2021 Volume 54 Issue 11 Pages 802-812
免疫チェックポイント阻害剤は新しい癌治療薬として注目されているが,今までにない免疫関連有害事象の報告も多い.症例は70歳の男性で,傍大動脈リンパ節転移を伴う切除不能進行胃癌に対して化学療法を開始した.S-1+シスプラチン,パクリタキセルは無効で3rd lineとしてニボルマブに変更したところ,3コースで原発巣,傍大動脈リンパ節ともに縮小した.4コース後に全身に痛みを伴う水疱が出現し,ニボルマブの有害事象である水疱性類天疱瘡と診断した.ニボルマブを中止しステロイド内服で水疱は改善したが,原発巣が再増大した.そのためコンバージョン手術として傍大動脈リンパ節郭清を伴う胃全摘術を施行した.病理診断ではリンパ節転移は化学療法により病理学的完全奏効で,原発巣を含めてR0切除であった.ニボルマブによる有害事象を適切にコントロールすることで最大限の治療効果を引き出し,治癒切除が可能であった.
Immune checkpoint inhibitors have attracted attention as new anticancer agents, but there are many reports of unprecedented immune-related adverse events. The patient was a 70-year-old male who received chemotherapy for unresectable gastric cancer due to para-aortic lymph node metastases. S-1+cisplatin and subsequent paclitaxel chemotherapy were ineffective, but the primary tumor and lymph node metastases were reduced after three courses of nivolumab. However, after four courses, the patient developed painful tense bullae on his whole body, which was diagnosed as bullous pemphigoid, an immune-related adverse event of nivolumab. The blisters were improved with discontinuation of nivolumab and starting of oral steroids. However, the primary tumor then regrew without distant metastases. Total gastrectomy was performed with para-aortic lymph node dissection as conversion surgery. A pathological examination revealed R0 resection of the primary tumor and a complete response for all metastatic lymph nodes. This case shows the effectiveness of curative resection for initially unresectable gastric cancer with appropriate control of adverse events of nivolumab.
免疫チェックポイント阻害剤である抗programmed cell death-1(以下,PD-1と略記)抗体ニボルマブは,2014年本邦で悪性黒色腫に対して承認された後,対象疾患が拡大し2017年9月には胃癌にも適応された.従来の抗癌剤と異なりニボルマブの免疫活性化に起因する免疫関連有害事象(immune-related adverse event;以下,irAEと略記)は全身のあらゆる臓器に発生しうる1).甲状腺機能低下症や1型糖尿病などの自己免疫性疾患を発症することはよく知られているが,最も多い有害事象の一つに皮膚障害があることはあまり知られていない.今回,我々は切除不能進行胃癌に対してニボルマブ投与中に比較的まれである水疱性類天疱瘡を発症したものの,特にリンパ節に対する抗腫瘍効果によりconversion surgeryが可能であった症例を経験したので報告する.
患者:70歳,男性
主訴:心窩部痛,嘔吐
現病歴:2019年7月,上記に対して近医で上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy;以下,EGDと略記)を施行したところ,胃噴門に巨大な3型進行胃癌を認め(Fig. 1a)精査加療目的に当院紹介受診となった.腹部CTでは原発巣は脾門部や横隔膜左脚に直接浸潤している所見で,領域リンパ節,傍大動脈リンパ節に転移を疑う腫大を認めた(Fig. 1b).PET/CTでも原発巣にSUVmax 8.1~16.7のFDGの高度集積,傍大動脈リンパ節は広範にSUVmax 5.1~17.4の集積を認めた(Fig. 1c).HER2は陰性であった.切除不能進行胃癌として化学療法(S-1+cisplatin;以下,SPと略記)を開始した.SPレジメンは5週1コースでS-1 day 1~21,120 mg/日内服+cisplatin day 8,60 mg/m2点滴とした.
(a) EGD showed three bulky type gastric tumors located at the gastric cardia to the fundus. (b) Enhanced gastric wall thickening at the fundus (arrowheads) and swollen regional lymph nodes (circle) on enhanced abdominal CT. Para-aortic lymph nodes were also swollen and metastatic (circle). (c) FDG-PET/CT showed intense uptake in the primary lesion and in the regional and para-aortic lymph nodes.
1コース目休薬中に出血性脳梗塞を発症し,治療が一時中断した.同年9月にCTで傍大動脈リンパ節が増大していたため,10月より2nd lineとしてpaclitaxel(以下,PTXと略記)を開始した.PTXレジメンは4週1コースでday 1,8,15にPTX 80 mg/m2点滴とした.出血性脳梗塞の既往を考慮し,ラムシルマブは併用しなかった.治療変更後3コース施行したところで,病勢進行しており(Fig. 2)12月より3rd lineとしてニボルマブ(240 mg/body点滴,2週間毎)へ変更すると,原発巣,傍大動脈リンパ節ともに縮小を認めた(Fig. 3).4コース施行した2020年2月全身に痛みを伴う水疱が出現し,当院皮膚科を受診した.
After second-line chemotherapy with PTX, the primary lesion and para-aortic lymph nodes both enlarged and were judged to be progressive disease.
There was a marked decrease in the primary lesion and para-aortic lymph nodes after changing chemotherapy to nivolumab.
既往歴:20歳 胃潰瘍,44歳 不整脈,67歳 脂質異常症,前立腺肥大症,69歳 糖尿病
内服薬:リナグリプチン,ロスバスタチン,デュタステリド,シロドシン
現症:前腕に母指頭大の水疱,下腹部に浮腫性紅斑とびらんが多数存在する.
検査所見:水疱出現時の血液検査所見:血液生化学上は異常値なし.腫瘍マーカーはCEAは経過を通じて正常で,CA19-9はニボルマブ開始前に71.0 U/mlまで上昇したが,3コース施行し正常値へ低下した.IgG,IgA,IgM,C3,C4,抗BP180抗体,抗デスモグレイン1,3抗体 いずれも正常値であった.
経過:薬疹も完全には否定できなかったが,ニボルマブの有害事象による類天疱瘡を疑い,皮膚科初診時(第1病日)にクロベタゾールプロピオン酸エステル外用を開始した.翌週(第8病日)に皮膚生検を行い,皮疹の出現範囲が両下腿まで拡大したのでミノサイクリン塩酸塩200 mg,ニコチン酸アミド9 gを追加した.皮膚生検の病理組織学的所見は,表皮下水疱と,真皮の細血管周囲には少数の好酸球浸潤とリンパ球主体の炎症細胞浸潤を認めた(Fig. 4a, b).また,蛍光抗体直接法による抗表皮成分自己抗体では基底膜部に補体の沈着を認めた.以上より,水疱性類天疱瘡と診断したが,ニボルマブ投与は継続しており新生水疱が拡大傾向であったため,第15病日プレドニゾロン(prednisolone;以下,PSLと略記)30 mg内服にて治療を開始し,ニボルマブ投与を中断した.PSL内服開始後,水疱は上皮化し(Fig. 5a, b)新生もなくPSLを漸減したが皮膚症状は軽快傾向であった.
HE staining of a skin biopsy specimen (a: low-power field, b: high-power field) showed subepidermal bullosis (arrowheads). Eosinophilic and phagocytic infiltration were also observed (circle) around the capillary of the dermis.
After PSL treatment, the bullae epithelized and no new lesions developed. The images show the right thigh (a) and abdomen (b).
ニボルマブ投与中断後は,傍大動脈リンパ節は縮小を維持していたが胃癌原発巣が再増大した(Fig. 6a, b).PET/CTでは,胃原発巣にはSUVmax 18.12のFDG集積を認めたが,領域・傍大動脈リンパ節には集積を認めなかった(Fig. 6c).病勢を反映していると考えられた腫瘍マーカーCA19-9はニボルマブ投与開始後急低下し,投与中断後も正常範囲内を維持していた(Fig. 7).切除不能因子であった傍大動脈リンパ節転移が制御できており,このタイミングであれば治癒切除を企図できると考え,conversion surgeryの方針とした.また,胃癌治療ガイドライン第5版2)においても,推奨される化学療法レジメンとしては3次治療以降の明確な記載はなく,臨床的有用性が確かである後方治療がないことから,第49病日,開腹胃全摘(横隔膜左脚合併切除),D2リンパ節郭清,脾摘,胆摘,傍大動脈リンパ節郭清術を施行した(Fig. 8a, b).術後膵液瘻があったがドレナージで軽快し,術後54日目に自宅退院した.病理結果では充実型低分化型腺癌(por1),ypT4b(SI,脾臓,横隔膜),ypN0(0/69),M0,ypStage IIIA(胃癌取扱い規約第15版)で,R0切除であった.術前薬物治療の組織学的効果判定では原発巣はGrade 1aであったが(Fig. 9a, b),郭清したリンパ節に関してはviableな癌細胞は確認されなかった.ただし,#1,#16a2,#16b1リンパ節内には瘢痕や凝固壊死を認めており,化学療法の効果によるものと推察され,病理学的完全奏効であった(Fig. 9c, d).
(a, b) The gastric primary lesion regrew after stopping nivolumab (a), but reduction of the regional and para-aortic lymph nodes was maintained (b). (c) FDG-PET/CT showed uptake (SUVmax 18.12) in the primary lesion, but no accumulation in the regional or para-aortic lymph nodes.
Relationship of the clinical course with a tumor marker. After administration of nivolumab, the CA19-9 level decreased suddenly from 71 to 18.3 U/ml and remained low after nivolumab was stopped.
(a) Para-aortic lymph node dissection was performed for one part of #16a2 and #16b1. (b) The main tumor had directly invaded the left crus of the diaphragm and spleen. Lt: Left; Rt: Right; IVC: inferior vena cava; IMA: inferior mesenteric artery.
(a, b) Tumor HE stain showed a solid type poorly-differentiated cancer lesion and slight necrosis at the tumor border. This was Grade 1a histologically as an effect of the preoperative treatment. (c, d) There were no viable cancer cells in lymph nodes. Scar tissue and coagulative necrosis were detected as probable effects of the chemotherapy.
術後化学療法は行わず,術後11か月現在,無再発生存中である.
本症例はニボルマブ投与4コース後から症状が出現し,ニボルマブによる類天疱瘡の報告があることから,ニボルマブによる水疱性類天疱瘡を疑った.
免疫チェックポイント阻害剤であるヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体ニボルマブは,免疫抑制系を阻害し,腫瘍免疫を活性化する薬剤である.第I相試験で悪性黒色腫,腎細胞癌,非小細胞肺癌において抗腫瘍効果が認められ1),悪性黒色腫においては国内第II相試験(ONO-4538-02)で有効な治療効果を認めたことから,本邦では切除不能悪性黒色腫に対して2014年7月に保険承認された.ニボルマブはPD-1と腫瘍の発現するPD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)との結合を阻害することで,癌細胞により不応答となっていた抗原特異的T細胞を回復・活性化させ,抗腫瘍効果を示す3).
ニボルマブによる免疫活性化により,irAEは全身のあらゆる臓器に発生しうる.これまでに行われた同じ免疫チェックポイント阻害剤であるヒト型抗ヒトcytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4モノクローナル抗体イピリムマブとニボルマブに関する副作用報告で,Common Terminology Ciriteria for Adverse Eventsグレード3あるいは4の重症irAEを発生する臓器で頻度が高いのは,皮膚,腸管,内分泌,肝臓であった4).抗PD-1抗体による皮膚障害は全てのグレードを併せると30~40%といわれる5)~9).多くは紅斑,掻痒,白斑といった皮膚障害で軽症だが,スティーブンスジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症といった重症薬疹も1%未満だが報告されている10)11).
抗PD-1抗体による水疱性類天疱瘡は比較的まれだが,海外を含めて報告が散見される.原疾患は悪性黒色腫が多く,皮膚科医からの報告がほとんどである12).
悪性黒色腫におけるirAEと抗PD-1抗体の治療効果の相関については,グレードにかかわらず何らかのirAEが発生した患者の方が,発生しなかった患者に対して全生存期間(overall survival;以下,OSと略記)が有意に延長していた(P<0.001)という報告がある13).さらに,3種類以上のirAEが発生した患者はより有意にOSが延長していた.副作用の種類としては,紅斑や白斑といった皮膚障害が出た患者でOSが有意に延長していた.また,同じ報告でirAEに対する治療として,ステロイド投与された群のほうがステロイド不要だった群よりもOSが延長した(P=0.026).
大村ら12)の報告では,抗PD-1抗体による水疱性類天疱瘡21例のうち,原疾患の経過は病状変化のない「安定」を含め治療効果があったものは16例中10例であった.ステロイド内服治療を選択したものは20例中14例で,抗PD-1抗体については20例中7例が投与継続し13例で中止していた.
本症例でも原疾患の経過は部分奏効であったが,類天疱瘡の出現,増悪によりニボルマブ投与は中断した.それにより原発巣が再増大したためconversion surgeryへ切り替え,R0切除が可能であった.医学中央雑誌(1964年~2020年)において「ニボルマブ」,「胃癌」,PubMed(1950年~2020年)において「nivolumab」,「gastric cancer」をキーワードとして検索したところ,ニボルマブ治療後にconversion surgeryを施行しえた胃癌の報告は6例(会議録,Letter to Editorを除く)14)~19)であった(Table 1).いずれも観察期間が短く,再発例はないが治癒したかどうかは不明である.切除不能因子やニボルマブ投与回数にはばらつきがあり,共通しているのは3rd lineであった点,R0切除が可能であったという点であった.
Case | Author/Year | Age/Sex | Unresectable factor | Nivolumab treatment line | 1st line | 2nd line | Nivolumab number of dose | irAE | R0 resection | Histologic type | Therapeu-tic effect | Adjuvant chemotherapy | Recurrence | Observation period after surgery |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Shiraishi14)/2019 | 68/M | bulky N | 3rd | SOX | nab-PTX/RAM | 14 | none | yes | tub1>tub2 | Grade 1b | N/A | none | 5M |
2 | Toyota15)/2020 | 75/M | peritoneal dissemination | 3rd | SOX | PTX/RAM | 23 | chylous ascites | yes | por2, sig | N/A | none | none | 7M |
3 | Matsumoto16)/2020 | 68/F | multiple liver, lung metastasis | 3rd | SOX | PTX/RAM | 20 | none | yes | none | Grade 3 | Nivolumab | none | 3M |
4 | Toyota17)/2020 | 70/M | para-aortic lymph node metastasis | 3rd | SOX | PTX/RAM | 24 | rash, adrenal gland hypofunction | yes | tub2, sig | Grade 2b | none | none | 7M |
5 | Koizumi18)/2020 | 77/M | bulky N | 3rd | SOX | PTX/RAM | 3 | N/A | yes | N/A | N/A | none | none | 6M |
6 | Ohno19)/2020 | 70/M | multiple liver metastasis | 3rd | SP | CPT-11 | 8 | N/A | yes | por | N/A | none | none | 13M |
7 | Our case | 70/M | para-aortic lymph node metastasis | 3rd | SP | PTX | 5 | bullous pemphigoid | yes | por1 | Grade 1a | none | none | 11M |
N/A: not available, N: lymph node, SOX: S-1+oxaliplatin, SP: S-1+cisplatin, PTX; paclitaxel, RAM: ramucirumab, CPT-11: irinotecan, M: months
傍大動脈リンパ節転移を伴うStage IV胃癌に対する治療としては,術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy;以下,NACと略記)後にD2+大動脈周囲リンパ節郭清を伴う胃切除術を施行する術式が有効で,治療レジメンとしては現時点ではJCOG0405試験の結果からSP療法が標準と考えられている.SP療法によりR0切除率は82%で,5年生存率は53%であった20).全国胃癌登録2011年外科症例報告書によると,Stage IV胃癌の切除症例では5年生存率12.8%であり,一概に比較できないがNAC後の拡大切除は有効な治療法と考えられる.
Stage IV胃癌のうち化学療法が奏効し切除可能となる症例は比較的少なく,多数例で検討した報告はまれである.Satohら21)は,51例のStage IV胃癌に対してSPの術前化学療法を行い,術前治療を完遂した44例(86.3%)で外科手術し,うち26例(51%)にR0切除が可能であったと報告している.このR0切除症例のうち14例(53.8%)で再発したが,2年生存率は73%と良好であった.化学療法の進歩により切除不能進行再発胃癌の生存期間中央値は13~16か月まで延長している22).化学療法奏効例に対するconversion surgeryはR0切除,主病巣「部分奏効」が予後規定因子であると報告されている22)~25).また,R0切除が可能であった多くの症例では1st lineの化学療法が劇的に効果があり26),3rd lineの治療後にR0切除となるのは極めてまれである.
医学中央雑誌(1964年~2020年)において「胃癌」,「化学療法」,「conversion surgery」で,PubMed(1950年~2020年)において「gastric cancer」,「chemotherapy」,「conversion surgery」をキーワードとして検索したところ,3rd lineでのニボルマブ投与を除く,2nd line以降に胃癌根治切除を行った報告はわずか3例のみ(1st line投与後病勢増悪により2nd line治療に変更したもののみを対象とし,有害事象などで2nd lineに変更したものは除く)であった27)~29).3例中2例はR0切除を行い無再発だが,R0切除とならなかった1例は術後化学療法を行ったが再発した.
過去の症例報告の少なさからも,胃癌において殺細胞性抗癌剤単独,または分子標的治療薬の併用では予後の延長は可能でも治癒は困難であった.ニボルマブが登場し,本邦で承認され3年3か月の間に次々とconversion surgeryの報告が出ている.多次化学療法後のconversion surgeryの意義については観察期間が短く,報告例も少ないため結論は出せないが,ニボルマブはこれまでの化学療法と作用機序が異なるため,劇的な効果が期待できる可能性がある.Conversion surgery後の無再発例に共通するのは,R0切除が可能であったという点である.化学療法の変更やconversion surgeryのタイミングを見極めることは難しいが,適切な時期を判断しての外科治療の介入は生命予後や経過に大きく影響すると思われる.
本症例では,ニボルマブ投与により原発巣,リンパ節転移巣ともに縮小し,中断により原発巣のみが再増大した.この原発巣とリンパ節転移巣の反応の違いについてはいくつかの理由が考えられるが,その一つに抗腫瘍効果の違いが挙げられる.Nakaoら30)は,予期せぬニボルマブ投与により肺腺癌原発巣とリンパ節転移に抗腫瘍効果の差がみられた珍しい1例を報告している.同報告の中では,ニボルマブ投与により原発巣は腫瘍が消失しpathological T0となったが,リンパ節転移巣にはほとんど効果がなく腫瘍が残存した.この効果の違いについては,原発巣とリンパ節転移巣のprogrammed death-ligand 1(以下,PD-L1と略記)免疫組織化学染色における発現率の差が原因である可能性を指摘している.PD-1はI型膜貫通タンパクで,過剰な免疫反応や正常細胞への攻撃を防ぐための,免疫抑制機構である免疫チェックポイント分子の一つである.そのリガンドであるPD-L1は活性化T細胞に発現しているPD-1などの受容体と結合することにより,活性化T細胞を不活化し,免疫応答を抑制に導く.原発巣と転移巣のPD-L1発現率の差に関しては,Urugaら31)もStage II,III肺腺癌の原発巣とリンパ節転移巣で38%に不一致がみられたと報告している.同様の報告は他にもあり32)33),不一致の理由は,術前治療や転移過程で変異した,もしくはPD-L1発現率の低い腫瘍細胞のみがリンパ節に転移したなどが考えられている.本症例においては,治療前原発巣生検検体ではPD-L1発現率は2.5%程度(Fig. 10a)で,切除後原発巣のPD-L1発現率は1%未満であった(Fig. 10b).リンパ節転移巣は腫瘍が消失しており発現率を調べることができず,原発巣とリンパ節転移巣でのPD-L1発現率の不一致の有無については不明である.ニボルマブ投与中,リンパ節転移巣が縮小した時点ですでに腫瘍細胞が消失していたため,中断後も転移巣は再増大しなかったという可能性も考えられる.
(a, b) PD-L1-positive tumor cells in a pre-treatment primary lesion biopsy specimen (a) and in the resected specimen (b). The PD-L1-positive rate was 2.5% and <1%, respectively.
ニボルマブの第I相試験の報告では,ニボルマブ投与を受けた42例の固形癌患者のうち,腫瘍にPD-L1が発現していた患者の36%に奏効が認められ,抗PD-1/PD-L1抗体の有効性に相関関係があるとされた1).しかし,PD-L1陰性患者にも一定の割合で奏効を認めるなど,抗PD-1/PD-L1抗体の投与対象を選別できるバイオマーカーにはなっていない.PD-L1発現は炎症性サイトカインにより容易に誘導され,また巣状に発現が認められることから,時間的・空間的な変動が大きいと考えられている.
今後,さまざまな悪性腫瘍に対して抗PD-1抗体の適応が拡大していくなかで,皮膚科医だけでなく薬剤を投与する一般外科医や腫瘍内科医も抗PD-1抗体による皮膚障害を念頭に置き,適切なタイミングで皮膚科医にコンサルトすることが重要だと考える.さらに,その皮膚障害を適切にコントロールすることで,抗PD-1抗体による原疾患の進行を防ぎ,R0切除を含めた治療効果が生まれる可能性があることを理解する必要があると考えられた.
利益相反:なし