The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
A Case of Bile Peritonitis Due to Percutaneous Transhepatic Gallbladder Drainage for Acute Cholecystitis with Right-Sided Round Ligament
Hiroshi ArakawaAkinori NoguchiHiromichi IshiiHiroyuki TadaHiroki TakeshitaTadao ItouNaoki TaniMasayoshi NakanishiMasahide YamaguchiTetsurou Yamane
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 54 Issue 3 Pages 200-207

Details
Abstract

症例は88歳の女性で,発熱を認め来院しCTで急性胆囊炎と総胆管結石と診断した.この時点では胆囊が緊満し右側肝円索と診断されていなかった.胆囊摘出術前に総胆管結石採石を予定し経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage;以下,PTGBDと略記)を施行した.PTGBD翌日に炎症反応と腹痛の増悪を認め造影CTで胆汁漏による腹膜炎の所見を認め緊急手術の方針とした.造影CTで門脈左枝から外側区域枝と前区域枝と内側区域枝の共通管が分岐する門脈走行異常を認め肝円索が門脈前区域枝に合流しており右側肝円索と判断した.開腹所見で胆囊は肝円索左側に位置し右側肝円索と診断した.PTGBDチューブは皮膚-肝臓-腹腔内-胆囊の順で穿刺され胆汁漏の原因であった.右側肝円索症例ではPTGBDによる胆汁漏を起こす可能性があり解剖を十分把握する必要がある.

Translated Abstract

An 88-year-old woman was diagnosed with acute cholecystitis and choledocholithiasis on CT. At this point, the gallbladder had become stiff, but the case was not diagnosed as right-sided round ligament. Percutaneous transhepatic gallbladder drainage (PTGBD) was scheduled for choledocholithiasis before cholecystectomy. Exacerbation of inflammatory response and abdominal pain developed the day after PTGBD, with increased peritonitis due to bile leakage noted on contrast-enhanced CT. The round ligament joined the branch of the anterior segment of the portal vein, and the gallbladder was located on the left side of the hepatic ligament. The PTGBD tube punctured the skin, liver, intraperitoneal region and gallbladder, and caused bile leakage. This case shows that there is a possibility of bile leakage due to PTGBD in cases of right-sided round ligament, and therefore, it is particularly important to understand the dissection procedure.

はじめに

右側肝円索は0.2~1.2%の頻度でみられる解剖学的変異であるとされ,胎生期の右側臍静脈遺残に起因すると考えられている1)~4).一方,経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage;以下,PTGBDと略記)は急性胆囊炎の早期手術に適さない場合や全身状態不良例における一時的な改善策として用いられる.PTGBDにおける合併症の頻度は2.0~7.4%とされており安全に待期的腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy;以下,LCと略記)を行うための有用な手段である5)~8).今回,我々はPTGBD前に認識困難であった右側肝円索を伴う急性胆囊炎に対しPTGBDを行い,その後胆汁性腹膜炎を生じ緊急手術を行った1例を経験した.右側肝円索に対しPTGBDを施行した報告は少なく,胆汁性腹膜炎を発症した症例は報告がなかったため報告する.

症例

患者:88歳,女性

主訴:発熱

既往歴:右乳癌,認知症,高血圧,脂質異常症,糖尿病

家族歴:特記事項なし.

生活歴:受診1年前より禁酒.喫煙歴なし.

現病歴:当院受診2週間前に40°Cの発熱で前医を受診しアセトアミノフェン内服で解熱したため経過観察となった.当院受診1週間前に前医でセフカペンピボキシル塩酸塩を処方され解熱していたが,当院紹介日に38°C台の発熱があり,CTにて総胆管結石を認めたため胆管炎疑いと診断され当院へ紹介となった.

入院時現症:身長147 cm,体重40.5 kg,BMI:18.7.眼球結膜に黄染なし.右季肋部痛あり.Murphy徴候を認めた.

入院時血液検査所見:WBC 24,100/μl,AST 43 IU/l,ALT 42 IU/l,T.bil 0.7 mg/ml,γ-GTP571 IU/l,CRP 15.71 mg/dl.

腹部US所見:胆囊は緊満し胆石を認めた.Sonographic murphy徴候陽性を認めた.

腹部造影CT所見:胆囊頸部に胆囊結石を認めた.胆囊は緊満,腫大,壁肥厚を認めた.胆囊周囲の脂肪織濃度上昇を認めた.総胆管~肝内胆管拡張を認めた.総胆管に結石を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

A: Abdominal contrast-enhanced CT showed gallbladder wall thickness and tightness, and acute cholecystitis. Arrows show round ligaments. Right-sided round ligaments were difficult to diagnose. B: Gallbladder stone (arrow). C: Choledocholithiasis (arrowhead).

以上より,胆管炎ではなく,中等症急性胆囊炎と診断し,前医で1週間抗生剤治療されていたにもかかわらず,胆囊炎が改善しておらず,抗生剤無効と判断しPTGBDを施行した.総胆管結石は,待機的胆囊摘出前に採石する予定とした.ドレナージチューブは7 Fr.pig tailカテーテルを留置し,白濁胆汁が吸引された.PTGBD排液は12時間で100 ml程度であった.翌日に腹痛の増強と炎症反応増悪を認め,腹部造影CTを施行したところ肝周囲・胆囊床に液体貯留を認め肝表面が造影されていることより胆汁漏による腹膜炎の所見と考え緊急手術の方針とした(Fig. 2).総胆管結石は術後に閉塞性黄疸や胆管炎が生じた時点で即時に胆道ドレナージをする方針とした.この際にCT所見として門脈本幹から後区域門脈と左門脈が分岐し,左門脈から前区域門脈が分岐していた.この前区域門脈に肝円索が付着しており肝円索の左側に胆囊床を認めた(Fig. 3).

Fig. 2 

Liquid accumulation from the liver surface to the gallbladder bed (A) and early phase contrast of the liver margin (B). Peritonitis due to bile fistula was suspected.

Fig. 3 

The first branch of the portal vein ran to the posterior segment (A) and the portal vein then formed a trunk of left and right anterior portal veins (B). The latter vein formed the umbilical portion (C) and finally joined the round ligament (D). 3D-CT (E).

手術所見:臍を切開しカメラポートを挿入し,腹腔内を観察したところ,大網が上腹部の腹壁に癒着しており視野確保困難であったので,開腹術に移行した.右横隔膜下に胆汁様腹水を認めた.PTGBDチューブを観察したところ,経肝→遊離腹腔内→胆囊内のルートで刺入されており,胆汁性腹膜炎の原因と思われた(Fig. 4).胆囊は全体的に肥厚し,大網が胆囊に癒着していた.癒着を剥離した後,改めて胆囊を検索すると,肝円索の左側で肝臓に付着しており右側肝円索と判断した.胆囊底部から頸部に向かって肝臓から剥離し胆囊摘出を終えた.

Fig. 4 

(A) A PTGBD tube was passed intrahepatically, intraperitoneally and intra-gallbladder. (B) The gallbladder bed was located on the left side of the round ligaments.

病理組織学的検査所見:胆囊壁に好中球,リンパ球,形質細胞などの炎症細胞浸潤を認め,潰瘍,出血,壊死を認めた.肉芽組織形成を認め,漿膜側に膿瘍形成を伴う部位も認めた.明らかな悪性所見は認められなかった.

術後経過:経過良好で閉塞性黄疸や胆管炎を生じなかったので,術後12日目に内視鏡的総胆管結石採石を施行し術後18日目に退院となった.

考察

右側肝円索の定義は「肝円索が右傍正中領域枝に連続する変異で,内臓逆位を伴わないもの」とされている9).肝円索が右傍正中領域門脈枝に付着するため,胆囊が相対的に左側に位置するように見えるとされており,実際に位置異常があるのは胆囊ではなく肝円索である.手術症例や術前画像において0.2~1.2%1)~4)の頻度でみられる解剖学的変異である.この解剖学的変異の主因は本来胎生3か月で閉鎖すべき右臍静脈の遺残によるものとの報告が本邦からなされて以来1)4),従来の「左側胆囊」を用いず「右側肝円索」とすることが多い.しかし,胆囊に位置異常が認められる「真の左側胆囊」も報告されている10)11).また,両側臍静脈が消失せずに両側肝円索を認めた報告もある12).Nagaiら1)は門脈臍部の分岐形態を検討し,右門脈後区域枝が独立分岐後に左門脈を分岐し右門脈前区域・右肝円索に分岐するtrifurcation typeと門脈が左枝と右枝に分かれ,右枝から門脈後区域枝と門脈前区域・右肝円索とに分岐するbifurcation typeに分類している(Fig. 5).本症例は trifurcation typeであった.

Fig. 5 

Diagrams of intrahepatic portal venous branching associated with right-sided round ligaments. (A) Trifurcation type. (B) Bifurcation type. RHV, right hepatic vein; MHV, middle hepatic vein; LHV, left hepatic vein; UP, umbilical portion; GB, gallbladder; RRL, right-sided round ligament; A, anterior portal venous branches; P, posterior portal venous branches; LPV, left portal vein.

Shindohら13)は門脈走行異常の他に右側肝円索の診断につながる所見として①門脈臍部の右側への強い偏位,②胆囊と門脈臍部の間に肝実質がない(胆囊と門脈臍部が近接している),③静脈管索裂(門脈臍部立ち上がりの部位)の溝が深いことを挙げている.本症例では,CT結果より所見①所見③が認められた.

PTGBDに関しては『急性胆管炎・胆囊炎ガイドライン2018』では手術リスクの高い急性胆囊炎患者には標準的ドレナージ法としてPTGBDを推奨すると明記されている8).急性胆囊炎では併存症や抗血栓薬内服などのために,緊急手術施行が困難な症例に対してPTGBDに代表される胆囊ドレナージと外科的治療(主にLC)を組み合わせた治療を選択している施設も認められる6).PTGBDは挿入成功率がほぼ100%に近く,奏効率も78~95%といわれ7),比較的容易に確実な効果を示す手技であるといえる.その一方でPTGBDに起因する合併症としては,穿刺部や胆囊壁の血腫,胆囊周囲膿瘍の形成,気胸,胆汁性胸水・腹水などで,その頻度は2.0~7.4%とされる5)~7).本症例ではPTGBD施行後に胆汁性腹膜炎が認められたため,通常のPTGBD施行は不適切であった可能性がある.医学中央雑誌で1964年から2020年3月の期間で「右側肝円索」,「右肝円索」,「左側胆囊」,「right-sided round ligament」,「PTGBD」をキーワードとして検索すると,会議録を除いた場合には松本ら14)の症例報告のみであり胆汁性腹膜炎の報告は認めなかった.本症例の右側肝円索がPTGBD施行前に診断できていた場合にはどのように胆囊ドレナージを行えばよかったのかいくつかの選択枝を上げて考察を行う.一つ目はPTGBDを正中側からアプローチする方法であり,術前CTで検討したところ,剣状突起の尾側からの刺入は可能と考えられた.しかし,エコーで必ずしも良好な視野が取れるともかぎらず,手技が困難となる可能性が考えられる.二つ目は内視鏡的経鼻胆囊ドレナージ(endoscopic nasogallbladder drainage;以下,ENGBDと略記)である.経乳頭的に胆囊管を経由して胆囊へアプローチする方法はすでに1980年代から行われてきた手技であり15),ENGBDは内視鏡的逆行性胆管膵管造影ERCPの手技を応用して胆囊に経鼻ドレナージチューブを留置して急性胆囊炎の治療を行うものである.胆管造影を行い,胆囊管分岐部を確認した後にガイドワイヤーで胆囊管を探る.しかし,実際の胆囊炎症例では胆囊のみならず胆囊管すらも造影されないこともあり,その際にはガイドワイヤーを先行させて胆囊管から胆囊を探る必要がある.手技成功率は79~89%とPTGBDと比較し低率となっている16)~19).一方,ドレナージチューブが留置できた症例に関して奏効率は81~100%とおおむね良好な成績であった.不成功例に関しては手術を行うとする施設20)やPTGBDに変更する19)とする施設があり,一定のコンセンサスは得られていない.手技に伴う偶発症にはERCP後膵炎,胆囊管穿孔,胆管炎などがあるが,その頻度は0~3.8%とされており,これまでは重篤な偶発症は報告されていない.

胆囊ドレナージに関して上記の選択枝が考えられるが,PTGBDに関しては確立された手技としてエコーで胆囊が描出できれば確実に施行可能で十分なドレナージ効果が得られる反面,患者のADLが制限され,瘻孔形成までに時間がかかるという短所がある.内視鏡アプローチに関しては経乳頭アプローチは逆行性であるものの生理的な胆汁の通路を利用したドレナージ法である.このドレナージルートが確保できたということはすなわち胆囊炎の主原因である胆囊管狭窄や捻転,あるいは結石嵌頓が解除されたことを意味する.しかし,前述した通り,経乳頭的アプローチの問題点としてはERCPに関連した重篤な偶発症がある21).特に急性膵炎は他のドレナージ法では通常起こりえない偶発症であり術前の十分なインフォームドコンセントを得ておくことが大切である.本症例において右側肝円索がPTGBD前に判明していたと仮定すると,総胆管結石も併存していたので胆囊ドレナージを考慮する場合には,ENGBDと内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;以下,ENBDと略記)を行うべきであったと考える.内視鏡アプローチが成功しない場合には,緊急手術の方針となる.通常,肝円索はCTにおいて門脈臍部に連続する索状物として認識でき,右側肝円索もCTで診断可能である.PTGBD前に十分な確認をしなかったことで右側肝円索と診断できなかった点は,本症例の反省点である.PTGBD前に,造影CTで肝内門脈の走行を詳細に検討することで右側肝円索が診断できること以外に,CTを冠状断で再構成したところ肝円索の左側に胆囊床があることが確認でき,右側肝円索と診断可能であった(Fig. 6).胆囊ドレナージ前から同様な解剖形態の存在を念頭に置き,ドレナージ法の検討を行うことで右側肝円索を伴った急性胆囊炎であっても,安全に胆囊ドレナージ術を行い,待期的LCを行えた可能性があったと考えられる.

Fig. 6 

Arrows show round ligaments. The arrowhead shows the gallbladder bed located on the left side of the round ligaments.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top