2022 Volume 55 Issue 1 Pages 25-32
症例は25歳の女性で,検診の腹部超音波検査にて7 cm大の胃腫瘤像を認め,当科紹介となった.上部消化管内視鏡検査にて胃体中部にbridging foldを伴う粘膜下腫瘍,その他2か所に粘膜下腫瘍を認めた.腹部CTで胃壁内外に7 cm大の石灰化を伴う分葉状腫瘤を認めた.PET-CTでは主腫瘍とともに#1リンパ節にFDGの集積を認めた.若年発症胃多発gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)と診断し,D2リンパ節郭清を伴う胃全摘術を施行した.胃腫瘍は全てGISTと診断され,リンパ節転移を確認した.遺伝子検索の結果,野生型であることを確認し,補助化学療法は実施せず経過観察中である.若年発症胃多発GISTは,リンパ節転移を高頻度に認め,分子標的治療薬の感受性が低いなどの報告があり通常のGISTとは異なる治療戦略が必要と考えられ,報告する.
Juvenile gastric gastrointestinal stromal tumors (GISTs) are rare and differ from the common variety of GISTs. We present a case of a patient with juvenile gastric GIST with lymph node metastasis. A 25-year-old woman presented for treatment of a gastric tumor (7 cm). Esophagogastroduodenoscopy revealed a main submucosal tumor in the mid-body of the stomach and two other submucosal tumors. Abdominal CT revealed a phyllodes tumor (7 cm) with calcification on the stomach wall. PET/CT showed fluorodeoxyglucose uptake in the main tumor and in one regional lymph node. The patient was diagnosed with juvenile multiple gastric GISTs with lymph node metastasis and underwent total gastrectomy with D2 lymph node dissection. We detected four tumors in the stomach, and all were diagnosed as GISTs. Metastasis in regional lymph nodes was also confirmed. Genetic analysis did not show mutations in the KIT or PDGFRA genes; therefore, the patient was diagnosed with wild-type GIST and follow-up was planned without initiation of adjuvant chemotherapy. The patient has shown no recurrence for 1 year postoperatively. Juvenile multiple gastric GISTs frequently metastasize to lymph nodes, and molecular-targeted drugs such as imatinib are ineffective in such cases. Therefore, these tumors warrant a therapeutic strategy that differs from the approach used for the common type of GISTs.
Gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)は10万人に1~2人の割合で発症する比較的まれな腫瘍であり,その好発年齢は50~60代と報告されている1).小児~若年成人に発症するGISTは,胃に多発する点やリンパ節転移を来しやすい点など従来型のGISTとは異なる点が多い.また,原因遺伝子とされるc-kit遺伝子,PDGFRA遺伝子に変異を認めないなど発生機序についても異なるといった報告がある2).今回,我々はリンパ節転移を伴った若年発症胃多発GISTに対して系統的リンパ節郭清を伴う胃全摘術を施行した.術後補助化学療法は施行せず,術後1年現在では,無再発生存中である.リンパ節転移を伴う若年発症胃多発GISTという非常にまれな1例を経験したので,その治療戦略について文献的考察を含めて報告する.
患者:25歳,女性
主訴:検査異常
既往歴:小児喘息
家族歴:父:大腸癌,祖父:食道癌
現病歴:2019年8月,検診の腹部超音波検査にて7 cm大の胃壁との境界不明瞭な腫瘤を指摘され,CTにて胃粘膜下腫瘍を認めた.同年9月に精査加療目的に当科紹介となった.
入院時現症:身長158 cm,体重58 kg.栄養状態良好.
入院時血液検査所見:血液検査:WBC 5,940/μl,RBC 4.36×106/μl,Hb 13.5 g/dl,Ht 40.0%,PLT 2.81×105/μl.その他,生化学,止血検査に異常を認めなかった.
上部消化管内視鏡検査所見:胃体中部後壁にbridging foldを伴う粘膜下腫瘍を認め,主病変と考えられた(Fig. 1a).主病変以外にも胃内に数か所の胃粘膜下腫瘤を認め,多発性胃粘膜下腫瘍と考えられた(Fig. 1b).いずれも粘膜面は正常であった.

Gastroscopy images of multiple submucosal tumors. (a) The major tumor (70 mm) on the posterior wall of the mid-stomach. (b) Two other tumors (30 mm and 10 mm) on the wall contralateral to the main tumor.
造影CT所見:胃体部小彎から腹側にかけて,胃壁外に突出する長径7 cm大の腫瘤性病変を認めた.一部に石灰化を伴う分葉状腫瘤であり,GISTや平滑筋腫などが疑われた(Fig. 2a).最大短径8 mmの腫大リンパ節を認めた.

(a) CT showing a giant phyllodes tumor with calcification in the mid-stomach. (b) PET-CT showing FDG uptake (SUVmax: 33.8) of the main tumor. (c) FDG uptake in a lymph node (#1), indicating suspected lymph node metastasis.
PET-CT所見:主病変に非常に強いFDG集積(SUVmax:33.8)を認め,悪性病変が疑われた(Fig. 2b).胃体上部小彎側の小結節影にFDG集積を認め,#1リンパ節転移が疑われた(Fig. 2c).その他に明らかな遠隔転移は認めなかった.
以上の所見より,リンパ節転移を伴う若年発症胃多発GISTの診断で,手術を行った.
手術所見:術前検査で確認された胃体中部の巨大腫瘍に加え,胃体上部に壁内外に突出する腫瘍を複数個認めた(Fig. 3a).PET-CTにてFDG集積を認めた#1リンパ節の腫大を認めた(Fig. 3b).若年発症胃GISTが強く疑われたことからリンパ節郭清を伴う胃切除術を行う方針とした.腫瘍は胃壁内外に多発しており,胃の温存は困難であったため胃全摘術の方針とし,D2郭清,Roux-en-Y再建を型通り施行した.

(a) A giant tumor protruding outside the wall was found in the mid-stomach. Multiple tumors were also found in the upper stomach. (b) One lymph node (#1) was swollen.
病理組織学的検査所見:胃体中部に83×63 mmの粘膜下腫瘍を認めた.その他に15×13 mm,7×4 mm,4×3 mmの粘膜下腫瘍を認めた(Fig. 4a, b).いずれも形態不整な短紡錘形細胞の増殖を認めた(Fig. 5a).免疫染色検査はKIT(+),CD34(+),S-100(–),DOG1(+),desmin(–)でありGISTの診断であった(Fig. 5b~e).最大核分裂像数は3/50 HPFsであり,ki-67indexは10%未満,modified Fletcher分類は中リスク分類であった.#1,#9にリンパ節転移を認めた(Fig. 6a).免疫染色検査はKIT(+),DOG1(+)であった(Fig. 6b~d).いずれの胃粘膜下腫瘍も主病変と同様のGIST像を認めた.断端はいずれも陰性であった.

(a) Macroscopically, multiple tumors protruding inside the wall were found in the upper stomach. (b) The largest tumor had ulceration and was 83×63×50 mm in size.

Microscopic appearance of the tumors showing oval and irregularly shaped nuclei and proliferation of short spindle-shaped cells with an eosinophilic cytoplasm (a). The fission image was about 3/50 HPF and the Ki-67 index was <10%. Tumor cells were positive for KIT and DOG1 (b, c) and negative for desmin and S-100 protein (d, e).

Similar findings to those for the tumor were found for the metastatic lymph nodes (a). Lymph node cells were positive for KIT and DOG1 (b, c). The gray area shows malignant cells (d).
術後経過:術後合併症なく経過し,術後3日目より食事開始し,術後11日目に退院となった.術後1年現在,無再発生存中である.
GISTは10万人に1~2人と比較的まれな間葉系腫瘍である.男女差はなく,好発年齢は50~60代であり,胃を中心に全消化管に発生する.消化管運動のペースメーカーの役割を担っているカハール介在細胞内のKIT蛋白の獲得型遺伝子変異に伴う恒常的活性化が発生原因であり,GISTの約80%にc-kit遺伝子の変異が確認され,約10%がPDGFRA遺伝子の変異を有している.また,c-kit遺伝子やPDGFRA遺伝子に変異を認めないGISTが10%ほど存在することが知られており,野生型GISTと分類される1)3)4).野生型GISTはさらにsuccinate dehydrogenase(以下,SDHと略記)機能欠損型5)6)と非SDH機能欠損型に分類される.非SDH機能欠損型として,neurofibromatosis type I(以下,NF1と略記)関連患者の6.3%に合併し,主に十二指腸から空腸に多発するNF1病関連GIST7)をはじめとして,BRAF遺伝子に変異を持つGIST8),RAS遺伝子に変異を持つGIST9),PIK3CA遺伝子に変異を持つGIST10),ETV6-NTRK3融合遺伝子を持つGIST11)などが報告されている.SDH機能欠損型GISTとして,小児から若年成人で発症する若年性GISTが知られており,特徴としては,女性に多く,胃限局性であり,同時多発性に認められ,免疫染色検査にてKIT陽性,CD34陽性である点が挙げられる2).本症例は遺伝子変異解析の結果,野生型GISTであり,発症年齢や胃多発性腫瘍といった特徴を有することから,この若年性GISTに該当すると考えられた.
SDHはミトコンドリアの膜内部に固定される酵素の複合体であり,クエン酸回路と電子伝達系回路の両方の構成要素となっている.この酵素はクエン酸回路の中でsuccinateから水素を取り出してフマル酸に酸化させ,その代りにユビキノンをユビキノールに還元する.SDH遺伝子は腫瘍抑制遺伝子として機能しており,SDHの酵素活性消失は細胞内のコハク酸蓄積を介して,HIFを活性化し,VEGFなどの発現亢進を引き起こす原因とされる.このSDHの機能喪失は家族性褐色細胞腫,傍神経節腫,GISTとの関連が報告されている.SDHにgermlineの変異をもつ代表疾患が,Carney-Stratakis syndromeであり,GISTとparagangliomaが併発したものと定義される12).また,SDH遺伝子群に変異は検出されないが,SDH-B免疫染色検査で陰性を示し,その酵素活性の低下を示す例として,10代の女児に発生するまれな病態であるCarney triadがある.Carney triadは胃GIST,肺軟骨腫,paragangliomaを併発するものと定義されたが,胃GISTと,肺軟骨腫またはparagangliomaのどちらかをもつ場合を不全型とみなす場合がある13).本症例は切除後の診断の後に,肺病変を含めてスクリーニングを行ったが,併存疾患は認めなかった.
GISTの転移の多くは血行性転移や腹膜播種であり,局所リンパ節への転移は非常にまれである.そのため,ガイドラインでは外科的切除を行う際に系統的リンパ節郭清を行うことは推奨されていない.また,転移を疑うリンパ節を認める場合も系統的リンパ節郭清に臨床的意義は認められておらず,該当するリンパ節のpick-up郭清で十分とされている14).しかしながら,若年性GISTではMiettinenら15)によると12例中5例でリンパ節転移を認め,31例中17例で脈管侵襲を認めたと報告されており,術式の選択には注意を要する.本症例では,術前の画像診断でリンパ節転移を強く疑った症例であり,pick-up郭清のみでは術後の再発リスクが高いと考えられたため胃癌に準じた系統的リンパ節郭清を伴う胃切除術が妥当であると判断した.若年性GISTに対する術式の選択には注意を要するとともに,系統的リンパ節郭清の意義については今後も検討の余地がある.
術後再発・転移のリスク評価として,modified Fletcher分類が本邦においては有用とされており,術後補助化学療法の適応症例の決定に用いられる.modified Fletcher分類での高リスク群とほぼ同対象群に対する術後1年と3年の補助化学療法投与のランダム化比較試験の結果,その高い忍容性,安全性とともに,10年の観察期間での無再発生存期間のみならず全生存期間の延長への寄与が認められ,その有効性が示された16).しかしながら,本リスク分類では発生部位,最大腫瘍径,核分裂像数,腫瘍破裂の有無がその因子として採用されているが,リンパ節転移の有無については検討されておらず,リンパ節転移陽性の本症例においてこの分類が妥当かどうかは不明である.一方で,若年性GISTを含む野生型GISTはc-kit遺伝子変異型GISTに比べてimatinibの奏効が期待できず4)17),欧州臨床腫瘍学会の治療ガイドラインでは術後補助化学療法として推奨されないといったコンセンサスが記載されている18).そういった背景を含め,ご本人,ご家族とも十分に相談した結果,術後の補助化学療法は行わずに経過観察の方針とした.
再発GISTに対しては,KITを標的とした分子標的治療薬が第一選択とされるが,c-kitの獲得型遺伝子変異を有さない野生型GISTへの効果は期待できず,慎重なフォローを行いながら,再発例に対しては積極的な外科介入が検討される.また,医学中央雑誌(1964年~2019年)で「GIST」,「若年性」,「再発」をキーワードして検索したところ(会議録除く),若年発症胃GISTの転移性肝癌に対してマルチキナーゼ阻害剤であるsunitinibが奏効した例が報告されており19),再発や転移を認めた場合はsunitinibの導入も検討されると考える.
本症例はリンパ節転移を伴った若年発症胃多発GISTの症例であり,胃癌に準じた系統的リンパ節郭清術を施行した後,術後補助化学療法は施行せずに経過観察とした症例である.若年発症胃GISTの治療的アプローチはいまだに明確な指標が得られておらず,引き続きその治療法については検討が必要である.
利益相反:なし