2022 Volume 55 Issue 1 Pages 49-56
症例は65歳の男性で,背部痛精査の造影CTで遠位胆管癌を認め,胆汁細胞診にてClass Vであった.幼小児期に複数回の開腹歴と大量腸切除の既往から食事摂取は可能であったが,短腸が推測され,また高尿酸血症・高血圧・高脂血症・慢性腎障害を認めた.短腸症例に膵切除を施行する場合には栄養障害の可能性が考えられることから,Synapse Vincentを用いて残存小腸の長さを測定し手術適応を決定した.手術は亜全胃温存膵頭十二指腸切除を行った.術後は消化吸収の点から中心静脈栄養管理を主体に開始し,成分栄養剤にて腸管機能の改善を確認後に膵酵素剤を併用し食事を開始した.短腸の症例に対する膵頭十二指腸切除は報告がないが,その適応は残存膵機能の面と残存小腸機能の面から慎重に検討することで施行可能であると考えられた.
A 65-year-old man was introduced to our hospital with a complaint of back pain. He had undergone several abdominal surgeries in childhood and was recognized to have a short bowel. Hyperuric acidemia, hypertension, hyperlipidemia, and chronic nephropathy were also observed. He was found to have distal cholangiocarcinoma with regional lymph node involvement on contrast-enhanced abdominal CT and was diagnosed with distal cholangiocarcinoma of Class V on bile cytology. From the standpoint of nutrition, the remnant length of the small intestine was a concern, and the influence of pancreas resection needed to be carefully evaluated. The length of the residual small intestine was measured using a Synapse Vincent system to determine the surgical indication for pancreaticoduodenectomy. After, subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy, we started mainly with central venous nutrition management from the viewpoint of digestion and absorption. After confirming improvement of intestinal function with elemental diets, eating with pancreatic enzyme administration was started. There are few reports of pancreaticoduodenectomy in a patient with a short bowel. The indication for pancreaticoduodenectomy may be feasible by careful examination of residual pancreatic function and residual small intestinal function.
短腸症候群は成人においては一般的に残存小腸が150 cm以下の場合に消化吸収における栄養管理を行うことが必要となる病態である1).膵頭十二指腸切除後には残存膵の容積の減少と膵消化管吻合の点から外分泌機能の低下・消化吸収能が低下する場合がある.今回,我々は幼少時からの複数回の開腹による大量腸切除既往例に対して,Synapse Vincentにより残存小腸長を計測し残存機能を推定することで,膵頭十二指腸切除術の適応を慎重に決定した遠位胆管癌の1例を経験したので報告する.
患者:65歳,男性
主訴:背部痛
既往歴:虫垂炎(5歳,開腹),術後腸閉塞(7歳,複数回手術歴あり),腸捻転(12歳,開腹),胆囊炎(60歳),高血圧,高脂血症,慢性腎障害
現病歴:背部痛を主訴に近医内科を受診し,腹部超音波検査で総胆管拡張を指摘され,精査目的に当科紹介となった.来院前3か月間に1 kg以上の体重減少は認めていない.
現症:154.5 cm,59 kg,BMI:24.9 kg/m2,腹部に複数個所手術痕を認めた.脂肪食や食事摂取量が多い時やアルコール摂取時に下痢や便の回数の増加を認めた.
血液検査所見:BUN 17 mg/dl,Cre 1.48 mg/dl,eGFR 38 ml/min/1.73 m2と腎機能障害を認めた.腫瘍マーカーはCEA 4.9 ng/ml,CA19-9 580 U/mlであった.他に特記すべき異常所見は認められなかった.
腹部造影CT所見:膵内胆管から胆囊管合流部にかけて造影効果を伴う胆管壁の肥厚と狭窄像を認めた(Fig. 1a).所属リンパ節の腫大を認めたが(Fig. 1b),遠隔転移は認めなかった.また,回盲弁は残存していた.

a, b: Abdominal CT with contrast enhancement revealed wall thickness and tapering of the distal bile duct (open arrow), and swollen regional lymph nodes (arrowhead) (a: coronal view, b: axial view). c: Extent of the tumor is indicated by the closed arrow. The dotted line indicates the end of the proximal side of the tumor.
Endoscopic nasobiliary drainage(ENBD)造影検査所見:腫瘍の肝側の進展範囲は胆管左右分岐部より末梢側と考えられた.胆汁細胞診にてClass Vを認めた(Fig. 1c).以上から,遠位胆管癌の診断となった.
Synapse Vincent(Fuji Photo Film Co., Ltd., Japan)を用いて残存小腸長を測定したところ,予測長は十二指腸を含め約189 cmと推定された(Fig. 2a, b).

a: Small intestine visualized in green (arrow) after injection of air by endoscopy. b: Synapse Vincent (Fuji Photo Film Co., Ltd., Japan) indicated that the length of the small intestine was 189 cm, including the duodenum. The arrowhead indicates the ileocecal region.
治療方針として,手術あるいは化学療法を検討した.腎機能障害と短腸による下痢のコントロール不良の点から,抗癌剤治療を選択した場合にその継続性は困難と判断した.一方で,手術の場合には,胆管浸潤範囲から膵頭十二指腸切除術で胆管断端は陰性になると考えられたが,さらなる短腸となることによる栄養障害と膵外分泌能の低下による栄養障害が危惧された.しかしながら,食物通過の残存小腸は150 cm以下となるが,回盲弁が残存していることから耐術の可能性はあると判断し,十分なinformed consentののちに手術の方針とした.
手術所見:以前の手術痕を複数箇所認めた(Fig. 3a).上腹部正中切開にて開腹した.癒着は高度であったが,丁寧に癒着剥離を施行した.残存小腸長を確認したところ約180 cmと術前診断通りであった(Fig. 3b).洗浄細胞診はClass IIであった.腹膜播種や肝転移は認めなかった.術前の胆管炎の影響で肝十二指腸間膜の肥厚や易出血性を認めた.8・12・13番の所属リンパ節の腫脹を認め郭清した.再建はPD-II-A-1(Child変法)とし,膵空腸吻合はBlumgart変法とし,膵管空腸粘膜吻合を行い(5-0 PDS 8針),膵管tube 5 Frを留置し,胆管空腸吻合は結節縫合で行い,RTBD tubeを留置し,腸管の安静も考慮し,いずれも不完全外瘻とした.胃空腸吻合およびBraun吻合を行い,食物通過小腸を確認したところ約140 cmであった(Fig. 3c, d).手術時間は9時間51分,出血量は780 mlであった.

Intraoperative findings. a: Incisions from previous surgeries are indicated by dotted lines. b: The length of the small intestine was approximately 180 cm, including the ileocecal region. c: The PV, CHA, PHA, SMV were taped after pancreaticoduodenectomy. The arrow indicates the stump of the remnant pancreas. d: Schema of reconstruction (PD-II-A-1). The length of the small intestine for digestion was approximately 140 cm. PV: portal vein, SMV: superior mesenteric vein, PHA: proper hepatic artery, CHA: common hepatic artery.
病理組織学的検査所見:間質の線維化を伴って,不規則な管状腺管を呈して増殖する中分化のtubular adenocarcinomaが認められた.胆管壁を越え浸潤を示し,膵実質への浸潤を呈していた.リンパ節は12b,13に8/21の転移を認めた(Fig. 4).

a: Resected tumor specimen. The stump of the bile duct was cancer free (open arrow). a’: Magnification of the tumor (arrowheads) showing the area enclosed by the dotted line in a. b: Pathological findings in HE staining (×100) showed that the tumor was identical to moderately differentiated tubular adenocarcinoma.
術後経過:術後2日目より飲水を開始した.3日目からは成分栄養剤(エレンタール®︎)の投与を開始した.それに伴い排便回数の増加を認めたが,1日量として中心静脈栄養1,500 mlをベースに,尿量やドレーン排液に合わせて1号輸液を補う形で水分電解質管理を行うことで,脱水およびそれに伴う腎機能障害の増悪は認めなかった.8日目まではTPNを併用し,9日目からは脂肪制限食で経口摂取も開始した.同時に膵酵素の補充を行った(高力価パンクレリパーゼ(リパクレオン®︎)投与).尿素窒素の上昇などの異化の亢進は認めなかった.21日目にGrade Cの膵液瘻を認めたがcoilingにて処置し,その後に臓器不全などは認めず,洗浄を行いながら瘻孔は治癒閉鎖した.栄養管理および排便については制御可能であった.最終的に経口摂取のみで中心静脈栄養を併用しない状態で第45病日に自宅退院となった.術前と術後3か月での栄養評価として,血清総蛋白値・血清アルブミン値・prognostic nutrition index(以下,PNIと略記)2)を調べてみると,術前と術後3か月で血清総蛋白値,血清アルブミン値,PNIを比較すると差異はなく,明らかな栄養低下は認めなかった(Table 1).外来にてS-1+gemcitabineによる補助化学療法を施行し,術後8か月経過観察中である.
| before surgery | 3 months after SSPPD | |
|---|---|---|
| Total protein levels (g/dl) | 6.7 | 6.9 |
| Albumin levels (g/dl) | 4.1 | 3.9 |
| PNI | 50.3 | 51.2 |
| White Blood Cell count | 5,000 | 6,100 |
| Percentage of lymphocyte | 37.1% | 40.2% |
| Number of lymphocytes | 1,855 | 2,452 |
Prognostic nutrition index (PNI)=10×albumin (g/dl)+0.005×total lymphocyte count
There was no significant difference in serum total protein, serum albumin, and prognostic nutrition index (PNI) at the two time points.
短腸症候群は,広範な腸管切除の結果,標準的な経口あるいは経腸栄養では水分,電解質,主要栄養素,微量元素,ビタミンなどの必要量が満たされない状態を指す1)3).本症例では,虫垂炎手術および術後の腸閉塞,腸捻転による複数回手術による広範囲腸切除を原因として短腸となっていた.食事量を過多に摂取したり,アルコール摂取にて5回以上の下痢を認めることはあったが,著明な体重減少は認めておらず機能は代償されていると考えられた.
治療方針に関しては,術前精査にて遠隔転移を有さない点および胆管進展範囲の評価から,膵頭十二指腸切除にて切除可能と考えられたが,短腸と膵切除による栄養障害の点から手術の困難性ならびに適応の点から,化学療法についても検討した.切除不能胆道癌に対する化学療法としてはGC療法もしくはGS療法が推奨されている4).本症例においては,既往に慢性腎障害を有することから,シスプラチンやS-1に伴う腎障害の増悪や下痢などの消化吸収障害という有害事象の点からfull dose治療での困難性などが考えられ,治療効果の点では劣ることが予想された.
一方で,耐術を検討するうえで重要と考えられたのが術前の栄養障害・消化器症状の有無,および残存小腸長の評価であった.医学中央雑誌にて1964年から2020年4月までで,「短腸症候群」または「短腸」,「膵頭十二指腸切除」または「PD」をキーワードとして検索(会議録を除く)した結果,報告例は認めず,PubMedにて1950年から2020年4月までで,「short bowel syndrome」,「pancreatoduodenectomy or pancreaticoduodenectomy」をキーワードとして検索を行った結果1件の文献が検索された.この報告では,膵頭部および十二指腸を背側から圧排する形の巨大後腹膜腫瘍に対し,術前に術中出血量を減らす目的で腫瘍への栄養動脈を塞栓し,膵頭十二指腸切除およびSMA本幹切除を伴う小腸大量切除を施行している.IMAからの側副血行により,温存した回盲部および約150 cmの残存回腸は機能し,術後栄養障害を認めなかったと報告されている5).
本症例においては,術前は栄養状態は保たれており,食事内容によっては下痢を来しやすい傾向はあったが,TPNの併用などは認めない状態で約50年経過していた.短腸症候群における残存小腸長の評価として,CT enterographyによる評価が有用であるとされているが6)7),本症例では内視鏡下の十分な送気のうえでCTを撮影し,Synapse Vincentを用いて測定した(Fig. 2a, b).結果として,残存小腸は約189 cmと予想され,実際の手術所見とも大きな乖離は認めなかった.また,回盲弁を切除している場合は結腸の腸内細菌が小腸内で増殖し栄養吸収障害を来すことから,回盲弁を切除している場合には必要小腸長が長くなることが報告されている8).術後の順応により十分な栄養の経口摂取に移行するための残存小腸長として,大腸が残っていない患者では約150 cm以上,大腸が完全にもしくは部分的にでも残っている患者では約50~70 cm以上とされており9),膵切除後の膵外分泌機能の低下を考慮に入れると,残存小腸長は100 cm程度は必要と考えていたが,今回は食物通過残存小腸長が約140 cm,回盲弁も残存していたことから手術は可能と判断した.また,膵頭十二指腸切除術後の膵外分泌機能に関しては,13C-labeled mixed triglyceride breath testを用いた報告では,外分泌能の低下に関与する独立した因子としては,膵胃吻合の施行とhard pancreasであった10).膵液漏自体は独立した膵外分泌機能低下の因子ではないと考えられるが,膵液漏後の炎症による吻合部の狭窄などは外分泌機能低下のリスクになることが考えられる10)11).この点から膵管空腸粘膜吻合を丁寧に行うことは膵外分泌機能低下のリスク軽減のために必要であると考えられた.膵頭部癌では随伴性膵炎に伴う残膵機能障害を認めるが,それと比較すると本症例は胆管癌でsoft pancreasであり,同様に膵実質の量は減少するが外分泌機能障害が軽度であることが予想され,実際に膵管チューブ外瘻の術後膵液量は300 ml/日以上あり,膵機能は温存されており,この点でも耐術可能と考えられた.
手術に関しては,術後の栄養吸収および術後の下痢を抑える工夫として,以下の2点が挙げられた.一つは,食物通過小腸を可能なかぎり長くするため,小腸を可及的に温存することともう1点は,SMA神経叢を温存する点である.14番リンパ節への転移の頻度は5~8%との報告もあるが12),SMA周囲の徹底した郭清が生存率の改善に寄与するかは議論が待たれるところであり13),神経叢郭清による難治性下痢の頻度の増加も指摘されている14).本症例においては,神経叢郭清による術後の神経性下痢が,腸管吸収障害に伴う下痢を助長させるおそれから神経叢を温存する方針とし,14番リンパ節郭清はSMA周囲神経叢を温存するラインで行った.また,初期の下痢を想定して消化液(胆汁・膵液)は外瘻とした.
術後の栄養管理に関しては,本症例においては吸収能の低下からしばらくは完全静脈栄養のうえで水分投与のみとした.また,栄養についても下痢の増悪がないことを確認のうえで,成分栄養剤のエレンタール®から開始とした.一般的な半消化態栄養の使用を推奨する報告も散見されるが15)16),脂肪含有量が少なく,アミノ酸吸収の面から成分栄養剤が使用されることが多く,本症例においても少量の成分栄養剤から開始し下痢の頻度を制御することができた.その後は半消化態のエンシュア®に移行のうえで,エネルギー吸収率の面17)から経口摂取を脂肪制限食で開始し,最終的にTPNからも離脱することができた.通常の腸管大量切除後は臨床経過に合わせて腸管リハビリが推奨されており,臨床経過を3期に分け,第I期の術直後期(術直後から術後3~4週間)には完全静脈栄養および水・電解質管理を行い,第II期の回復適応期(術後1~数か月)に便量をモニタリングしながら経腸栄養を開始し,第III期の安定期(数か月以降)に経口摂取およびTPNからの離脱を図ることが提唱されている3)18)19).本症例では,小児期に大量切除を行っていたことから既に腸管順応が行われていた可能性や,残存腸管長および回盲弁が保たれたことから,上記のような長期間の栄養管理は要さず,比較的早期に中心静脈栄養管理を脱することが可能であったと考えられた.
膵切除後の外分泌機能において,術後3か月には術前まで回復するとの報告を認めるが20),本例においても栄養評価を術前と術後3か月で比較すると差を認めなかったことから,消化吸収の点において残存腸管長ならびに膵機能の両面から機能的に温存することができたと考えられた.
本症例から得られたことは,残存腸管の長さや範囲の評価,つまり残存小腸長として,大腸が完全にもしくは部分的にでも残っている患者では約100 cm以上あること,そして適切な膵空腸吻合を行うこと,および術後の栄養管理を行うことで短腸症候群に対しても膵頭十二指腸切除術が耐術しえる可能性が示唆された.
利益相反:なし