The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Postoperative Recurrence of Primary Malignant Melanoma of the Esophagus in the Liver with Complete Response with Nivolumab Therapy
Shinsuke MaedaKosuke NarumiyaKenji KudoYosuke YagawaYukinori ToyoshimaKyohei OgawaHiromi OnizukaHarushi OsugiMasakazu Yamamoto
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2021 Volume 54 Issue 11 Pages 768-775

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Abstract

食道原発悪性黒色腫は悪性度が高く予後不良な疾患とされてきた.しかし,近年,抗PD-1抗体を初めとした免疫療法が適応となり,その使用経験が報告されてきている.症例は75歳の男性で,胸部下部食道に生じた悪性黒色腫に対して食道亜全摘術を施行した.病理組織学的所見はpT1b(SM1)N1M0 pStage IIであった.補助療法なしで経過観察中,術後14か月目のCTで肝転移再発を認めた.ニボルマブ療法を施行したところ腫瘍の縮小を認め,18サイクル投与した時点で画像上完全奏効(complete response;以下,CRと略記)が得られた.投与終了とし,以後20か月間経過観察中であるが再燃を認めていない.本例は食道原発悪性黒色腫の術後再発症例において抗PD-1抗体によりCRが得られ,投与終了後も維持された最初の報告である.

Translated Abstract

Primary malignant melanoma of the esophagus (PMME) is a highly malignant disease with a poor prognosis. In recent years, immune checkpoint inhibitors such as anti-PD-1 antibody have been approved and experiences with this therapy have been described. The patient was a 75-year-old man with PMME in the lower thoracic esophagus. Subtotal esophagectomy was performed and the histopathological diagnosis was pT1b(SM1)N1M0 pStage II. During follow-up without adjuvant therapy, a recurrent tumor in the liver was detected on CT 14 months after surgery. Nivolumab was administered and the tumor decreased in size. Complete response (CR) was achieved after 18 cycles and the therapy was discontinued. There has been no recurrence in 20 months of follow-up after termination. This is the first report of a case of recurrent PMME after surgery for which CR was achieved with an anti-PD-1 antibody and maintained after termination of the antibody.

はじめに

食道原発悪性黒色腫は悪性度が高く予後不良な疾患である1).一方,悪性黒色腫に対して2014年7月にニボルマブが保険収載され,根治切除不能例に対する一次治療薬となった.食道原発症例においてもその使用経験が報告され始めているが,症例の蓄積は不十分である.今回,我々は食道原発悪性黒色腫の術後肝転移再発に対してニボルマブを投与し,完全奏効(complete response;以下,CRと略記)が得られた1例を経験したので報告する.

症例

患者:75歳,男性

主訴:胸部違和感

既往歴:2型糖尿病,高血圧症,脂質異常症

生活歴:喫煙歴なし,機会飲酒

現病歴:食物通過時の胸部違和感を主訴に前医を受診し,上部消化管内視鏡を施行された.下部食道に隆起性病変を指摘され,生検組織に腫瘍細胞のシート状増殖がみられることから扁平上皮癌の診断で当科へ紹介となった.

血液生化学検査所見:5-S-CD 3.8 nmol/l,CEA 1.1 ng/ml,SCC 1.9 mg/ml,CYFRA 1.6 mg/ml,抗p53抗体1.11 U/ml,HbA1c 6.5%,肝炎ウイルス陰性,その他特記すべき所見なし.

上部消化管内視鏡検査所見:下部食道に斑な黒色色素沈着を認め,この領域内に三つのポリープ状病変を認めた(Fig. 1).生検組織には重層扁平上皮下において卵円形の核と好酸性の胞体を有する異形細胞の充実性増生が観察され,免疫染色検査でMelan A,S-100およびHMB45のいずれも陽性であり,悪性黒色腫と診断した(Fig. 2A~C).

Fig. 1 

Upper gastrointestinal endoscopy showed spotted black pigmentation (A) and three polypoid lesions in the lower esophagus (B).

Fig. 2 

Histological and immunohistochemical examination of the biopsy specimen (A, B, C) and resected specimen (D, E). Immunostaining was positive for (A) Melan-A (×400), (B) S-100 (×400) and (C) HMB45 (×400). D: Atypical cells were seen subepithelially in polypoid lesions and peripheral melanin pigmentation areas (HE staining ×100). E: Immunostaining was negative for expression (0%) of PD-L1 (28-8 pharmDx, ×400).

胸腹部造影CT所見:胸部下部食道に壁肥厚を認めた.明らかなリンパ節転移や遠隔転移は認めなかった(Fig. 3A).

Fig. 3 

A: Contrast-enhanced CT showed thickening of the wall of the lower thoracic esophagus. There were no significantly swollen lymph nodes. B: FDG-PET showed accumulation of FDG in the lower esophagus (SUVmax 13.5).

FDG-PET所見:胸部下部食道にSUV-max 13.5の集積を認めた(Fig. 3B).その他に有意な集積は認めなかった.

食道癌取扱い規約第11版に準じて食道悪性黒色腫cT1bN0M0 cStage Iと診断し,胸腔鏡下食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建術を施行した.術後,軽度の縫合不全を来したが保存的に治癒し,術後43日目に退院した.

病理組織学的検査所見:3か所の隆起性病変いずれにおいても縦走扁平上皮下にN/C比が高く核小体の目立つ異型細胞が充実性構造を呈して増殖しており,これらの周囲では広範に上皮内病変を認めた(Fig. 2D).隆起部では粘膜下層への腫瘍浸潤を認めた.上縦隔から腹部までの郭清リンパ節30個のうち,胃小彎リンパ節および胸部中部食道傍リンパ節のそれぞれ1個ずつに転移を認め,最終病理組織学的診断はpT1b(SM1),INFa,ly1,v0,PM0,DM0,N1,M0,pStage IIであった(Fig. 4).

Fig. 4 

A: Resected specimen. B: Tumor cells were detected consistently in the area of polypoid lesions (red lines) and black pigmentations (blue lines).

術後経過:補助療法は行わず経過観察としていたところ,術後14か月目のFDG-PET/CTで肝S8にSUV-max 9.8の集積を伴う長径35 mm大の腫瘤を認めた(Fig. 5A, B).造影CTでも同様の低吸収性腫瘤を認めた(Fig. 5C).肝癌マーカーはAFP,PIVKA IIとも正常であった.確定診断を得るため穿刺生検を施行した.メラニン含有細胞を含む多形に富む異形細胞の集塊が採取され,悪性黒色腫の肝転移再発と証明された.単発再発であり外科的切除も考慮したが,横隔膜と接しており浸潤が疑われ,全身制御の観点からも薬物療法を行う方針とした.手術標本の腫瘍細胞におけるPD-L1の発現は陰性(0%)であったが,BRAF遺伝子変異陰性であり分子標的薬の適応はなく,ニボルマブ療法(3 mg/kg,2週間毎)を選択した(Fig. 2E).治療開始後3か月(7サイクル施行時)のCTで60%の縮小を認め(Fig. 6A),部分奏効(PR)と判定した.同6か月(14サイクル施行時)のCTではさらに若干の縮小を認め,8 mm大の低吸収域を認めるのみとなった(Fig. 6B).さらに投与を継続し,治療開始9か月後(18サイクル投与後)にFDG-PET/CTを施行するとFDG集積は消失し,単純CT上腫瘤は同定不能となった(Fig. 7A).このため臨床的CRと判定した.有害事象としてGrade 2の皮膚障害(臀部の皮膚発赤・剥離)およびGrade 2の倦怠感を認めていた他,甲状腺ホルモン値は正常(Ft3 2.93 pg/ml,Ft4 1.26 ng/dl)であるものの軽度のTSH上昇(7.5 μIU/ml)も認めており,ニボルマブ投与は終了し経過観察する方針とした.投与終了後,皮膚障害およびTSH上昇はいずれも改善をみた.投与終了9か月および20か月後(治療開始18か月および29か月後)にFDG-PET/CTを再検したが,集積の消失は維持されており,その他の再発所見も認めなかった(Fig. 7B, C).今後も定期的に画像検査などを行い,再燃の所見があればニボルマブの再開やニボルマブ+イピリムマブ療法などを検討する方針である.

Fig. 5 

A, B: FDG-PET/CT 14 months after surgery. A tumor of 35 mm in diameter with accumulation of FDG (SUVmax 9.8) was detected in segment 8 of the liver (A: fusion of PET and CT, B: Maximum intensity projection). C: Enhanced CT 14 months after surgery, showing low enhancement of the corresponding tumor.

Fig. 6 

A: Enhanced CT showed 60% reduction of the tumor 3 months (7 cycles) after the first administration of nivolumab. B: Additional reduction was obtained at 6 months (14 cycles).

Fig. 7 

A: FDG-PET/CT 9 months (18 cycles) after the first administration of nivolumab showed elimination of accumulation of FDG. B, C: FDG-PET/CT at 9 and 20 months after termination of nivolumab showed no finding of recurrence.

考察

食道悪性黒色腫は食道悪性腫瘍の0.1~0.8%を占めるとされる2)~4).また,原発性悪性黒色腫のうち皮膚外の原発は15%で,中でも食道原発は1%未満とまれな疾患である5).平均初発年齢は60歳代とする報告が多い.男女比2:1で男性優位の罹患ではあるが,食道悪性腫瘍の中では男性の比率が低い.悪性度が高く,初診時に遠隔転移を伴う症例も多い6).過去の報告では平均生存期間10~13.4か月,5年生存率4%と極めて不良である6)7).近年の日本食道学会が集積した食道悪性黒色腫134例の検討では,5年生存率26.3%と改善がみられるもののいまだ良好とはいえず,うち本症例のような深達度T1症例70例においても,診断時に44.3%でリンパ節転移,8.6%で遠隔臓器転移を伴い,5年生存率は42.2%であった8)

遠隔転移を生じた悪性黒色腫の生存期間中央値は7.5か月,中でも肝転移例では4.4か月と極めて不良とされる9).皮膚悪性黒色腫において,遠隔転移の広がりが限定されていれば,QOLの改善と生存期間の延長をもたらす可能性があるため外科的切除を行うことがNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインなどで推奨されている10)11).肝転移においても完全切除が可能であれば予後が有意に延長するとの報告がある12).一方,本邦の皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにおいては,遠隔転移巣が発見された場合,まず化学療法などの治療を行い,病変の変化や他臓器転移について確認したうえで手術の適応を決定することが推奨されている.

進行期悪性黒色腫に対する薬物治療は従来,ダカルバジン中心の殺細胞性抗癌剤を主として行われ,免疫療法の役割は補助的であった.2014年7月,ニボルマブが進行期の悪性黒色腫に対する世界初の抗PD-1抗体薬として我が国で承認された.現在本邦では悪性黒色腫に対し,免疫チェックポイント阻害薬としてニボルマブ,イピリムマブ,ペムブロリズマブが承認され,BRAF阻害薬およびMEK阻害薬といった分子標的薬も種類を増やしつつある.日本皮膚悪性腫瘍学会から薬物療法の手引きが公開され,随時更新されている.

手術非適応の未治療悪性黒色腫に対する第III相試験(CheckMate 067)において,ニボルマブ単剤療法の奏効率は45%,3年全生存率は52%,生存期間中央値は36.9か月と報告されている13)14).Kiyoharaら15)による日本人を対象とした悪性黒色腫に対するニボルマブの効果を検討した報告では,皮膚原発例と粘膜原発例とで治療後の生存率はほぼ同等であった.CheckMate 238において術後補助療法としての抗PD-1抗体の効果も示され,本邦でも2018年8月にニボルマブが,同年12月にペムブロリズマブが保険承認を受けている16)

抗PD-1抗体の治療効果に関するバイオマーカーの一つにPD-L1の発現が挙げられる.CheckMate 067において,1%以上のPD-L1発現は58%の症例に,5%以上の発現は26%の症例に認められた.発現率5%以上をPD-L1陽性とすると,ニボルマブ単剤療法群の4年生存率は陰性例で45%に対し陽性例では54%と高かったが,PD-L1単独では有意な予後予測因子とはいえなかった13)14).また,PD-L1陰性の悪性黒色腫のうち13%の症例でニボルマブにより75%以上の縮小効果を認めたとする報告もある17).本症例もPD-L1陰性であったがニボルマブが著効した.こうした事象の機序は解明されていないが,抗PD-1抗体はPD-L2とも結合して免疫応答維持にはたらく他,近年,PD-1シグナルの下流にT細胞共刺激分子であるCD28が同定され,腫瘍を攻撃するエフェクターフェーズのみでなく腫瘍を認識するプライミングフェーズにおいても抗PD-1抗体が作用する可能性が示唆されている18).また,本症例でもみられた皮膚障害とニボルマブの効果との相関関係についても報告があり,Nakanoら19)によると切除不能悪性黒色腫に対するニボルマブ投与症例の生存期間中央値は,皮膚障害陰性例で209日に対して皮膚障害陽性例では763日であった.

抗PD-1抗体の投与期間に関しては現時点で決まりはなく,Robertら20)の報告では,転移性悪性黒色腫に対してペムブロリズマブによりCRが得られた後に無治療経過観察を行った67症例において,2年後の無病生存割合は89.9%であった.

免疫チェックポイント阻害薬関連の副作用(immune-related adverse events;irAE)は多岐に渡ることが知られており,時として重篤化する恐れがある.オプジーボ®の臨床試験における企業集計では,発現した主な副作用(全Grade)は多いものから腸炎13.3%,神経障害10.6%,甲状腺機能障害10.3%,肝機能障害6.5%と報告されている.投与中はもとより,投与終了後も観察を十分に行い,異常が認められた際にはその事象に応じた専門医と連携して適切な鑑別診断を行い,副腎皮質ホルモン剤の投与など,適切な処置を行う必要がある.

医学中央雑誌で1964年から2020年10月の期間で「食道」,「悪性黒色腫」,「ニボルマブまたはペムブロリズマブ」,PubMedで1950年から2020年10月の期間で「esophagus」,「malignant melanoma」,「nivolumab or pembrolizumab」をキーワードとして検索した結果,食道原発悪性黒色腫の術後再発治療として抗PD-1抗体を投与しCRが得られた症例報告は1例のみであり,また,投与終了後も無病生存が維持された症例は報告されていなかった21).本例は食道原発悪性黒色腫の術後再発症例において抗PD-1抗体によりCRが得られ,投与終了後も維持された最初の報告であり,食道原発症例においても抗PD-1抗体の有効性が期待できることを示すものといえる.

悪性黒色腫に対する薬物療法は近年急速な進歩を遂げており,消化管原発例においても適切な治療選択により予後の大きな改善が期待できる状況となっている.今後も主に皮膚領域症例を基として治療法の整備が進んでいくものと考えられるが,消化管原発で消化器科医が治療にあたる場合も,最新の治療アルゴリズムに沿った選択を行うことが求められる.従来は通常の食道癌に準じて治療方針が決定されてきた食道原発例に関しても同様であり,薬物治療が進歩する中で手術や補助療法の位置づけをどのようにすべきかなど,少ない症例を基にいかにして最適化を行うかが課題になると思われる.また,本例のようにCRが得られた場合の治療継続如何の判断に関しても今後さらに検討すべき事項と考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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