The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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SPECIAL REPORT
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2022 Volume 55 Issue 10 Pages 671-674

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はじめに

肝切除における出血量減少の手段の一つとして,Pringle法は開腹手術,腹腔鏡下手術のいずれにおいても広く用いられている.肝十二指腸間膜を一括テーピングして,ターニケット法にて血流遮断する方法の他,腹腔鏡下手術においては腹腔内で着脱型の鉗子を用いる方法や体腔外から軸の長いサテンスキー鉗子などの血管鉗子を用いて血流遮断する方法が用いられている.再肝切除症例においては,初回肝切除でPringle法を施行されている影響で,Pringle法が容易でない場合が少なくない.また,胆囊摘出や肝右葉病変に対する切除既往を有する患者ではWinslow孔へのアプローチが困難となる場合があり,肝左葉病変に対する切除や胃切除後の症例では,肝十二指腸間膜左側と周囲組織との癒着が高度となる場合がある(Fig. 1, 2).

Fig. 1 

肝十二指腸間膜周囲,肝下面周囲の高度癒着

Fig. 2 

肝十二腸間膜左側と肝臓の癒着

本稿では,肝十二指腸間膜と周囲組織の癒着が高度な症例に対してPringle法を実施する際の工夫を紹介する.

手技

はじめに,通常の方法として,癒着を認めない症例,あるいは軽度の場合のPringle法の準備について述べる.助手が外側区域を腹側に挙上し,肝十二指腸間膜の左側で小網を一部開放する.続いて助手は肝円索を頭側に牽引,また胆囊を愛護的に頭側に挙上させ,Winslow孔にアプローチする.フレックススコープや30°スコープを用いて,Winslow孔を観察する.下大静脈,尾状葉,肝十二指腸間膜背側を確認しながら,右季肋下(外側)のポートからWinslow孔に先端が鈍である鉗子(クローチェ有窓把持鉗子やcherry dissectorなど)を挿入し,先に設けておいた小網の開孔部に向けて鉗子を進める.鉗子を肝十二指腸間膜の左側から導出し,60 cmにカットした血管結紮用テトロンテープ(幅3 mm,河野製作所)を用いてencirclingし,15 cmにカットしたネラトンカテーテル(サフィード ネラトンカテーテル24 Fr 33 cm,先端開孔1孔式,テルモ)をターニケットとする.当科では,メリーランド鉗子をネラトンカテーテルの中に通した状態で,メリーランド鉗子を患者左側から腹腔内に挿入し,同鉗子をガイドとしてネラトンカテーテルを腹腔内に誘導し,同鉗子により,先に肝十二指腸間膜をencircleしていたテトロンテープを確保し,ネラトンカテーテルからメリーランド鉗子を引き抜き,ネラトンカテーテルをターニケットとしてPringle法を実施している.今回,紹介する肝十二指腸間膜の高度癒着症例では,上記の肝十二指腸間膜のencirclingが困難となる.まず肝十二指腸間膜右側の癒着が高度な症例では,十二指腸を損傷しないように丁寧に癒着剥離を行う.癒着剥離のみでWinslow孔にアプローチすることが難しい症例では,部分的にKocher授動を要する場合もある.Winslow孔にアプローチする際は,肝十二指腸間膜最背側,下大静脈を確認しながら愛護的に剥離を進める.

胃切除後等の症例で肝臓十二指腸間膜左側,肝外側区域下面,Spiegel葉,胃小彎側結合組織などの癒着が存在している場合,Winslow孔から挿入した有窓鉗子やcherry dissectorが肝十二指腸間膜の左側から確認できない.右側からのアプローチに加えて,間膜左側の組織剥離を行うことで,右側からの鉗子を左側に誘導できればよいが,高度癒着例では剥離に伴う脈管や他臓器損傷の可能性を念頭に決して無理をしないことが重要である.間膜左側とSpiegel葉が癒着している場合(Fig. 3),両者間の剥離にこだわらず,Spiegel葉の実質を一部切離することにより(Fig. 4),肝実質と肝十二指腸間膜の間にPringle法に用いるテープを挿入するスペースを確保することができる.まず肝円索を腹側に十分に牽引し,門脈臍部から肝十二指腸間膜にかけての術野を十分に展開する.高度癒着例での肝十二指腸間膜左側の剥離において,肝実質側でスペースを確保することにより,肝十二指腸間膜左側にある左肝動脈などの構造物の損傷を防ぐことができる.一方で実質を処理する際に,頭側・深部への実質切離を行うと尾状葉へのグリソン枝(G1L)を損傷する可能性があるため,実質切離は被膜から浅層で行うことを心がける.Sealing deviceやCUSAなどでの実質切離を少しずつ進め,切離面からの止血に対しては,ボール型やヘラ型電極を用いたsoft coagulationモードでの対応が有用である.

Fig. 3 

肝十二指腸間膜左側に癒着した肝実質の処理

Fig. 4 

肝十二指腸間膜周囲剥離後のPringle法用テーピング

肝十二指腸間膜の左側には心窩部や右季肋下のポートからアプローチすることが多いが,困難な場合は患者左季肋下からのポート追加が有用となることもある(Fig. 5).

Fig. 5 

ポート配置,Pringle法用ターニケット挿入位置

右側のWinslow孔からの鉗子の誘導と左側からの実質切離により作成したスペースを連続させることで,肝十二指腸間膜の背側を確保することができる(Fig. 5).ターニケット法によるPringle法の他,十分なスペースが確保できた症例においては血管鉗子を用いたPringle法も可能と思われる.切除終了後は再肝切除を念頭にスプレータイプあるいはシートタイプの癒着防止剤を使用する.

おわりに

再肝切除や胃切除などによる肝十二指腸間膜周囲の癒着が高度である症例に対する腹腔鏡下肝切除におけるPringle法を行う際の工夫について概説した.胃切除などの上腹部切除後の肝十二指腸間膜周囲癒着に加えて,再肝切除症例では初回手術時の操作の種類にかかわらず,肝十二指腸間膜周囲の癒着が高頻度に発生することが報告されている1).肝切除症例では開腹,腹腔鏡下のいずれにおいても,再肝切除の際のPringle法の実施を念頭に肝十二指腸間膜周囲の癒着を予防するための貼付剤やスプレー製剤の適切な使用が重要である.それでも高度癒着が生じた症例においては,今回紹介した工夫などを用いることにより,Pringle法を実施することが可能となる.今回,本邦を腹腔鏡下肝切除における工夫として紹介したが,当科は,以前,胃切除後の高度癒着を有する症例に対する肝移植における肝全摘時の工夫として同様の手技を報告している.開腹肝切除や肝移植症例においても同様に有用な手技と考えている2)

利益相反:なし

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