2022 Volume 55 Issue 8 Pages 520-528
症例は52歳の女性で,繰り返す尿路感染を主訴に当院を受診した.各種検査からS状結腸と骨盤内膿瘍腔の交通を認め,待機的に手術施行の方針となった.手術待機にて自宅静養中に,閉塞性腎盂腎炎にて緊急入院となった.レノグラムにて右無機能腎も判明した.手術は腹腔鏡下右腎・腎盂・尿管切除術の後に開腹S状結腸切除術を施行した.S状結腸瘻孔形成部位には尿管が強固に癒着しておりS状結腸切除術,瘻孔切除術,右尿管摘除術を施行した.術後経過は問題なく術後第10病日に自宅退院となった.病理組織学的にはS状結腸穿孔の他,尿管に瘢痕形成の所見を認め,S状結腸尿管瘻瘢痕の診断となった.結腸憩室炎による結腸尿管瘻は本邦での報告は極めて少ない.今回,臨床病理学的にS状結腸尿管瘻と診断した症例を経験したため報告する.
A 52-year-old woman visited our hospital with complaints of recurrent urinary infection. An examination showed that the sigmoid colon was connected to an abscess in the pelvis. Surgery was planned, but before the operation could be performed the patient was admitted to our hospital for an obstructive urinary infection. A renogram showed that the right kidney was non-functional. Thus, laparoscopic total nephroureterectomy and sigmoid colectomy were performed, and a scar in the sigmoid colon was found to be adhered firmly to the right ureter. The patient was discharged from hospital 10 days after the operation. A pathological examination showed scars on the right ureter and sigmoid colon, and the final diagnosis was ureterocolic fistula. We report this case as a rare example of ureterocolic fistula induced by colonic diverticulitis in a Japanese patient, and we also discuss similar reports from other countries.
近年,本邦では結腸憩室炎は増加傾向であり,それに伴い他臓器との瘻孔形成も増加している1).一方で本邦におけるS状結腸尿管瘻の報告は極めてまれである.今回,繰り返す尿路感染などの特徴的な臨床所見を観察しえたS状結腸尿管瘻の1例を経験した.若干の文献的考察を加え,報告する.
患者:52歳,女性,島嶼地域在住
主訴:繰り返す尿路感染
現病歴:2019年8月,腹骨盤部CTにて偶発的にS状結腸穿孔,骨盤内膿瘍疑いの指摘を受けたが腹部症状なく経過観察となっていた.2020年4月に膀胱炎症状が反復し,有熱性腎盂腎炎が認められたことより精査目的に当院受診となった.初診時には複雑性尿路感染症を疑う臨床所見は認めず経過観察となった.同年5月,再び腎盂腎炎を発症,腹部CTにて膀胱内含気像が出現していたため精査加療目的に入院した.
既往歴:慢性閉塞性肺障害,子宮筋腫,卵巣内膜性囊胞
現症:体温37.0°C.腹部は平坦,圧痛なし.
血液検査所見:明らかな炎症反応の上昇はなく,その他血算,生化学検査ともに明らかな異常値は認めなかった(Table 1).
WBC | 6,800 (/μl) | Na | 144 (mmol/l) |
RBC | 3.94 (106/μl) | Cl | 103 (mmol/l) |
Hb | 13.1 (g/dl) | K | 4.8 (mmol/l) |
Plt | 325 (103/μl) | AST | 15 (U/l) |
TP | 7.5 (g/dl) | ALT | 12 (U/l) |
Alb | 4.1 (g/dl) | LDH | 135 (U/l) |
UN | 16.8 (mg/dl) | ALP | 97 (U/l) |
Cre | 0.77 (mg/dl) | γ-GTP | 32 (U/l) |
e-GFR | 61.4 (ml/min/1.732) | CRP | 0.16 (mg/dl) |
T-Bil | 0.2 (mg/dl) |
膀胱鏡検査所見:尿管口周囲は浮腫状となり,膀胱右後壁には発赤を認めた.膀胱内に明らかな瘻孔は認めなかった.
膀胱造影検査所見:明らかな瘻孔は確認できなかった.
下部消化管内視鏡検査・消化管造影検査所見:AV 18 cmのS状結腸右前壁に,内部に肉芽様のポリープを伴う小孔を認め,排膿あり(Fig. 1a).同部位よりガストログラフィンにて造影を行うと,壁外への造影剤の漏出と小範囲の膿瘍腔の描出を認めたが,明らかな尿路系への交通は認めなかった(Fig. 1b).
a: Lower gastrointestinal endoscopy of the sigmoid colon. A fistula was found in the anterior wall of the distal sigmoid colon, and imaging was performed through the fistula. b: X-ray of the lateral pelvis. The fistula was visualized outside the intestine, but with no clear communication to the urinary tract.
造影CT所見:S状結腸には憩室が多発していた.S状結腸の膀胱や子宮右側など周囲臓器への癒着および瘻孔形成,膿瘍形成が疑われた(Fig. 2a).S状結腸の近傍を走行する右尿管の拡張を認めた.膀胱内および膀胱子宮窩に気泡を認めた(Fig. 2b).右腎臓の水腎および,著明な萎縮を認めた(Fig. 2c).
a: Extramural communication from the sigmoid colon was suspected (yellow arrow). b: Air bubbles in the bladder (blue arrow) and vesicouterine fossa (green arrow). c: Right hydronephrosis. d: Contrast agent leaked from the sigmoid colon (red arrow) after a gastrografin enema study.
単純CT所見(下部消化管内視鏡検査にて小孔内にガストログラフィン散布・注入後に臨時撮影):S状結腸から頭側,尾側方向に向けて膿瘍形成を認め,貯留した造影剤が描出されたが尿路系の造影や,気尿路は検出されなかった(Fig. 2d).
MRI所見:S状結腸から他臓器へ交通する明らかな瘻孔形成は認めなかった.
経過:以上より,S状結腸と骨盤内膿瘍腔との交通を確認し,S状結腸穿孔・骨盤内膿瘍形成の診断で待機的手術の方針となり,入院第6病日に退院した.退院から14日後,急激な右胸背部痛・高熱にて救急搬送,再入院した.CTにて著明な右水腎および水尿管を認め,閉塞性腎盂腎炎の診断となった(Fig. 3a, b).緊急で右尿管ステント留置術を施行し,尿管口からは混濁尿が確認された.その後抗生剤加療を開始し,治療反応性は良好で,速やかに解熱し炎症反応・臨床症状ともに軽快した.再入院第9病日,MAG-3レノグラムを施行し右無機能腎が確認された(Fig. 4a~h).再入院第15病日に全身麻酔下に瘻孔切除,S状結腸切除,右腎尿管全摘出術を施行する方針となった.
a, b: There were no changes in the sigmoid colon, but hydronephrosis and hydroureter were observed (yellow arrow).
a–h: Renogram of the non-functional right kidney.
手術所見:左側臥位にて腹腔鏡下右腎・腎盂尿管切除術を先行して施行し,尿管は腎盂尿管移行部近傍にて切離した.砕石位に体位変換を行ったうえで,中下腹部正中切開にて腹部操作を行った.S状結腸中央部近傍は尿管周囲に強固に癒着,強靭な線維化・瘢痕組織に置換されており剥離に難渋した.硬化した尿管とS状結腸との瘻孔形成の瘢痕と考えられた(Fig. 5).虫垂は一部瘢痕組織への軽度の癒着を認め切除した.S状結腸の瘻孔化した憩室と膀胱や子宮への癒着は認めなかった.尿管は瘢痕部位より膀胱側まで剥離し,腎摘出の際の尿管切離断端より順行性に,膀胱側は膀胱留置カテーテルより経尿道的に逆行性にそれぞれインジゴカルミン添加生理的食塩水を注入しwater sealing testを行ったが明らかな小孔は確認できなかった.尿管は瘢痕部位より膀胱側へ4 cmのマージンをとり結紮,腎摘時の断端から連続して切除した.S状結腸は瘻孔部位を中心に24 cmを切除し,機能的端々吻合での再建を行った.手術時間6時間6分(泌尿器腹腔鏡操作時間1時間18分),出血量900 ml.
Operative findings. The fistula of the sigmoid colon and right ureter adhered firmly. The bladder and appendix strongly adhered to the scar tissue, but could be detached.
摘出標本所見:S状結腸は肛門側断端から6 cmの位置において瘻孔および,穿孔した憩室を認めた.背景の大腸には憩室が散在性に認められた(Fig. 6a, b).右腎臓は腎盂および腎杯の高度な拡張を認め,腎皮質は萎縮を呈していた(Fig. 6c).右尿管には遠位端から38 mmの位置に引きつれを伴う粘膜を認め,漿膜面には上皮点状出血斑,びらんを認めたが,明らかな瘻孔形成は認めなかった.また,腎臓側端から50 mm遠位の位置において粘膜面の狭窄を認めた(Fig. 6d, e).
Macroscopic findings for the resected specimens. a, b: A fistula that fully penetrated the wall was observed in the sigmoid colon. c: The renal pelvis and calyces were dilated and the renal cortex was atrophied. d, e: There were no small holes in the ureter, but a scar on the mucosal surface (white arrow) and scarring of the serosal surface were present opposite the site (yellow arrow).
病理組織学的検査所見:S状結腸:穿孔した憩室部位には著明な炎症細胞の浸潤を認めたが,悪性所見は見られなかった(Fig. 7a).
Histological findings (HE staining ×10). a: A fistula caused by the diverticulum of the sigmoid colon. b: The renal pelvis showed inflammatory cell infiltration and fibrosis, and the atrophic renal cortex showed sclerotic findings in half of the glomeruli. c: There was no fistula in the ureter, but hyperplasia of the elastic fibers was present from the mucosal surface to the serosal surface at the site of the mucosal tuft.
右腎臓:腎盂は炎症細胞の浸潤と線維化が見られた.萎縮した腎皮質は糸球体の半数に硬化所見を認め,尿細管の萎縮が見られた(Fig. 7b).
右尿管:病理組織学的にも明らかな瘻孔形成は認めなかった.しかしながら,漿膜面の出血と粘膜面の引きつれをともなう箇所において軽度の炎症細胞浸潤を認め,さらには同部位の漿膜下層の線維弾性線維性肥厚,筋層の軽度の変性や線維化,粘膜下層での弾性線維の増生を認め,全層にわたる変化を認めていたことから,瘻孔治癒後の瘢痕と考えられた.悪性所見は認めなかった(Fig. 7c).
術後経過:術後経過は問題なく,術後第10病日に退院した.その後腹部症状の出現や尿路感染の再燃なく経過している.
近年,食の欧米化や高齢化に伴い大腸憩室症が増加し,特にS状結腸の憩室炎が増加している.さらに,結腸憩室症の約1%に瘻孔形成を合併するとされている1).結腸憩室炎が瘻孔を形成する隣接臓器としては膀胱瘻が65%と最も多く2),尿管結腸瘻はまれである.尿管結腸瘻は結核やクローン病・尿管結石・骨盤内腫瘍に伴い発生することが多く,骨盤内への放射線療法や大腸癌手術や卵巣摘出術などにより医原性に発生することも知られている.医学中央雑誌で「尿管結腸瘻」,「S状結腸尿管瘻」(会議録を除く)をキーワードに1964年から2021年までの間で検索すると2例の症例報告のみであった.英語文献においては,さまざまな成因に伴う結腸尿管瘻の複数の症例報告はあるが,PubMedで1992年から2021 年までの期間で「ureterocolic fistula」,「diverticulitis」をキーワードとして検索した結果,6例の報告例を認めた3)~8).
結腸尿管瘻の一般的な症状は腹痛であり,気尿・血尿・糞尿といった泌尿器症状も呈することが多く,尿路感染を繰り返す場合もある8).結腸尿管瘻は診断に難渋することが多いとされる.
検査は注腸造影,尿路膀胱造影,CT,MRI,レノグラムなどが施行されるが,注腸造影検査は特異度にかけるとの報告もある9)など,各検査単独では検出が難しいことが多く,2種類以上の検査から複合的に診断される10).経静脈性腎盂造影は腎機能障害のある腎臓側において描出不良となるため,結腸尿管瘻の評価としては不向きとされている.逆行性腎盂造影において術前診断が可能となった症例報告もある11)一方で,実際には瘻孔にともなう尿管の浮腫により尿管結腸瘻の描出は難しいとの報告もある12).実際に,腎移植後の無機能腎での結腸憩室炎に伴う尿管結腸瘻の症例報告においてはCTのみでS状結腸尿管瘻が造影されたが,無機能腎であるため,経静脈性腎盂造影や逆行性腎盂造影は行われなかった3).本症例では注腸造影,尿路膀胱造影,上部消化管内視鏡による造影検査,CT,MRI,レノグラムの検査を行ったが,下部消化管内視鏡検査にて穿孔が疑われる憩室が確認できたのみで,術前に結腸尿管瘻の診断には至らなかった.画像検査時に責任尿管部位での強い浮腫像が認められるケースや尿管や尿管内の気泡が存在する症例でないかぎり,画像検査での術前診断は難しいと考える.過去の文献はいずれも術前診断がついた例であり,本症例のように病理組織学的所見のみで術後に確定診断となった例は認めなかった.本症例では手術時には尿管の明らかな瘻孔は認めなかったが,術中所見で瘻孔を形成したS状結腸と周囲の尿管への強固な癒着を認めたこと,さらには病理組織学的に尿管の瘢痕を形成している部位において全層にわたる炎症,線維化を認めたことによりS状結腸尿管瘻と診断した.
結腸尿管瘻の治療は多様であり,保存的加療として腎瘻造設や,尿管ステント留置術が適応となる報告もあるが,手術療法として瘻孔切除と腸管部分切除が適応となる症例も散見される13).患側腎が無機能腎である場合は,瘻孔切除の他に腎尿管摘除術も考慮する必要があるため,術前の患側のレノグラムによる腎機能障害評価が重要となる14).
本症例では,術前検査において尿管結腸瘻を形成していた患側の腎臓は術前に無機能腎と診断した.無機能腎は感染源となりえ,さらに瘻孔形成の起因となったS状結腸憩室と腹腔内膿瘍は再燃のリスクも高く切除する方針とした.結腸尿管瘻により腎盂腎炎を発症したことで,尿管粘膜の炎症が起きている状況に加えて,生理的狭窄部位である遠位尿管の腸腰筋および性腺動脈との交差部位においてさらに強く狭窄形成したことにより,腎盂腎炎,水腎の進行を繰り返し,腎硬化の進行から無機能腎に至ったと考察される.一般に結腸膀胱瘻では膀胱炎を起こすことが多く,今回の患側のみの腎盂腎炎は結腸尿管瘻に特異的なものと考えられる.本症例は尿管結腸瘻の瘢痕による癒着や強靭な線維化・瘢痕組織形成を認めたため,腹腔鏡下での剥離は極めて困難だったと考えられる.安全性の観点からも,開腹下での手術は妥当であった.しかし,同時に施行した腎臓摘出術も開腹で行うと,中下腹部にとどまらず,上腹部に至るまでの開腹が必要となる.腎臓摘出術を腹腔鏡下で先行したことにより,患者への侵襲を減らすことが可能になったと考える.
今回S状結腸尿管瘻の発症時期は不明ではあるが,繰り返す尿路感染に対し抗生剤加療を行い,手術に先行して,水尿管および水腎症に尿管ステント留置を行ったことで瘻孔の治癒が得られたのであろうと推測されるため,抗生剤加療や尿管ステント留置といった保存的加療での結腸尿管瘻の経過を観察しえたと考察される.一般的にはS状結腸と腹腔内膿瘍の交通が確認された時点において一時的人工肛門造設を検討する必要があると思われる.しかしながら,本症例では膀胱炎症状が反復するようになるまでは臨床症状のない慢性的な経過であり,それ以前に撮影されたCTでも同様の所見を認めていたこと,また本患者は島嶼在住であり人工肛門管理の継続的なケアを行うことが不可能であると判断したことから,一時的人工肛門造設術は施行しなかった.また,尿管ステントについては,初回入院の時点では人工医療機器の留置は感染リスクも伴うため留置術を行わなかった.後方視的に考えれば腎盂腎炎の再燃で再入院となる前に,初回入院時,右尿管の拡張を認めた時点で尿管ステントを挿入することが妥当であった可能性はあるが,尿路感染が顕在化してからの留置で改善を得られていることから,ステントについては感染を生じてからの留置でも有効と考えられた.本症例のように患側の無機能腎を合併している場合は,術前診断が極めて困難となり,病理組織学的診断で初めて確定診断されうる.結腸尿管瘻は適切な保存的加療を行うことで感染制御,瘻孔閉鎖できる可能性があるが,ステント加療を含めた人工医療機器挿入に関しては複雑感染のリスクもあり,臨床所見に合わせた治療法の検討が必要である.根治治療のためには手術が必要となるが,術侵襲の低減,安全性の担保のため,保存的加療後の手術は十分選択肢になりうる.
結腸尿管瘻は報告例が少なく,今後の症例の蓄積により新たな知見と議論が広がる余地がある.臨床病理学的にS状結腸尿管瘻と診断した症例を経験したため文献的考察をふまえ報告した.
利益相反:なし