2022 Volume 55 Issue 2 Pages 99-105
症例は77歳の男性で,胃癌術後フォローの上部消化管内視鏡検査で十二指腸乳頭部癌と診断された.術前検査にて明らかな遠隔転移の所見を認めず膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;PD)を施行した.膵管空腸吻合部にはロストステントを留置した.術後Grade Bの膵液漏と腹腔内膿瘍を認め加療を行った.膵液漏の改善にもかかわらず発熱が持続していたため,腹部造影CTを施行した.結果,ロストステントの先端が挙上空腸背側の門脈内に迷入し,さらに門脈内ガスおよび門脈内血栓を認めた.このためシングルバルーン内視鏡を用いて門脈に迷入しているステントの先端を引き抜いて挙上空腸内に再留置を行った.その後,炎症反応は改善し退院となった.
A 77-year-old man was diagnosed with ampullary carcinoma in follow-up upper gastrointestinal endoscopy after gastric cancer surgery. Pancreaticoduodenectomy was performed because distant metastasis was not found in a preoperative examination. An internal stent was placed at the site of pancreaticojejunal anastomosis during the operation. Grade B pancreatic fistula and intraabdominal abscess were found and interventional radiology was performed. Contrast-enhanced CT was performed because remittent fever was prolonged despite improvement of pancreatic fistula. CT showed that the end of the internal stent penetrated through the intestine into the portal vein, and portal vein gas and thrombosis were detected. We removed and replaced the stent in the intestinal lumen using a single-balloon enteroscope. The patient recovered after the endoscopic procedure and was discharged from hospital.
膵頭部およびその周囲の疾患に対し膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)は比較的安全に施行されるようになっており,high volume centerにおいて死亡率は5%以下と報告されている1).ただ術後合併症の発生率は高く,その中で膵液漏は最も注意すべきものの一つであり,腹腔内膿瘍や腹腔内出血,胃排泄遅延などに至ることも多い.このため膵液漏の予防のためにはさまざまな工夫がなされてきた.膵管チューブは術後膵液漏を予防するための有用な手段の一つであるとされている2)3).最近では,ロストステントが多くの施設で用いられその有用性が報告されているが4)5),ステントトラブルの報告も散見される6)~12).今回,我々はPD後にロストステントが門脈内に迷入した十二指腸乳頭部癌の1例を経験したので報告する.
患者:77歳,男性
主訴:十二指腸乳頭部癌加療目的
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:25年前S状結腸癌手術,15年前横行結腸癌手術,糖尿病,狭心症
現病歴:3年前に胃前庭部癌に対し幽門側胃切除術,Billroth I法再建術を施行した.病理組織学的検査所見にてtub2>muc,pT3-SS,pN1,stage IIbの診断であった.定期フォローの胃カメラにて十二指腸乳頭部に潰瘍型腫瘍を認め,生検でadenocarcinomaの診断であった.加療目的で当科紹介となった.
入院時現症:身長169 cm,体重66 kg,BMI 23.1 kg/m2
血液検査所見:Hb 10.4 mg/dl,HbA1c 7.9%,CEA 2.7 ng/ml,CA19-9 35.7 U/ml
上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸乳頭部から肛門側にかけて潰瘍型腫瘍を認め,生検でmoderately to poorly differentiated adenocarcinomaの診断であった(Fig. 1).

Upper gastrointestinal endoscopy showed an ulcer type lesion spreading from the papilla to the anal side. Biopsy findings showed moderately to poorly differentiated adenocarcinoma.
胸腹部CT所見:膵頭部背側にリンパ節腫大を認めるも明らかな遠隔転移所見を認めなかった.
以上より,十二指腸乳頭部癌の診断にて外科的手術を行った.
手術所見:開腹所見にて以前の手術の影響による広範囲の癒着を認めたが,明らかな遠隔転移所見を認めなかった.触診にて腫瘍は十二指腸乳頭部に弾性硬の腫瘤として触知した.切除可能と判断しPDを行いChild変法で再建した.膵管空腸吻合はBlumgart変法にて行い,膵実質空腸密着吻合は膵管をまたがずに膵管の頭側と尾側の2針で行った.糸は4-0 polypropyleneを用いて空腸漿膜筋層を長軸方向に運針後に膵実質を厚壁から前壁方向に貫通させた.次に5-0モノフィラメント吸収糸を用いて膵管膵実質空腸全層縫合を計8針で行った.膵管チューブは5Fr節付膵管チューブ(住友ベークライト社)をロストステントとして使用し,膵管空腸吻合の後壁縫合糸で固定した後,約3 cmで切離し挙上空腸内に留置した.最後に膵実質を貫通させた4-0 polypropyleneを空腸漿膜筋層に運針し膵切離面を覆うように結紮し膵管空腸吻合を終了した.手術時間524分,出血量950 gであった.
病理組織学的検査所見:乳頭部に限局した中分化型管状腺癌で,非充実型の低分化成分を伴っていた.十二指腸への浸潤を認めたが膵実質への浸潤は認めなかった.13bリンパ節に転移を認めた.以上より,Ac,14×13 mm,tub2>por2,pT2,int,INFβ,ly1,v0,ne1,pN1,pPV0,pA0,pHM0,pEM0,pPM0,pR0,stage IIB(胆道癌取扱い規約第6版)と診断した.
術後経過:ドレーンアミラーゼは術後1日目に24,172 U/lであり,3日目で10,828 U/lであった.術後37°C台の発熱を認め,4日目にルーチンに施行した単純CTでは挙上空腸周囲に液体貯留を認めた.このためGrade Bの膵液漏の診断にてドレーン交換を行った.その後一旦解熱したが,術後10日目に41°C台の発熱を認め造影CTを施行した.結果吻合部周囲に少量の気泡像と液体貯留を認めたため,ドレーン位置を修正して膿瘍のドレナージ管理を継続した.この時のCT所見で膵管ステントの先端が挙上空腸の盲端側に存在し,また門脈壁の腹側に存在する腸管壁に接していたが迷入は認めなった.その後も39°C台の発熱と炎症反応高値が継続したため術後17日目に単純CTを施行したところ,門脈内ガスを認めた.しかし,腸管気腫などの所見は認めず,腹部症状もなく原因は不明であった.その後も発熱が継続したため術後24日目に再び造影CTを施行した.結果,膵管ステントの先端が挙上空腸背側の門脈内に迷入していることが判明し(Fig. 2A, B, E),さらに門脈内ガス(Fig. 2C, E)および門脈内血栓を認めた(Fig. 2D, E).このため同日にシングルバルーン内視鏡を用いた内視鏡検査を緊急で行った.ステントの抜去も考慮したが,膵管ドレナージの継続のため門脈に迷入しているステントの先端を引き抜いて挙上空腸内に再留置を行った(Fig. 3).その後,炎症反応は改善し術後38日目に退院となった.抗凝固療法を継続し,術後半年後に施行した腹部造影CTでは門脈内血栓は消失しており,膵管ステントも脱落していた.

Contrast-enhanced CT (A–D) and schema (E). The end of the internal stent was located at the blind end of the small intestine and penetrated the portal vein (A: axial image, B: sagittal image). Portal vein gas (C) and thrombosis (D) were detected.

Endoscopic procedures were performed using a single-balloon enteroscope. The end of the internal stent penetrated into the intestine, and the surrounding mucosa was edematous. We removed and replaced the stent in the intestinal lumen using endoscopic forceps.
膵空腸吻合部に膵管ステントを留置することにより膵液漏が予防できるかどうかについてはさまざまな報告がある3)4)13)~16).細い膵管径やsoft pancreas,厚い膵組織,肥満など膵液漏が起きやすい要因も考慮すべきであるが,一般的には吻合部と膵液の隔離や残膵の除圧,主膵管の開存につながり膵液漏の予防に有用と考えられている3)4).膵管ステントには外瘻ステントとロストステントがある.両者を比較した報告も散見されるが,Taniら4)のRCTでは両者の合併症に対する検討では差はなく,ロストステントでは入院期間が短縮可能であった.また,外瘻ステントではチューブ挿入部の皮下膿瘍や屈曲による閉塞,自己抜去などのチューブ関連の合併症を伴うことがある5)13)14).このため最近では当施設を含め多くの施設でロストステントが用いられている.
ロストステントはその役割を終えた後に脱落し排便とともに排泄される.ただ体内動態を検討した報告では1年経過しても約半数以上の症例にステントが残存するという報告がある6)17).膵管空腸縫合糸5本以上でステントが遺残しやすいという報告もある6).ステントの遺残期間と合併症の関連についての報告はないが,異物であることから不要となった場合は早期の排泄が望ましいと考えられる.
ロストステントによる合併症の頻度は少なく,許容範囲とされる報告が多いが,ステントに起因する合併症は報告されている6)~12).膵管内に遺残した場合はステントの閉塞によると考えられる膵管拡張と背部痛を認める場合11)や,膵管遠位への迷入による急性膵炎の報告6)9)もあり,保存的あるいは外科的に加療が行われている.その中でKadowakiら6)は5 Fr以上のチューブで膵管遠位に迷入しやすいと述べている.また,胆管内に迷入したために胆管炎や肝膿瘍に至った報告例もある6)7)10).その他ステントの移動による腸穿孔の報告もあり8),中には腸管と椎体への穿通から骨髄炎を認めた報告もある12).このためステントの遺残や移動に伴い合併症が起こる可能性があることを念頭に置かねばならない.
本症例のようにステントが腸管から門脈内に穿通した症例については,医学中央雑誌で1964年から2021年2月の期間で「膵頭十二指腸切除術」,「合併症」,「ロストステント」,PubMedで1950年から2021年2月の期間で「pancreaticoduodenectomy」,「complication」,「internal stent」をキーワードとして検索した結果,報告例は認めなかった.腸管と門脈が瘻孔形成する場合は,肝胆膵領域の手術や放射線治療等後に消化管潰瘍を伴う場合や外傷によるものの報告がある18)~23).本症例もPD後で挙上した空腸と露出された門脈が接する状態となっており,ステント先端が空腸に穿通したことで門脈内に迷入したと考えられる.ただ術後早期であることから,原因としてステント挿入時の問題があったことも否定できない.空腸側にステントを挿入する際には盲目的となりやすく,先端が腸管壁に垂直に接触する可能性があると考えられる.さらに,本症例においてはステント先端が挙上空腸の盲端側に位置しており,ステントを挿入した時点から先端が間膜側の空腸壁で跳ね返り,門脈に近接した盲端側に位置した可能性もある.また,ステントは節付き膵管チューブを切断して使用しており,場合によっては先端が鋭利となりやすく腸管壁に損傷を認めた報告もあり,先端が斜めにならないように垂直に切断する必要がある24).いうまでもなく愛護的な操作が必要とされる手技ではあるが,ステントの改良も検討すべきと考えられた.
ステントの位置の評価はCTが有用であり,本症例の診断もCTによって確定された.一般的にCTは膵液漏の評価に有用であり,周術期にはルーチンに施行されることが多い25).本症例の場合も炎症反応の持続により膵液漏や腹腔内膿瘍の悪化が疑われたが,CTの施行によりステントの門脈内迷入と門脈内気腫,門脈内血栓症が確認された.術後の状態評価の際には時期を逸することなく施行することが重要であると考えられた.
ロストステントによるトラブルに対する対応としては内視鏡的に処置が行われることが多い11)26).ただ消化管再建後であるため必ずしも容易ではなく,内視鏡的に困難な場合は開腹手術が行われる場合もある9)12).近年ではバルーン内視鏡の有用性が報告されており,輸入脚への到達率も90%以上とされている27).バルーン内視鏡による偶発症も報告されているため注意すべき処置であるが27),低侵襲であるためまず考慮すべきと考えられる.内視鏡的にステントを抜去する際に注意する点としては抜去部位からの出血が考えられる.病態は異なるが,消化性潰瘍を伴う門脈消化管瘻の報告では致死的な出血を認めることが多く,門脈内バルーン21)や内視鏡的コイリング22)による止血が行われた例もある.本症例においても出血時の対応として内視鏡的あるいは外科的止血術を待機しながらステントの抜去を行ったが,幸い抜去時の出血を認めなかった.消化管へのステント穿通部に明らかな潰瘍形成がなく瘻孔化していたことや門脈内血栓が存在していたことなどが要因として考えられた.
利益相反:なし