2020 Volume 53 Issue 9 Pages en9-
私が最近感じていることは,医療の専門分化についての功罪です.この三十年,Evidence Based Medicine(EBM)が定着し,さまざまな疾患の治療はガイドラインによって標準治療が細かく決められ,常にup-dateされています.標準治療であっても医療は高度化し,それを安全に実践するだけでもかなりの専門性が要求されるようになりました.国民もそれを当然のように期待しています.一方,働き方改革のなか勤務時間が制限され,かつて若手医師の手術であったものがより高度な手術になり若手の手術症例が減少する中,どのように教育するのか,矛盾を抱えています.
そのような現状で,専門以前に臨床医として身に付けるべき感覚を養う時間が犠牲になっているのではと感じています.大学病院や総合病院などでは各科に専門家が配置され,高度医療を支えています.高齢化社会の中,多くの合併疾患を持った患者に対してハイリスクな医療を行ううえでは欠かせません.ただ心配なのは,ちょっとしたことでも専門家に判断を委ねる傾向にあり,それ自体は悪いことではありませんが,その際に思考の停止が起きることが問題です.専門家に委ねる前に診断はどうか,どうすべきか自分なりの判断をして欲しいものですが,多忙の中,何も考えずにコンサルトする傾向にあります.まさに医療のアウトソーシング,タスクシフトです.目の前の仕事の合理化のためは良いかもしれませんが,土台のしっかりした医師は育たないでしょう.私は,これからの若手外科医には若いうちはオールラウンドに修練する時期があっても良いのではと思っています.将来専門家としての道に進むにしても,その経験が大きな土台となるでしょう.
さて,第53巻9号の掲載論文は,症例報告8編です.加えて第74回日本消化器外科学会総会特別企画「オペレコを極める」の原稿2編も掲載されています.いずれも興味深い内容のものばかりですが,今月の一押し論文には,岡田浩樹先生の「先天性胆道拡張症術後49年および膵頭十二指腸切除術後28年後に発症した肝門部胆管癌の1例」を選びました.1歳時に肝外胆管切除胆管空腸吻合術,22歳時に膵石症に対して膵頭十二指腸切除術を施行され50歳時に胆管空腸吻合部の胆管癌発症した症例報告です.胆汁逆流や膵液との混合など胆管癌発症の危険因子が示唆される症例であり,ぜひ,ご一読ください.
(斎浦 明夫)
2020年9月1日