The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Resection Case of Radiation-Induced Advance Rectal Carcinoma with a Preoperative Diagnosis of Carcinoma in Situ
Kazuma IwataTakaya KobatakeRyoji OchiaiNaruyuki KobayashiTetsuya KagawaYoshihiro MikuriyaShinji HatoKoji OhtaNorihiro TeramotoIsao Nozaki
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2021 Volume 54 Issue 1 Pages 66-72

Details
Abstract

症例は67歳の女性で,38年前に子宮頸癌に対して手術と術後放射線療法を施行されていた.検診で便潜血陽性のため,近医で下部消化管内視鏡検査を施行された.放射線性直腸炎と,同部位にわずかな隆起性病変を認め,生検でGroup 3であり当院内科紹介となった.腸管の可動性が乏しく内視鏡操作不良で,病変の範囲も不明瞭のため,内視鏡的治療は困難であった.半年後の生検結果がGroup 4であり当科紹介され,放射線性腸炎を伴う直腸癌の疑い(0-IIb,cTisN0M0)と診断しハルトマン手術D2郭清を施行した.病理組織学的検査では粘膜に高分化腺癌が平坦に拡がり,粘膜下層から固有筋層にかけて囊胞壁に腺癌が進展していた.周囲に放射線障害を伴い,放射線誘発進行直腸癌0-IIb,pT2N0M0,fStage Iと診断した.放射線誘発大腸癌は術前診断が困難で,治療が遅れる可能性があり,注意が必要と思われた.

Translated Abstract

A 67-year-old woman underwent surgery and postoperative radiation therapy for cervical carcinoma 38 years ago. She underwent colonoscopy at another hospital because a physical examination revealed positive fecal occult blood. Radiation proctitis and a slight elevated lesion in the same area were detected, and a pathological study of the biopsy sample revealed a group 3 finding. She was referred to the Department of Gastroenterology at our hospital. Endoscopic treatment was difficult due to poor intestinal mobility, poor endoscopic manipulation, and the unclear extent of the lesion. A pathological study of the biopsy performed 6 months after colonoscopy revealed group 4. She was referred to our department for a surgical treatment. We diagnosed suspected rectal carcinoma (Type 0-IIb, cTisN0M0) with radiation proctitis and performed a Hartmann operation. Pathological findings of the resected specimen showed a flat extension of highly differentiated adenocarcinoma in the mucosa and adenocarcinoma on the wall of the cyst extending from the submucosa to the muscularis propria. A diagnosis of radiation-induced advanced rectal carcinoma (Type 0-IIb, pT2N0M0, fStage I) with surrounding radiation injury was made. This case shows that care is needed to avoid a delay in treatment because the preoperative diagnosis of radiation-induced colorectal carcinoma is difficult.

はじめに

放射線誘発大腸癌は,骨盤内放射線治療から4~10年以上経過して同部位に誘発・発症した大腸癌とされ,比較的まれな病態ではあるが,特に婦人科疾患に対する放射線治療後の報告が散見される1)~4).背景に放射線性腸炎を伴うことが多く,癌との鑑別に難渋することもある.

今回,我々は下部消化管内視鏡検査で粘膜内癌を疑われ,ESD目的に紹介されたが,内視鏡操作不良のため手術に踏み切り,病理組織学的検査において放射線誘発進行直腸癌であった1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:67歳,女性

主訴:便潜血陽性

既往歴:38年前に子宮頸癌(扁平上皮癌)に対して子宮全摘,両側付属器切除および術後放射線療法(線量不明)を施行された.

現病歴:検診で便潜血陽性を指摘され,近医で下部消化管内視鏡検査を施行された.放射線性直腸炎とその範囲内にわずかな隆起性病変を認めた.生検でGroup 3であったため,精査加療目的に当院消化器内科に紹介となった.腸管の可動性が乏しく内視鏡の操作性が不良で,病変の範囲も不明瞭であったため,内視鏡的治療は困難と判断し,経過観察の方針となった.半年後に施行した生検結果がGroup 4であり,手術加療目的に当科紹介となった.

血液検査所見:血液・生化学検査では特記すべき異常は認めなかった.

腫瘍マーカーはCEA 2.6 ng/ml,CA19-9 10 U/mlと基準範囲内であった.

下部消化管内視鏡検査所見:直腸全体に放射線治療後の影響と思われる毛細血管拡張,内腔の狭小化を認めた.腸管の硬化があり送気による拡張は不良で,内視鏡操作は困難であった.肛門縁から約20 cmの部位に境界不明瞭な肉眼型0-IIbの病変を認めた.Narrow band imaging(以下,NBIと略記)拡大内視鏡観察では毛細血管の拡張を軽度認めるものの,JNET分類でType 1,クリスタルバイオレット染色でI型pit patternであった.同部位の生検結果がGroup 4であったため粘膜内癌が疑われたが,内視鏡操作不良のため内視鏡的治療は困難と判断され当科紹介となった(Fig. 1).

Fig. 1 

a) Colonoscopy showed an unclear elevated lesion at the site about 20 cm from the anal verge. b) A magnified view with narrow band imaging showed uniform blood vessels slightly expanded in the lesion. The lesion was type 1 in the JNET classification. c) A magnifying view with crystal violet spray showed I pit pattern on the lesion. d) Biopsy findings showed adenoma with advanced atypia or carcinoma in situ, designated as group 4 (HE ×400).

腹部造影CT所見:骨盤内脂肪織の濃度上昇,直腸および膀胱の壁肥厚を認めるももの,明らかな腫瘍性病変は指摘できなかった.明らかなリンパ節転移や遠隔転移も認めなかった.

術前診断:半年前の下部内視鏡検査所見と比べて病変がやや明瞭になってきたこと,生検結果がGroup 4であったことから放射線性腸炎を伴った直腸癌の疑い(RS,0-IIb,cTisN0M0)と診断した.内視鏡操作が不良で内視鏡的治療は困難と考えられたことを踏まえ外科的切除を行う方針とした.

手術所見:開腹時やや混濁した乳白色の腹水を少量認めた(腹水細胞診の結果はClass I).直腸S状部~上部直腸と骨盤内に落ち込んでいる回腸は白色でやや壁肥厚があり放射線の影響と思われた.上部直腸に術前に腫瘍部位に施行した点墨を認め,ハルトマン手術D2郭清(#253サンプリング)を施行した.S状結腸断端を後腹膜経路で挙上し単孔式人工肛門とした.手術時間は3時間9分,出血量は130 mlであった.

切除標本肉眼所見:病変は,周囲粘膜と比較して境界がやや不明瞭な2.3×2.0 cm 大で,わずかに発赤を伴うほぼ平坦な粘膜であった.腺腫から粘膜内癌と思われた(Fig. 2).

Fig. 2 

a) Macroscopic findings of the resected specimen showed a type 0-IIb tumor of 23×20 mm in size, which was a nearly flat mucosa with slight redness (arrows). b) Macroscopic findings of the fixed specimen. The red lines show cut lines of the tumor. The tumor depth was MP.

病理組織学的検査所見:長径1 cmを超えるものを含む多房性囊胞が,主に固有筋層を主座として広がっていた.囊胞に近接した粘膜と粘膜下層の一部に高分化腺癌が浸潤増生しており,囊胞の裏打ち上皮はそれと連続していると思われる異型腺上皮であった.病変周囲には血管壁の肥厚や線維化を認め,放射線障害を伴っていた.以上より,放射線誘発進行直腸癌,Ra,0-IIb,20×15 mm,tub1,pT2,INFα,Ly0,V0,BD1,Pn0,pPM0,pDM0,pRM0,pN0,cM0,fStage I,R0(大腸癌取扱い規約第9版)と診断した(Fig. 3).

Fig. 3 

Microscopic findings of the tumor. Well-differentiated adenocarcinoma was spread flatly in the lesion mucosa. There were some cysts in the submucosa and the muscularis propria (HE ×4). a) Some glands had penetrated the submucosal layer from the region of loss of the lamina muscularis mucosae. Adenocarcinoma had invaded the submucosal layer (HE ×40). b) Adenocarcinoma had invaded the cyst wall in the muscularis propria (HE ×200). c) The vascular wall around the lesion had thickened and become fibrotic due to radiation-induced damage (HE ×200).

術後経過:術後26日目に合併症なく退院し,術後6年を経過した現在,無再発生存中である.

考察

放射線誘発癌の定義は,1971年にArlenら4)が報告しており,①一次癌と異なる組織型である,②放射線照射野に発生している,③放射線照射後4年以上経過している,④組織学的に証明されている,の四つの条件を全て満たすものとされている.本邦では1981年に報告された酒井ら5)の確信度分類がよく用いられる.この分類によると,二次癌の発生臓器と病理組織像が一次癌と異なり,5年以上の潜伏期があり,二次癌の発生部位が照射野内である場合に確信度が高い(A-1)とされており,このA-1基準を満たすものを放射線誘発癌と判断することが多い.自験例は一次癌と別臓器で異なる組織型の発癌であること,放射線治療後38年経過していること,二次癌発生部位が放射線照射範囲内であることから放射線誘発直腸癌と診断した.

医学中央雑誌において1964年から2019年4月の期間で「放射線誘発大腸癌」(本文あり)をキーワードとして検索したところ,本邦では,1993年に笹屋ら2)が29例,2002年に荒川ら6)が58例,2006年に成井ら7)が56例,2013年に金光ら8)が35例をまとめて報告している.いずれの報告においても放射線性腸炎を高率(66%~75%)に合併しており,自験例でも病変周囲に放射線性腸炎を認めていた.放射線性腸炎の概念は1897年にWalshら9)が報告しており,細胞の組織学的変化や細小血管の閉塞により粘膜の血流・栄養障害が生じ,びらんや潰瘍などを引き起こした状態としている.さらに,放射線による腸管障害はTodd10)により早期障害と晩期障害に分類されている.早期障害は30%~75%に見られ,通常3か月以内に起こる可逆性の変化であり,粘膜の一時的な炎症や浮腫が主である.晩期障害は2~20%に見られ,半年~1年後以降に見られる不可逆性の変化であり,動脈の壁肥厚に伴う閉塞性内膜炎による虚血性変化として粘膜下層の線維化や潰瘍形成を認める状態である.晩期障害は40~45 Gyを超える線量でリスクが上昇するとの報告がある11).自験例では放射線治療の線量は不明であったが,下部内視鏡検査で腸管内腔の狭小化や腸管の可動性が不良であったこと,病理学的に血管壁の肥厚や線維化を認めたことなどから,晩期障害としての放射線障害があったと考えられた.

放射線性腸炎を伴う粘膜において,内視鏡検査で炎症と癌を区別することは難しい.成井ら7)がまとめた放射線誘発大腸癌のうち深達度の記載があるもので,深達度SMまでで手術された症例は48例中5例(10.4%)のみであり,早期診断が難しく,進行癌の報告が多い.自験例は,病変はほぼ平坦な発赤として認められ,初回の生検結果はGroup 3であった.半年の経過観察後も表層の粘膜に潰瘍性病変を認めず,拡大内視鏡でも粘膜は腫瘍性変化に乏しかった.生検結果がGroup 4となったことから手術に踏み切ったが,進行癌となっていた.成井ら7)や五十嵐ら12)は,肉眼的には腫瘍性病変や潰瘍性病変を認めず,放射線性腸炎と思われた病変が,1年後には固有筋層を超える進行癌となり発見された症例を報告している.五十嵐ら12)は,癌細胞のほとんどが粘膜下層に存在し,粘膜層内にはわずかであったことから,表層を粘膜で覆われていた状態の浸潤癌がすでに存在し,表層が脱落して病変が顕在化した可能性が考えられるが,原因は明らかではないとしている.自験例では,長径1 cmを超える囊胞が,固有筋層に存在していた.囊胞近傍の粘膜筋板が一部欠損し,腺管が粘膜下層に貫入し,囊胞化している部分が見られること,粘膜固有層に線維筋症を認めることから,この囊胞は深在性囊胞性大腸炎(colitis cystica profunda;以下,CCPと略記)によるものと考えられた.この囊胞に近接した粘膜と粘膜下層の一部に高分化腺癌が浸潤増生しており,囊胞の裏打ち上皮はそれと連続していると思われる異型腺上皮であった.囊胞壁から固有筋層への浸潤像や内腔への乳頭状増生は認めないため,囊胞内での癌化ではなく,粘膜からの腺癌の進展と考えられた.

CCPは直腸粘膜脱症候群の亜型に分類され,粘膜下に囊胞を形成し,隆起性変化を来す疾患である13).発生機序として,炎症性刺激による粘膜筋板の破壊,脆弱化による粘膜固有層の陥入が提唱されており14),その炎症の誘因の一つに放射線が挙げられている15).笹屋ら2)の報告では,放射線性腸炎の約37%,放射線誘発大腸癌の約24%にCCPを合併していた.しかし,CCPに癌を認めたか非癌部にCCPを認めたかの詳細な記載はなかった.成井ら7)や川﨑ら16)の報告では,非癌部にCCPを認めたとされているが,癌病変部はすでに潰瘍性病変となっており,CCPがあったかどうかの詳細は記されていなかった.自験例のように粘膜面が保たれた状態でCCPの部位に癌を認めた報告例は検索しえたかぎりなかった.囊胞の腸管内腔側の粘膜は非常に薄く,この粘膜が脱落すると急に潰瘍性病変が出現する前段階と思われた.この所見は,五十嵐ら12)が原因は明らかではないとしていた,経過観察していた症例が急に進行癌で発見された報告を理由づける可能性があると思われた.表層粘膜に腫瘍性変化が乏しく,平坦な病変であっても,CCPの合併により進行癌となっている可能性を念頭に置く必要があると考えられた.

反省点は,自験例では内視鏡所見で病変の隆起がわずかであったこと,造影CTで病変を捉えられなかったことなどから超音波内視鏡やMRIを施行していなかったことである.しかしながら,放射線誘発大腸癌を疑う病変に対して術前に超音波内視鏡やMRIを行いCCPの存在を指摘したような本邦報告は見受けられなかった.これは自験例のように内視鏡所見が腫瘍性変化に乏しいために経過観察されていた可能性がある.放射線性腸炎を伴う腸管において,粘膜面の変化がわずかで癌の診断に苦慮する場合,超音波内視鏡やMRIによる深在性囊胞の確認や超音波内視鏡下穿刺吸引法による生検の施行は,癌の診断や深達度の評価の一助になる可能性があると考えられた.

近年,骨盤内悪性腫瘍に対して放射線療法を行う機会が増えてきており,今後も放射線誘発直腸癌の増加が予想される.放射線治療を行った際には二次癌としての大腸癌のリスクが高くなることを周知するとともに,長期にわたるサーベイランスを行う必要がある.自験例のように診断や治療方針に難渋することがあり,特に放射線性腸炎を認める例においては癌との鑑別および,予想以上に進行している可能性を念頭に治療介入していくことが重要であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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