2022 Volume 55 Issue 1 Pages 57-63
症例は74歳の男性で,S状結腸憩室穿孔に対して腹腔鏡下Hartmann手術によりS状結腸ストマを造設された.術後,正中創の腹壁瘢痕ヘルニアを認めたが,経過観察していた.9か月後に,S状結腸ストマ閉鎖術を施行したが,術後のCTでストマ閉鎖創の腹壁瘢痕ヘルニアを指摘された.正中創とストマ閉鎖創2か所の腹壁瘢痕ヘルニアをendoscopic mini/less open sublay repair(以下,EMILOS法と略記)にて同時修復した.術後は目立った合併症なく,術後4か月現在,再発なく経過観察中である.腹壁瘢痕ヘルニアに対する手術として,最近では腹腔鏡を用いたヘルニア修復術が行われるようになっており,その有用性に関する報告が散見される.今回,我々は小切開を置き,単孔式腹腔鏡操作を併用したEMILOS法にて腹壁再建術を行えたため,報告する.

A 74-year-old man underwent construction of a sigmoid colon stoma by a laparoscopic Hartmann operation for perforation of the sigmoid diverticulum. The patient subsequently underwent stoma closure, but then had an abdominal wall hernia in the midline wound and stoma closure site. We performed Endoscopic Mini/Less Open Sublay (EMILOS) repair for two large abdominal incisional hernias in the midline wound and stoma closure site. There were no significant postoperative complications, and currently, at 4 months after surgery, there has been no hernia recurrence. There have been several recent useful reports of laparoscopic incisional hernia repair. In this case, we were able to perform abdominal wall reconstruction by the EMILOS procedure with a small incision and single incision laparoscopic surgery.
腹壁瘢痕ヘルニアは腹部手術の合併症の一つであり,疼痛や違和感を生じ,整容性も悪いため患者の日常生活に支障を来す1)2).外科的修復が唯一の治療法であり,腹腔鏡を用いたヘルニア修復術の有用性の報告も増えている.直視下に行うヘルニア修復法と比べ,低侵襲であり,メッシュを使用した際の修復においてもオーバーラップの距離を稼ぐという点で容易で感染も少なく,利点は多い.腹腔鏡で行う腹壁瘢痕ヘルニア修復術は,intraperitoneal onlay mesh repair(以下,IPOM法と略記),IPOM-Plus法,endoscopic totally extraperitoneal repair(以下,E-TEP法と略記)などがありその有用性が報告されている3)4).しかしながら,術後疼痛や手術時間などの点でまだ改善の余地があると思われる.今回,我々はS状結腸憩室穿孔に対するHartmann手術後の正中創,およびストマ閉鎖創の2か所に及ぶ,広範囲な腹壁欠損を伴う腹壁瘢痕ヘルニアに対してendoscopic mini/less open sublay repair(以下,EMILOS法と略記)を行うことにより,良好な経過が得られた症例を経験したので,報告する.
症例:74歳,男性
主訴:腹部膨隆
既往歴:S状結腸憩室穿孔に対して腹腔鏡下Hartmann手術後.
生活歴:喫煙歴なし.飲酒歴なし.
現病歴:2018年8月にS状結腸憩室穿孔に対して腹腔鏡下Hartmann手術によりS状結腸ストマを造設された.術後半年の腹部CTで正中創の腹壁瘢痕ヘルニアを認めたが,症状を認めず経過観察していた.2019年4月にS状結腸ストマ閉鎖術を施行したが,術後のCTでストマ閉鎖創の腹壁瘢痕ヘルニアを指摘された.その後もCTでフォローしていたが,2か所のヘルニア門増大と腹痛の症状が出現したため,手術加療の方針となった(Fig. 1).

Preoperative view. Dotted lines indicate the area of the two ventral hernias.
術前腹部CT所見:下腹部正中およびストマ閉鎖創直下に腹壁瘢痕ヘルニアを2か所認めた(Fig. 2a).ヘルニア門はそれぞれ約7×6.5 cm,約4×3 cmであり,ヘルニア内容は小腸であった(Fig. 2b, c).

a: Two ventral hernias were found in the middle of the lower abdomen and the stoma closure wound. b: The size of the hernia in the lower abdomen was 7×6.5 cm. c: The size of the hernia in the stoma closure wound was 4×3 cm.
手術所見:
1.体位は開脚位で行った.初回手術の正中創に沿って約4 cmの皮膚切開を,ヘルニア囊直上においた.
2.ヘルニア囊を同定,切離し,一度腹腔内に到達したうえで,正中創のヘルニア門を確認した.腹直筋と腹直筋鞘後葉の間に切開を入れ,それらの間の層を露出し,ヘルニア門に沿って全周性に2~3 cm程度,直視下に剥離を延長した(Fig. 3a, b).

a, b: Lifting of the abdominal wall with retractors and dissection of the extraperitoneal space, pushing down the peritoneum and the preperitoneal fatty tissue, and exposition of the posterior rectus sheath and incision of the sheath.
3.この層をストマ閉鎖創直下にまで延長し,ストマ閉鎖創直下のヘルニア囊を同定し,切離しヘルニア門を確認した.
4.2か所のヘルニア門を腹直筋鞘後葉の層で1-V-Loc®(Medtronic)を用いて連続縫合し閉鎖した.
5.皮膚切開創にLAP PROTECTOR®(八光)とE・Zアクセス®(八光)を装着し,5 mmポートを3本刺入した(Fig. 4).5 mm flexible scopeを用いて,単孔式で鏡視下に気腹操作で腹直筋鞘後葉の剥離を追加した(Fig. 5a).

EMILOS operation with transhernial total extraperitoneal single port gas endoscopy.

a: The posterior rectus sheath was extensively mobilized from the rectus muscle by gas endoscopy. b: Transversus abdominis muscle release through incision of the posterior rectus sheath was performed.
6.気腹操作で頭側はヘルニア門から10 cmまで,尾側は弓状線を超えて上前腸骨棘のラインまで,横側は腹横筋切開をおき,広く剥離を行った(Fig. 5b).
7.2か所のヘルニア門を測定したところ約10×10 cmであり,バーサテックス®(20×20 cm,Medtronic)を用いて修復することにした.メッシュは角4か所を皮下から誘導したラパヘルクロージャー®(八光)を用いて3-0 タイクロン®(Medtronic)で剥離層の腹壁側と固定した.さらに,メッシュ中央部と腹直筋鞘後葉を,メッシュのdislocationを防ぐために3-0タイクロンで4針,腹腔内への刺入がないように十分に注意して縫合した(Fig. 6a).腹直筋鞘前葉を1-V-Loc®(Medtronic)で連続縫合,真皮を埋没縫合し手術を終了した.手術時間は3時間59分,出血量は少量であった(Fig. 6b).

a: Retromuscular mesh position. b: Abdominal wall after the EMILOS operation. The white line shows the area where the mesh was placed.
術後経過:術後経過は良好で術後2日目に退院した.術後4か月の時点でヘルニアの再発を認めていない(Fig. 7).

a: Abdominal wall 4 months after the EMILOS operation. b: CT scan 4 months after the EMILOS operation. No obvious recurrence is apparent.
腹壁瘢痕ヘルニアは,術後合併症の一つであり,腹部手術の3~11%に発生するといわれている1).原因としては,手術創の感染や血腫形成,加齢による腹壁の脆弱化や糖尿病,肥満による腹圧の上昇,緊急手術の有無などが関与し発症すると報告されている2).
腹壁瘢痕ヘルニアに対する治療としては,外科的修復法が唯一の治療法であり,患者背景や病態に合わせて手術方法を選択する必要がある.単純縫合閉鎖はメッシュを用いた修復法と比較して43~67%と再発率が高く5)6),現在メッシュを用いた修復術が主流である.
近年,完全鏡視下で行う方法としてIPOM法やIPOM法に腹壁縫合を加えたIPOM-Plus法,腹膜外アプローチでsublayにメッシュを留置するE-TEP法などが報告されている.IPOM法に関しては,開腹法と比較して入院期間の短縮,手術部位感染症の低減,さらに気腹下にヘルニアの全貌を内側より確認することができるなどの有用性が報告されている4).一方で,術中の腸管損傷や,メッシュに関連した癒着性腸閉塞や腸管穿孔などの危険性がある7).さらに,直径15 cm以上のヘルニアではIPOM法による修復が難しいといわれている8).E-TEP法に関しては,再発率や感染率の観点で優れているsublayにメッシュを留置することができる完全鏡視下の低侵襲な方法であり,IPOM法との比較検討でも海外から良好な治療成績も報告されている.腹壁再建という点で完全鏡視下で行えるメリットがあり,手術時間や腹腔鏡で行った場合の鉗子の制限などからくる手技の難しさはあるが,EMILOSとともに,今後のデータの蓄積と報告が期待される手技と考えられる9)10).
MILOS原法は2015年にReinpold11)が初めて報告した腹壁瘢痕ヘルニアに対する修復方法で,腹直筋の背側にメッシュを留置するsublay法の一種である.この方法を応用し,腹直筋鞘後葉の剥離を鏡視下アプローチを併用して行うのがEMILOS法である12).ヘルニア門直上での小開腹でヘルニア囊を処理した後,まず直視下に腹直筋鞘後葉を切開し,腹直筋鞘後葉と腹直筋の間の層,いわゆるretromuscular spaceをヘルニア門に沿って全周性に同定する.腹膜ならびに腹直筋鞘後葉を閉鎖し,小開腹創から単孔式気腹鏡視下で腹直筋鞘後葉の剥離を施行し,最後にメッシュを腹直筋鞘後葉の前面に留置するという方法である.
IPOM法との比較では,タッキング固定が不要なsublayメッシュを広範囲に留置できるため,神経損傷を回避することができ,術後疼痛の軽減につながるなどのメリットがある13).さらに,メッシュが腹腔内へ暴露しないため,腸管損傷や術後癒着性腸閉塞の心配もない14).IPOM法では癒着防止バリアー付きの高価なexpanded polytetrafluoroethylene(e-PTFE)メッシュを使用しタッキングする必要があったが,EMILOS法ではこれらの必要がなくコストの観点からも優れているといわれている15).
欧米では腹壁ヘルニアのゴールデンスタンダードになりつつあるsublay法であるが,これまでも開腹でのsublay法として,Rives-Stoppa法16)を始め,巨大な腹壁ヘルニアに対してはcomponent separation法17),trans abdominis muscle release(以下,TARと略記)18)などが報告されてきた.これまでの報告では直視下での広範な剥離が必要であり,おのずと皮膚切開を大きくしなければならなかった.一方でEMILOS法は,皮膚切開が2~12 cmですみ,従来の方法と比較して手術部位感染症の軽減を期待することができる.また,巨大な瘢痕ヘルニアでTARが必要な症例に対しても,EMILOS法の延長として施行できるため,さまざまな腹壁ヘルニアの症例に対応可能である.
EMILOS法に関する海外の論文として,EMILOS法は従来の開腹法,IPOM法と比較して有意に周術期合併症率,再発率,術後疼痛を軽減したという報告12)や,EMILOS法を施行した腹壁瘢痕ヘルニア715例の検討では,平均手術時間は従来法と比較して長くなる傾向にあるが,創部感染や漿液腫などを含めた周術期合併症率が2.3%対9.6%,術後1年の再発率が1.3%対5.5%,安静時疼痛のある症例が3.8%対10.0%と良好な成績が報告されている14).
我々はEMILOS法を施行する際に,直視下に腹直筋鞘後葉と腹直筋の間のretromascular spaceに入り,ヘルニア門を全周性に2~3 cm程度,層を広げることが手術手技のポイントであると考える.一度この層を同定すれば,単孔式気腹鏡視下操作へ移行することで比較的容易に剥離を進めていくことができる.Reinpoldらが考案したMILOS原法では,EndtorchTM(Wolf company)と呼ばれる10 mm光源カメラ機能付きの内視鏡鉗子を使用することで,直視下にretromuscular spaceを広げる記載があるが,単孔式気腹鏡視下操作を早い段階で併用するEMILOS法ではEndtorchTMが不要であり,鏡視下手術がさかんな本邦では普及しやすいのではないかと考える.また,鏡視下操作では拡大視効果により,剥離層が明瞭となり,気腹効果により筋層からの微小な出血コントロールも良好である.また,本症例のように複数か所存在するようなヘルニアに対しては,1か所の皮膚切開創からであっても,それぞれのヘルニア門を同定することができれば,気腹鏡視下操作での腹直筋鞘後葉の剥離に制限はないため,1枚のメッシュで同時に修復することも容易である.このように本術式は範囲の広い複雑な腹壁瘢痕ヘルニアであればあるほど,そのメリットを感じることができる術式であり有用であると考える.
本術式の手技上の注意点として,腹壁解剖への熟知を要することはいうまでもなく,尾側へ剥離を進める際の下腹壁動静脈や,後鞘を貫通する神経およびその周囲の血管によって構成される穿通枝の損傷には気をつけなければならない.
腹壁瘢痕ヘルニアをEMILOS法で同時修復した症例を「腹壁瘢痕ヘルニア」,「MILOS」をキーワードに医学中央雑誌(1964年~2020年)で検索したところ,本症例が本邦初の症例報告であった.欧米を中心に症例の蓄積が進んでいるが,本邦ではまだ一般化されていない.複雑な腹壁瘢痕ヘルニアに対しても低侵襲に行うことができる本術式の症例の蓄積と,成績の報告が期待される.
利益相反:なし