2022 Volume 55 Issue 8 Pages 501-510
糖原病Ia型に対する周術期管理に関する報告は少ない.今回,我々は糖原病Ia型に合併した肝細胞腺腫に肝切除を行った1例を経験したので報告する.症例は20歳の女性で,2歳時に糖原病Ia型と診断,増大する多発肝細胞腺腫を指摘されていた.19歳時に糖原病に伴う二次性巣状分節生糸球体硬化症と診断され腎移植を行う方針となったが,5 cm以上の肝細胞腺腫の先行切除目的に当科紹介となった.画像検索で肝外側区域に径17 cm,S8に径6.5 cmの腫瘤を認め,肝全体に径3 cm以下の多発腫瘤が散在し,肝細胞腺腫と診断した.手術はS8腫瘤を含めた左肝切除術を施行した.病理組織診断で,悪性の指標となるβ-catenin,glutamine synthetase,Cyclase-associated Protein 2の発現が一部陽性となり悪性化が否定できなかった.周術期には,動脈血液ガス分析を用いたモニタリングおよび術中より高濃度ブドウ糖持続投与による血糖管理を行い,著明な乳酸アシドーシスや低血糖を来すことなく管理を行うことができた.
There are few reports of perioperative management of patients with glycogen storage disease type Ia. We report a case of hepatic resection for hepatocellular adenoma associated with glycogen storage disease type Ia that responded to strict perioperative management. The patient was a 20-year-old female with multiple hepatocellular adenomas who was diagnosed with glycogen storage disease type Ia at 2 years old. At age 19, she was diagnosed with focal segmental glomerulosclerosis secondary to glycogenosis, and renal transplantation was planned. Before renal transplantation, she was referred to our department for resection of hepatocellular adenomas >5 cm. Imaging revealed a 17-cm diameter mass in the lateral segment, a 6.5-cm diameter mass in S8, and multiple masses of <3 cm in diameter scattered throughout the liver. Left hepatectomy and S8 partial hepatectomy were performed. Histopathological analysis showed partial positive expression of β-catenin, glutamine synthetase, and cyclase-associated protein 2, which are indicators of malignancy. Therefore, the possibility of malignancy could not be ruled out. In the perioperative period, the patient was monitored using arterial blood gas analysis, and blood glucose was controlled by continuous high-concentration glucose administration. Using this approach, we were able to manage the patient without occurrence of significant lactic acidosis or hypoglycemia.
糖原病Ia型は,glucose-6-phosphatase(以下,G6Paseと略記)酵素活性の欠損により起こる常染色体劣勢遺伝の先天性代謝異常疾患である.肝臓や腎臓にグリコーゲンが蓄積し,肝腎腫大,腎腫大,高尿酸血症,高コレステロール血症,貧血,出血傾向,低血糖といった臨床症状を呈する.糖原病Ia患者の20~60%に肝腺腫が合併し,その中でも悪性化を来すものは11%と報告されている1).また,糖原病の周術期には,グリコーゲンの分解が亢進するため,低血糖や乳酸アシドーシスの増悪を来すとされているが,周術期管理に関する報告は少ない.
今回,我々は糖原病Ia型に合併した多発肝細胞腺腫症例に対して,動脈血液ガス分析や血糖値をモニタリングし,周術期管理を行った1切除例を経験したので報告する.
患者:20歳,女性
主訴:腹部膨満
既往歴:
4歳:脳梗塞
8歳:もやもや病(他院でバイパス手術施行)
13歳:外傷性肝腺腫内出血(交通事故)
18歳:肝膿瘍(左内側区域),膿瘍右肺中葉穿破(保存的治療)
19歳:二次性巣状分節生糸球体硬化症
家族歴:父:胃癌(原病死)
現病歴:生下時より腹部膨満を認め,近医でフォローされていた.2歳時に他院で精査が行われ,G6Pase遺伝子変異を認め糖原病Ia型と診断され,食事療法を継続していた.8歳時に父親の死を契機に食事療法が不十分となり,腹部エコーで多発肝腫瘍を指摘され,肝細胞腺腫と診断された.その後腺腫は増大傾向を示し,13歳時に交通外傷による腺腫内出血を来した.保存的治療後に当院へ紹介され,肝切除や移植を含めた治療を提案したが経過観察を希望された.18歳時には,腺腫内出血と同部位に肝膿瘍形成および膿瘍右肺中葉穿破を発症した.ドレナージと抗生剤による保存的治療で改善を得たが,この時期から腎機能障害が出現した.19歳時に急激に腎機能障害が進行し,二次性巣状分節生糸球体硬化症と診断された.腎移植を行う方針となり,移植前に5 cm以上の肝細胞腺腫の切除目的に当科紹介となった.
入院時身体所見:身長143 cm,体重43.8 kg,人形様顔貌を認めた.腹部平坦軟で,両側季肋下に腫大した肝臓を触知した.
入院時血液検査所見:Hgb 8.6 g/dl,Hct 27.7%と貧血を認め,BUN 53.2 mg/dl,Cre 5.33 mg/dlと腎機能低下およびK 5.5 mmol/lと上昇していた.肝機能はChild-Pugh A,liver damage A,ICG R15 1.4%,ICG K値0.282,LHL-15 0.965と正常であった.腫瘍マーカーはPIVKA-II,AFPはいずれも基準値範囲内であった(Table 1).
| Blood count | Biochemistry | ||||
| WBC | 4.29×103/μl | TP | 7.6 g/dl | K | 5.5 mmol/l |
| Hgb | 8.6 g/dl | Alb | 4.5 g/dl | AMY | 142 U/l |
| Hct | 27.7% | T-bil | 0.3 mg/dl | CRP | 1.52 mg/dl |
| Plt | 275×103/μl | AST | 22 U/l | Glucose | 71 mg/dl |
| ALT | 19 U/l | ||||
| Coagulability | LDH | 135 U/l | Tumor marker | ||
| PT | 10.3 sec | γ-GTP | 227 U/l | CEA | 1.1 ng/ml |
| PT-% | 114.5% | ALP | 129 U/l | CA19-9 | 5.5 U/ml |
| PT-INR | 0.93 | BUN | 53.2 mg/dl | AFP | 2 ng/ml |
| APTT | 28.8 sec | Cre | 5.33 mg/dl | PIVKAII | 35 mAU/ml |
腹部CT所見:当院初回紹介となった13歳時には,肝外側区域に径15 cmの分葉状の腫瘤と,S4に1か所,S8に1か所,S6およびS7にそれぞれ2か所ずつ多発肝細胞腺腫を認めた.18歳時には,それぞれの肝細胞腺腫が形態変化していた.また,S8の病変は径5.5 cmと増大していた.術前には肝腫大は全体に増強し,S8の病変が径6.5 cmへとさらに増大し,肝外側区域の病変は径17 cmに増大していた(Fig. 1, 2).また,その他にS4に1か所,S6および7に3か所ずつ病変を認めた.いずれの病変も増大傾向を示していたが,腫瘍径は3 cm未満だった.また,内側区域には肝膿瘍後瘢痕形成を認めた.

CT findings. (a, b) The lobulated mass in the lateral segment was 15 cm (arrow) and the mass in S8 was 2 cm (arrowhead) at 13 years of age. (c, d) The lateral segment mass was 15 cm (arrow) and the S8 mass had enlarged to 5.5 cm (arrowhead) at 18 years of age. (e, f) The lateral segment mass had enlarged to 17 cm (arrow) and the S8 mass had enlarged to 6.5 cm (arrowhead) preoperatively.

CT findings (coronal). The patient had severe hepatomegaly. The lobulated mass in the lateral segment was 17 cm (arrows). The mass in S8 was 6.5 cm (arrowhead).
腹部MRI所見:肝外側区域全体を置換するように3か所からなる分葉状の病変を認めた.その他にS4に1か所,S8に2か所,S6およびS7に3か所の病変を認めた.外側区域の病変は3か所いずれもT2WIで内部は不均一な高信号を呈し,T1WIでは3か所のうち,頭外側の病変で血性成分を疑う高信号を呈した.また,S8の病変はT2WIで高信号,T1WIで低信号を呈した(Fig. 3).

MRI findings. (a, b, c) Masses in the lateral segment and S4, S6, S7 and S8 showed high intensity signals on a T2-weighted image (arrows). (d) The lateral segment mass showed a partial high intensity signal on a T1-weighted image (arrow). (d, e, f) Other masses showed low intensity signals on a T1-weighted image (arrowheads).
以上より,糖原病Ia型に合併した多発肝細胞腺腫と診断した.術式決定に際しては,増大傾向を示す5 cm越える病変が2か所存在し,悪性の可能性も否定できないことに加え,腎移植後の免疫抑制剤使用による内側区域肝膿瘍再発予防,悪性化の可能性を考慮し,膿瘍瘢痕部とS8腫瘍を含めた左肝切除術を施行した.
手術所見:上腹部正中切開にて開腹すると,外側区域に12 cm大の分葉状腫瘤を認め,S8には5 cm大の腫瘤を認めた.左グリソン鞘は一括処理し,左肝切除およびS8部分切除を行った(Fig. 4).手術時間230分,出血量300 mlだった.

Intraoperative findings. a) A lobulated huge mass was located in the lateral segment. b) Left hepatectomy and S8 partial hepatectomy were performed.
病理組織学的検査所見:外側区域に最大径12×6 cmの分葉状腫瘤を認めた(Fig. 5b).腫瘤は多彩な領域から成り(Fig. 5c),黄灰白調の領域(Fig. 5d),暗緑色領域(Fig. 5e),出血を伴った領域(Fig. 5f)から成っていた.S8に3×2.5 cmの黄白色の腫瘤を認めた(Fig. 5a).いずれの腫瘤も明らかな被膜外への浸潤はなく,また,肝細胞腺腫として典型的な組織像を示さず,亜型分類は困難であった.Ki-67陽性率は全体に低値(3%以下)であったが,免疫染色検査では(Fig. 5g),悪性の指標となるβ-catenin,Glutamine synthetase,Cyclase-associated Protein 2の発現が一部で見られることから悪性化の否定は困難とされた.また,非腫瘍部の肝細胞の細胞質は全域で淡明化し,末梢では肝細胞萎縮と類洞拡張を伴っていたが,繊維化は認めなかった.

Histopathological findings. (a) Resected specimen. (b) Macroscopic surface of the liver tumor. (c) Histopathological findings for the liver tumor (HE staining ×40). (d) Yellow-gray-white area (HE staining ×200) with hepatocytes with mild nuclear swelling and weakly acidic endoplasmic reticulum that formed irregular cord-like structures and proliferated at high cell density. (e) Yellow-green area (HE staining ×200) with relatively uniform hepatocytes with mild nuclear swelling proliferating in a dilated sinusoidal vascular cavity. (f) Area of noticeable bleeding (HE staining ×200) with hepatocytes with partial nuclear swelling proliferating with hemorrhage, hemosiderin deposition, and fatty metamorphosis. (g) Immunohistochemical analysis showed partial expression of β-catenin, glutamine synthetase, and cyclase-associated protein 2, which made it difficult to rule out malignancy.
術中管理:麻酔導入時の動脈血液ガス検査では,pH 7.29,Base Excess –4.2,Lactate 2.28 mg/dlとアシドーシスを認め,血糖値は93 mg/dlであった.直ちに5.6 mg/kg/minで高濃度ブドウ糖持続投与を開始し,30分毎の動脈血液ガス分析と血糖測定を施行した.肝離断時に間欠的肝流入血流遮断(プリングル法)を施行したところ,一時的にpH 7.30,Base Excess –2.2,Lactate 5.37 mg/dlとアシドーシスの進行を認めるも,プリングル法後にはpH 7.43まで改善し,無事手術を終了した(Fig. 6).

Perioperative arterial blood gas analysis and serum glucose levels under continuous glucose administration.
術後経過:術直後の動脈血液ガス分析では,pH 7.36,Base Excess –3.1,Lactate 5.17 mg/dlと軽度上昇を認めたため,高濃度ブドウ糖持続投与を7.5 mg/kg/minまで増量し,術後2日目まで継続した.術後3日目から経口摂取を再開し,10%ブドウ糖液投与に変更,術後5日目には点滴終了とした.術後経過良好で合併症なく,術後8日目に退院となった.術後8か月の現在,外来通院中である.
糖原病I型は,グリコーゲン分解の最終段階であるG6Paseの欠損症で,糖原病の中では頻度の高い肝型糖原病とされている.その中でG6Pase酵素活性そのものの欠損によるものがIa型で,発生頻度は10~30万人に1人である.G6Pase欠損により肝臓や腎臓に多量のグリコーゲンが蓄積する常染色体劣勢遺伝の先天性代謝異常疾患で,生後数か月から肝腎腫大,高尿酸血症,高コレステロール血症,貧血,出血傾向,低血糖などの症状を認める.確定診断は,日本人のIa型では90%でG6PC遺伝子のc.648G>T変異が見られることから,Iaを疑う時には遺伝子診断を行うべきであるとされている2).本症例では他院での遺伝子診断の結果G6PC遺伝子のc.648G>T変異が見られ確定診断がなされた.
肝細胞腺腫は肝細胞性分化を示す細胞から成る良性腫瘍と定義され,経口避妊薬の服用患者に多く見られるとされる.本症例のように糖原病I型やIII型,ガラクトース血症,チロシン血症も危険因子とされている.
肝細胞腺腫は,WHO分類第5版で①hepatocyte nuclear factor(HNF)1α-inactivated HCA(以下,H-HCAと略記),②inflammatory HCA(以下,IHCAと略記),③β-catenin activated HCA(以下,b-HCAと略記)およびβ-catenin activated IHCA(以下,b-IHCAと略記),④sonic hedgehog HCA(shHCA),⑤unclassified HCA(以下,u-HCAと略記)の五つに亜分類され,どの亜型でも腫瘍径が5 cmを超えるものでは腫瘍内出血のリスクが上昇するとされている3)4).肝細胞腺腫の発生には,恒常的な肝臓へのホルモン刺激,すなわち高グルカゴン血症や低インスリン血症が関与しており,糖原病患者に多いものはIHCAやb-HCAとされ,β-HCAやβ-IHCAは悪性化のリスクが約5~10%と高いとされている5).肝細胞腺腫の悪性化が長期間の低血糖に起因する慢性的なグルカゴン刺激が悪性化を促すという説や,脂肪酸代謝の亢進によりH2O2の産生が過剰となり酸化的ストレスが強くなり肝細胞の障害が引き起こされ癌化に至るとする説6)が挙げられているがいまだ原因は明らかではない.本症例では,病理組織学的には典型的な所見を呈さなかったことから亜型分類は困難であったが,免疫染色検査の結果からβ-HCAやβ-IHCAの可能性があり,残存腫瘍があることから,今後厳重なフォローが必要と考える.また,癌化のバイオマーカーとして,PIVKA-IIが上昇を示した症例が報告されているが7),AFPやCEAは正常値を示すことが多く有用なものはないとされている8).
画像所見は,前述した五つの亜型のうち,u-HCAを除いた四つの亜型は所見が異なっている.H-HCAでは著明な脂肪沈着を反映してchemical shift imagingでは腫瘤全体の信号は低下し,ダイナミックMRIでは動脈相で造影され,肝細胞相で低信号を示す.IHCAはT2強調像で高信号を示し,腫瘍辺縁を縁取るような高信号帯を呈するatoll signを示す.これはIHCAの43%に見られるとされる.大部分は動脈相で強く濃染し,造影効果は遷延しながら肝細胞相で低信号を示す.b-HCAは動脈相で軽度から高度造影とさまざまな信号を示すが,肝細胞相では他と異なり高信号を示す.また,わずかな瘢痕を認めることも特徴とされる.b-IHCAはIHCAとb-HCA両者の特徴を示すとされている9).自験例では,腺腫はいずれもT2強調画像で不均一な高信号を呈し,atoll signは認めなかった.T1強調画像では外側区域の腺腫に腺腫内出血を疑う高信号を呈したが,その他はいずれも低信号であった.腎機能障害があったことから造影MRIを行うことができず,画像所見からも亜型分類は困難であった.
糖原病Ia型に合併する肝細胞腺腫の治療として,食事療法が奏効せず腺腫が増大した場合や,多中心性に発生した場合,肝細胞癌が疑わしい場合には,肝移植術が切除術に比べてより良い治療として挙げられる.しかし,本邦では脳死下臓器提供が少なく移植を行うのは諸外国に比べ困難な状況である.また,Fargesら10)は肝細胞腺腫の悪性化のリスクは大きさと相関しているとし,5 cm未満の腺腫では悪性化のリスクは低いと報告している.そのため5 cmを超える肝細胞腺腫に関しては外科的切除が推奨されている.本症例では5 cm以上の腺腫が多発しており,悪性化のリスクが高いとし,肝切除を行った.また,Kudo11)は糖原病Ia型に合併する多発肝細胞腺腫に対して,腫瘍の個数,肝機能などの問題によって切除術が選択されなかった場合や,移植待機期間に治療が必要となった場合に経皮的エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy;PEIT)やTAEが治療の選択肢となるとしている.本症例の病理結果から,腎移植のみを行った場合,免疫抑制剤使用に伴う残された肝細胞腺腫の悪性化を促すことが懸念されるため,可能であるなら脳死下肝腎同時移植がベストの治療となる.しかし,先ほども述べたが,本邦では難しい状況である.現在,腎移植は延期されているが,肝腫瘍増大や腎不全進行しておらず,今後どのように治療を行う検討中である.
糖原病の周術期には,手術操作や術後疼痛に伴うカテコラミンの増加や,体温上昇によってグリコーゲンの分解が亢進し,低血糖や乳酸アシドーシスの増悪を来すとされており12),厳重な血糖コントロールと動脈血液ガス分析によるモニタリングが必要と考える.医学中央雑誌で1964年から2020年6月の期間で,「糖原病」,「肝切除」をキーワードとして会議録を除いて検索したところ,糖原病I型またはIa型に合併した肝細胞腺腫,肝細胞癌,胆管細胞癌,限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia;FNH)に対して肝切除を行ったものは自験例を含め13例であった(Table 2)1)5)7)13)~20).男性が5例,女性が7例で,年齢は19歳から57歳で中央値は37歳だった.術前治療でTAEを行った症例が2例,肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization;以下,TACEと略記)を行った症例が1例,TACEおよび経皮経肝門脈塞栓術(percutaneous transhepatic portal vein embolization;PTPE)を行った症例が1例であった.周術期の合併症について記載された報告は少なく,術中および術後に乳酸アシドーシスを来した症例は自験例を含め6例,低血糖を認めた症例が1例,腹腔内出血を認めた症例が1例だった.出血に関しては,機序は不明であるが糖原病が血小板粘着能低下を引き起こすことが報告されており21),それに起因した合併症と考える.本症例については,血小板機能測定は行っていないが,周術期血小板数は正常範囲で推移しており,術後経過を通して出血傾向は認めなかった.
| No. | Author | Year | Age | Sex | Pre-operative treatment | Type of hepatectomy | Diagnose | Peri-operative management | Peri-operative complication |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Ogawa13) | 1995 | 19 | F | No | Partial hepatectomy | HCC | Intra-operative administration of glucose | metabolic acidosis |
| 2 | Oshita14) | 2008 | 19 | M | No | S4 segmentectomy | FNH | Intra and post-operative administration of glucose (3.3 mg/kg/min→6.6–9.8 mg/kg/min) | metabolic acidosis, hypoglycemia |
| 3 | Oshita14) | 2008 | 31 | F | No | S3, 5, 6 segmentectomy | HCA | Post-operative administration of glucose (6.6 mg/kg/min) | metabolic acidosis |
| 4 | Okuda1) | 2009 | 55 | F | TACE | S2 partial hepatectomy | HCC | N/A | N/A |
| 5 | Ikeda15) | 2010 | 18 | F | TAE | Lateral sectionectomy | HCA | N/A | N/A |
| 6 | Ochi16) | 2011 | 57 | M | No | S4 subsegmentectomy | HCC | N/A | N/A |
| 7 | Kitao17) | 2011 | 44 | F | No | Right trisectionectomy, partial hepatectomy | CCC | N/A | N/A |
| 8 | Uemura18) | 2014 | 27 | M | TAE | S4, 8 segmentectomy, partial hepatectomy | HCA | N/A | N/A |
| 9 | Kanamori5) | 2015 | 39 | M | No | S4 subsegmentectomy | CCC | N/A | N/A |
| 10 | Yatabe19) | 2016 | 57 | F | No | S1 segmentectomy, S8 subsegmentectomy | HCA | Intra-operative using of artificial pancreas | metabolic acidosis |
| 11 | Dei20) | 2020 | 37 | M | TACE, PTPE | Right hepatectomy | HCC | Post-operative administration of glucose (6.6 mg/kg/min) | metabolic acidosis, abdominal bleeding |
| 12 | Okata7) | 2020 | 19 | F | No | S4, 5 segmentectomy | HCC | N/A | No |
| 13 | Our case | 20 | F | No | Left hepatectomy, S8 partial hepatectomy | HCA | Intra and post-operative administration of glucose (5.6 mg/kg/min→7.5 mg/kg/min) | metabolic acidosis |
HCA: hepatocellular adenoma, HCC: hepatocellular carcinoma, CCC: cholangiocellular carcinoma, FNH: focal nodular hyperplasia, TACE: transcatheter arterial chemoembolization, PTPE: percutaneous transhepatic portal embolization, TAE: transcatheter arterial embolization
糖原病患者の肝切除術後の乳酸アシドーシスに対しては,高濃度ブドウ糖持続点滴(6.6 mg/kg/分)が有用であったとする報告や17),アシドーシスを予防するために術中から高濃度ブドウ糖持続点滴(3.3~7.9 mg/kg/分)が有用とする報告がある22)23).検索しえた報告例で,術中または術後にブドウ糖持続点滴を行っていたものが5例あり,そのうちYatabeら19)は人工膵臓を用いて血糖のモニタリングを行い,術中乳酸アシドーシスを認めたが低血糖は一度もなく,有用であったとしている.本症例では,手術開始直後から5.6 mg/kg/minの高濃度ブドウ糖持続投与を開始し,手術直後から術後2日目まで7.5 mg/kg/minの高濃度ブドウ糖持続投与を行った.血液ガス分析を用いてpH,乳酸,BE,血糖値をモニタリングすることで著明な乳酸アシドーシスの発生や低血糖の発生を抑制することができた.また,本症例は糖原病に伴う腎機能不全の状態であり,術前血清K値が5.5 mmol/lだった.外科手術患者のコホート研究で血清K値が5.5 mmol/lを超える場合,心血管病合併リスクが2.17倍高くなると報告され24),血清K値は血液ガス分析を用いてモニタリングを行い,生理食塩水や重炭酸リンゲル液を用いて輸液管理を行うことで,術後問題なく経過した.Oshitaら14)は肝切除術中のPringle手技の間に一時的に肝臓への酸素やグルコースの供給が欠乏することで乳酸アシドーシスの増悪を来すと報告している.本症例でも術中Pringle手技の際にアシドーシスの増悪を来した.腎機能不全のアシドーシスへの影響が考えられるが,Pringle手技の間には乳酸値の上昇を伴っており,糖原病に伴う乳酸アシドーシスの増悪が主ではないかと考えられ,ブドウ糖持続投与を行ったことで速やかに改善を得ることができた.
糖原病Ia型合併多発肝細胞腺腫の1切除例を経験した.糖原病は有病者数が少なく,周術期の詳細な報告例は乏しいが,糖原病患者における肝切除術では,動脈血液ガス分析や血糖値のモニタリングを行い,高濃度ブドウ糖持続点滴によって乳酸アシドーシスや低血糖を抑制することが可能であると考えられた.
利益相反:なし