.ショック状態となったため,止血目的に結腸左半切除,横行結腸人工肛門造設術を施行した.緊急手術症例であるが,術前にCT画像を検討し,病態を考察してから手術にのぞんだ(Fig. 1).切除標本は血管を丁寧に露出しながら処理し,標本の写真をとりながらスケッチを行った.報告価値があると考え,Surgical Case Reports誌に投稿し,8か月後に掲載された1).

Preoperative imaging. Three-dimensional-CT scan of the abdomen demonstrated the two locations of left colic artery aneurysms (arrowheads). The blood flow of the aneurysms was derived from the left branch of the middle colic artery (MCA) via the superior mesenteric artery (SMA) (red arrows). It is important to recognize the anatomical and pathological findings before surgery.
私が常に心がけている手術記録作成のポイントを以下に記載する.(1)手術記録は当日に完成させる.(2)Word入力するとコピー&ペーストを多用しがちになるため,可能なかぎり手書きとする.(3)公式文書であることを意識して記載する.(4)時間短縮を考慮し,下書き(下描き)は行わずに直接記載している(そのためには描き始める前のイメージトレーニングが極めて重要).(5)術前画像と術中所見の整合性が理解できるような手術記録を作成する.(6)手術記録完成時は,疾患に対する理解が最も高い状況であり,症例報告などとして迅速に報告することを意識する.
近年,医師の働き方改革が喫緊の課題となっている.労働時間(手術時間+手術記録作成時間)を短縮するためには,術前のシミュレーションが極めて重要である.種井ら2)は,術前のイラスト作成が手術遂行能力の向上に寄与すると述べている.私は,術前の画像から病態を明らかにして方針を決定し,術前イメージと整合性のとれる手術,手術記録作成が行えるように心がけている.人間の記憶は不確実であるので,術後管理などで多忙であっても,できるかぎり迅速に記載を行う.結果的にそれが時間短縮に繋がっている.手術記録のコピー&ペーストは記載漏れ防止の観点からは有用であるが,症例毎の特徴が埋もれてしまう危険性を含んでいる.私は,書き直しのできない書類を記載する意識で,下描きは行わずにボールペンを用いて描写している.十分なイメージトレーニングの元,症例毎の特徴を書き込むことが肝要である(Fig. 2A).しかし,検討会あるいは上級医からの指摘により書き直し(描き直し)を要することもある.スケッチに明らかな誤りが指摘された場合は新たな描き直しを躊躇しない.手術記録イラストには,情報を瞬時に得られることが求められている.そのためにカラー情報が重要と考えているが,着色に時間を要することも多い.私は,時間短縮の意味も込めて,水彩色鉛筆を使用している.絵具のように広い範囲を短時間で塗ることが可能で,通常の色鉛筆による着色よりも実物に近い質感を表すことができる.また,レイヤーの違いも表現できるため愛用している(Fig. 2B, 3).

A: Black and white illustration. First, I draw the illustrations using a ballpoint pen without a draft. B: Color illustration. Next, I color the illustrations using watercolor pencils.

Watercolor pencils. I always use these tools to color the illustrations.
近年では,内視鏡手術の普及に伴い,動画・写真による記録も広く行われるようになっている.術中動画・写真は正確な記録であり,情報量も多い.しかし,逆に情報量が多すぎるために重要なポイントが霞んでしまうという短所もある.イラストは写真では得がたい遠近感と鳥瞰図的な描写が可能で,1枚で手術の全てを記載することが可能である3)という利点がある.私もできるかぎり一目で多くの情報が理解できるようなイラストになるように留意している(Fig. 4).数工程の操作を1枚のイラストに書き込む工夫により,コマ数の節約4),時間短縮にも繋がる.イラストには“術者が認識している術野”が描かれており,手術コンセプトの表現形であると私は考えている.イラストを描写することは,若手医師にとっては自己の研鑽となり,ベテラン医師にとっては自分の手術哲学を後輩に伝える最良の手段となる.術中動画・写真,手描きのイラスト,それぞれの特徴を生かした手術記録の作成が望ましい.そして,公表するべき示唆に富む症例の場合には,術前画像,術中動画・写真,標本写真などを確実に保存しておき,最も理解の深まっている状態で,学会発表や論文報告まで繋げるよう心がける.稀少症例に遭遇した時に慌ててもすでに遅い.労働時間を短縮しながら質の高い報告を行うためには,普段からの習慣づけが大切で,常に症例報告を意識するような心積もりが重要である.

Operative record. I always draw illustrations with care so that the tumor’s location and the excision range can be recognized immediately.
これまでに私の手術記録イラストは,手描き→ペンタブレットを用いたパソコンでの描画→iPadによる描画→水彩色鉛筆による手描き,と変遷を重ねてきた(Fig. 5).パソコン,iPadによる描画は時間短縮の面で非常に有用であるが,画一的になりやすいことや個人情報管理の困難さを感じていた.それぞれ一長一短があり,私の中でも現在のスタイルが最終形とは考えていない.各個人あるいは各施設がそれぞれ時代に合ったやり方を模索していく必要がある.

Changes in my operative record illustrations. My operative record illustrations have changed with the times.
手術記録は綺麗に仕上げることが目的ではないが,公式文書である以上,他人が閲覧することを意識しなければならない.カルテ開示にも耐えうる内容であることが重要である.手術記録の作成は術前のイメージトレーニングから始まっており,これが手術の安全性,そして外科医の労働時間短縮にも繋がると考えている.
利益相反:なし