2022 Volume 55 Issue 8 Pages 511-519
症例は60歳の男性で,貧血を主訴に受診した.10年前に左腎癌の既往がある.上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に腫瘤を認めた.CTで,膵頭部から十二指腸下行脚に突出する6 cm大の造影される腫瘤を認めた.5年前のCTでも,1 cm大の造影される病変を認め,経時的に増大しており,腎癌の転移性膵腫瘍の十二指腸浸潤と診断した.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後7日目に,急性胆管炎,敗血症性ショックに急性副腎不全の合併を認めた.原因不明の低血糖から急性副腎不全を疑うまでに時間を要したが,ステロイドの投与,全身管理にて比較的速やかに全身状態改善し,術後25日目に退院した.退院後の副腎機能精査で,潜在性の慢性副腎不全症を認めた.身体的ストレスが大きい状態では,常に急性副腎不全を生じるリスクがあることを念頭に,原因不明の低血糖を認めた時は,急性副腎不全を疑い早急な治療開始をすることが肝要である.
A 60-year-old man presented to our hospital with anemia. He had a history of left nephrectomy due to renal cell carcinoma 10 years ago. Upper gastrointestinal endoscopy revealed a tumor in the second portion of the duodenum. CT showed a mass of 6 cm protruding from the head of the pancreas into the duodenum. CT from five years ago showed a tumor measuring 1 cm in the pancreas head, indicating that the tumor had increased in size over time. The diagnosis was pancreatic metastasis of renal cell carcinoma with duodenal invasion. Subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy was performed. Seven days after surgery, the patient had acute cholangitis and developed septic shock concomitant with acute adrenal insufficiency, although some time was required to suspect acute adrenal insufficiency from hypoglycemia of unknown cause. Steroid treatment was started and subsequently the patient showed relatively rapid improvement and recovery, and was discharged 25 days after surgery. After discharge, follow-up of adrenal function revealed latent chronic adrenal insufficiency. This case serves as a reminder that surgeons should be aware of the risk of development of acute adrenal insufficiency in a case with high physical stress. Since acute adrenal insufficiency is life-threatening, this condition should be suspected in a case with refractory hypoglycemia and rapid therapy should be initiated.
急性副腎不全は,コルチゾールの絶対的あるいは相対的欠乏によってもたらされる急性循環不全で,治療が遅れると救命が困難となることがあり,ショックの鑑別診断として重要である1).ステロイド使用例や既知の慢性副腎不全例を除き外科手術後に急性副腎不全に遭遇する頻度は少なく1),臨床症状も非特異的であり診断に苦慮することが多い.また,発熱などを伴った場合は敗血症性ショックとの鑑別が困難となる.自験例は,術後胆管炎,敗血症性ショックに急性副腎不全も重なった複雑な病態であった.救命することはできたが,原因不明の低血糖から急性副腎不全を疑うまでに時間を要した点で反省すべき1例を経験したので報告する.
患者:60歳,男性
主訴:貧血
家族歴:なし.
既往歴:10年前に,左腎癌に対して左腎・副腎摘出した.病理組織診断は,clear cell renal cell carcinoma,G1>>G2,Fuhrman分類:Grade 1,INFα,v1,ly0,eg,fc1,im0,rc-inf0,rp-inf1,s-inf0,pT3a,pNX(腎癌取扱い規約第4版).
現病歴:高血圧,高尿酸血症で通院中の近医で定期採血施行したところ貧血を指摘され当院へ精査目的に紹介された.
現症:身長175.9 cm,体重77.5 kg.
血液生化学検査所見:Hb 9.0 g/dl,CEA 1.0 ng/ml,CA19-9 2.0 U/ml.
上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸下行脚内側に1型の腫瘤を認めた(Fig. 1).腫瘍の肛門側に正常な乳頭を認めた.生検したところ拍動性に出血し十分な生検ができず病理組織診断には至らなかった.

Upper gastrointestinal endoscopy revealed a type 1 tumor in the second portion of the duodenum.
下部消化管内視鏡検査所見:大腸ポリープを認めた.
腹部造影CT所見:造影にて比較的強く増強される6.0×5.3 cm大の乳頭状の腫瘤性病変を膵頭部に認めた(Fig. 2A).主膵管拡張や胆管拡張は認めなかった.5年前にも,膵頭部に1×1 cm大の造影される病変を認めた(Fig. 2B).

CT findings. A: Five years ago, CT showed a strongly enhanced 1×1 cm lesion (arrow) in the pancreas head. B: Recent CT showed a tumor (arrow) of 6.0×5.3 cm in size protruding into the duodenum.
MRI所見:拡散強調画像にて高信号を呈する病変を十二指腸下行脚に認めた(Fig. 3).

The tumor (arrow) had high signal intensity on diffusion-weighted imaging.
低緊張性十二指腸造影検査所見:十二指腸球部内側に陰影欠損を認めた(Fig. 4).

Hypotonic duodenography revealed a tumor (arrow) in the second portion of the duodenum.
以上より,膵頭部より発育し緩徐に増大し十二指腸に突出していることから,左腎癌の転移性膵腫瘍と診断した.
手術所見:腹膜播種所見や遠隔転移の所見は認めなかった.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,Child変法再建を施行した.手術時間430分,出血量511 mlであった.
摘出標本肉眼所見:十二指腸内腔に突出する6.0×5.3 cm大の隆起性の腫瘤を認めた(Fig. 5).割面は,膵実質より黄色調の強い多結節状の病変を認めた(Fig. 6A).

Macroscopic findings of the resected specimen revealed that the tumor (arrow) was 6.0×5.3 cm in size and protruded into the duodenal lumen.

A: The cut surface showed a yellowish-white tumor (arrowhead) growing from the pancreas to duodenum lumen. B: The tumor reached the surface, and partial vascular hyperplasia, granulation tissue and vitrification were present. C: Pancreatic parenchyma had shrunk or disappeared and were replaced by tumor tissue.
病理組織学的検査所見:表層まで腫瘍を認め,一部に血管増生,肉芽組織,硝子化を認めた(Fig. 6B).膵実質が萎縮消失し腫瘍組織に置換されていた(Fig. 6C).辺縁では圧排性の増殖がみられた.明るい胞体とクロマチンに富む類円形核をもつ異型細胞が網目状の血管を介在し充実性,腺管状に増殖していた(Fig. 7A).左腎細胞癌と同様の病理組織像(Fig. 7B)で,左腎細胞癌の膵転移と診断した.

A: Histopathology revealed solid and glandular proliferation of atypical cells with a bright endoplasmic reticulum and chromatin-rich circular nuclei. These findings were the same as those for the left renal cell carcinoma. B: Histopathology of left renal cell carcinoma.
術後経過:術後3日目にInternational study group of postoperative pancreatic fistula(ISGPF)Grade Aの膵液瘻を認めたが,ドレーン管理で軽快していた.しかし,術後7日目に39.5°Cの高熱を認めた.血液生化学検査所見では,WBC 10,400/μl,CRP 14.28 mg/dl,ALP 427 U/l,γGTP 221 U/l,Cre 2.31 mg/dlと炎症反応の上昇,肝胆道系酵素の上昇,腎機能の悪化を認めた.CTでは,残胃の著明な拡張,挙上空腸の拡張と膵腸吻合部尾側の液体貯留を認めた.膵腸吻合部尾側の液体貯留は,術後3日目のCTでも認めており急激に増大している所見はなく,膵液瘻のドレナージ不良より,挙上空腸の拡張に伴う逆行性感染による急性胆管炎を考えた.残胃と挙上空腸の減圧のために胃管を挿入し抗生剤を開始した.血圧55/41 mmHg,クレアチニン2.31 mg/dlよりSequential Organ Failure Assessment score2) 3点で急性胆管炎による敗血症性ショックと診断した.また,発熱時の血糖値は101 mg/dlと正常であったが,その4時間後の血糖値は65 mg/dlと低血糖を認めた.低血糖に対して1回目のブドウ糖静注をしたが2時間後の血糖値は58 mg/dlであった.2回目のブドウ糖静注をしたが2時間後の血糖値は52.3 mg/dlであった.3回目のブドウ糖静注をしたが2時間後の血糖値は43 mg/dlと原因不明の低血糖を認めた.血圧に関しては,はじめに低血糖を認めた時に血圧80/51 mmHgであり,持続的な補液を継続したが,血圧は経時的に低下していき低血糖を認めた時から6時間後には血圧55/41 mmHgとさらに血圧が低下した(Fig. 8).これらの所見より,急性胆管炎に伴う敗血症ショック,急性副腎不全の合併を疑いソル・コーテフ® 50 mgを投与した後にICU管理を施行した.ICU入室後に,ソル・コーテフ® 100 mg投与し,以後6時間おきにソル・コーテフ® 50 mgを3日間投与した.また,昇圧剤は,ICU入室直後の時点では,ノルアドレナリン® 0.32 γ,ドブタミン® 2 γ,ピトレシン® 2 U/hrを使用しないと血圧が維持できなかった.ソル・コーテフ®投与により血糖値43 mg/dlが1時間後には83 mg/dlに上昇し,4時間後には112 mg/dlとなった(Fig. 8).血圧は,ステロイド投与3時間後には127/75 mmHgと比較的速やかに血行動態が安定してきたのでピトレシン®は中止できた(Fig. 8).ノルアドレナリン®は,順次漸減していきICU入室35時間後には中止できた.ドブタミン®は,14時間後に中止できた.尿量もICU入室時は無尿であり持続的血液濾過透析も開始した.全身管理を開始し2時間で80 mlの尿量が流出しだした.その後は,時間60から80 mlの尿量が流出しだした.持続的血液濾過透析は,38時間後に離脱した.人工呼吸管理も行い40時間後に抜管した.ICU入室後64時間後に退室した.ICU退室後は,ソル・コーテフ® 25 mgを12時間おきに4日間投与し終了した.胃管による減圧は6日間要した.術後25日目に退院となった.ソル・コーテフ®投与前のコルチゾールの値は,25.8 μg/dlと正常値以上の分泌で,ACTH 50.4 pg/mlと正常範囲内で,インスリン3.1 μU/ml正常低値であった.血液培養検査結果は2セットとも陰性,胆汁培養は,Enterococcus faecalis 3+,Candida albicans 1+,ドレーン培養陰性であった.ソル・コーテフ®の使用と全身管理により血糖値および血圧の速やかな回復が認められた一連の経過から,自験例は,急性胆管炎に伴う敗血症ショックに対して,コルチゾールの分泌はしていたがその分泌量では侵襲の大きさに見合わなかったため急性副腎不全を合併したと診断した.退院後に副腎機能精査を施行した.ソル・コーテフ®最終投与から29日目に,迅速adrenocorticotropic hormone(以下,ACTHと略記)試験3)を施行し,コルチゾール前値は8.3 μg/dl,30分値は16 μg/dl,60分値は16.4 μg/dlであり18 μg/dl未満であり慢性副腎不全症が疑われた.さらに,ソル・コーテフ®最終投与から57日目に,corticotropin-releasing hormone(以下,CRHと略記)負荷試験3)を施行したところACTHの増加は2倍以上あり下垂体性は否定されたが,コルチゾールの頂値は12 μg/dlと18 μg/dl未満であり,副腎原発や視床下部性の慢性副腎不全症は完全には否定できない結果となった.また,頭部MRIの結果,視床下部や下垂体に器質的な異常は認めなかった.これらの結果より,自験例は潜在性の慢性副腎不全症があることが判明した.

Clinical course after acute cholangitis. ① Onset of acute cholangitis. ② Acute adrenal insufficiency was suspected and treatment was started in the ICU.
急性副腎不全は,急激にグルココルチコイドの絶対的または相対的な欠乏が生じ,放置すると致命的な状況に陥る病態を指す.既知・未知の慢性副腎不全症患者に感染や外傷などの種々のストレスが加わり,ステロイドの需要が増加した場合や,治療目的で長期服用中のステロイド薬の減量・中止が不適切に行われた場合に急性副腎不全の発症が多い3).また,手術侵襲および重症感染症など身体的ストレスが大きい状態では,正常値以上のコルチゾールを分泌していても侵襲の大きさに見合わないコルチゾール分泌状態では,常に急性副腎不全を生じるリスクがある3).疫学調査によると急性副腎不全の誘発要因は,感染症が63%,手術6%,外傷6%と感染症が誘発要因として多い3)4).自験例では,術後7日目の急性胆管炎が誘因となっていると考えられた.
初期症状は全身倦怠感,無気力,食欲不振,悪心,嘔吐,腹痛,関節痛などである.発熱もしばしばみられる.進行すると,意識レベルの低下を来す.検査所見でも特異的なものはないが,低ナトリウム血症,高カリウム血症,低血糖,尿素窒素,クレアチニンの上昇などの頻度が高い5).このような非特異的な症状から急性副腎不全を疑い治療開始までに時間をかけないことが肝要である.自験例は,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術後であり術後血糖を定期的に1日3回測定していたので,低血糖に気付いたが,低血圧,全身倦怠感の症状は,胆管炎からの敗血症性ショックでも認められる症状であり急性副腎不全の合併を疑うのは容易ではなかった.糖尿病診療ガイドライン6)によれば,低血糖に対する治療としては,ブドウ糖を静注し血糖の改善をみることであるが,自験例では,血糖値65 mg/dlに対してブドウ糖静注を3回繰り返したが血糖値は43 mg/dlと原因不明の低血糖が遷延した.結果的に,低血糖を呈してから急性副腎不全の合併を疑いステロイド治療開始までに6時間の時間を要した.Katabamiら7)は,急性副腎不全のうち,低血糖を起こしたのは21%と報告しており,急性副腎不全が低血糖を起こす頻度は,ショックや低ナトリウム血症などに比べ低いが,自験例の場合は糖尿病の既往や肝不全の所見もないことより急激に低血糖を起こすような他の要素はなく,ショックと低血糖を同時期に起こしていることから,急性副腎不全を疑うには十分な状況であり,1回目の低血糖が全身状態の危険信号を示していたと認識すべきであった.
原因不明の低血糖から急性副腎不全を迅速に疑うことができれば早期の治療介入ができたと考えられ反省点である.急性副腎不全を疑って初期治療を行う場合,血清コルチゾールとACTH測定用の検体を採取した後に治療を開始する.検体採取を怠ると,以降の診断に難渋することがあるため,治療開始前の検体採取は必須である3).急性副腎不全の治療は,副腎皮質ステロイドの投与,補液による水と電解質の補充,低血糖の治療である8).副腎皮質ステロイドの投与は,コルチゾール,ACTHを測定したら糖質コルチコイドとしてヒドロコルチゾンの静脈内投与が推奨される3)4).コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ,生体に侵襲が加わった際に分泌され,生体の恒常性維持に寄与する.敗血症性ショック患者では,ストレスの程度に対して十分な生体内反応が得られないコルチゾール分泌不全状態となる9)10).また,末梢組織のコルチゾール反応性低下が加わり,「重症関連コルチコステロイド障害」となる9)10).このような機能的不全の是正による死亡回避を期待し,敗血症性ショックに対してステロイドが投与されてきたが,その評価は定まっていない.日本版敗血症治療ガイドライン(J-SSCG2016)11)では,十分な輸液投与と血管作動薬により循環動態の改善が得られない場合は,200 mg/日のヒドロコルチゾンの静脈内投与を提案しているが,「質の低いエビデンス」に基づく「弱い推奨」とされており,質の高いエビデンスが望まれていた.2018年に,敗血症性ショック患者に対し,ヒドロコルチゾン1日200 mg投与群とプラセボ投与群で死亡率を比較する大規模多施設RCT:ADRENAL trial12)の報告では,ステロイド投与群でショックの早期離脱と輸血患者の減少を認め,ICU早期退室と人工呼吸器の初回早期離脱を認めたが,ステロイド投与による敗血症性ショック患者の死亡率抑制効果は認めなかった.また,ステロイド投与群の方が有害事象は多かったが,それらは患者のアウトカムに影響を与えるほどのものではなかったと報告されている.しかし,敗血症性ショックに急性副腎不全の合併が予測される場合は,ヒドロコルチゾン100 mg静注後,5%ブドウ糖液中に100~200 mgのヒドロコルチゾンを混注した溶液を24時間で点滴静注,あるいは25~50 mgのヒドロコルチゾンを6時間毎に静注し3)4),循環動態が安定したら,順次漸減していく.自験例では,敗血性ショック,急性副腎不全で循環動態が不安定であり,循環動態安定を目指してステロイドを投与し,早期に循環動態安定が得られたが,ステロイド投与が救命できた要因であるかどうかは不明である.
健常者におけるコルチゾール分泌量は報告により差異はあるが,およそ10~20 mg/日である13)14).感染,外傷,大量出血などのストレス時にはコルチゾールの分泌量は最大300 mg/日程度まで増大する15).コルチゾールの分泌量には大きな個体差があり年齢,睡眠,感染などの影響をうけることが知られている16).コルチゾール分泌量が最も増加する疾患とされる敗血症性ショックの血中コルチゾール濃度は平均31.7 μg/dl,敗血症やICU入院例での値は19.7~44.7 μg/dlの範囲になると報告されている4).自験例でのコルチゾール値は,胆管炎発症時の早朝コルチゾール値は28.8 μg/dlで,副腎不全を疑いステロイド投与前のコルチゾール値は25.8 μg/dlと正常値上限を上回る値であったが,糖質コルチコイドを投与することですみやかに血圧の回復や低血糖の改善が認められた.この一連の経過から,自験例は,胆管炎による敗血症性ショックに対して副腎はコルチゾールを分泌しているが生体にとっては重症の炎症反応を制御するには見合わないコルチゾール分泌状態であり,急性副腎不全になったと診断した.このように,急性副腎不全と確定診断するのは,急性副腎不全を疑って緊急治療を開始する時点では難しくステロイド投与後の治療効果および後日の病歴聴取や精査の結果を含めて診断していくことになる.医学中央雑誌(1964年~2020年)で,キーワード「術後」,「急性副腎不全」,「敗血症」で検索し,そのなかで消化器外科手術後の敗血症性ショックに伴う急性副腎不全の報告は代市ら1)の1例であった.代市ら1)は,血中コルチゾールの基礎値は7.9 μg/dlと正常下限であり急性副腎不全の診断は容易であったと報告している.しかし,自験例のように,たとえコルチゾールの分泌量が正常値以上でも侵襲の大きさに見合わなければ急性副腎不全を発症する点には留意が必要である.
全身状態が安定したところで,慢性副腎不全があったのか,潜在的な慢性副腎不全があったのか,もしくは正常の副腎機能なのに身体への侵襲が強すぎて急性副腎不全を起こしたのかを判断するために,視床下部-下垂体-副腎系の評価や,ストレス時の副腎皮質の予備能の評価をしていく17).自験例では,迅速ACTH試験,CRH負荷試験,MRIを施行した結果,潜在性の慢性副腎不全症の可能性が示唆されたが,その程度は軽度であり日常生活においてステロイドの補充は必要ないと判断された3).自験例は,腎癌術後で片副腎であったが,一般に,副腎不全を呈するには副腎組織の90%以上の破壊が必要とされ18)片方の副腎があれば副腎不全をおこさないのが一般的である.一方で,Yoshijiら19)は,片方の副腎を切除した場合に,慢性副腎不全になる可能性があり,副腎に強いストレスがかかるときは急性副腎不全の発症に気をつけるようにと報告している.したがって,自験例でも片側副腎患者であったので慢性副腎不全がないかを調べるべきであったかもしれないが,慢性副腎不全を疑う症状がなかったので検査はしなかった.片側副腎患者全例に術前副腎機能検査は非現実的であるが,高度侵襲手術予定患者には検査を検討してもいいかもしれない.
大事なことは,重症感染症および手術侵襲など身体への侵襲が大きい状態では常に急性副腎不全を生じるリスクがあることを忘れてはならない.急性副腎不全の症状は非特異的で診断は容易ではないが,原因不明の低血糖は,急性副腎不全を疑う一つの所見であり迅速な対応が救命につながる.
利益相反:なし