2020 Volume 53 Issue 9 Pages 687-692
食道癌術後の縫合不全は,ときに難治性の消化管皮膚瘻を形成する.今回,食道癌術後の食道胃管吻合部縫合不全が原因の難治性消化管皮膚瘻に対し陰圧閉鎖療法が有用であった2例を経験したので報告する.症例1は68歳の男性で,術前化学療法後の食道切除胸骨後経路胃管再建術後に,症例2は69歳の男性で,術前化学放射線療法後の食道切除胸壁前経路胃管再建術後に,それぞれ縫合不全に伴う消化管皮膚瘻を形成した.創部の掻爬,縫合不全部の再縫合,吸収性組織補強材充填などの治療を試みたが縫合不全は治癒しなかったため陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy;以下,NPWTと略記)を行ったところいずれの症例も創傷治癒が得られた.NPWTは創部の閉鎖陰圧より創面を密着させ,唾液などの消化液の漏出を遮断することで肉芽形成を促進させ創傷治癒の促進に有効と考えられた.
Intractable enterocutaneous fistula due to anastomotic leakage after esophagectomy for esophageal cancer continues to be a challenging complication. We present two cases of intractable enterocutaneous fistulae due to anastomotic leakage after esophagectomy that were successfully treated with negative pressure wound therapy (NPWT). The first case was a 68-year-old man who developed enterocutaneous fistula due to anastomotic leakage after esophagectomy with retrosternal gastric conduit reconstruction. The second case was a 69-year-old man who developed enterocutaneous fistula due to anastomotic leakage after esophagectomy with subcutaneous gastric conduit reconstruction after neoadjuvant chemoradiotherapy. Various procedures including debridement, resuturing the anastomotic leakage site and filling with a polyglycolic acid sheet were performed to control the enterocutaneous fistulae without success. NPWT was initiated in both cases, and both of them healed completely. NPWT is considered to be useful for intractable enterocutaneous fistulae, as it promotes granulation tissue formation and enhances wound healing by providing tightfitting wound surface with negative pressure and blocking leakage of the digestive juices, such as saliva.
食道癌術後の食道胃管吻合部縫合不全は,ときに難治性の消化管皮膚瘻を形成する.創周囲皮膚炎,唾液臭,長期間絶食のストレスによる患者側の苦痛はもちろんであるが,煩雑な創管理,入院期間の延長に伴う医療費の増大など,医療者側の負担も大きい.Argentaら1)によって報告された持続的な陰圧により創傷治癒促進する陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy;以下,NPWTと略記)は,感染創,熱傷,皮膚移植部,褥瘡などの急性・慢性創傷の治癒を促進する治療法として広く普及している.今回,食道癌術後の食道胃管吻合部縫合不全が原因の難治性消化管皮膚瘻に対し,NPWTにより治癒した2例を経験したので報告する.
症例1:68歳,男性
主訴:食物のつかえ感
既往歴:特記すべき事項なし.
経過:食物のつかえ感を主訴に近医を受診し,胸部食道癌の診断で当科紹介となった.精査の結果,食道扁平上皮癌,Mt,長径54 mm,cT3,cN2(No.2),cM0,cStage IIIと診断された.術前化学療法後に手術を行う方針とし,CF療法(cisplatin,80 mg/m2/day,day 1;5-FU,800 mg/m2/day,days 1–5)を3週間間隔で2コース施行後,胸腔鏡下食道切除,3領域郭清,胸骨後経路胃管再建,頸部吻合,胃管瘻造設術を施行した.食道胃管吻合は,細径胃管を作成したのち,胃管大彎側でcircular staplerを用いて行い,胃管断端部はlinear staplerを用いて閉鎖した.経鼻胃管を吻合部の減圧目的に留置した.術後第10病日より経口摂取を開始したが,第13病日に頸部創周囲の発赤・腫脹と同部位からの唾液流出を認めたため,食道胃管縫合不全と診断した.上部消化管内視鏡検査においてcircular stapler吻合部前壁の縫合不全であることを確認した(Fig. 1).絶飲食・経腸栄養管理,創部の洗浄・掻爬により頸部創の感染が制御できたため,縫合不全部の再縫合を試みたが,再び唾液の漏出が認められた.さらに,第13因子製剤投与,瘻孔部への吸収性組織補強材を充填したうえでの再縫合,医療用接着剤であるヒストアクリル経内視鏡的注入などを試みたが治癒しなかった(Fig. 2).大胸筋皮弁による形成術も検討したが,患者は保存的治療の継続を強く希望した.消化管と交通のある瘻孔に対するNPWTは適応外であるが,創部を密閉し持続陰圧を付加することによる創面の密着,肉芽形成の促進,浸出液など治癒阻害因子の除去による創傷治癒促進効果に期待し,十分に説明し同意を得たうえで第95病日にNPWT開始した.NPWTはSmith & Nephew社RENASYS®創傷治療システムを用いた.創周囲に皮膚保護材を貼付し,創面にガーゼ状の充填材であるコットンフィラーを生理食塩液に浸し充填し(Fig. 3a),120 mmHgで持続吸引した(Fig. 3b).第103病日(NPWT開始後8日目)に唾液漏出が止まり,第108病日(NPWT開始後13日目)には創面はほぼ上皮化し食事摂取可能となった(Fig. 4).上部消化管内視鏡で観察すると縫合不全部は上皮化し閉鎖していた(Fig. 5).

Endoscopic image. The esophagocutaneous fistula is shown at the anterior side of the anastomosis (arrow).

Appearance of the esophagocutaneous fistula before NPWT.

a: Appearance of the NPWT setup. The Cotton filler® was placed directly on the wound. b: Appearance of the NPWT setup. Negative pressure was applied continuously to the wound using the RENASYS® system.

Appearance of the healed wound. Saliva leakage stopped 8 days after the NPWT treatment, and the wound became epithelialized 13 days after the NPWT treatment.

Endoscopic imaging after the NPWT showed that the esophagocutaneous fistula was healed (arrow).
症例2:69歳,男性
主訴:食物のつかえ感
既往歴:20歳時に虫垂炎切除術
経過:食物のつかえ感を主訴に近医を受診し,同時性食道多発癌の診断で当科紹介となった.精査の結果,食道神経内分泌癌,Mt,長径20 mm,cT2,cN0,cM0,cStage II,食道扁平上皮癌,Mt,長径20 mm,cT2,cN0,cM0,cStage IIと診断された.DCF療法(docetaxel,30 mg/m2/day,day 1,day 15;cisplatin,7 mg/m2/day,day 1–5,day 8–12,day 15–19,day 22–26;5-FU,350 mg/m2/day,day 1–5,day 8–12,day 15–19,day 22–26)を併用した術前化学放射線療法(1.8 Gy/回,計41.4 Gy)後に,胸腔鏡下食道切除,3領域郭清,胸壁前経路胃管再建,頸部吻合,胃管瘻造設術施行した.食道胃管吻合は,症例1と同様の方法で行った.経鼻胃管を吻合部の減圧目的に留置した.術後第10病日より経口摂取を開始したが,第19病日に頸部創からの唾液流出を認め縫合不全と診断した.上部消化管内視鏡検査において器械吻合部前壁の縫合不全であることを確認した.その後,絶飲食,経腸栄養管理を行いながら,保存的治療を試みたが縫合不全は改善しなかった.第37病日にNPWT開始したところ,第58病日(NPWT開始後21日目)に瘻孔は閉鎖し食事摂取可能となった.
食道切除再建術後の縫合不全は重大な合併症の一つであり,その頻度はNational Clinical Database(NCD)を基にした本邦の報告では13.3%とされている2).頸部開放創の掻爬・洗浄,クリップやOTSC®システムによる内視鏡的処置3),OK432-5KE/フィブリノ-ゲン液の瘻孔辺縁への局所注射4),カバー付き食道ステント5),などさまざまな治療の有用性が報告されているが,ときに難治性となり大胸筋皮弁などの形成外科的手術を必要とする場合もある.難治性となる原因として,唾液,胃酸や膵液などの消化液逆流による創傷修復機能の低下,高い嚥下圧,縫合不全部から開放創までの皮下組織量が少ないこと,放射線照射による創傷修復機能の低下などが考えられる.今回,縫合不全が原因の難治性の消化管皮膚瘻に対して用いたNPWTは,急性・慢性創傷の治癒を促進する治療法として広く普及しており,また最近では,適応外ではあるが臓器と瘻孔のある創感染に対しNPWT を用いて軽快した報告がある.「陰圧閉鎖療法」,「縫合不全」をキーワードに医学中央雑誌(1997年~2018年)およびその引用文献から検索したところ(会議録除く),消化管吻合部縫合不全が原因の消化管と交通のある瘻孔に対するNPWTの有用性が6編報告されている6)~11).Table 1にそれぞれの原疾患,瘻孔部位,NPWTの期間,創傷治癒までの期間を示した.食道切除術後の縫合不全に関するものは,胸壁前経路右側結腸再建術後の食道回腸吻合部縫合不全が原因の消化管皮膚瘻に対する1例の報告のみであり10),本症例は食道胃管吻合部縫合不全が原因の消化管皮膚瘻に対する最初の報告である.これまで保存的治療で治癒しない場合には,筋皮弁や遊離空腸などの外科的手術を行ってきたが,2例の自験例はNPWTが極めて有用であった.NPWTの利点は,①保存的治療である,②創部を閉鎖するため唾液臭がなく,皮膚のトラブルが少ない,③2~3日に1度の交換で良いため患者・医療従事者双方の負担軽減になる,などが挙げられる.ただし,NPWTによる腸管穿孔例の報告12)13)もあり,場合によっては状態を悪化させてしまう可能性もあることから,適切な症例選択と定期的な注意深い観察が必要である.吻合部縫合不全が原因の消化管皮膚瘻に対するNPWTのよい適応は,縫合不全に伴う創部の感染状態が軽快し,また,壊死組織や不良肉芽が除かれた状態になってからと考える.そのような状態でNPWTを行うことで創面は密着し消化液の漏出が妨げられ,持続陰圧が可能となり創傷治癒促進に働くものと考える.ただし,消化管や血管などの臓器が露出している症例は陰圧による損傷の危険性があるため適応とはならない.また,消化管縫合不全部と皮膚瘻孔部に厚みがない症例は創面を密着させることが難しいため適応になりづらいと考える.
| Case | Author/Year | Disease | Location | Duration of NPWT | Duration until healing of SSI |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Taguchi6)/2011 | Esophageal atresia | Gastrocutaneous fistula | 14 days | 22 days |
| 2 | Mikami7)/2013 | Glottic cancer | Pharyngocutaneous fistula | 56 days | 56 days |
| 3 | Mikami7)/2013 | Submandibular cancer | Orocutaneous fistula | 14 days | 18 days |
| 4 | Saito8)/2013 | Glottic cancer | Pharyngocutaneous fistula | 38 days | 65 days |
| 5 | Matsumoto9)/2016 | Remnant gastric cancer | Colocutaneous fistula | 30 days | 55 days |
| 6 | Monma10)/2017 | Esophageal cancer | Esophagocutaneous fistula | Over 34 days | Over 80 days |
| 7 | Nagakawa11)/2017 | Ileus | Enterocutaneous fistula | 98 days | Over 105 days |
| 8 | Our case 1 | Esophageal cancer | Esophagocutaneous fistula | 13 days | 108 days |
| 9 | Our case 2 | Esophageal cancer | Esophagocutaneous fistula | 21 days | 58 days |
今回,食道癌術後縫合不全が原因の消化管皮膚瘻に対しNPWTが有用であった2例を報告した.創部を密閉し,持続陰圧付加による創面の密着が,肉芽形成を促進し,創傷治癒を促したと考えられた.NPWTは,食道癌術後の食道胃管吻合部縫合不全が原因の難治性消化管皮膚瘻に対する治療法の選択肢の一つとなると考えられた.
利益相反:なし