2022 Volume 55 Issue 2 Pages 106-114
症例は58歳の男性で,先天性プロテインC(以下,PCと略記)欠損症の家族歴があり,42歳時に同症と診断されていた.食思不振を主訴に前医を受診しCTで膵鉤部に径25 mmの囊胞性病変を認めた.門脈/上腸間膜静脈は血栓で閉塞し肝十二指腸間膜に著明な側副血行路を認めた.5か月後のCTで囊胞径が53 mmに増大し,当院で精査を施行した.膵管内乳頭粘液性腺癌の診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.肝十二指腸間膜の側副血行路は温存した.活性化PC製剤を術直前から第1病日まで15,000単位/dayの用量で24時間持続投与し,その前後はヘパリンを持続投与した.術後は側副血行路に無症候性の小血栓を認めるも肝不全や腸管うっ血の合併症なく経過し第36病日に退院した.PC欠損症を有する膵頭十二指腸切除に対して活性化PC製剤を周術期に投与した報告はなく,今後の周術期管理の参考になると考えられるため報告する.
A 58-year-old man who was diagnosed with congenital protein C (PC) deficiency at 42 years old and with a family history of this condition visited a previous hospital due to appetite loss. A CT scan revealed a 25-mm cystic tumor in the uncinate process of the pancreas. The portal vein and superior mesenteric vein had thrombotic occlusion, forming a remarkable collateral vein in the hepatoduodenal ligament. The cystic tumor was found to have grown to 53 mm in a CT scan after 5 months. Further examination was then performed at our hospital. The patient was diagnosed with intraductal papillary mucinous carcinoma and underwent pylorus-preserving pancreaticoduodenectomy. The collateral vein in the hepatoduodenal ligament was preserved. Activated PC (15,000 unit/day) concentrate was continuously administered for 24 hours from just before surgery. Unfractionated heparin was continuously administered before and after administration of the activated PC concentrate. A small thrombus was seen in the collateral vein of the hepatoduodenal ligament after surgery, but the patient was discharged 36 days after surgery without liver failure or intestinal congestion. Here, we report the first case of PC deficiency treated with administration of activated PC concentrate during the perioperative period of pancreaticoduodenectomy. This report will be informative for perioperative management of cases with PC deficiency.
先天性プロテインC(以下,PCと略記)欠損症は常染色体優性遺伝の形式を取り,その発生頻度は0.2~0.3%といわれている1).PC欠損症の血栓症発症リスクは7~10倍と高いことから,PC欠損症を有する症例の手術では抗凝固薬を用いた周術期血栓予防対策が非常に重要となる.今回,我々はPC欠損症を既往に持ち側副血行路が発達した門脈血栓閉塞を伴う膵管内乳頭粘液性腺癌(intraductal papillary mucinous carcinoma;以下,IPMCと略記)に対し,周術期に活性化PC製剤と抗凝固薬を投与し安全に膵頭十二指腸切除(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)を施行しえた症例を経験した.PC欠損症を有するPDに対して活性化PC製剤を周術期に投与した報告はこれまでのところ認められず,PC欠損症における周術期管理の新たな手段として参考になると考えられ,文献的考察を加え報告する.
症例:58歳,男性
主訴:食思不振
既往歴:21歳,心筋梗塞.35歳,閉塞性動脈硬化症.42歳時に深部静脈血栓症を発症し先天性PC欠損症と診断された(PC活性57%,プロテインS(以下,PSと略記)活性117%).49歳,上矢状静脈洞血栓症.54歳時には上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)血栓症による小腸壊死に対して小腸部分切除術が施行された.
内服薬:ワーファリン5 mg/day.
家族歴:本症例は3人兄弟の三男で長兄,次兄が先天性PC欠損症と診断されている.父や母は血栓症の既往なく,PC欠損症の精査がされていないため,PC欠損症であるかは不明である.
現病歴:食思不振と半年間で9 kgの体重減少を認め,前医を受診した.造影CTで膵鉤部に最大径25 mmの囊胞性病変を認め膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasms;以下,IPMNと略記)が疑われた.また,血栓による門脈(portal vein;以下,PVと略記)・SMV閉塞および肝十二指腸間膜を中心に発達した側副血行路を認めた.2か月後のCTで囊胞径が35 mmに増大し,セカンドオピニオン目的に当院を紹介された.積極的に悪性を示唆する所見がないことや前医施行の膵液細胞診で悪性細胞が検出されていないことに加え,切除は術中大量出血のリスクが高いことを考慮し,前医で経過観察の方針となった.5か月後のCTで囊胞径が53 mmに増大したため,精査加療目的に当院に入院した.
来院時身体所見:身長175.3 cm,体重61 kg,BMI 19.9 kg/m2,血圧131/74 mmHg,脈拍48回/分・整,体温35.9°C
腹部平坦軟で圧痛なく腫瘤は触知しなかった.腹部体表の静脈怒張はなし.
術前血液検査所見:ワーファリンによりPT-INRは1.42と延長していた.Dダイマーは0.5 μg/mlと正常範囲内であった.PC活性は42%,PS活性は34%で低下していたが,ワーファリンによる影響も考えられた.CEAは28.9 ng/mlと高値であったがCA19-9は19.1 U/mlと正常であった(Table 1).
| WBC | 5,400/μl | Na | 143 mEq/l |
| RBC | 466×104/μl | K | 4.4 mEq/l |
| Hb | 13.9 g/dl | Cl | 107 mEq/l |
| Hct | 42.0% | CRP | 0.1 mg/dl |
| Plt | 16.5×104/μl | ||
| Glu | 118 mg/dl | ||
| TP | 6.8 g/dl | HbA1c | 5.6% |
| Alb | 4.1 g/dl | ||
| T-Bil | 0.5 mg/dl | PT | 41.6% |
| AST | 19 IU/l | PT-INR | 1.42 |
| ALT | 21 IU/l | APTT | 34 Sec |
| ALP | 177 IU/l | DD | 0.5 μg/ml |
| γ-GTP | 18 IU/l | ||
| ALT | 21 IU/l | Protein C Ag | 36% |
| ALP | 177 IU/l | Protein S Ag | 43% |
| γ-GTP | 18 IU/l | Protein C Ac | 42% |
| LDH | 175 IU/l | Protein S Ac | 34% |
| Amy | 37 IU/l | ||
| BUN | 11 mg/dl | CEA | 28.9 ng/ml |
| Cre | 0.73 mg/dl | CA19-9 | 19.1 U/ml |
Ac; activity, Ag; antigen
術前腹部造影CT所見:膵鉤部に径53 mmの囊胞性病変を認め,内部に造影される不整な隔壁構造や充実成分を疑う結節様構造も認めた(Fig. 1a, b).門脈相では肝十二指腸間膜を中心にPV/SMV閉塞により非常に発達した側副血行路を認めた(Fig. 1c, d).明らかなリンパ節転移,遠隔転移は認められなかった.所見の概要をシェーマに示す(Fig. 1e).第1空腸静脈合流部より末梢のSMVおよびPV右枝は完全に閉塞し,PV左枝は狭窄していた.

CT images with contrast enhancement before surgery. (a, b) A cystic tumor (53 mm) with an enhanced septum and solid component was found in the uncinate process of the pancreas (arrows). (c, d) Marked collateral flow due to thrombotic occlusion of the superior mesenteric vein (SMV) and portal vein (PV) was observed in the hepatoduodenal ligament and around the gallbladder (arrows). (e) Schema of imaging findings. The right branch of the PV and SMV peripheral from the confluence of the first jejunal vein were completely occlusive. The left branch of the PV was incompletely occlusive. The two-way arrows show the cut line of each organ. The gallbladder and right gastric vein were preserved.
術前内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)検査所見:膵管造影で膵頭部主膵管の拡張を認め,粘液もしくは腫瘤圧排による陰影欠損を認めた(Fig. 2a).膵液細胞診でClass Vと診断された.

ERCP. (a) The main pancreatic duct of the pancreatic head was dilated. Filling defects due to mucus or the cystic tumor were observed (arrows). (b) Endoscopic findings showed mucus and white coat in the duodenum, which suggested rupture of the tumor.
また,内視鏡による観察で十二指腸乳頭の近傍に腫瘍の穿破を認め,粘液と白苔が付着していた(Fig. 2b).穿破部の生検で腺癌と診断された.
以上より,IPMCと診断し,手術の方針とした.
術前抗凝固療法:手術の10日前に入院し,入院当日よりワーファリンは中止した.入院時から未分画ヘパリン持続静注を12,000単位/dayの投与量で開始し,APTTが50~60 secとなるよう最終的に20,000単位/dayまで増量した.未分画ヘパリン持続投与は手術開始4時間前に中止した.手術室に入室後,活性化PC製剤(アナクトC®;以下,APC製剤と略記)の24時間持続投与を15,000単位/dayの用量で手術直前に開始した(Fig. 3).硬膜外カテーテルは留置されなかった.

Changes of APTT and PT-INR under perioperative administration of anticoagulants. APC: activated protein C product, POD: postoperative day.
手術所見:肝不全のリスクがあるため,肝十二指腸間膜の側副血行路は温存し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pyrolus preserving pancreaticoduodenectomy;以下,PPPDと略記)を施行した(Fig. 4).膵頭部を切除すると肝十二指腸間膜の側副血行路は右胃静脈からの血流が中心になると想定されたことから,右胃静脈温存のためPPPDを選択した.また,胆囊周囲に発達した側副血行路を温存するため胆囊は温存し,胆管は胆囊管合流部より遠位の総胆管のレベルで切離した(Fig. 1e).リンパ節転移を疑う所見もなく,側副血行路を温存するためリンパ節郭清は#13,#17,#14のみとした.手術時間666分,出血量2,198 mlで,その多くは術中抗凝固療法による易出血性に起因した側副血行路周囲からのoozingであったが,輸血はされなかった.術中は前述したようにAPC製剤の持続投与を行った.

Intraoperative photograph after resection. Cholecystectomy and lymph node dissection of the hepatoduodenal ligament was not performed to preserve collateral flow (arrowheads). The common bile duct was dissected (arrow). GDA: gastroduodenal artery, CBD: common bile duct, Panc: pancreas, SMV: superior mesenteric vein, SMA: superior mesenteric artery.
病理組織学的検査所見:肉眼的には膵頭部から膵鉤部に,70 mm大の比較的境界明瞭な囊胞性病変を認め,囊胞内には一部充実成分が認められた(Fig. 5a).組織学的に,粘液産生の高度な病変で,粘液内に腫大,濃染核を有する異型細胞が集塊状,腺管状に浮遊していた.肉眼的に充実成分としてみられた部分では,核腫大を示す高円柱状異型細胞が絨毛状構造を形成し増殖しておりIPMCと診断された(Fig. 5b).十二指腸固有筋層を貫き粘膜までの浸潤を認めた.Surgical marginは陰性で,リンパ節転移は認められなかった.膵癌取扱い規約第7版に基づき,Ph,TS4,70×45 mm,pT3,int,INFb,ly0,v1,ne0,mpd0,pCH0,pDU1,pS0,pRP0,pPV0,pA0,pPL0,pOO0,pPCM0,pBCM0,pDPM0,pN0,cM0,pStage IIAと診断された.

Images of sectioned specimens and histology of the tumor. (a) Macroscopic findings showed a relatively well-defined cystic tumor of approximately 70 mm with a solid component in the pancreatic head (arrows). (b) Histological findings were compatible with intraductal papillary mucinous carcinoma (IPMC).
術後抗凝固療法・術後経過:引き続きAPC製剤の持続投与を継続し,第1病日に終了した.第1病日からは,未分画ヘパリンの持続投与を再開した.6,000単位/dayの用量で開始し,術前と同様APTTが50~60 secとなるように適宜調節した(Fig. 3).第1病日の活性化PCと活性化PSは低値であった(Table 2).第7病日の造影CTで側副血行路に無症候性の小血栓を認めた.未分画ヘパリンの持続投与を継続し,第26病日の造影CTで血栓の縮小を認めた.膵瘻の合併はみられなかった.第27病日よりワーファリンを開始した.先天性PC欠損症では,ワーファリン投与開始1~2日後に電撃性紫斑病による皮膚壊死を来すことがあるため,ワーファリンは少量の1 mg/dayから開始し,数日かけて漸増した.PT-INRが正常値より1.5~2.0倍に延長した段階で未分画ヘパリンを終了し,第36病日に退院した.術後34か月無再発生存中である.
| Preoperative | POD 1 | POD 4 | POD 6 | POD 13 | POD 28 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Activity value | ||||||
| Protein C | 42% | 19% | 46% | 61% | 69% | 51% |
| Pretein S | 34% | 23% | 56% | 89% | 67% | 68% |
| Amount of antigen | ||||||
| Protein C | 36% | 20% | 40% | 52% | 64% | 42% |
| Pretein S | 43% | 30% | 57% | 89% | 82% | 70% |
POD; postoperative day
本症例の臨床経過が示唆する診療のポイントは,PC欠損症に対する周術期APC製剤の投与と,PDにおける肝十二指腸間膜の側副血行路温存の2点である.
PC欠損症における周術期の血栓合併頻度については明らかにされていないが,PC欠損症などの血栓性素因のある大手術は,肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドラインの静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism;以下,VTEと略記)リスク分類において最高リスクとされており,VTE予防に用いる薬剤としては未分画ヘパリンやワーファリンが推奨されている.那須ら2)は,術後に診断されたPC欠損症を有する肝門部領域胆管癌症例において,抗凝固療法なしで術中に門脈再建部に血栓が繰り返し生じ,術中に胃大網静脈を介してヘパリンを投与することで血栓形成を制御できた症例を報告している.したがって,本症例に対するVTE予防対策は未分画ヘパリンやワーファリンで十分な可能性があるが,本症例においては,VTEのリスクのほかに側副血行路などの血栓も重篤な合併症につながる可能性があること,また,少数例ながらPC欠損症を有する症例の周術期にAPC製剤を投与した報告例があることを踏まえ3)4),血栓症のリスクを少しでも低減させるため,未分画ヘパリンやワーファリンに加えAPC製剤を周術期に投与する方針とした.
PC欠損症に対する周術期血栓予防対策としてAPC製剤を周術期に投与した報告は少なく,医学中央雑誌(1964年~2019年)で,「プロテインC欠損症」と「プロテインC製剤」をキーワードにして検索したところ(会議録除く),I型PC欠損症の胃癌患者に対して幽門側胃切除術を施行した症例や,I型PC欠損症の左足潰瘍に対して左下腿切断術を施行した症例への投与例が報告されているが3)4),PDにおける周術期APC製剤投与の報告例はみられなかった.APC製剤の市販後調査では安全性解析対象の104例127エピソードのうち予防投与症例は6エピソード含まれていた5).APC製剤の投与量と投与期間は,幽門側胃切除術の症例は15,000単位/dayを3日間(投与開始日について記載なし),左下腿切断術の症例は12,500単位/dayを術前日から3日間投与されていた.本症例もPC抗原量および生物学的活性値両者とも低下しI型PC欠損症と考えられるが,APC製剤は術直前から術後の24時間投与で終了とし,以降はヘパリン持続投与に切り替えた.既報よりも短期間のAPC製剤投与としたが,術後CTで肝十二指腸間膜側副血行路の無症候性小血栓を認めたものの,症候性の血栓塞栓症は合併せずに経過したことから,周術期APC製剤投与が血栓予防に有用であった可能性がある.APC製剤が投与された既報の2症例においても血栓症の増悪なく良好に経過しており,PC欠損症の外科周術期血栓予防対策としてAPC製剤投与の有効性が示唆される.しかし,PC欠損症における周術期血栓予防対策の基本は未分画ヘパリンであり,APC製剤投与の有効性および必要性については,今後症例を集積し検討していく必要がある.
APC製剤の周術期投与は,抗凝固作用が過剰となった場合の出血リスクが懸念されるが,APC製剤の市販後調査によると,出血傾向としては肺出血が1.9%にみられたと報告されている5).本症例では術中・術後にAPC投与による出血傾向はみられず,出血性合併症は認められなかった.第1病日にPC抗原量や生物学的活性値を測定したが,いずれも低値を示していた.これには,手術侵襲による凝固線溶系の亢進が影響していると考えられ,本症例に対しては,より高用量の投与が望ましかった可能性があるが,PC欠損症に対するAPC製剤投与の臨床試験や市販後調査では,APC製剤投与により血中APCは上昇するが,投与前後でPC抗原量および生物学的活性値には明らかな変化はなかったとも報告されており5)6),APC製剤の周術期至適投与量に関しても,さらなる症例の集積が必要である.
APC製剤の効果・効能は,先天性PC欠損症に起因する深部静脈血栓症,急性肺血栓塞栓症あるいは電撃性紫斑病とされている.APC製剤の市販後調査では,先天性PC欠損症に起因する深部静脈血栓症や急性肺血栓塞栓症を調査対象としていたが,安全性の解析対象とされた104例127エピソードのうち,先天性PC欠損症以外が32エピソード,肝中心静脈閉塞症が30エピソード,予防投与が6エピソードなど適応疾患外のものが半数以上含まれており,有害事象の発生頻度は14.4%とされ,そのうち重篤な副作用は4.8%に認められたと報告されている4).その重篤な副作用としては,出血傾向のほかには,貧血,アナフィラキシーショック,黄疸などであったが,発生頻度としては低いものであった.APC製剤の周術期投与の安全性に関しては症例の集積と検討を要するが,既報の2症例や本症例において,特に問題となる有害事象は認められなかったことから,APC製剤の周術期投与は安全に施行可能であることが示唆される.しかし,APC製剤はヒト血漿由来の貴重な薬剤であり,薬価が1瓶2,500単位で約30万円と極めて高価であることや,周術期投与の有効性が確実に実証されてはいないというデメリットがあるため,その使用は適応も含め各施設で十分に検討したうえで,適切に行う必要がある.
PC欠損症の周術期管理で注意を要するものに,ワーファリン導入時の電撃性紫斑病がある.一般的に,PC欠損症の周術期には抗凝固療法として未分画ヘパリンが持続投与され,離床後はワーファリンに切り替えるが,ワーファリン導入によりPCが急激に低下し,一過性の過凝固状態から電撃性紫斑病を呈する可能性があるため,その予防としてワーファリンは少量から開始しなければならないことを認識しておく必要がある1)7).本症例においてもワーファリンは1 mgの低用量より開始し,漸増していくことで過凝固状態を呈することなく退院に導くことができた.
本症例のような再建不能なほどPV/SMVが閉塞し肝十二指腸間膜に側副血行路が発達した症例に対するPDは,術中大量出血の危険性や肝血流低下による術後肝不全のリスクが高いが,手術の成否の鍵は側副血行路をいかに温存するかである.本症例では側副血行路を温存するために胆囊を温存し,総胆管のレベルで胆管を切離した.また,膵頭部切除後の肝十二指腸間膜の側副血行路は右胃静脈からの血流が中心になると考えられたことから,右胃静脈温存のためPPPDを選択した点は,肝十二指腸間膜の側副血行路温存のPDの要点と考えられた.本症例では術前の画像検査で肝十二指腸間膜のリンパ節に明らかな転移を認めず,また病理学的にもリンパ節転移を認めなかった.肝十二指腸間膜のリンパ節に転移を認めれば,肝十二指腸間膜の側副血行路温存とR0切除の両立は困難であり,根治切除不能と判断せざるをえないと思われる.
利益相反:なし