The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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ORIGINAL ARTICLE
A New Repositioning Maneuver for Incarcerated Obturator Hernia
Kyohei KamihataYoshio NagahisaYuki TogawaJun MutoKazuki HashidaMitsuru YokotaKazushige YamaguchiMichio OkabeHirohisa KitagawaKazuyuki Kawamoto
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2022 Volume 55 Issue 1 Pages 1-9

Details
Abstract

目的:閉鎖孔ヘルニア嵌頓は緊急手術を要することが多く,死亡率が高い予後不良な病態である.我々は,同病態に対する非観血的整復手技Four hand Reduction for incarcerated Obturator hernia under Guidance of Sonography(以下,FROGSと略記)を考案したので,手技の実際を報告する.方法:〈STEP 1〉超音波でヘルニア先進部を確認する.〈STEP 2〉助手は下肢を外転,屈曲,外旋位と内転,伸展,内旋位とを繰り返すようにゆっくり動かす.〈STEP 3〉術者は超音波で脱出腸管を視認しながら先進部を用手的に圧迫する.2016年4月から2020年9月までに36例の閉鎖孔ヘルニア嵌頓を経験し,2019年11月よりFROGSを導入した.導入後(After群;以下,A群と略記)と導入前(Before群;以下,B群と略記)において整復成功率,腸切除の有無,合併症,死亡率,入院期間について後方視的に検討した.結果:A群13例,B群23例であり,患者背景に差はなかった.還納成功はA群は全例(100%),B群は1例(4.3%)であった(P<0.001).腸切除を要した例はA群で有意に少なく(P=0.03),合併症,死亡,入院期間はA群で少ない傾向であった.結語:FROGSは簡便で再現性が高い有用な徒手整復術であると考えられた.

Translated Abstract

Purpose: Incarcerated obturator hernia often requires emergency surgery and has a poor prognosis with a high mortality rate. We devised a repositioning maneuver for this condition that we refer to as “Four hand Reduction for incarcerated Obturator hernia under Guidance of Sonography (FROGS)” and here we report this procedure and its advantages. Materials and Methods: FROGS requires a surgeon and an assistant, and use of sonography. The surgeon detects the tip of the hernia sac with sonography. The assistant holds the patient’s leg on the lesion side, and bends, stretches or rocks it inward and outward, slowly and repeatedly. Meanwhile, the surgeon manually compresses the tip of the hernia sac under observation with sonography. Thirty-six patients with incarcerated obturator hernia were treated at our hospital between April 2016 and September 2020. FROGS was introduced in November 2019. The patients were divided into those treated before and after introduction of FROGS. The rates of successful reduction, bowel resection, complications, and mortality, and the length of hospital stay were retrospectively compared between the non-FROGS and FROGS groups. Results: There were 13 patients in the FROGS group and 23 in the non-FROGS group. There were no significant differences in patient characteristics between the two groups. Successful reduction was achieved in all patients in the FROGS group (100%), but in only one patient in the non-FROGS group (4.3%) (P<0.001). The rate of bowel resection was significantly lower in the FROGS group than in the non-FROGS group (P=0.03). The FROGS group had lower rates of complications and mortality and a shorter hospital stay than the non-FROGS group, although without significant differences. Conclusion: FROGS is a useful repositioning maneuver for incarcerated obturator hernia that has advantages of simplicity and reproducibility.

はじめに

閉鎖孔ヘルニアは高齢のやせ型女性に好発する比較的まれな疾患である1).体表から腫瘤を触知しにくく徒手整復が困難であるとされ,嵌頓症例に対しては緊急での開腹手術が行われることが多いが,術後合併症や死亡率が高く予後不良な疾患とされる2)~4).近年では超音波ガイド下での非観血的整復法の報告が増えているが5),手技の再現性に関しては一定の見解がないのが現状である.そこで,再現性の高い非観血的整復手技を考案し,この手技が閉鎖孔ヘルニア嵌頓患者の予後に影響するかを検討した.

目的

今回,我々は閉鎖孔ヘルニア嵌頓に対する非観血的整復手技としてFour hand Reduction for incarcerated Obturator hernia under Guidance of Sonography(以下,FROGSと略記)を考案したので,手技の実際と治療成績について報告する.

方法

FROGSの手技は下記の通りである.

〈STEP 1〉整復を行う前に,まず閉鎖孔ヘルニアの有無を超音波検査で確認する.患者を仰臥位とし,患側の下肢を外転,屈曲,外旋位とする.長内転筋の背側,および恥骨結節の外側で超音波プローブを当てるとヘルニア先進部を確認できる(Fig. 1).症例の多くを占めるやせ型女性ではヘルニア囊は極めて体表に近く,プローブは表在型が適している.

Fig. 1 

The assistant holds the leg of the lesion side in slight abduction, flexion, and lateral rotation. The surgeon detects the tip of the sac of the incarcerated obturator hernia at the dorsal adductor longus under observation with sonography.

〈STEP 2〉実際の整復手技は2人で行うことがポイントであり,助手は患側の下肢を把持し,股関節を外転,屈曲,外旋位(Fig. 2a)と内転,伸展,内旋位(Fig. 2b)を繰り返すようにゆっくりと,何度か繰り返し続ける.

Fig. 2 

The assistant bends and stretches the patient’s leg calmly and repeatedly from slight abduction, flexion, and lateral rotation (a) to adduction, extension, and medial rotation (b) and vice versa. After the hernia is found, the surgeon pushes it into the peritoneal cavity and immediately confirms the success or failure of reduction with sonography.

〈STEP 3〉術者は超音波プローブを長内転筋の頭側に当て脱出腸管を視認しつつ,先に確認したヘルニア先進部を用手的に圧迫する.

助手が動かす下肢動作により内外の閉鎖筋が弛緩するポイントがあり,嵌頓腸管が還納される.還納される所見は超音波プローブを通してリアルタイムに観察される(Fig. 3a~c)と同時に,圧迫している指先に伝わる触覚として確認できるのが本法最大の特徴といえる.超音波所見のみで還納の成功を正確に判断することは難しいため,還納後はCTにて確認することが推奨される(Fig. 4a, b).また,遅発性の穿孔や腸閉塞の改善を確認する目的で入院とし,耐術能のある患者には入院中に手術を計画する.当科では腹腔鏡下閉鎖孔ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal approach;以下,TAPPと略記)を第一選択としており,3DMaxTM Light Mesh(Becton, Dickinson and Company, USA)を表裏反転させてヘルニア門を覆う「逆M法」でヘルニア修復を行っている6)

Fig. 3 

(a) Ultrasound showed an incarcerated intestine on the dorsal side of the adductor longus. (b) Pushing the bowel revealed the incarcerated intestine in the obturator canal. (c) After reduction, the incarcerated intestine disappeared and fluid collection remained in the cavity.

Fig. 4 

(a) Preoperative CT showed an intestinal incarceration in the left obturator canal in the presence of ileus. (b) Postoperative CT showed disappearance of the intestinal incarceration from the left obturator canal.

当院では2016年4月から2020年9月までに36例の閉鎖孔ヘルニア嵌頓を経験した.2019年11月よりFROGSを導入しており,導入後(After群;以下,A群と略記)と導入前(Before群;以下,B群と略記)において整復成功率,腸切除の有無,合併症,死亡率および入院期間について後方視的に検討した.統計学的解析にはMann-Whitney U testおよびFisher’s exact testを使用し,P<0.05を統計学的有意差ありとした.

結果

36例のうちA群は13例,B群は23例であり,全例女性であった.年齢,body mass index,局在,発症から受診までの時間,脱出腸管径など患者背景において差はなかった.A群の症例は全て発症から72時間以内の受診であったが,B群では最長で7日前発症の症例がみられた(Table 1).

Table 1  Patient characteristics
Number of patients (n=36) Group A (n=13) Group B (n=23) P-value
Woman 13 23 1
Age, years 90 (76–98) 88 (78–102) 0.73
Body mass index, kg/m2 15.4 (12.8–24.3) 17.6 (13.0–26.5) 0.06
Lesion side, right/left 4/9 10/13 0.18
Duration of symptoms, hours 12 (6–72) 24 (6–168) 0.52
<12 7 5
12 to <24 1 10
24 to <48 1 4
48 to <72 4 2
≥72 0 2
Diameter of prolapsed bowel, cm 2.75 (1.54–3.24) 2.30 (1.57–3.43) 0.09

Values are shown as number or median (range), unless otherwise stated.

There was no significant difference between the two groups.

A群では全例に対してFROGSによる非観血的整復を試み,全例で成功した.B群では23例のうち少なくとも12例に対して非観血的整復を試みており,1例のみで整復に成功した(P<0.001).B群で行われた整復手技12例中,整復に成功した1例を含む9例は患側の下肢を開脚位とし,超音波観察下に恥骨外側からヘルニア先進部を用手的に圧迫する手技であり,3例は詳細不明であった.また,B群の残る11例では整復を試みることなく緊急手術が行われた.

A群では13例のうち緊急手術を施行した例はなく,手術可能と判断した5例に対して待期的にTAPPを行い,手術リスクが高いと判断した8例に対しては経過観察を選択した.B群では非観血的整復が成功した1例は待期的にTAPPを行い,21例では緊急手術を施行した.残る1例は慢性心不全が背景にあり,全身状態が極めて不良のため手術困難な状態であり,入院第6病日に死亡した.B群で緊急手術を施行した21例のうち,15例で鼠径部切開法による整復を行い,うち9例でメッシュを用いたヘルニア修復,6例でヘルニア囊の結紮処理を行った.4例でTAPPを選択し,ネラトンカテーテルによる水圧法で整復した後に,メッシュによる修復を行った.2例で開腹手術での整復を行い,ヘルニア囊の結紮処理を行った.

腸切除を要した症例は,A群で0例,B群で8例とA群で有意に少なかった(P=0.03).Clavien-Dindo分類(以下,C-Dと略記)II以上の合併症は,A群で1例,B群で8例とA群で少ない傾向であった(P=0.11).合併症の内訳は,A群の1例で肺炎(C-D II),B群の8例のうち肺炎3例(C-D IVa/V=1/2),腹腔内膿瘍2例(C-D IIIa/IVb=1/1),初回手術時の整復不十分のため閉塞性イレウスで再手術を要した1例(C-D IIIb),麻痺性イレウス1例(C-D II),その他1例(C-D II)であった.死亡例はB群のみに2例あり,死因はともに肺炎であった.入院期間はA群で短い傾向があった.A群で徒手整復した後に経過観察となったうちの1例で再発を認め,再度FROGSによる整復を行った.その他の再発は認めなかった(Table 2).

Table 2  Outcomes
Number of patients (n=36) Group A (n=13) Group B (n=23) P-value
Attempt at reduction 13 12
Successful reduction 13 (100) 1 (4.3) <0.001
Treatment
Elective operation (mesh repair) 5 (5) 1 (1)
Emergency operation (mesh repair) 0 21 (13)
Observation 8 1
Bowel resection 0 8 0.03
Complications 1 8 0.11
Death within 30 days of presentation 0 2 0.53
Hospital stay, days 6 (2–16) 8 (2–46) 0.06
Recurrence 1 0 0.36

Values are shown as number (percentage) or median (range).

Successful reduction was achieved in all patients in Group A (FROGS group), but in only one patient in Group B (non-FROGS group) (P<0.001). In Group A, no patients required an emergency operation and 8 patients were followed up without treatment. There was a significantly lower rate of bowel resection and other events were less frequent in Group A compared to Group B.

考察

閉鎖孔ヘルニアは高齢のやせ型女性に好発する比較的まれな疾患である.術前診断が困難であり,術後合併症,術後死亡率が高く予後不良な疾患とされている.近年は画像検査の進歩により術前診断率が向上し,死亡率は0~5.9%と減少傾向ではあるものの7)~9),依然として死亡率35.3~47.6%といった高い報告もされている10)11)

閉鎖孔ヘルニアに対する非観血的整復の報告は本邦では1980年に日野ら12)が初めて報告しており,超音波ガイド下での整復は2000年に大野ら13)によって報告されている.徒手整復に関する報告は近年増加しているが,整復の手技や再現性について一定の見解はまだないのが現状である.

本邦において閉鎖孔ヘルニア嵌頓の非観血的整復方法について,医学中央雑誌で1964年から2020年9月の期間で「閉鎖孔ヘルニア」,「非観血的整復」をキーワードとして検索したところ(会議録除く),15件の報告があった.その内容は,患側の下肢を外転,屈曲,外旋位とし,超音波プローブでヘルニア内容物を確認しながら先進部を用手的に圧迫する方法が多く行われていたほか14)~16),小型の超音波プローブで直接ヘルニア囊を圧迫する方法もあり5)17),超音波を使用せず用手的に大腿部の腫瘤を圧迫し整復を得た報告もみられた18)19).Shigemitsuら20)は,下肢をゆっくり屈伸させるとともに内外転させ,閉鎖筋の弛緩とヘルニア囊の圧迫を得ることで嵌頓を整復する方法を報告しており,同様の手技で整復に成功したとする報告もあった21)22).我々はこの下肢屈曲法に既報のエコーガイド下の用手的圧迫を組み合わせて本整復法を考案した.この手技の特徴は2人で行うことであり,下肢の動作がカエルの動きに類似していることも念頭にFROGSと命名した.

閉鎖孔ヘルニアでは脱出部位に差はあるものの,ヘルニア囊先端は股関節内転筋群の筋間に位置する23).患側の下肢を外転,屈曲,外旋位としてこれらの筋が弛緩することで筋間が開大し,同部位からヘルニア囊の先端にアプローチできる.閉鎖管を形成する内・外閉鎖筋は股関節外旋筋群に分類されるが,これらの筋群は非常に小さく,隣接する筋と複雑に作用する.また,同じ筋でも股関節の肢位によって発揮するモーメントが微妙に異なるため,特定の肢位で内外の閉鎖筋を弛緩させることは困難と考えられる24).FROGSは,助手が下肢を外転,屈曲,外旋位と内転,伸展,内旋位を繰り返すようにゆっくり動かす中で,術者が下肢を圧迫するため,内外閉鎖筋の弛緩がどこかの時点で最大となるタイミングが必ず訪れることになる(Fig. 5).経験的に股関節を伸展させる過程で,ヘルニア先進部をより強く圧迫することで整復できることが多く,股関節が屈曲位から伸展位に変わる過程で閉鎖筋が最大限に弛緩するポイントがあると我々は考えている.整復までにかかる時間は症例ごとに差はあるものの,およそ10分以内で成功することが多い.発症早期の症例ほど整復は容易であり,我々は1分以内で整復が可能であった例も経験している.術者と助手の協調運動が極めて重要であり,下肢の屈曲,伸展の動作はゆっくりと正確に行うことに留意している.

Fig. 5 

A schema showing movement of the patient’s lower limbs. This movement allows the internal and external obturator muscles to relax to the maximum.

腸切除の必要性に関しては,本邦での後方視的検討によると37.2~58.3%の報告がある9)25)~27).今回の対象患者では,腸切除はB群では8例(34.8%)と同様の結果であったが,A群では0例であった(P=0.03).非観血的整復により腸切除が有意に減少したが,この結果は手術時の操作による腸管壁の損傷や,阻血や鬱血所見から切除が適当と過大な判断をしている可能性が示唆されるものであろう.当院での緊急手術時にはネラトンカテーテルによる水圧法を用いて嵌頓を解除しており,可能なかぎり腸管壁に負荷がかからないよう留意しているにもかかわらず,非観血的整復の方がより愛護的な整復方法であると思われる結果となった.

一般的に,閉鎖孔ヘルニアの多くはRichter型を呈しており,腸管虚血が不可逆性になるまで通常の絞扼性イレウスよりも長くなる28).閉鎖孔ヘルニア嵌頓は非観血的整復の適応時間としてイレウス症状発症から24時間以内とすべきという報告29)や,発症から72時間以内の症例では腸管壊死や穿孔は認めなかったとする報告30)があるが,我々は診断時のCTで明らかな壊死,穿孔所見を認めないかぎりは非観血的整復を試みて良いと考えている.

嵌頓を整復した後に起こりうる合併症として,遅発性の小腸狭窄がある.嵌頓した腸管の粘膜や筋層が虚血により遅発性に線維化を来すことが原因とされているが,嵌頓時間との相関に一定の見解はない31).嵌頓後から腸閉塞発症までの期間は30日以内の発症が多いが,数か月や1年以上経過して発症するものもあり32)33),腸閉塞の発症時期を予測することは困難である.多くの場合,患者が退院した後に発症することが予想されるため,整復後の患者には遅発性の小腸狭窄について予め説明しておくことが肝要である.

B群で合併症が多い傾向があった原因として,高齢で全身状態が不良の患者に対して全身麻酔下での緊急手術を行ったこと,腸切除が多かったことが考えられる.A群では重篤な基礎疾患を有している手術高リスク患者に対しては術前評価を詳細に行ったうえで手術計画を行うことができ,また既往歴や年齢などから手術適応そのものがないと判断することで,手術や治療に伴う合併症を最小限にとどめることができたといえるだろう.

FROGSは,2人で行う簡便で再現性が高い有用な徒手整復術である.この手技により非観血的整復の成功率が向上し緊急手術を回避できることで,患者の予後改善に繋がると期待している.今後はさらに経験症例を増やし,閉鎖孔ヘルニア嵌頓に対する非観血的整復の定型手技として普及させていきたい.

利益相反:なし

文献
 

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