The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Recurrent Rectal Prolapse with Perforation of the Rectum with Prolapse of the Small Intestine from the Anus
Michiaki ShimadaShinsuke ObataSeiko UwahuziHideki NaganoYasuo HayashiKenichi Harada
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2021 Volume 54 Issue 9 Pages 637-643

Details
Abstract

症例は65歳の女性で,直腸脱および子宮脱に対して子宮全摘および三輪-Gant+Thiersch手術が行われていた.直腸脱はAltemeier手術や開腹直腸後方固定術も行われたが,再発の状態であった.今回,腹痛および肛門からの腸管脱出を来したため救急搬送された.約60 cm長の経肛門的小腸脱出を認め,CTにて直腸穿孔に伴う小腸の直腸嵌入,および肛門からの脱出と診断し,緊急手術を施行した.手術所見では腹腔内に便汚染はみられず,腹膜翻転部での直腸前壁に3.5 cmの裂傷があり,同部より小腸が直腸内に嵌入していた.脱出腸管の腹腔内牽引が困難なため,先に肛門外で腸管切除を行い,腹腔内で吻合を行った.直腸穿孔部については,直腸後方のメッシュは温存のうえでHartmann手術を施行した.経肛門的小腸脱出は極めてまれな病態であるが,直腸脱との有意な関連性が報告されている.その発生機序について考察し,報告する.

Translated Abstract

The patient was a 65-year-old woman with a history of rectal uterine prolapse who had undergone total hysterectomy and Miwa-Gant+Thiersch surgery. An Altemeier operation was then performed, but prolapse recurred. Posterior rectopexy with mesh was subsequently performed, but again there was recurrence. At the time of this recurrence, the patient was transported as an emergency because of abdominal pain and intestinal prolapse from the anus. A 60-cm small intestinal prolapse from the anus was found, and CT revealed small intestinal intrusion and prolapse from the anus due to rectal perforation. Therefore, laparotomy was performed urgently. There was no stool leak in the abdominal cavity. A 3.5-cm laceration was found in the anterior wall of the rectum at the bottom of the Douglas fossa, and the small intestine had entered the rectum through the laceration. It was difficult to pull back the small intestine from the anus, so it was resected. The small intestinal stump was pulled back and anastomosed. A Hartmann operation was subsequently performed on the perforated rectum, leaving the mesh on the dorsal side of the rectum. Transanal prolapse is an extremely rare condition that has a significant association with rectal prolapse. The case reported here may permit greater understanding of the mechanism of occurrence.

はじめに

外傷や腫瘍,その他器質的疾患に伴わない直腸穿孔はまれな疾患である.さらに,直腸穿孔部を介して小腸が肛門外に脱出する病態は極めてまれである1)~13).今回,我々は再発を繰り返した直腸脱が誘因と推測される直腸穿孔に伴い,経肛門的小腸脱出を来した1例を経験したので報告する.

症例

症例:65歳,女性

主訴:腹痛および肛門からの小腸脱出

既往歴:2回の経産歴あり.48歳時よりParkinson病にて加療されていた(65歳時,Hoehn-Yahr IVで介護を要する状態).62歳時に直腸脱と子宮脱に対して,他院にて膣式子宮全摘術と同時に三輪-Gant+Thiersch手術を施行されたが,感染のためThiersch縫合糸抜去が行われ再発した.同年,2回目の三輪-Gant+Thiersch手術が施行されるも,同様に感染のためThiersch縫合糸抜去が行われ再発した.63歳時にAltemeier術を施行され35 cmの腸管切除が行われたが,3か月後に再発した.64歳時に開腹直腸後方固定術(Wells変法)を施行されたが,11か月後に再発を来し,今回の入院前は10 cm弱の直腸脱の状態であった.また,便秘症もあり,緩下剤を内服していた.

現病歴:入浴後に突発的な下腹部痛が出現し,同時に肛門からの小腸脱出を来したため当院へ救急搬送となった.

来院時現症:血圧134/79 mmHg,脈拍72回/分,SpO2 98%,体温37.6°Cであった.腹部は平坦,軟で下腹部正中に手術瘢痕あり.下腹部に軽度圧痛を認めた.肛門から約60 cm長の発赤と浮腫を伴う小腸の脱出を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Transanal prolapse of the small intestine of about 60 cm.

血液検査所見:WBC 4,700/μl,CRP 0.08 mg/dl,LDH 289 U/l,CPK 315 U/lと炎症反応の亢進や逸脱酵素の著明な上昇はみられなかった.

腹部単純CT所見:小腸がDouglas窩で腹側から直腸内へ嵌入し,経肛門的に体外へ脱出していた(Fig. 2).腹水は骨盤内にごく少量認めるのみで,腹腔内遊離ガス像は認めなかった.

Fig. 2 

Abdominal CT sagittal image. The small intestine had escaped from the anus to outside the body.

以上により,直腸穿孔に伴う小腸の直腸内嵌入および経肛門的脱出と診断し,緊急手術を施行した.

手術所見:砕石位,下腹部正中切開にて開腹した.脱出小腸は牽引での腹腔内還納を試みたが,浮腫性肥厚により困難であった.先に肛門外で約40 cmの小腸切除を行ってから機械的に側端吻合を行った.穿孔部位は腹膜翻転部直上の直腸前壁で,約35 mm長の裂傷を認めた(Fig. 3).穿孔部周囲の便汚染や腹膜発赤所見はほぼみられなかった.S状結腸は腹腔外へ引き出せるほどの長さがあり,直腸間膜は薄く長い状態で高い可動性を認めた.単純縫合閉鎖では再穿孔の危険があると判断し,Hartmann手術を施行した.骨盤底付近の仙骨前面まで至ると,直腸後壁とメッシュの間隔は狭くなり比較的固定された状態であったが,前方は深い直腸膀胱窩を形成して可動性を有していた.穿孔部までの間膜処理を行い,自動縫合機にて縫合切離した.S状結腸は腹膜トンネルを通さず挙上して単孔式人工肛門造設を行った.

Fig. 3 

Excised specimen. A laceration was found just above the inversion part of the peritoneum.

術後経過:術後イレウスを繰り返したため,胃瘻造設および再手術を要した.再開腹時には挙上S状結腸に小腸が巻き付くように癒着していたため,癒着剥離術および経後腹膜経路での単孔式S状結腸人工肛門再造設術を施行した.初回手術後128病日に自宅退院とした.術後は直腸脱の再発はみられていないが,膣脱を認め経過観察していた.術後3年目に他院で膣閉鎖術を施行された.

病理組織学的検査所見:直腸前壁の穿孔部周囲には壊死と感染を伴う潰瘍性病変を認めた(Fig. 4).腫瘍性病変は認めず,筋層の線維化や肥厚などの周囲腸管壁の構造変化も認められなかった.

Fig. 4 

An ulcer with necrosis and infection was found at the perforation site.

考察

経肛門的小腸脱出は極めてまれな病態である.医学中央雑誌(1964年~2019年)で「経肛門」,「小腸脱出」をキーワードに検索したところ,自験例を含め12例の報告があった1)~11).Kornaropoulosら12)やPisanoら13)によると海外でも70例ほど報告されている.

検索できた症例についてTable 1に記載する.いずれも高齢女性であり,うち10例に骨盤臓器脱(直腸脱もしくは子宮脱)を認めた.直腸脱に対して後方固定術後が2例あり,子宮全摘後の症例も2例認めた.全て直腸の前壁に穿孔および小腸の陥入を認め,穿孔径は中央値4 cm(範囲2~8 cm)であった.穿孔部は腹膜翻転部直上が8例,直腸S状部が4例であった.

Table 1  Case report in Japan
No. Author Year Age Sex Prolapse Surgical history Perforation site Size Procedure
1 Takeda1) 1994 79 female Rectal Rs 5 cm simple closure+covering stoma
2 Suzuki2) 2003 86 female Uterine Peritoneal inversion 5 cm simple closure
3 Mori3) 2003 88 female Rs 3.5 cm simple closure
4 Mizuno4) 2010 87 female Rectal Rs 4 cm simple closure
5 Takahashi5) 2010 69 female Rectal Rs 4 cm simple closure
6 Hanaoka6) 2012 81 female Peritoneal inversion 2 cm Hartmann
7 Kuwabara7) 2016 75 female Uterine Peritoneal inversion 8 cm simple closure+covering stoma
8 Iwamura8) 2016 70 female Uterine+Rectal Peritoneal inversion 2 cm LAR+covering stoma
9 Yamada9) 2017 68 female Rectal Peritoneal inversion 4 cm simple closure+covering stoma
10 Syoumi10) 2017 93 female Rectal modified Wells surgery Peritoneal inversion 2.5 cm simple closure+covering stoma
11 Itou11) 2019 80 female Uterine+Rectal Peritoneal inversion 5 cm LAR+covering stoma
12 Our case 65 female Uterine+Rectal modified Wells surgery, Hysterectomy Peritoneal inversion 3.5 cm Hartmann

術式は,単純縫合閉鎖(予防的人工肛門造設を含む)は8例で施行され,いずれも合併症なく経過良好であったと報告されている.穿孔部を含む直腸切除は4例に行われ,Hartmann手術2例,低位前方切除+人工肛門造設が2例であった.

鈴木ら2)は,本疾患は慢性的な直腸脱(もしくは子宮脱)により直腸前壁が菲薄化し,排便や軽度の外傷などで急に腹圧が上昇したときに薄くなった直腸前壁を小腸が突き破ると推測している.

しかし,穿孔部を含む直腸切除が行われた4例6)8)11)で病理診断が行われたが,いずれも急性炎症像のみで潰瘍・腫瘍・憩室は認められなかった.自験例においても腸管壁や筋層に先行する病態が認められるか,病理専門医に検討して頂いたが認められないとのことであった.

自験例の特徴として複数回の手術歴が挙げられる.子宮脱に対して膣式子宮全摘出された後であり,かつ今回の手術後も膣脱の再発を認めていた.前医記録や問診からは小腸瘤や直腸瘤を来していたかどうかは判断できなかった.

直腸脱については,三輪-Gant+Thiersch手術およびAltemier手術とWells変法の手術歴があり,前医記録によるとAltemeier手術時には肛門挙筋が非常に薄くなっているとの記載があった.また,Wells変法では仙骨前面と直腸後方1/2周をメッシュで固定されたが,切除標本では腸管の器質的な狭窄は認められず,合併症としての便秘は考えにくい状態であった.

直腸脱の成因として岩垂ら14)は,①肛門括約筋や骨盤底筋群などの支持組織弱体化,②ダグラス窩をヘルニア囊とする滑脱ヘルニア,③S状結腸直腸移行部の習慣性腸重積,④肛門挙筋・括約筋の機能失調など,これら複数の因子が関与すると報告している.土屋ら15)は,実際の開腹例においてダグラス窩を肛門外まで脱出させることができ,この状態では直腸前壁が内腔へ内反していたと報告している.

自験例においても土屋らの報告した病態であれば,腹腔外まで脱出・反転するようになった直腸前壁に,急な腹圧上昇で一点に小腸が圧を加えたため穿孔に至り,そのまま肛門から脱出した可能性が推測される(Fig. 5).海外ではPisanoら13)が異常に深くなったDouglas窩を形成した状態において,小腸が直腸前壁に圧を加え,直腸前壁を反転させた状態に腹圧が加わったことが経肛門的小腸脱出の原因であると述べている.

Fig. 5 

Schema of transanal evisceration.

自験例のように骨盤臓器脱があり,かつ腹膜翻転部での穿孔症例では上記の説明が矛盾しないと思われるが,直腸S状部で穿孔を来していた4例についての考察は困難であった.直腸脱の重積説に則ると,内反する部位が直腸S状部になっていた可能性が考えられるが,今回の推測のように小腸が直腸壁に圧迫を加えられるかは不明である.この4例は切除されておらず,違う病態生理があった可能性も考えられ,病態解明には今後も症例の蓄積が必要と思われる.

利益相反:なし

文献
 

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