2021 Volume 54 Issue 10 Pages 657-664
目的:切除不能進行・再発胃癌のニボルマブ投与患者における栄養状態と予後の関係を明らかにすることを目的とした.方法:当科にて,2017年10月~2019年12月にニボルマブの投与前にControlling Nutritional Status score(以下,CONUT scoreと略記)を測定した切除不能進行・再発胃癌患者31人を,栄養状態が良好なA群(10例)と不良なB群(21例)に分け,治療成績,予後に関係する因子について後方視的に検討した.結果:病巣制御率が,A群90%,B群33%とA群が良好だった(P=0.0032).多変量解析で,CONUT scoreが病巣制御の予測因子と示された(OR 14.7;P=0.022).予後に関しては,生存期間中央値が,A群が337日,B群が123日と,有意差をもってA群が良好だった(HR 0.36;P=0.033).多変量解析で,CONUT scoreが全生存期間の予後因子と示された(HR 0.32;P=0.022).結語:ニボルマブ投与前の栄養状態が治療効果,予後と相関していた.CONUT scoreがニボルマブの治療効果を予測する因子として臨床上有用な指標になる可能性があると考えられた.
Purpose: The aim of this study was to examine the usefulness of the Controlling Nutritional Status (CONUT) score as an indicator of the therapeutic effect and as a prognostic marker in patients treated with nivolumab for unresectable advanced gastric cancer. Materials and Methods: A retrospective analysis was performed for 31 patients with the CONUT scores before treatment with nivolumab for unresectable advanced gastric cancer from October 2017 to December 2019. The patients were divided into two groups based on a normal (group A) or poor (group B) nutritional status assessed by the CONUT score. Result: Patients with a normal nutritional status had a significantly better therapeutic response based on disease control rates of 90% in group A and 33% in group B (P=0.0032). Multivariate analysis showed that the CONUT score was a predictor of disease control (odds ratio: 14.7, P=0.022). Patients with a normal nutrition status also had a significantly better prognosis, with median survival times of 337 days in group A and 123 days in group B (hazard ratio [HR]: 0.36, P=0.033). Multivariate analysis showed that the CONUT score was a prognostic indicator of overall survival (HR: 0.32, P=0.022). Conclusion: The CONUT score was correlated with the therapeutic effect of nivolumab and with disease prognosis. Thus, the CONUT score may be a clinically useful index to predict the effect of nivolumab in patients with unresectable advanced gastric cancer.
胃癌患者は栄養状態が低下しやすく,切除可能胃癌患者では術前の栄養状態と短期的・長期的予後が関係すると報告されており1)2),切除不能進行・再発胃癌患者においても栄養状態が,治療への反応性や予後に影響すると報告されている3)4).
これまで,さまざまな栄養評価指数が予後との関係の検討に用いられてきたが,栄養評価指数の一つに,Controlling Nutritional Status score(以下,CONUT scoreと略記)がある5).CONUT scoreは,蛋白合成能(血清アルブミン値),免疫能(総リンパ球数),脂質代謝能(総コレステロール値)の3要素から栄養状態を評価する指標である.近年,CONUT scoreと胃癌患者の短期・長期的予後との関係が報告されている6)~8).
一方,2017年に胃癌に対する免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブの適応が承認された.3次ライン以降の治療となることから,投与を検討する時点で患者の栄養状態が不良となっている場合がある.他癌腫においては,免疫チェックポイント阻害薬投与時の栄養状態と予後との関係が報告されているが9)~11),胃癌についての報告は少ない.
CONUT scoreを栄養評価指数とし,ニボルマブで治療を受ける胃癌患者の栄養状態と,治療効果や予後との関係を明らかにする.
当科において,2017年10月から2019年12月の間に,切除不能進行・再発胃癌に対してニボルマブの投与を開始した患者33人のうち,投与前にCONUT scoreを測定した患者31人を対象とした.
CONUT scoreは,血清アルブミン値,総リンパ球数,血清総コレステロール値から算出され,0~1点が正常,2~4点が軽度栄養不良,5~8点が中等度栄養不良,8点以上が高度栄養不良と定義される(Fig. 1).今回は,0~1点の正常患者をA群(10例),2点以上の栄養不良患者をB群(21例)とした(Fig. 2).CONUT scoreと生存,治療効果の関係を後方視的に比較検討した.また,生存,治療効果に関係する因子について単変量および多変量解析を行った.臨床病理学的所見,治療内容,治療成績は,診療録とデータベースより調査した.臨床病理学的所見は,胃癌取扱い規約第14版に従った.治療効果はResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors(以下,RECISTと略記)version 1.1に従い,治療中に生じた有害事象は,Common Terminology Criteria for Adverse Events(以下,CTCAEと略記)version 5.0に従って評価を行った.統計処理はJMP version 14.を用いた.2群間の比較にχ2検定,Wilcoxon検定を用いた.生存曲線の算出にKaplan-Meier 法を用い,log-rank法で検定を行った.生存に関係する因子の検定はCox比例ハザードモデルを用い,治療効果に関する因子の検定にはロジスティック回帰分析を用いた.いずれも,P値が0.05以下を有意差ありと判定した.
CONUT scores.
Distribution of CONUT scores.
患者背景をTable 1に示す.性別・年齢に有意差がなかった.Performance status(以下,PSと略記)は全例で0または1だった.治療ラインはA群が3次治療で治療されている割合が多く,それに対して,B群では4次治療以降に治療された割合がやや多かったが有意差は認めなかった(P=0.067).転移・再発様式は,B群で腹膜播種が多かったが,A群とB群の転移・再発様式に有意差を認めなかった(P=0.15)(Table 1).
Group-A (n=10) | Group-B (n=21) | Total (n=31) | P value | |
---|---|---|---|---|
Sex | ||||
male/female | 8/2 | 16/5 | 24/7 | 0.81 |
Age, median (range) | 70 (55–76) | 68 (43–83) | 68 (43–83) | 0.67 |
Treatment line | 0.067 | |||
3 | 9 | 12 | 21 | |
4 | 1 | 7 | 8 | |
5 | 0 | 2 | 2 | |
Previous gastrectomy | ||||
Yes/No | 8/2 | 19/2 | 27/4 | 0.42 |
Histological type | ||||
Differentiated/Undifferentiated | 7/3 | 9/12 | 16/15 | 0.16 |
Metastatic site | 0.15 | |||
Lymph node | 3 | 5 | 8 | |
Peritoneal | 3 | 11 | 14 | |
Liver | 5 | 4 | 9 | |
Lung | 3 | 5 | 8 | |
Bone | 0 | 2 | 2 |
治療経過に関して,Table 2に示す.投与コースは,A群の中央値が9コースに対し,B群の中央値が4コースだった.A群の投与コースが有意差をもって多かった(P=0.0051).治療効果は,両群ともにcomplete response(以下,CRと略記)の症例を認めなかった.しかし,A群がpartial response(以下,PRと略記):2例,stable disease(以下,SDと略記):7例,progressive disease(以下,PDと略記):1例に対し,B群がPR:2例,SD:5例,PD:14例だった.以上から,病巣制御率は,A群が90%に対し,B群が33%とA群において有意に高かった(0.0032).奏効率は,A群が20%に対し,B群が9.5%とA群が高かったが,有意差は認めなかった(P=0.42).有害事象は,A群で40%に認め,B群で48%と,B群に多かったが,有意差は認めなかった(P=0.21).
Group-A (n=10) | Group-B (n=21) | Total (n=31) | P value | |
---|---|---|---|---|
Course of medication | 9 (4–53) | 4 (1–28) | 5 (1–53) | 0.0051* |
Best overall rate | 0.012* | |||
CR | 0 | 0 | 0 | |
PR | 2 (20%) | 2 (9.5%) | 4 (12.9%) | |
SD | 7 (70%) | 5 (23.8%) | 12 (38.7%) | |
PD | 1 (10%) | 14 (66.7%) | 15 (48.4%) | |
Disease control rate | 90% | 33.3% | 51.6% | 0.0032* |
Response rate | 20% | 9.5% | 12.9% | 0.42 |
Immune-related adverse events | ||||
Any Grade | 4 (40%) | 10 (48%) | 14 (45%) | 0.21 |
Grade 3/4 | 0 | 3 (9.7%) | 3 (9.7%) | 0.88 |
続いて,全生存期間を検討した.自験例全体での検討では,中央値(median overall survival;以下,mOSと略記)が199日,全生存率は,6か月で53.6%,12か月で24.9%だった(Fig. 3).
Kaplan-Meier plot of overall survival (all cases).
A,B群に分けて検討すると,A群のmOSが337日,全生存率は,6か月で90%,12か月で38.6%であった.一方,B群は,mOSが123日,全生存率は,6か月で35.4%,12か月で17.7%だった.有意差をもってA群が良好であった(Fig. 4).
Kaplan-Meier plot of overall survival (group A and group B).
全生存期間に影響を与える因子について,性別,年齢(中央値である68歳以上/未満),組織型(分化型/未分化型),治療ライン(3/4以上),胃切除の有無,CONUT score(正常/低下),に関して単変量解析を行ったが,CONUT score のみで有意差を認めた(P=0.033).次に,性別,年齢,CONUT scoreを説明変数として多変量解析を行い,CONUT scoreのみに有意差を認めた(P=0.022)(Table 3).以上から,ニボルマブ投与前のCONUT scoreは全生存期間における予後因子であると考えられた.次に,治療効果について検討した.病巣制御(治療効果がSD,PR,CR)と,性別,年齢(68歳以上/未満),組織型(分化型/未分化型),治療ライン(3/4以上)胃切除の有無,CONUT score(正常/低下)の関係を単変量解析で検討した.先に示したように,病巣制御はCONUT scoreと関連していたが,その他の因子とは関連していなかった.さらに,P値が0.1以下だった,治療ラインとCONUT scoreを説明変数として多変量解析すると,CONUT scoreのみ有意差を認めた(P=0.022)(Table 4).以上から,CONUT scoreはニボルマブ投与症例において,独立した病巣制御の予測因子と考えられた.
Univariate analysis | Multivariate analysis | |||
---|---|---|---|---|
HR (95% CI) | P value | HR (95% CI) | P value | |
Sex (Male/Female) | 0.70 (0.28–1.96) | 0.48 | 0.61 (0.23–1.81) | 0.36 |
Age (≥68/<68) | 0.84 (0.35–2.12) | 0.69 | 0.58 (0.21–1.59) | 0.28 |
Histological type (Differentiated/Undifferentiated) | 0.47 (0.20–1.16) | 0.16 | ||
Treatment line (3/≥4) | 0.57 (0.25–1.39) | 0.21 | ||
Previous gastrectomy (Yes/No) | 0.66 (0.24–2.31) | 0.48 | ||
CONUT score (0, 1/≥2) | 0.36 (0.12–0.93) | 0.033* | 0.32 (0.10–0.85) | 0.022* |
Univariate analysis | Multivariate analysis | |||
---|---|---|---|---|
OR (95% CI) | P value | OR (95% CI) | P value | |
Sex (Male/Female) | 0.75 (0.14–4.09) | 0.74 | ||
Age (≥68/<68) | 0.64 (0.14–2.76) | 0.55 | ||
Histological type (Differentiated/Undifferentiated) | 1.47 (0.36–6.05) | 0.59 | ||
Treatment line (3/≥4) | 3.79 (0.75–19.04) | 0.097 | 2.01 (0.34–12.91) | 0.42 |
Previous gastrectomy (Yes/No) | 1.08 (0.13–8.80) | 0.94 | ||
CONUT score (0, 1/≥2) | 18 (1.89–171.88) | 0.0032* | 14.7 (1.48–146.7) | 0.022* |
さまざまな癌腫において,栄養状態は身体の抵抗力や治療への反応に関連することが報告されている12)13).胃癌患者は栄養状態が低下しやすく,切除可能胃癌患者においては,術前栄養状態の短期・長期的予後への影響がこれまで数多く報告されている.また,切除不能・再発胃癌患者においても,栄養状態が化学療法の効果や予後に関係があると報告されている2)~4).
胃癌においては,免疫チェックポイント阻害薬の適応は,ATTRACTION-2試験の結果からニボルマブが2017年に承認され,KEYNOTE-062試験の結果から,ペムブロリズマブが2019年に承認された14).ニボルマブが承認されてからまだ期間が浅く,実臨床における成績の報告はまだ少ない15).自験例全体での治療成績は,病巣制御率が51.6%,奏効率が12.9%であり,mOSが199日であった.ATTRACTION-2試験では,病巣制御率が40.3%,奏効率が11.2%,mOSが5.26か月であり,実臨床でもATTRACTION-2試験と同等な成績が得られた14).
免疫チェックポイント阻害薬は抑制されたT細胞を活性化することで,その抗腫瘍効果が発揮される.このため,免疫チェックポイント阻害薬の効果は,T細胞が疲弊した状態では現れにくいといわれている16)17).また,T細胞の機能には代謝が関係するとされ,代謝活性が低下しているとT細胞の機能が低下するともいわれている18)19).ニボルマブの投与を検討する胃癌症例は以前に複数の抗癌剤治療を受けている.抗癌剤の副作用や,病状の進行に伴い栄養状態が不良な場合があるが,栄養状態が良好な症例では代謝活性が高く,T細胞の抗腫瘍効果にプラスの影響を及ぼしたと推察された.
これまで,太田ら15)や,Ogataら20)により,好中球リンパ球比(neutrophil-lymphocyte ratio;以下,NLRと略記)が,ニボルマブにて治療された進行胃癌患者の予後と相関すると報告されている.しかし,NLRは簡便に測定可能な値であるが,カットオフ値の設定に関して定まった見解がないといった問題もある21).一方で,CONUT scoreはIgnacio de Ulíbarriら5)によって提唱され,血清アルブミン値,総リンパ球数,総コレステロール値の三つの血液検査値から算出するもので,客観的に蛋白合成能(血清アルブミン値),免疫能(総リンパ球数),脂質代謝能(総コレステロール値)の3要素から栄養状態栄養状態を評価する指標である.これまで,胃癌患者において短期的予後と相関するだけではなく,長期的予後と相関すると報告されている6)8)22)23).また,他癌腫においては,免疫チェックポイント阻害薬の効果と相関するとも報告されている9)10).胃癌の治療効果や予後の予測因子としてCONUT scoreが多用されるようになっているが,ニボルマブで治療を受けた胃癌患者の予後,治療効果を検討した報告はこれまでなかった.本報告がニボルマブで治療される胃癌症例において,CONUT scoreが予後因子,病巣制御の予測因子となりうると初めて報告した.
ニボルマブ投与前のCONUT scoreを指標に,栄養状態と治療成績・予後に関して検討を行った.今回の検討で,CONUT scoreは奏効率とは相関していなかったが,病巣制御率と相関していた.また,独立した病巣制御の予測因子だった.さらに,CONUT scoreが良好な群のOSは有意に良好で,CONUT scoreはニボルマブを投与する胃癌症例の予後因子であるといえる.免疫チェックポイント阻害薬においては,治療効果が奏効であることのみならず,病巣制御が生存に関係していることを考えれば24),CONUT scoreが良好であることがニボルマブの効果予測になる可能性は十分にあるものと考えられる.
今回の検討のlimitationとして,後方視的検討あることによるバイアスの存在に留意する必要がある,ニボルマブを投与したうち2症例を検討から外したのは,意図せずCONUT scoreが測定されていなかったためだった.また,栄養状態と治療ラインが相関しており,交絡が存在する可能性が否定できない.しかし,今回の検討では,治療ラインよりもCONUT scoreが予後,治療効果との関連が強かった.
以上から,ニボルマブ投与前のCONUT scoreは予後因子,治療効果予測因子として臨床上有用な指標になる可能性があると考えられた.
利益相反:なし