The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
A Case of Intraluminal Duodenal Diverticulum Treated by Curative Surgical Resection
Koki OyamaYasuhisa MoriTakao OhtsukaYusuke WatanabeNaoki IkenagaKohei NakataHaruei OginoYoshinao OdaMasafumi Nakamura
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2021 Volume 54 Issue 3 Pages 184-192

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Abstract

症例は24歳の男性で,急性膵炎に対して保存的加療を行われ改善したが,3か月後に急性膵炎が再燃し,当院に紹介となった.CTでは十二指腸下行脚から水平脚内にかけて内腔から連続する囊状病変を認めた.上部消化管内視鏡検査では十二指腸乳頭部近傍の肛門側に盲端を持つ管腔を認め,上部消化管造影検査では管腔内に約30 mmの囊状構造が描出された.十二指腸内憩室(intraluminal duodenal diverticulum;以下,IDDと略記)に,食事内容物が流入することで膵液うっ滞を生じ,膵炎を繰り返していると判断し,開腹下に十二指腸切開・憩室切除術,胆囊摘出術,C-チューブドレナージを施行した.術後17日目に退院し,術後10か月まで膵炎の再燃を認めていない.IDDに対しては内視鏡的切除術が有用との報告もあるが,本症例は憩室のサイズ,十二指腸乳頭部との位置関係から開腹手術を選択した.IDDに対して外科的切除術を行った1例を報告し,その治療法について報告する.

Translated Abstract

We report a case of intraluminal duodenal diverticulum (IDD) that was treated by surgical resection. A 24-year-old male was treated conservatively for acute pancreatitis, but the disease recurred 3 months later. Thus, he was referred to our hospital for a detailed examination. CT showed a cystic lesion in the lumen of the descending and horizontal portion of the duodenum. Upper gastrointestinal endoscopy showed a false lumen with a blind end at the anal side near the ampulla of Vater. An upper gastrointestinal series showed a gastrografin-filled pear-shape sac of approximately 30 mm surrounded by a well-defined halo zone. Resection of IDD and cholecystectomy with C-tube drainage under laparotomy was performed under a preoperative diagnosis of relapsing pancreatitis caused by IDD. The postoperative course was uneventful, and there has been no recurrence of pancreatitis during a follow-up period of 10 months. Although endoscopic resection is reported to be useful for IDD, resection of IDD with laparotomy was performed based on the size of the IDD and the locational relationship between the IDD and the ampulla of Vater. Herein, we present a case of IDD and discuss the treatment options with a review of the literature.

はじめに

十二指腸内憩室(intraluminal duodenal diverticulum;以下,IDDと略記)は,十二指腸内腔に突出する囊状の膜様構造を呈する憩室であり,まれな先天性奇形である1)2).今回,我々は若年男性の急性膵炎を契機に発見されたIDDに対して,外科的切除術を施行した1例を経験した.症例を提示するとともに,その治療法に関して文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:24歳,男性

主訴:上腹部痛

既往歴:特記事項なし.

生活歴:機会飲酒,喫煙なし.

現病歴:2018年11月に急性膵炎に対して保存的加療を行い改善した.しかし,3か月後に急性膵炎が再燃し,腹部造影CTで十二指腸下行脚に粘膜下腫瘍様の所見を指摘され,精査加療目的で当院に紹介となった.

身体所見:身長161.8 cm,体重52.0 kg.腹部:平坦,軟,圧痛・自発痛なし,叩打痛なし,反跳痛なし,手術痕なし.

血液検査所見:WBC 11,030/μl,Hb 17.1 g/dl,Plt 209×103/μl,AMY 1,275 U/l,Lipase 1,880 U/l,CRP 0.11 mg/dl.肝・腎機能は正常範囲内であった.

腹部造影CT所見:十二指腸下行脚から水平脚内にかけて,内腔から連続する囊状病変を認めた(Fig. 1a).遅延相では囊状病変が縮小し,形態が変化していた(Fig. 1b).X線陽性の胆石は認めなかった.

Fig. 1 

CT. a) A cystic lesion in the lumen of the descending and horizontal portion of the duodenum (white arrowheads). b) The cystic lesion decreased in size in the delayed phase (white arrowheads).

上部消化管内視鏡検査所見:下十二指腸角部で真腔と偽腔に分かれており,十二指腸乳頭部はその分岐部に近接していた.偽腔に内視鏡を挿入すると盲端となっていた(Fig. 2a).観察中に盲端部分が内反して粘膜下腫瘍様の形態を呈したが,送気で内反は解除された(Fig. 2b).

Fig. 2 

Endoscopic findings. a) A false lumen with a blind end (white arrowhead) beside the true lumen (black arrowhead). The ampulla of Vater was close to the false lumen (white arrow). b) The false lumen was inverted easily to the oral side by endoscopic aspiration (white arrow).

上部消化管造影検査所見:ガストログラフィンを用いて上部消化管内視鏡より造影を行ったところ,下十二指腸角に約30 mmの囊状の構造が描出された.さらに,囊状部の周囲に沿って透亮像を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

Upper gastrointestinal series showing a gastrografin-filled pear-shape sac (black arrow) surrounded by a radiolucent halo zone with a clear border (white arrowheads).

以上より,IDDに食物残渣や十二指腸液が貯留して十二指腸乳頭部を圧排することにより閉塞性膵炎を繰り返していると判断した.保存的加療により,腹部症状は速やかに改善し,WBC 3,510/μl,AMY 100 U/l,Lipase 15 U/l,CRP 0.02 mg/dlと炎症反応も改善したが,今後も膵炎を繰り返す可能性が高いため,入院後23日目に手術を行う方針とした.病変は十二指腸乳頭部と近接しており,乳頭形成術が必要となる可能性も考慮し,開腹でのIDD切除術を行う方針とした.

手術所見:上腹部正中切開で開腹した.十二指腸前壁に約3 cmの斜切開を置き,内腔を観察したところ,十二指腸管腔内に突出するIDDを認めた(Fig. 4a, b).十二指腸乳頭部の位置が確認できなかったため,胆囊摘出術を行ったうえで,C-チューブを留置して十二指腸乳頭部を確認した(Fig. 4c).IDDの基部と十二指腸乳頭部とは約1 cmの距離があり,乳頭形成術は不要と判断した.IDDを基部で切離して憩室切除術を完了し(Fig. 4d),切除断端は4-0吸収性モノフィラメント縫合糸を用いて縫縮した.十二指腸壁切開部を4-0吸収性モノフィラメント縫合糸を用いてAlbert-Lembert縫合で閉鎖し,Winslow孔にドレーンを留置して終了した.手術時間は150分,出血量は40 gであった.

Fig. 4 

Surgical findings. a) Schema of the operation. b) An intraluminal duodenal diverticulum (IDD) was identified (white arrow) after a 3-cm duodenotomy. c) The ampulla of Vater was detected (white arrow) after insertion of a C-tube from the cystic duct. d) Resection of the IDD.

術後経過:術後経過は良好で,術後3日目に経口摂取を開始し,術後17日目に自宅退院した.術後3か月に施行した上部消化管内視鏡検査では,狭窄や潰瘍形成は認めなかった(Fig. 5).術後10か月の時点で膵炎の再燃は認めていない.

Fig. 5 

Postoperative endoscopic findings. a) Scar of the resected IDD (white arrowheads) near the ampulla of Vater (white arrow). Scar of duodenotomy (black arrowheads) on the opposite side of the resected IDD scar. No postoperative stenosis or ulcer occurred.

病理組織学的検査所見:憩室内腔・外膜の両側に正常粘膜を認めた(Fig. 6a).Desmin,α-SMA免疫染色検査を行い筋層の確認を行ったところ,正常な粘膜筋板を認め,一部に萎縮した固有筋層を認めた(Fig. 6b, c).

Fig. 6 

Pathological findings. a) Both sides of the diverticulum walls were covered with normal duodenal mucosa (HE ×40). b) A normal muscularis mucosa (black arrowheads) and an atrophic muscularis propria (black arrow) (desmin ×40). c) A normal muscularis mucosa (black arrowheads) and an atrophic muscularis propria (black arrow) (α-SMA ×40).

考察

IDDは1885年にSilcock1)により初めて剖検例が報告され,1949年にKinzer2)によりIDDと命名された病態である.本邦では1970年に木原ら3)により初めて報告されており,以来,医学中央雑誌で1964年から2019年12月の期間での検索によると(検索ワード「intraluminal duodenal diverticulum」,「十二指腸内憩室」,「管腔内型十二指腸憩室」),36例の報告があった.IDDの成因に関しては,胎生期より遺残した不完全十二指腸隔膜が腸蠕動や食物などの圧力により肛門側に伸展され囊状に変化したとされる不完全十二指腸隔膜説4)~6)や,胎生期において十二指腸で発生する重複腸管と同様の機序で発生するとされる重複説7)8)などがある.しかし,多くの報告で発症年齢は20歳以上がほとんどを占めており9)10),先天的要因に後天的要因が加わることでIDDが形成されると推察される.また,報告例のほとんどにおいて,病理組織学的検査所見で筋層が欠如していることからも,現在では不完全十二指腸隔膜説が有力とされている11).上腹部痛・嘔気嘔吐・腹部膨満感を主訴に発見されることが多く,先天性,後天性の合併症を有することも報告されている9)~11).本邦,海外でのIDD報告例100例を検討した藤原ら9)の報告では,何らかの後天性の合併症を有した割合は54%であり,そのうち最も頻度が高いものは胃・十二指腸潰瘍(22%)であった.本症例と同様に急性膵炎を合併した症例は14%であったと報告されている.また,19%に先天性合併症を認めており,輪状膵・腸回転異常・異所性膵などを合併する頻度が高かったとされている.

診断については,IDDとの鑑別で最も問題となるのが内腔型の十二指腸重複症であり,上部消化管造影検査における所見が鑑別に有用とされる.IDDでは本症例のごとく,上部消化管造影検査において,囊状・西洋梨状の造影剤貯留とその周囲の薄い透亮像が特徴的な所見とされている.一方,内腔型の十二指腸重複症では透亮像として認められ粘膜下腫瘍様の形態を示すとされている12).しかし,憩室内に造影剤が流入せず,有茎性ポリープ様の像を呈し,診断に苦慮したという報告例もある13).また,病理組織学的には憩室の内壁・外壁ともに正常粘膜を認めるが,固有筋層を欠くことが特徴とされている11).しかし,本症例を含め,不完全ながら一部に固有筋層を認めたとされる報告もある14).本症例において,病理組織学的に不完全ながら筋層が確認できた点は,内腔型の十二指腸重複症にも一部一致する所見ではあったが,上部消化管造影検査では,囊状の造影剤貯留とその周囲の薄い透亮像というIDDに特徴的な所見を呈しており,術前にIDDと診断できた.

治療に関しては,憩室切除が第一選択で,以前より外科的憩室切除術が行われてきたが,本邦では1979年のHajiroら15)の報告以来,内視鏡的切除例の報告も散見される.内視鏡的切除術に関しては,内視鏡吸引下にスネアリングを行う方法16)~18)や,近年では十二指腸壁や十二指腸乳頭部の損傷を防ぐために2チャネルスコープを用いて憩室を把持しつつ切除する方法が報告されている19)~21).内視鏡的切除術は外科的切除術に比べて低侵襲であり適切な症例では非常に有用と考えられるが,十二指腸乳頭部の損傷や切除断端からの出血などの合併症に対する留意が必要である.また,内視鏡的切除が不完全となり,術後も症状が改善せず6か月後に遺残した憩室を外科的に切除したという報告もあり22),切除方法の選択における明確な基準は示されていない.そこで,我々は外科的切除術,内視鏡的切除術の選択に関して,十二指腸乳頭部との位置関係,憩室のサイズに着目し,本症例も含めて医学中央雑誌で検索しえた本邦での報告例28症例の検討を行った(Table 19)~11)14)16)~19)21)~38).そのうち,憩室と十二指腸乳頭部との位置関係に関して詳細な検討が行えたのは,外科的切除例19例,内視鏡的切除例6例であった.外科的切除例19例のうち,乳頭近傍に存在したものは15例(79%),乳頭口側に存在したものは1例(5%),乳頭肛門側に存在したものは3例(16%)であった.内視鏡的切除例6例の内訳は,乳頭口側が4例(67%),乳頭肛門側が1例(17%),乳頭近傍が1例(17%)であり,外科的切除例の方が十二指腸乳頭部に近接している傾向を認めた(Table 2).また,憩室のサイズに関して詳細な検討が行えた症例は外科的切除例18例,内視鏡的切除例4例であり,憩室長径の平均は外科的切除例が48 mm,内視鏡的切除例が30 mmであり,外科的切除例の方が憩室のサイズが大きい傾向を認めた(Table 2).十二指腸乳頭部近傍に存在する症例では,憩室切除の際に乳頭部の損傷や浮腫による術後の胆汁・膵液のうっ滞などの合併症のリスクがあり,またこれらの合併症回避のためにかえって不完全な切除となり憩室が遺残してしまう可能性がある.また,憩室のサイズが大きい症例においても,内視鏡での正確な十二指腸乳頭部の位置確認が困難な場合や,切除が不完全になり症状が改善しない可能性があるため,より安全で確実な憩室切除を行うために外科的切除術が選択される傾向にあると考えられる.本症例においては,憩室起始部が十二指腸乳頭部と近接しており,術前の内視鏡検査で乳頭の位置は確認できたが,憩室を完全に切除するには,乳頭損傷や術後の炎症により乳頭浮腫を来し,胆汁・膵液のうっ滞を生じる可能性があると考えられた.術中所見によっては乳頭形成術を追加する必要もあると判断し,開腹下の憩室切除術を施行した.また,本症例のように,憩室が大きく,術中に十二指腸乳頭部を十二指腸内腔から確認できない場合は,胆囊摘出術を行い,C-チューブを挿入して十二指腸乳頭部を確実に確認することも選択肢の一つと考える.最終的に十二指腸乳頭部との距離を確保して憩室を切除できたため,乳頭形成術は行わず,胆道減圧目的にC-チューブを留置したうえで手術を終了した.

Table 1  Reported cases of IDD in Japan
No Author Year Location between IDD and the ampulla of Vater Size of IDD Treatment
1 Katsube23) 1974 near NA Open surgery
2 Komatsu11) 1976 near NA Open surgery
3 Watanabe16) 1980 oral side 25×14 mm Endoscopic resection
4 Koganemaru24) 1981 1 cm anal side 60×50 mm Open surgery
5 Mibu14) 1981 NA 60×40 mm Open surgery
6 Ogawa25) 1983 near 35×10 mm Open surgery
7 Ogawa25) 1983 3 cm anal side 35×30 mm Open surgery
8 Soejima26) 1983 near 34×26 mm Open surgery
9 Suzaki27) 1983 near 40×30 mm Open surgery
10 Ozaki28) 1984 near 42×36 mm Open surgery
11 Imamura22) 1985 NA 30×21 mm Open surgery
12 Kisu17) 1986 oral side NA Endoscopic resection
13 Kimura18) 1988 anal side 40 mm Endoscopic resection
14 Fujiwara9) 1989 near 60×30 mm Open surgery
15 Tamamoto29) 1990 near 40 mm Open surgery
16 Saitoh30) 1992 near NA Open surgery
17 Tsunemi31) 1992 1 cm oral side 60×40 mm Open surgery
18 Hirooka32) 1993 oral side NA Endoscopic resection
19 Nagai33) 1993 near 80×60 mm Open surgery
20 Miura34) 1994 near NA Open surgery
21 Kobori35) 1996 near 60×53 mm Open surgery
22 Hasegawa10) 1996 1.5 cm anal side 30×25 mm Open surgery
23 Ogata36) 2002 NA 25×15 mm Open surgery
24 Noto19) 2003 oral side 15 mm Endoscopic resection
25 Ito21) 2013 near 40 mm Endoscopic resection
26 Pumberger37) 2012 near 70×30 mm Open surgery
27 Ohsumi38) 2018 near 50×30 mm Open surgery
28 Our case near 46×35 mm Open surgery

IDD; intraluminal duodenal diverticulum, NA; not applicable

Table 2  Comparison of surgical and endoscopic resection based on the location and size of IDD
Location between IDD and the ampulla of Vater Average size of IDD
oral side near anal side
Surgical resection 1 (5%) 15 (79%) 3 (16%) 48 mm
Endoscopic resection 4 (67%) 1 (17%) 1 (17%) 30 mm

IDD; intraluminal duodenal diverticulum

今回,我々は膵炎を契機に発見されたIDDに対して外科的切除術を行った1例を経験した.IDDの治療法は外科的切除術と内視鏡的切除術があり,十二指腸乳頭部と憩室の位置関係,憩室のサイズなどを考慮して決定する必要がある.

利益相反:なし

文献
 

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