2021 Volume 54 Issue 9 Pages 644-656
腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行した直腸肛門部悪性黒色腫(anorectal malignant melanoma;以下,AMMと略記)の3例を経験した.症例1は73歳の女性で,主訴は下血であった.大腸癌取扱い規約第9版に準じるとpT1bN2aM0であり,術後補助療法を行った.術後4か月で側方リンパ節転移を認めた.症例2は,血液透析中の45歳の男性で,主訴は肛門部腫瘤であった.pT2N1bM0であり,術後補助療法は行わなかった.術後2か月で鼠経リンパ節転移を認めた.症例3は66歳の女性で,主訴は下血であった.pT1bN0M0で,術後補助療法としてニボルマブを1年間投与し,術後20か月経過するが無再発である.腹会陰式直腸切断術が施行された本邦既報のAMM 51例と合わせた検討では,所属リンパ節転移陽性例は術後早期に遠隔転移再発することが多く,予後不良であった.
We report three cases of anorectal malignant melanoma (AMM) that were treated with laparoscopic abdominoperineal resection (APR). The first case was a 73-year-old woman with a chief complaint of melena. She was diagnosed with pT1bN2aM0 (9th edition of the Japanese classification of colorectal, appendiceal, and anal carcinoma) and adjuvant chemotherapy was performed after radical surgery. Four months after surgery, lateral lymph node metastasis was found. The second case was a 45-year-old man on hemodialysis with a chief complaint of an anal mass. He was diagnosed with pT2N1bM0 and adjuvant chemotherapy was not performed. Two months after surgery, inguinal lymph node metastasis was found. The third case was a 66-year-old woman with a chief complaint of melena. She was diagnosed with pT1bN0M0 and nivolumab was used as adjuvant chemotherapy for 1 year. She remains alive without recurrence 20 months after surgery. There are reports of 51 AMM cases in which APR was performed in Japan, and these show that regional lymph node metastasis is a risk factor for early distant recurrence after surgery.
直腸肛門部悪性黒色腫(anorectal malignant melanoma;以下,AMMと略記)は比較的まれであり,T1の症例でも早期に転移することが多く予後不良な疾患である1)~4).AMMに対する治療の基本は切除であるが,予後不良であるが故に術式はいまだに確立されていない.本邦では腹会陰式直腸切断術(abdominoperineal resection;以下,APRと略記)を施行した報告が多い.その治療成績については1987年に岡部ら5)がAMM 78例を対象としてすでにまとめているが,遠隔転移症例が含まれており,さらに化学療法の変遷を考慮すると再度検討する意義はある.今回,我々は腹腔鏡下APRを施行したAMM 3例を経験したので,遠隔転移がなくR0のAPRが施行された本邦既報のAMM 51例と合わせて考察し報告する.
症例1:73歳,女性
主訴:下血
既往歴:子宮筋腫に対して子宮部分切除,高血圧,糖尿病
家族歴:母が膵癌
現病歴:2010年,上記を主訴に近医を受診した.肛門鏡検査で30 mmの腫瘍を認め,経肛門的切除術が施行された.病理組織検査で悪性黒色腫と診断され,当院紹介受診となった.
血液生化学検査所見:HbA1c 7.9%と上昇している以外は,特記すべき異常は認めなかった.
下部消化管内視鏡検査所見:歯状線より15 mm口側に腫瘍の遺残を認め,その肛門側粘膜に黒色斑が散見された(Fig. 1).
Colonoscopic findings in case 1. Black spots were seen on mucosa around the residual tumor (red arrowheads). Residual tumor (blue arrowheads).
腹部骨盤造影CT所見:遺残した腫瘤は同定できなかった.腸管傍リンパ節2個の転移が疑われたが,遠隔転移は認めなかった.
PET-CT所見:肛門部にFDG集積(SUVmax 3.46)を認め,腸管傍リンパ節にも集積を認めた.そのほかの部位に,異常集積は認めなかった.
前医での病理組織学的検査所見:Malignant melanoma,腫瘍細胞は粘膜下層に達していた.垂直断端陽性であり,静脈侵襲も認めた.
以上より,大腸癌取扱い規約第9版に準じると,Malignant melanoma,cT1N1bM0,cStage IIIaと術前診断した.経肛門的切除後の腫瘍遺残があり,リンパ節転移の可能性が高いことを本人に説明し,腹腔鏡下APR(D3LD0)を行った.鼠経リンパ節郭清は行っていない.
切除標本所見:歯状線の口側に,5 mmの遺残結節を認めた.
病理組織学的検査所見:核小体の目立つ異型核およびメラニン顆粒を有する腫瘍細胞が,粘膜固有層内を主体として増生し,粘膜下層への浸潤を認めた.腫瘍細胞は,S-100陽性,HMB-45陽性,Melan-A陽性であった(Fig. 2).251番リンパ節に計6個の転移を認めた.以上より,Malignant melanoma,P,0-Ip,30×30 mm,pT1b,LyX,V1,pPM0,pDM0,pRM0,pN2a(6/20),M0,pStage IIIaと最終診断した.術後に人工肛門周囲の感染を認めたが,保存的に軽快し,術後第37病日に退院した.術後補助療法としてDAC-Tam(dacarbazine/nimustine/cisplatin/tamoxifen)を行ったが,手術後6か月に両側の内腸骨動脈に沿うリンパ節転移が出現した.両側側方リンパ節郭清術と術後補助療法としてDAVFeron(dacarbazine/nimustine/vincristine/interferon beta)を行ったが,初回手術後14か月に肝転移,肺転移および腹膜播種を認め,その1か月後に永眠された.
Histopathological examination in case 1. A: HE staining. B: Immunostaining of HMB-45 (red chromogen).
症例2:45歳,男性
主訴:肛門部腫瘤
既往歴:高血圧,2型糖尿病,糖尿病性腎症(血液透析中)
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2011年,上記を主訴に近医を受診した.生検結果で悪性黒色腫と診断され,当院紹介受診となった.
初診時現症:肛門縁付近に黒色腫瘤を認めた(Fig. 3).腫瘤は弾性硬であり,直腸指診では肛門狭窄を認めた.
Anal findings in case 2. The tumor was an elastic hard mass with anal stenosis.
血液生化学検査所見:WBC 4,810/μl,Hb 8.7 g/dl,PLT 15.3×104/μl,TP 6.2 g/dl,ALB 3.9 g/dl,T-CHO 128 mg/dl,BUN 39 mg/dl,Cre 7.93 mg/dl,Na 139 mEq/l,K 3.8 mEq/l,Cl 102 mEq/l,CRP 0.17 mg/dl,HbA1c 5.7%であり,貧血と腎機能低下を認めた.
下部消化管内視鏡検査所見:歯状線上に黒色の1型腫瘍を認め,周囲粘膜にも薄い黒色斑が散見された.
腹部骨盤単純CT所見:40 mmの直腸肛門部腫瘍を認めた.リンパ節転移や遠隔転移はなかった.
PET-CT所見:肛門部腫瘍に一致してFDG集積(SUVmax 8.3)を認めたが,その他に異常集積はなかった.
以上より,Malignant melanoma,cT2N0M0,cStage Iと術前診断し,腹腔鏡下APR(D3LD0)を施行した.鼠経リンパ節郭清は行っていない.
切除標本所見:歯状線上に1型腫瘤を認め,口側2 cmの直腸粘膜まで黒色変化を認めた(Fig. 4).
The resected specimen in case 2 showed invasion of the perirectal mucosa (red arrowhead).
病理組織学的検査所見:核小体の目立つ明瞭な大型異型細胞およびメラニン顆粒を有する腫瘍細胞が,上皮~横紋筋を含んだ筋層の浅層までびまん性に浸潤・増生していた(Fig. 5).原発巣から2 cm以上口側の直腸粘膜下に胞巣状に浸潤している部位が認められた.腫瘍細胞は,S100陽性,HMB-45陽性,Melan-A陽性であった.251番と253番のリンパ節に計2個の転移を認めた.以上より,Malignant melanoma,P,1型,40×28 mm,pT2(MP),Ly2,V2,pPM0,pDM0,pRM0,pN3(2/29),pStage IIIbと最終診断した.術後経過は良好で,術後15病日に退院となった.血液透析中のため,術後補助療法は行わなかった.術後2か月にPET-CTで両側鼠径リンパ節転移を認め,郭清術を行った.初回術後4か月に肺転移が出現したためbest supportive careに移行し,初回術後11か月に永眠された.
Histopathological examination of HE staining in case 2. A: HE staining. Tumor cells with melanin diffusely invaded the muscle layer. B: Immunostaining of HMB-45 (red chromogen).
症例3:66歳,女性
主訴:下血
既往歴:虫垂炎の手術
家族歴:母が胃癌,父が膀胱癌,兄が胃癌
現病歴:2019年,上記を主訴に近医を受診した.大腸内視鏡検査で肛門部腫瘍を認め,生検で悪性黒色腫と診断され,当院紹介受診となった.
血液生化学検査所見:特記すべき異常なし.
下部消化管内視鏡検査所見:下部直腸を主座とし,一部が外科的肛門管にかかる1型腫瘤を認めた.周囲粘膜に黒色斑が散見された(Fig. 6).
Colonoscopic findings in case 3. Black spots were seen on the perirectal mucosa of the tumor (red arrowhead).
腹部骨盤造影CT所見:肛門部に辺縁に造影効果を伴う30 mmの腫瘤を認めた.リンパ節転移や遠隔転移はなかった.
骨盤造影MRI所見:直腸壁筋層の連続性は保たれており,周囲への浸潤所見も認めなかった.拡散強調画像でリンパ節転移を疑う所見はなかった.
以上より,Malignant melanoma,cT2N0M0,cStage Iと術前診断し,腹腔鏡下APR(D3LD0)を行った.鼠経リンパ節郭清は行っていない.
切除標本所見:一部Herrmann氏線にかかる,1型腫瘤を認めた.
病理組織学的検査所見:核小体の目立つ異型核およびメラニン顆粒を有する腫瘍細胞が,上皮~固有筋層直上まで充実性に増生していた.リンパ節転移は認めなかった.腫瘍細胞は,S100陽性,HMB-45陽性,Melan-A陽性であった(Fig. 7).RASおよびBRAFの遺伝子変異は認めず,MSI陰性であった.
Histopathological examination in case 3. A: HE staining. B: Immunostaining of HMB-45 (red chromogen).
以上より,Malignant melanoma,RbP,1型,30×22mm,pT1b(SM),Ly0,V0,pPM0,pDM0,pRM0,pN0(0/4),pStage Iと最終診断した.術後経過は良好で術後第18病日に退院した.術後補助療法としてニボルマブ(1年間)を投与し,現在は術後20か月経過し無再発である.
AMMは,1857年にMoore6)によって初めて報告され,全肛門管悪性腫瘍のうち1%とまれな疾患である4).発生学的に由来の異なる直腸粘膜と肛門上皮との間の,いわゆる移行帯上皮部(歯状線から恥骨直腸筋付着部上縁の間)に発生しやすい7)とされ,同部に存在するメラノサイトが癌化したものと考えられている.また,皮膚原発の悪性黒色腫に比べて,AMMはBRAF遺伝子変異が少なく,KIT遺伝子変異が多いことから,これらは腫瘍学的に異なっているものとされている8).
AMMの典型的な肉眼所見は,黒色を呈するポリープ状の隆起性病変であるが,メラニン産生が目立たない低色素性あるいは無色素性の症例9)~11)や進行例では潰瘍性病変として発見される症例も存在する.そのため,痔核,直腸ポリープ,直腸癌などと誤診されてしまうこともある12)13).
悪性黒色腫の血清腫瘍マーカーには,LDH,S100-β,melanoma inhibitory activity(MIA),neuron-specific enolase(NSE),5-S-cysteinyldopa(5-S-CD)などがあるが,一般的には進行例でのみ異常値を示し,早期診断には有用とされていない14)15).
病理組織学的検査では,腫瘍内のメラニン沈着とともに,vimentinやS-100蛋白,HMB-45,Melan-Aなどの免疫染色検査によって診断される16).
治療の基本は外科的切除であるが,広範囲局所切除術(wide local excision;以下,WLEと略記)がよいか,リンパ節郭清を伴うAPRがよいのかは,controversialである.海外では,根治性が高い後者がよいとする報告17)~19)がある一方で,AMMは早期に遠隔転移を起こしやすいため両術式の予後に差がなく,むしろ生活の質を損なわないWLEの方が良いとする報告20)~23)も散見される.2020年に英国から発行されたガイドライン24)では,WLEと比較してAPRは予後を改善しなかったとし,失禁のリスクが高いと判断された症例や間膜内リンパ節転移が疑われる症例に対してのみAPRを考慮すべきと記載されている.さらに,同年に発表されたメタ解析を用いた論文25)でも,APRが予後良好とするエビデンスは得られなかった.AMM患者のうち,病巣が限局しているのは全体のわずか3分の1である24)ことから,予後改善のためには外科的切除に加えて効果的な全身療法が必要と考えられる.
本邦では1992年に原ら26)が,長期生存の条件として,「最大腫瘍径5 cm未満」,「深達度MP以浅」,「リンパ節転移の有無にかかわらず広範なリンパ節郭清を伴うAPRが施行された症例」と報告した.それ以降本邦ではAPR施行例が多く報告されてきた.一方で近年,悪性黒色腫の術後補助療法として抗PD-1抗体が本邦保険承認され,治療成績の向上が期待されている27).そのため,現時点ではAMMに対するAPRのエビデンスは得られていないが,その周術期補助療法に抗PD-1抗体を用いることで予後改善の可能性が考えられる.
そこで,1992年以降に本邦でR0のAPRが施行されたAMMの予後を検討した.医学中央雑誌で1992年から2019年7月の期間で「直腸肛門部悪性黒色腫」,「腹会陰式直腸切断術」をキーワードとして検索したところ(会議録除く),59例であった.そのうち,遠隔転移を認めた7例と予後が不明であった1例を除いた51例11)26)28)~66)に,自験例の3例を加えた54例で検討した.
以下では,大腸癌取扱い規約第9版に準じている.背景をTable 1に示す.全例の年齢中央値は67歳(40~89歳)で,性別は男性20名で女性34名と女性が多かった.腫瘍径中央値は,所属リンパ節転移(regional lymph node metastasis;以下,RLMと略記)陽性例が30 mm(10~110mm),陰性例が31 mm(6~65mm)であった.腫瘍深達度は,T1以浅が31例でT2以深が23例であった.なお,第7版AJCC皮膚メラノーマ病期分類で記載されていたT4b(厚さが4.0 mmを超えて,潰瘍あり)の2例は,T2以深に分類した.深達度別のRLM陽性率は,T1以浅で45%(14/31),T2以深で65%(15/23)であった.T1以浅のうち,Tisの5例を除いたT1症例のみのRLM陽性率は54%(14/26)と高率であった.Tis症例は,全例がRLM陰性で脈管侵襲(不明1例)も認めなかった.側方郭清は43%(23/54)に併施されていた.そのうち,病理学的に側方リンパ節転移が陽性であったのは15%(3/20;不明3例)で,T1症例が1例含まれていた.RLM陰性例では28%(7/25)に側方郭清が行われていたのに対して,陽性例では55%(16/29)と高く,治療的郭清を目的とした症例が多かった可能性がある.鼠経リンパ節郭清が併施されたのは6%(3/54)のみであった.
All (n=54) | RLM | unknown | |||
---|---|---|---|---|---|
Positive (n=29) | Negative (n=25) | ||||
Age | Median (range) | 67 (40–89) | 68 (43–85) | 67 (40–89) | 0 |
Gender | Male | 20 | 14 | 6 | 0 |
Female | 34 | 15 | 19 | ||
Tumor diameter, mm | Median (range) | 30 (6–110) | 30 (10–110) | 31 (6–65) | 4 |
Depth of tumor invasion | Tis–T1 | 31 | 14 | 17 | 0 |
T2–T4 | 23 | 15 | 8 | ||
Lateral LND | Present | 23 | 16 | 7 | 0 |
Absent | 31 | 13 | 18 | ||
Inguinal LND | Present | 3 | 1 | 2 | 0 |
Absent | 51 | 28 | 23 | ||
POAC | Present | 29 | 16 | 13 | 4 |
Absent | 21 | 12 | 9 |
RLM: regional lymph node metastasis, LND: lymph node dissection, POAC: postoperative adjuvant chemotherapy
術後補助療法は,58%(29/50;不明4例)に施行されていた.RLM陰性例では,59%(13/22)に術後補助療法が行われていた.レジメンは皮膚悪性黒色腫に準じたものが使用されており,主にDAV(dacarbazine/nimustine/vincristine),DAC-Tam,DTIC(dacarbazine)単剤,DAVFeronであった.しかし,これらレジメンの有効性は示されず,さらにdacarbazineとnimustineが原因と考えられる治療関連白血病が,複数例報告67)68)されたこともあり,現在,悪性黒色腫の術後補助療法として用いることは推奨されていない.皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第3版(2019年)27)で術後補助療法として強く推奨され,かつ本邦保険承認を受けているのは,抗PD-1抗体であるニボルマブとペムブロリズマブ,BRAF変異症例に対するダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の三つである.いずれも無再発生存期間(relapse-free survival;以下,RFSと略記)を有意に延長させたが,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の生存期間(overall survival;以下,OSと略記)は,中間解析で延長の傾向が示されただけであり69)70),ニボルマブとペムブロリズマブのOSは未報告である71)72).さらに,根拠となった臨床試験は皮膚原発が主な対象であったことから,これらのレジメンをAMMの術後補助療法として使用する場合の効果については明らかでなく,今後の検討が必要である.なお,Pegylated IFN-α(本邦承認)はOSの有意な延長が示されなかったこと,イピリムマブ(10 mg/kg:本邦未承認用量)は有意なOSの延長が示されたものの毒性が強かったことから,ともに推奨度は低くなっている.今回の検討では,AMMの術後補助療法に抗PD-1抗体が用いられたのは自験例の1例のみであり,ほとんど報告されていない73).
再発は54例中27例(50%)に認めた.RLM陽性例と陰性例の再発率はそれぞれ76%(22/29),20%(5/25)であった.再発部位は,肝臓が14例と最も多く,肺が10例,鼠径リンパ節が4例,骨が3例,消化管が3例(小腸,十二指腸,胆囊),脳が1例で,局所再発は4例の7.4%(4/54)であった.側方郭清が行われなかった31例のうち,側方リンパ節に再発を認めたのは,自験例の1例(3%)のみであった.鼠径リンパ節再発を来した4例をTable 2に示す.全例がT2以深でかつRLM陽性であった.2例に手術が施行されていたが,術後に他臓器再発しともに癌死している.
No. | Author | Year | Age | Sex | Surgery | Lateral LND | Inguinal LND | Diameter | Depth | RLM | Recurrence of ILN after APR | Treatment | Survival after APR | Prognosis |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Teruya33) | 2001 | 69 | F | APR | none | none | 25 mm | T2 | + | 12M | surgery | 36M | dead |
2 | Fukui34) | 2002 | 75 | M | APR | + | none | 90 mm | T4 | + | unknown | unknown | 17M | dead |
3 | Yoshida63) | 2017 | 43 | M | APR | + | none | unknown | T3 | + | 6M | chemotherapy | 12M | alive |
4 | Our case | 45 | M | APR | none | none | 40 mm | T2 | + | 2M | surgery | 11M | dead |
APR: abdominoperineal resection, LND: lymph node dissection, RLM: regional lymph node metastasis, ILN: inguinal lymph node
RLM陽性例と陰性例でRFS(不明4例)を比較すると,前者が短かった(Fig. 8).RLM陽性例のmedian RFSは7か月であり,術後早期に再発していた.また,RLM陽性例のmedian OSは手術から32か月であり,陰性例と比較すると短かった(Fig. 9).ただし,RLM陽性例と陰性例の観察期間中央値が,それぞれ15か月(4~108か月),21か月(3~120か月)と短い点には留意が必要である.
Relapse-free survival of RLM-positive and RLM-negative cases shown using Kaplan-Meier curves. RLM: regional lymph node metastasis.
Overall survival of RLM-positive and RLM-negative cases shown using Kaplan-Meier curves. RLM: regional lymph node metastasis.
以上の検討から,予後不良であるRLM陽性例に対して初回治療にAPRを行うことは,現時点では過大手術となる可能性もある.近年,臨床的に明らかなリンパ節転移がある切除可能悪性黒色腫に対して,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法74),ニボルマブ+イピリムマブ併用療法ならびにニボルマブ単剤療法75)による術前補助療法の有効性が報告された.これらの全身療法を行い,遠隔転移の有無を確認したうえで,手術を行うことも選択肢の一つになりえる.いずれにしても,RLM陽性例に対しては手術単独での根治は難しく,集学的治療が必要と考えるべきである.その一方で,RLM陰性例に対する APRの長期成績は,直腸癌のStage IIの5年生存率(83.1%)と大きな差はなかった.また,手術を行う際には切除マージンに注意を要する.AMMでは周囲粘膜に黒色斑を伴うことが多く,自験例2では原発巣から2 cm以上離れた黒色斑にも病理学的な浸潤所見が確認された.よって,術前に黒色斑の広がりを確認しておくことが肝要である.リンパ節郭清範囲については,AMMのRLM陽性率が高いことから,T1以深の症例にD3郭清が必要と考えられる.再発形式の検討から,現時点では予防的側方リンパ節郭清の必要性は高くないと考えられた.
AMMに対して過不足ない治療を行うために,今後も術式のみならず,予後不良因子の解明や周術期補助療法の確立も必要である.そのなかで,切除不能再発AMMに対して有効性が報告62)63)76)77)されるようになった抗PD-1抗体への期待は大きい.
利益相反:なし