The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Liver Metastasis of Ameloblastoma Successfully Treated by Laparoscopic Partial Liver Resection: A Case Report
Naotake FunamizuMio UraokaMiku IwataMikiya ShineAkimasa SakamotoTomoyuki NagaokaKei TamuraKatsunori SakamotoKohei OgawaRiko KitazawaYasutsugu Takada
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2022 Volume 55 Issue 6 Pages 383-388

Details
Abstract

症例は49歳の男性で,検診のCTで肝S6に肝腫瘍を指摘され,当科紹介となった.患者は既往にエナメル上皮腫の既往があり,24年前に左下顎骨エナメル上皮腫に対して下顎骨区域切除術,4年前に両側肺転移性エナメル上皮腫に対して部分切除術がなされていた.そのためまれではあるが術前診断をエナメル上皮腫の肝転移とし,腹腔鏡下肝部分切除術を施行した.病理学的に肝転移性エナメル上皮腫と診断された.転移性エナメル上皮腫の頻度は少なく,転移した場合でも肺に両側性に転移することが一般的である.海外の報告ではまれに肝転移するとされ,本邦のガイドライン上では治癒切除が可能であれば切除が推奨されている.今回,我々は本邦での初報告となる非常にまれなエナメル上皮腫の肝転移の1切除例を経験した.エナメル上皮腫を既往にもつ患者の肝腫瘤においては転移性エナメル上皮腫も鑑別診断に挙げることが肝要であると思われた.

Translated Abstract

A 49-year-old male presented to our hospital with a liver tumor. CT revealed a slightly enhanced liver tumor of 30 mm in diameter in segment 6. The patient had a history of surgery for ameloblastoma 24 years ago and for metastatic lung tumors 4 years ago. Thus, laparoscopic partial liver resection was performed based on medical guidelines. Pathologically, the tumor was diagnosed as metastatic ameloblastoma. This case serves as an important reminder to consider metastatic ameloblastoma in an investigation of possible causes of a liver tumor after treatment for ameloblastoma.

はじめに

エナメル上皮腫は歯原性腫瘍の約2割を占める比較的遭遇頻度の高い疾患とされる1).病理学的にはエナメル上皮腫は良性腫瘍に分類されるが,遠隔転移を来す場合や,まれに悪性転化する疾患である.今回,我々はエナメル上皮腫の肝転移に対して腹腔鏡下肝部分切除術を施行した1例を経験した.非常にまれだが,エナメル上皮腫は肝転移する場合もあり,かつ治療対象となるためエナメル上皮腫の既往がある患者においては,消化器外科医も転移性腫瘍の鑑別に念頭に置く必要があると思われた.

症例

患者:49歳,男性

主訴:検診異常

既往歴:左下顎骨区域切除術後(エナメル上皮腫:25歳時),胸腔鏡下両側肺部分切除術(転移性エナメル上皮腫:45歳時).

現病歴:定期検診の腹部CTで肝S6に30 mm大の肝腫瘍を指摘された.既往からエナメル上皮腫の肝転移が疑われ,精査加療目的で当科へ紹介となった.

入院時現症:身長176.5 cm,体重96.1 kg,BMI 34.8.腹部に圧痛・腫瘤触知なし.

入院時血液検査所見:血液生化学検査に異常なく,CEA,CA19-9,AFPを含む腫瘍マーカーも正常範囲内であった.

腹部造影CT所見:肝S6に不整でリング状に造影される30 mm大の低濃度腫瘤を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Enhanced CT showed a ring-enhanced tumor located in S6 of the liver.

FDG-PET所見:肝S6にリング状のFDGの異常集積(standard uptake value:SUV max=8.9)を伴う腫瘤を認めた(Fig. 2).他の部位に集積像はみられなかった.

Fig. 2 

FDG-PET/CT showed abnormal FDG accumulation in S6 of the liver.

以上の所見より,転移性肝腫瘍を疑ったものの,PET-CTで他に原発となる異常集積がないこと,4年前のエナメル上皮腫の肺転移既往から肝転移性エナメル上皮腫の診断とし,手術を行う方針となった.

手術所見: 5ポートで手術を開始した.播種や腹水は認めず,超音波検査でS6のわずかに漿膜の変形がみられる部位に一致し,腫瘍が同定できた.マージンを確保しながら電気メスでマーキングし(Fig. 3),プリングル法を行いながらultrasonic surgical aspiratorを用いて肝臓の部分切除術を施行した.手術時間は358 分で,出血量は300 mlであった.

Fig. 3 

Laparoscopic findings revealed an irregular liver surface in S6, in accordance with CT findings.

切除標本肉眼所見:3.5 cm大の硬い白色結節を認め,内部は黄色調の柔らかい腫瘤像を呈した.2 cm以上のマージンが確保されていた(Fig. 4a).

Fig. 4 

a. Macroscopic findings showed a white nodule with central necrosis. b. Histopathological examination (HE ×200) showed cell nests surrounded by fibrous stroma with accompanying squamous metaplasia (arrow). c. A previous lung tumor was microscopically similar to the liver tumor.

病理組織学的検査所見:中心に高度な壊死を伴い,腫瘍細胞は大小不整な乳頭状の胞巣を形成していた.胞巣内部には紡錘形を呈する腫瘍細胞を認めた(Fig. 4b ×200).原発巣の病理標本は残っておらず,比較はできていないものの肺病変との比較では組織像に類似性を認めた(Fig. 4c ×200).また,免疫染色検査(CD10:5a,およびKi-67:5b ×100)を行ったが,発現はそれぞれ乏しかった(Fig. 5).

Fig. 5 

Tumor cells were almost negative for CD10 (a) and Ki-67 (b).

術後経過:術後経過は良好で,術後8日目に自宅退院となった.術後7か月現在無再発生存中である.

考察

エナメル上皮腫は若年者に好発する歯原性腫瘍で,好発部位は9割に下顎骨に発症するが左右差や性差はないとされる2).組織学的には良性腫瘍であるが,骨浸潤を来すことで顎骨切除後においても局所再発率は10~20%と高率である2)3).また,約1%に局所再発を繰り返すに伴い悪性化したとの報告もされている4).術後10年以上を経過しての局所再発もまれではなく,2015年に作成されたエナメル上皮腫の診療ガイドラインでは少なくとも10年のフォローアップ期間が必要と明記されている5).自験例の転移性エナメル上皮腫は前WHO分類(2005年)では歯原性癌腫に位置づけられていたが,2017年の改訂で良性上皮性歯原性腫瘍に再分類され,エナメル上皮腫の1亜型となった6).転移した場合でも原発巣と転移巣ともに良性の組織像であれば転移性エナメル上皮腫とされ,組織学的に悪性像を示すエナメル上皮癌とは明確に区別された5).エナメル上皮癌はエナメル上皮腫と病理組織学的に類似するが,より細胞異型が強く,核分裂像,脈管浸潤,骨破壊像などの悪性を示唆する所見が重要とされている7).自験例(Fig. 6a ×800)と花田ら8)の報告したエナメル上皮癌(Fig. 6b ×800)を比較すると構造的には類似しているが,核の形・大きさやクロマチンの分布が異なっていた.森田ら9)の報告では,エナメル上皮腫における転移性エナメル上皮腫の頻度は0.87%とまれであった.その頻度において,転移性エナメル上皮腫の大部分が肺(約65~80%)で,次に頸部リンパ節転移であり,肝転移は非常に少ない10)11).したがって,自験例は非常にまれな症例といえる.特に肺転移は両側であることが87.5%と高率であった12).自験例も同様に4年前に両側肺転移を認め切除術が施行されていた.また,転移を認めるまでに平均18年を要し,かつその間に平均4回の局所再発を認めたと報告されている13).自験例においては肺転移まで20年経過しているものの,局所再発は1度も認めておらず既報とは経過が異なっていた.加えてAhlemら14)はKi-67やCD10の高発現が再発と有意に関連すると報告しているが,自験例においてはCD10の発現は腫瘍の中心にわずかにみられ,Ki-67は腫瘍の辺縁に軽度の染色を認める程度であった.転移経路については肺においては腫瘍細胞の気管内吸引,リンパ行性,血行性が考えられている9).しかし,自験例においては血管侵襲を認めるが,リンパ管侵襲は認めないこと,また腎や肝転移もまれながらあることを考慮すれば肺も含めて,血行性転移が考えやすいのではと思われた.

Fig. 6 

The present case (a) is similar to the case in ref. 8 (b), except for nuclear atypia.

医学中央雑誌により「エナメル上皮腫+転移」をキーワードに1964年から2021年3月の間で検索すると,本邦において肝転移の報告は認めず,肺転移が14例,腎転移が1例のみ(会議録を除く)であった.したがって,転移性肝エナメル上皮腫は自験例が本邦における初の報告であった.

治療・予後についてはガイドライン上も肺転移や頸部リンパ節に関する記述のみであるが切除可能であれば第一選択は切除を推奨している5).肺転移後の5年生存率は44%と報告されている10).しかし,有効な化学療法のレジメンや放射線治療のエビデンスはなく,今後肝転移にまで及んだ症例でのデータの蓄積が必要である.

自験例におけるlimitationとして転移性肝腫瘍のCT像を示したものの上・下部内視鏡検査によるスクリーニングはすべきであったと思われた.

まれな転移性肝エナメル上皮腫の1例を経験した.エナメル上皮腫の既往を持つ患者の肝腫瘍の鑑別診断には転移性エナメル上皮腫を考慮する必要があると思われた.

利益相反:なし

文献
 

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