The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Sigmoid Colon Cancer with Intussusception Treated by Laparoscopic Surgery and Removed Transanally
Yujin KatoSeiichiro YamamotoYusuke YoshikawaKiminori TakanoKumiko HongoKikuo YoMotohito Nakagawa
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2021 Volume 54 Issue 6 Pages 424-429

Details
Abstract

症例は70歳の男性で,肛門からの腸管の脱出および肛門痛を主訴に救急搬送され,肛門より腸管の脱出を認め脱出腸管の壊死が疑われた.CTではS状結腸が直腸内腔に反転して重積しその先進部は肛門より脱出していた.穿孔の可能性も考慮して整復は試みずに手術の方針とした.腹腔鏡下に重積部の口側でS状結腸を切離し,直腸後腔を肛門挙筋のレベルまで授動し,会陰から脱出した腸管の口側を反転された状態で肛門側に牽引し,肛門側腸管を切離し検体を摘出した.検体では重積先進部に0-I型腫瘍および腫瘍付近で穿孔を認めた.S状結腸癌が先進部となり腸重積を来し肛門外に脱出する報告は散見するが,本症例では肛門外に嵌頓した状態であり,穿孔や悪性腫瘍の可能性を考慮し整復することなく腹腔鏡下の腸管授動および口側腸管切離を先行させ,会陰部からの操作で経肛門的に検体摘出を行ったHartmann手術を施行した.

Translated Abstract

A male aged 70 was transported by ambulance with chief complaints of intestinal tract procidentia and proctodynia. Intestinal tract procidentia from the anus was observed and necrosis of a prolapsed intestinal tract was suspected. A CT scan showed that the sigmoid colon had reversed in the rectum lumen and intussuscepted, and its presenting part had prolapsed. Given the possibility of perforation, surgery was chosen without trying reduction. The sigmoid colon was dissected on the oral side of the intussusception by laparoscopy, the posterior rectal cavity was mobilized to the level of the levator ani, the reversed prolapsed intestinal tract was pulled out through the anus, the intestinal tract was dissected on the anal side, and the specimen was removed. A 0-I type tumor in the presenting part of the intussusception and perforation around the tumor were observed in the resected specimen. There are some reports of sigmoid colon cancer developing into a presenting part with intussusception and resulting in procidentia. However, in this case, the intestinal tract was incarcerated out of the anus, which suggested the possibility of perforation or malignancy. Therefore, laparoscopic surgery was performed for intestinal tract mobilization and dissection, without attempting reduction, followed by Hartmann’s surgery with transanal removal of the specimen.

はじめに

成人のS状結腸の腸重積は比較的まれであり,そのなかでも先進部が肛門より脱出するものは少なく,そのほとんどがS状結腸癌によるものである1).今回,肛門外脱出腸管の壊死が疑われ,腹腔鏡下の腸管授動および口側腸管切除を先行させ経肛門的に検体摘出を行ったHartmann手術が有効であった1例を経験したため報告する.

症例

患者:70歳,男性

主訴:肛門からの腸管の脱出,肛門痛

現病歴:2018年12月末より肛門からの腸管の脱出の自覚症状があった.間欠痛があったが放置していた.約3週間経過したが症状改善なく救急要請し,当院救急外来を受診した.

既往歴:アルコール性肝障害,胃十二指腸潰瘍,高脂血症,糖尿病,高血圧症,閉塞性動脈硬化症

身体所見:JCS 0,体温37.0°C,心拍数98回/分,呼吸数17回/分,血圧219/145 mmHg,酸素飽和度99%(room air)

肛門から10~15cm程度の腸管の脱出を認めた.腸管が翻転し,脱出した腸管粘膜は黒色に変化し腸管壊死を疑った(Fig. 1).

Fig. 1 

Initial findings. Rectal prolapse was detected, the intestinal mucosa had turned black, and intestinal necrosis was suspected.

検査所見:WBC 17,700/mm3,RBC 372×104/mm3,Hb 12.1 g/dl,Ht 34.4%,Plt 44.7×104/mm3,BUN 66 mg/dl,Cre 1.63 mg/dl,CPK 138 IU/l,CRP 32.66 mg/l,Lac 2.8 mmol/l

腹部骨盤造影CT所見:直腸壁は全周性に浮腫状に肥厚し,S状結腸が直腸内腔に反転して重積し,その先進部は肛門より脱出していた.口側腸管の拡張所見は認めなかったが,尾側の反転した直腸周囲の直腸固有粘膜の脂肪織濃度が上昇し,うっ血が疑われた.先進部に明らかな腫瘍性病変は認めなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal pelvic contrast CT. a: The wall of the rectum was edematous and thickened. b: The rectum was prolapsing though the anus, with the sigmoid colon inverted in the lumen.

治療方針:腸重積による嵌頓で腸管壊死を伴っていると判断し緊急手術の方針とした.併存疾患が多くリスクを考慮し,Hartmann手術を予定した.術前に明らかな腫瘍は確認できなかったが,先進部に腫瘍性病変がある可能性を考慮し,リンパ節郭清を伴う根治術を施行した.本症例は低ADL,ハイリスク症例であり二期的な再建は予定しないこととした.

手術所見:D3リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下Hartmann手術を施行した.腸管切除は,まず重積部より口側でS状結腸を切離し,その後,直腸後腔を肛門挙筋のレベルまで授動した.会陰部からの操作で脱出結腸をさらに肛門側に引き出しても腹腔内が汚染されるリスクは少ないと判断し,脱出結腸をさらに肛門側に引き出し,反転腸管内にある口側断端が切除側に含まれるように触診で確認しながら,可能なかぎり肛門側で直腸を自動縫合器で切離し検体を摘出した(Fig. 3, 4).

Fig. 3 

Port layout. Laparoscopic surgery was performed with 5 ports.

Fig. 4 

Surgery overview (operation video). The sigmoid colon was cut off on the oral side of intussusception and the retrorectal space was mobilized to the level of the levator muscle. The intestine was pulled to the anal side by an operation from the perineum, and the anal side rectum was cut off with an automatic suture device outside of the anus. The specimen was then removed.

Fig. 4-Video operation video

手術時間は200分,出血量は少量であり,術中合併症は認めなかった.術後経過は良好であったが,ストマ管理および退院先調整に時間を要し,術後24日に退院となった.

病理組織学的検査所見:先進部は長期間の脱出の影響で硬変しており(画像の変色部),術直後には腫瘍を同定できなかった.しかし,ホルマリン固定後の検体では重積先進部に0-I型腫瘍を認め(Fig. 5の#7部の矢印),病理組織学的にはAdenocarcinoma(tub2),Type0-I,pT1b,INFa,Ly0,V0,pPM0,pDM0,pN0(0/9)であった.また,脱出腸管の先端の変色部の肛門側に壊死による穿孔を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

Extracted specimen. A type 0-I tumor (adenocarcinoma: tub2) was found in the advanced part of the intussusception (white arrow). Perforation due to necrosis was also found on the anal side of the prolapsing intestinal tract tip.

退院後経過:術後12か月経過し,無再発生存生存中である.

考察

成人の腸重積症は小児に比べて頻度が低く,腸重積症全体の約5%であり,その原因は約90%が器質的病変に起因し,特発性は少ない2).部位別に原因をみると,小腸はポリープ,脂肪腫などの良性腫瘍に起因する場合が多いのに対し,大腸では原因の半数以上を悪性腫瘍が占めており,可動性の大きいS状結腸や盲腸に好発することが知られている1)3).結腸脱に関しては,骨盤底筋群や肛門括約筋,直腸周囲の支持組織の脆弱化によってS状結腸が重積して先進し肛門外へ脱出するため,分娩,老化に伴い同部が脆弱した高齢女性に多いとされる4)

一般には,成人腸重積症は悪性腫瘍などの器質的疾患が主因であることが多く,術前の整復により穿孔を助長し,腫瘍細胞の腹腔内への散布による播種を誘発する恐れがあるため行うべきではないとされる5).一方,成人腸重積症,特に肛門外に結腸脱を来すような患者においては,種々の合併症を伴う高齢者が多く,良性疾患である直腸脱の可能性もあり,腸管虚血所見を認めず,整復が容易な症例では術前に整復を行い,腸切除範囲を最小限にすべきという意見もある6).また,近年は肛門外脱出症例に対する内視鏡的整復施行後に待機的に腹腔鏡手術を行った症例も報告されている7)8).肛門外に脱出した重積腸管を整復すべきか否かについてはいまだに議論の帰結を見ないが,本症例のように長時間結腸脱の状態を放置し粘膜の壊死が疑われる場合は,脱出腸管を腹腔内に返納しない経肛門的な腸管切除が必須であると考えられる.また,本症例では腹腔内操作で試しに脱出した腸管を軽く口側に牽引してみたが可動性はなく,実際に摘出検体では先進部付近に穿孔所見を認めた.このような症例では整復を試みること自体が禁忌といえよう.

肛門外脱出を来したS状結腸重積症に対して手術を選択する場合,術式としては,S状結腸切除術,Hartmann手術,前方切除術,腹会陰式直腸切断術,経肛門的切除術などが考えられる.医学中央雑誌で「S状結腸癌」,「肛門外脱出」,「腸重積」をキーワードとして1983年から2019年1月まで検索(会議録を除く)したところ,肛門外脱出を来したS状結腸癌腸重積症に対し手術施行した症例は本邦で45例の報告を検索しえた.

術式の内訳はS状結腸切除術24例,前方切除術4例,Hartmann手術8例,腹会陰式直腸切断術1例,腫瘍摘出術1例,経肛門的切除7例であった.その中で鏡視下手術は2例のみで,いずれも腸管壊死は疑われない症例であり,整復後に待機的な腹腔鏡下S状結腸切除術が施行された症例であった7)9).本症例のように,腹腔鏡下でのリンパ節郭清と口側腸管切除および腸管授動を行い,経肛門的肛門側腸管切除を組み合わせたHartmann手術は本邦では報告されていなかった.

術式選択に関して,容易に整復が可能な症例では整復後に通常の術前検査を行い,待機的に手術を行うことが望ましいと考えられる.一方,本症例のように脱出腸管の嵌頓・壊死が疑われる場合は緊急手術が選択される.明らかに癌による重積と判断できない症例での3群リンパ節の郭清には議論の余地が残るが,脱出腸管を腹腔内に返納しない経肛門的切除ではリンパ節郭清が不十分になる10).成人の大腸腸重積症では悪性腫瘍を先進部とした器質的疾患が存在する可能性が高いことを念頭に置いて対処することが必要である.

肛門外脱出を伴ったS状結腸癌腸重積症の報告は散見するが,整復せずに腹腔鏡下の腸管授動および口側腸管切除を先行させ経肛門的に検体摘出を行ったHartmann手術の報告はこれまでなく,嵌頓症例や穿孔が疑われる症例では腹腔鏡手術と経肛門的手術を組み合わせての対応も考慮すべき一つの選択肢と考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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