The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Asynchronous Gallbladder Metastasis from Gastric Cancer Diagnosed after Laparoscopic Cholecystectomy
Ryoma SugimotoYoshihiko KakiuchiShinji KurodaSatoru KikuchiRyohei SyojiKenji NishidaMasahiko NishizakiShunsuke KagawaToshiyoshi Fujiwara
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2021 Volume 54 Issue 11 Pages 788-794

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Abstract

症例は77歳の男性で,検診にて発見された胃癌に対してロボット支援下胃全摘術,D2郭清,Roux-en Y再建術を施行した.術後病理組織学的診断は,pT4a(SE)N3aM0 Stage IIIBであった.術後補助化学療法として,S-1を3コース施行した時点でCEAの上昇を認めたが,画像検査にて明らかな再発を認めなかったため治療を継続し,1年後の補助化学療法終了時には正常値まで低下した.術後26か月経過時に急性胆管炎,胆囊結石を認めたため,保存的加療後に待機的に腹腔鏡下胆囊摘出術を行った.術前画像所見や術中所見で胆囊に特記すべき所見は認めなかったが,術後病理組織学的診断にて,胃癌の胆囊転移と診断された.極めてまれな胃癌の異時性胆囊転移の1例を経験したため報告する.

Translated Abstract

A 77-year-old man was diagnosed with gastric cancer and underwent robot-assisted total gastrectomy, D2 lymph node dissection, and Roux-en Y reconstruction. The histopathological diagnosis was pT4a (SE)N3aM0 Stage IIIB. CEA showed a temporary increase after three courses, but postoperative adjuvant chemotherapy with S-1 was ended without recurrence, with this decision made based on normal tumor markers and CT. Acute cholangitis and gallbladder stones were observed 26 months after gastrectomy, and thus, laparoscopic cholecystectomy was performed following conservative treatment. There were no specific findings in the gallbladder in preoperative CT or intraoperatively, but postoperative histopathological diagnosis revealed that the gallbladder had many nodules of metastatic gastric cancer. Thus, this case is a rare example of gallbladder metastasis of gastric cancer.

はじめに

近年,癌罹患数は増加しているが,胆囊への転移は非常にまれであり1)2),胃癌の異時性胆囊転移の報告は極めて少ない.今回,我々は急性胆管炎,胆囊結石症の保存的加療後に施行した腹腔鏡下胆囊摘出術を契機に胃癌の異時性胆囊転移と診断した症例を経験したので報告する.

症例

症例:77歳,男性

現病歴:検診にて発見された胃癌に対してロボット支援下胃全摘術,D2郭清,Roux-en Y再建術し,病理組織学的診断がpT4a(SE)N3aM0 Stage IIIBであったため,術後補助化学療法としてS-1を内服し,経過観察を行っていた.初回手術時よりCEAの値は正常であったが,S-1を3コース施行した時点でCEA:9.33と軽度上昇を認めた.しかし,画像検査にて明らかな再発を認めなかったためS-1による治療を継続し,1年後の補助化学療法終了時には正常値まで低下した.術後26か月経過時に発熱を認め,近医を受診し血液検査および画像検査にて急性胆管炎が疑われたため当院消化器内科へ紹介された.ERCPを施行し,胆管内結石の排石は確認できたが,胆石を認めたため,急性胆管炎の保存的加療後に腹腔鏡下胆囊摘出術目的に当科入院となった.

既往歴:胃癌 Type 4,por2,pT4a(SE),INFc,Ly1b,V1b,pPM0,pDM0,pN3a(No. 3:3/7,No. 4d:3/6,No. 8a:5/8,No. 12a:1/2,標本内:3/3,合計:15/47),M0,pStage IIIB(胃癌取扱い規約第15版)

入院時現症:身長165.0 cm,体重50.0 kg,BMI 18.4.血圧,脈拍は正常.腹部は平坦・軟,圧痛なし.

血液生化学検査所見:Hb 12.9 mg/dlと軽度の貧血を認めた.CEA 5.69 ng/ml,CA19-9 9.5 U/mlと正常範囲であった.その他特記事項なし.

腹部造影CT所見:総胆管および胆囊内に多数の結石を認め,肝内および肝外胆管の拡張を認めた.

手術所見および摘出標本所見:前回手術による癒着はごく軽度であった(Fig. 1A).腹腔内全体を可及的に観察したが,腹水や播種性病変は認めなかったため術中洗浄細胞診は施行しなかった.摘出標本では肉眼上,胆囊に軽度隆起した結節を多数認めた(Fig. 1B).

Fig. 1 

(A) There were no specific findings on the gallbladder surface, and neither peritoneal dissemination nor ascites was observed in the abdominal cavity. (B) Many nodules were apparent in the resected specimen.

病理組織学的検査所見:低分化型腺癌で構成される腫瘍結節が,胆囊壁内で多数形成されていた.腫瘍結節は胆囊全体に認められたが,上皮内癌は認めなかった(Fig. 2).脈管侵襲像はリンパ管侵襲・静脈侵襲のいずれも軽度であった.MUC染色ではMUC-6弱陽性細胞を少量認めるのみで,MUC-1,MUC-2,MUC-5ACはいずれも陰性であった.また,CK7/20も同様に陰性であった.これらの免疫組織学的検査の結果は原発巣である胃癌組織においても同様の結果であった.腫瘍結節それぞれに連続性がなく上皮内癌も認められないことから原発性胆囊癌としての根拠が得られず,胃癌の胆囊転移と判断した.

Fig. 2 

(A) Image after fixing with formalin. (B) Tumor distribution, showing nodules located in the lamina propria (green) and muscular layer subserous tissue (red). (C) Histopathological findings for the gallbladder. A tumor nodule can be seen in the lamina propria (arrowheads) and muscular layer. Each nodule is not connected. (inset) High-power field of adenocarcinoma. (D) Histopathological findings for the primary gastric cancer. Tumor cells had infiltrated the mucosa to the muscular layer. (inset) High-power field of adenocarcinoma mimicking a gallbladder tumor.

術後経過:胆囊摘出術後1か月経過時点で腹部造影CTを施行したところ,下部胆管に後期相で比較的強い造影効果を認め,再発病変の可能性を考慮しS-1の内服を再開した(Fig. 3).しかし,胆囊摘出から4か月(初回手術から31か月)経過した頃から意識消失発作を繰り返したため施行した骨髄穿刺にて,髄液中に印環細胞癌を認めたため癌性髄膜炎と診断した.治療継続不可能と判断しbest supportive careへ移行し,胆囊摘出から5か月後(初回手術から32か月後)に永眠された.

Fig. 3 

A–E. Contrast CT after cholecystectomy. A contrast effect was observed in the lower bile duct in the late phase (red arrowheads).

考察

胃癌は一般的に肝・肺転移や腹膜播種などの遠隔転移を起こしやすいとされており,胆囊転移は非常にまれである.医学中央雑誌(1964年~2020年7月)にて「胃癌」,「胆囊転移」をキーワードに検索を行うと(会議録除く),15例を認めたのみであった(Table 1).

Table 1  Reported cases of gallbladder metastasis of gastric cancer in Japan
Case Author Year Age Gender Primary gastric cancer Gallbladder metastasis Prognosis
Method Histological type Stage Invasion Onset Preoperative diagnosis Diagnostic method Gallbladder image findings Duration since gastrectomy Alive or Dead
1 Kanno3) 1990 44 M DG por T4aN3M1(P1) Stage IV* ly2 v0 Synchronous Polyp 8 Months Dead
2 Yoshida4) 1999 62 M TG sig T4aN1M0
Stage IIIA*
ly2 v2 Metachronous +
(As gallbladder tumor)
US Tumor 4.5 Months Dead
3 Matsuda5) 2002 86 F DG adenosquamous T4aN1M1(P1)
Stage IV*
ly3 v2 Synchronous Wall thickening 30 Days Dead
4 Makino6) 2006 88 M TG endocrine cell T4aN2M0
Stage IIIA*
ly3 v2 Synchronous None 8 Months Alive
5 Sakai7) 2007 54 M DG por2 T4aN2M0
Stage IIIA*
ly2 v1 Synchronous Atrophy, Stone 5 Months Dead
6 Watanabe8) 2008 72 M DG por T2N1M0
Stage IIA*
ly2 v2 Synchronous None 43 Days Dead
7 Sakai9) 2008 71 M TG tub2, por T4bN2M0
Stage IIIB*
ly1 v0 Synchronous Sludge 53 Days Dead
8 Miyamoto10) 2009 54 M TG por1 T4bN3M0
Stage IIIC*
ly2 v2 Synchronous Stone 36 Months Alive
9 Yamamura11) 2011 66 F TG por T3N1M1(P1)
Stage IV*
ly1 v0 Synchronous None 13 Months Alive
10 Takemoto12) 2013 50 M DG tub2, por T3N1M0
Stage IIB*
ly3 v0 Metachronous +
(As gallbladder tumor)
PET Wall thickening 20 Months Alive
11 Matsumoto13) 2014 68 F TG Sci T4aN2M0
Stage IIIA
ly3 v1 Metachronous +
(As gallbladder tumor)
US Wall thickening 24 Months Alive
12 Yoshikawa14) 2014 62 F TG por1 T4aN3M0
Stage IIIBorC
ly3 v2 Synchronous None 9 Months Dead
13 Higuchi15) 2014 55 M DG tub2 T4bN3aM1(H1) Stage IV ly2 v1 Synchronous + PET Tumor ND ND
14 Ooe16) 2019 60 F DG por, sig T4aN3bM0
Stage IIIC
ly1 v1 Synchronous Wall thickening 7 Months Dead
15 Muta17) 2020 71 M DG Sig T4bN3bM1
Stage IIIC
ND Synchronous Stone 6 Months Dead
16 Our Case 77 M TG por2 T4aN3aM0
Stage IIIB
ly2 v2 Metachronous Stone 32 Months Dead

The stage is modified from the cited paper according to the 15th edition of the Japanese Classification of Gastric Carcinoma.

胃癌から胆囊への転移形式に関して,神野ら3)は高度リンパ節転移やリンパ管侵襲を伴う進行胃癌において,リンパ管閉塞と異常なリンパ行路の発達が胆囊壁の間質内にリンパ行性転移を起こすものと推測している.実際,本症例を含めた全報告例でいずれもリンパ節転移および,もしくはリンパ管侵襲を伴っており3)~17),転移の形式として同機序の関与は大きいと考えられる.転移の時期は多くが同時性転移であり,報告例の11例が同時性転移であった.同時性転移に関しては,術前診断が得られた症例は1例のみで,PET-CTにて診断がされていた.残りの10例は胆石を認めた症例や,胆石・胆囊炎に対する予防的切除が施行された際に偶発的に認めた症例であった.本症例は急性胆管炎発症後の胆囊摘出術にて診断しえたが,もともと総胆管結石を認めていたことやERCPによる排石で比較的速やかに軽快したことから,転移によって胆管炎が引き起こされた可能性は低いと思われる.転移性胆囊腫瘍に特徴的な所見として,間質への腫瘍細胞の浸潤増殖を認め,粘膜下腫瘍の形態をとることが挙げられる.そのため,画像検査にて腫瘤性病変として指摘できる症例が少ないことや,軽度の壁肥厚を伴う場合であっても胆石や胆泥が存在する場合には胆石性胆囊炎でも同様の所見が認められること,胆囊転移の発生頻度が非常に低いこと,などが術前診断を困難にしている要因と考えられる.

異時性転移の場合はいずれも胆囊腫瘍として,腹部超音波検査あるいはPET-CTにて術前診断を行った後に手術に至っているが,胆囊癌との鑑別が困難となる場合が多い.吉田ら4)は転移性胆囊腫瘍の頻度は極めて低いことから,胆囊腫瘍と診断した際にはまず原発性を疑うことが妥当であると述べている.一方で転移性を強く疑うものは,急速に増大するもの,胆囊壁外に進展しているもの,他臓器原発腫瘍の診断がついているもの,胆囊以外に転移を認めるものなどと述べている.胆囊転移を疑った場合は拡大手術を選択する必要があり,術後に悪性が否定された場合は結果的に過剰手術となる可能性もあるため,慎重な術式選択が求められる.しかし,術前画像診断や術中所見によって正確に判断するには限界があり,症例によっては術中迅速組織診断を含めた評価や胆囊摘出までに留めて,胆囊癌であった場合には二期的手術を視野に入れて検討するなどの必要があると考えられる.

今回の症例において,胃癌の胆囊転移と診断した主な根拠として,①上皮内病変を確認できないこと,②腫瘍の広がりに領域性,連続性がみられないこと,の2点を重視している.胆囊原発腫瘍であることを支持するには上皮内病変の存在を認める必要があるが,本症例では認めなかった.また,スキルス様に広がる胆囊癌も存在するが,そのような場合は間質内を進展するため腫瘍の連続性を認める.本症例は腫瘍細胞が結節状,集簇性に増殖しているものの,それぞれの結節には領域性,連続性を認めず,粘膜固有層や固有筋層~漿膜下組織といったさまざまな深さに非連続性の腫瘍胞巣を多数形成していた.また,胞巣間に間質反応など腫瘍が浸潤していた形跡も認めなかった.ムチン蛋白のフェノタイプやCK7/20の発現パターンにおいても,今回の胆囊病変と原発巣では同様の結果を示した.ただし,免疫染色検査自体が固定条件や本症例のように異時性である場合には標本の保存状態などで染色結果が変わりうる可能性に留意する必要がある.これらの結果から,完全に原発性胆囊癌を否定するのは困難ではあるが,総合的に本症例は胃癌の胆囊転移と診断した.

胆囊転移を来した症例の予後は極めて不良であり,1年以内に死亡することが多い.本症例において胆囊転移と診断した時点で症状はなかったため胆囊へと限局した転移と判断した.しかし,その後の急速な病状進行を省みると,その時点ですでに微小転移が全身に存在している可能性があった.既報15編の死亡例においても,本症例と同様に胆囊転移診断後の経過は短いものが多く,そうした場合は化学療法を行う余地もない可能性があるということを念頭に置き,治療および患者対応を行う必要があると思われた.また,胆囊摘出による予後の改善は残念ながら期待できないことが多いが,宮本ら10)のように非治癒因子が存在する場合であっても可能なかぎりR0手術を施行し,集学的治療を検討することで長期予後を得られた例もあり,患者のPSなどを考慮しながら可能なかぎり積極的に治療を行っていくことが重要と考えられる.

胃癌術後の胆囊結石症に対する腹腔鏡下胆囊摘出術を契機に発見された異時性胆囊転移という非常にまれな症例を経験した.胆囊転移は術前診断が非常に困難であり,特に胆囊癌との鑑別においては慎重な判断を要する.予後は極めて不良であるが積極的な集学的治療によって長期生存が得られている報告例もあり,患者の病状に応じて治療方針を決定する必要があると思われた.

利益相反:なし

文献
 

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