The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Metachronous Spermatic Cord Metastasis from Ascending Colon Cancer
Takumi KozuTatsuo ItoRyo AtakaRyo TagaJun MatsubayashiYusuke NakayamaYoshinobu IkenoKazuhiko KitaguchiEiji ToyodaTetsuro Hirose
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2023 Volume 56 Issue 1 Pages 34-41

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Abstract

上行結腸癌術後3年で左精索転移を来した1例を経験したので報告する.症例は75歳の男性で,72歳時に上行結腸癌に対し結腸右半切除術を施行した.最終診断はpStage IIbであり,術後補助化学療法を行い経過観察中であった.術後3年経過時に左鼠径部膨隆を自覚し,CTで左精索腫瘍が疑われた.診断的治療として左高位精巣摘除術を行った.病理診断では管状腺癌を認め,上行結腸癌の精索転移として矛盾しない所見であった.術中所見より局所再発の可能性が危惧されたため局所放射線療法を行い,再発予防のため化学療法を導入した.大腸癌の精索転移は非常にまれであり,予後不良とされる.異時性転移では再発までの期間が比較的長く,無症状であることもあり診断に遅れが生じる可能性もある.悪性腫瘍患者において鼠径部膨隆を認めた際は,まれであるが精索転移の可能性も念頭におき,診療すべきと考える.

Translated Abstract

A 75-year-old man underwent a right hemicolectomy for ascending colon cancer at age 72. Adjuvant chemotherapy was performed due to postoperative diagnosis of a high-risk stage IIb tumor. During the follow-up period, a bulge in the left inguinal region was observed and CT revealed a left spermatic cord tumor. Left orchiectomy was performed three years after the primary operation. Histological examination of the resected specimen revealed tubular adenocarcinoma, which was probably a metastasis from the ascending colon cancer. Based on the intraoperative findings of a high risk of recurrence, local radiation therapy and chemotherapy were performed. Spermatic cord metastasis from colon cancer is extremely rare and is associated with a poor prognosis. Metachronous metastasis can occur after a relatively long time and may be asymptomatic, often leading to delayed diagnosis. Spermatic cord metastasis should be considered in a patient with a malignant tumor who presents with an inguinal bulge.

はじめに

大腸癌は本邦では悪性腫瘍の死因の第2位であり,年間罹患者数は10万人を超える1)2).大腸癌の再発形式としてはさまざまな部位への転移再発がみられるが,血行性転移が最も多く転移好発部位は肝臓,肺,骨である3).精索に悪性腫瘍が認められることは少なく,大腸癌における精索転移は非常にまれであり予後不良とされる.今回,我々は上行結腸癌術後3年で左精索転移を来した1例を経験したので報告する.

症例

症例:75歳,男性

主訴:左鼠径部膨隆

既往歴:42歳時胃癌,72歳時下咽頭癌,心房細動

現病歴:72歳時に上行結腸癌に対して結腸右半切除術が行われた.大腸癌取扱い規約第9版4)による最終診断は,A,Circ,60×30 mm,2型,pT4a,pN0,M0,P0,PUL0,pStage IIb,tub1-2,INFb,ly0,v0,EX–,PN0であった.リンパ節転移は認めなかったが閉塞を伴う腫瘍であったため再発高リスク群と判断し,術後補助化学療法としてテガフールウラシル(UFT)+ホリナート(LV)療法を6か月間実施した.その後は定期的に経過観察していたが,術後36か月に左鼠径部の膨隆を自覚した.なお,上行結腸癌の術前検査で下咽頭癌(組織型:squamous cell carcinoma)を指摘され,結腸切除に先行して腫瘍切除と頸部リンパ節郭清が行われた.また,大腸癌術後24か月に左梨状窩での下咽頭癌の再発を認め化学放射線療法が施行されている.

身体所見:身長164.5 cm,体重54.9 kg,BMI 20.3.鼠径靭帯やや頭側の左鼠径部に膨隆を認め,母指頭大で弾性硬の腫瘤を触知した.可動性不良で圧痛はなかった.

血液検査所見:腫瘍マーカーはCEA 2.6 ng/ml(5.0 ng/ml以下),CA19-9 13.1 U/ml(37.0 U/ml以下)で基準値内であった.白血球数3,100/μl,血色素量9.2 g/dl,血小板数9.3×104/μlと約1年前の下咽頭癌に対する化学放射線療法の影響と考えられる血球減少の遷延を認めたが,それ以外の異常所見はなかった.

造影CT所見:左鼠径管内に周囲と同程度の造影効果を伴う22 mm大の軟部影を認めた(Fig. 1).鼠径管内に充満し,周囲との境界は比較的明瞭であった.他には明らかな転移を疑う所見はなかった.

Fig. 1 

Contrast-enhanced CT revealed a 22-mm diameter enhanced mass in the region of the left spermatic cord (arrowheads).

MRI所見:左鼠径部にT1強調画像,T2強調画像ではともに低信号を呈し(Fig. 2a, b),拡散強調画像で拡散制限を伴う28 mmの腫瘍を認めた(Fig. 2c).周囲との境界はほぼ明瞭ではあるが鼠径管内の正常組織を巻き込んでいた.

Fig. 2 

MRI. (a) T1-weighted imaging (WI). (b) T2-WI. (c) Diffusion-WI. (a, b) T1- and T2-WI showed a low intensity tumor in the left spermatic cord (arrows). (c) Diffusion-WI showed a high intensity lesion in the left spermatic cord (arrow).

FDG-PET/CT所見:左鼠径部に早期相でstandardized uptake value(SUV)max 8.0,後期相では10.6のFDG集積を認めた(Fig. 3).これ以外の部位に異常集積はなかった.

Fig. 3 

FDG-PET/CT showed FDG uptake in the left spermatic cord (arrowheads).

以上より,左精索腫瘍と診断し,診断的治療のため手術加療の方針とした.

手術所見:左鼠径管を開放したところ外鼠径輪に接するように精索と一塊となった腫瘍を認めた.精索や横筋筋膜へ浸潤しており,左高位精巣摘除術を施行した.特に恥骨周囲は剥離困難であり,骨膜に沿って鋭的に切離したが,切除断端に腫瘍が残存した可能性が疑われた.なお,鼠径ヘルニアの所見はなく,内鼠径輪の開大も認められなかった.

切除標本肉眼所見:精管を取り囲むように30×25×20 mmの精索腫瘍を認めた(Fig. 4).腫瘍の割面は白色で充実性であった.

Fig. 4 

Macroscopic findings of the resected specimen showing the spermatic cord tumor (arrowheads: tumor, arrows: ductus deferens).

病理組織学的検査所見:管状腺癌の浸潤増生を認めた(Fig. 5a).断端は陰性であった.遺伝子変異の解析では,RAS(KRAS/NRAS)は野生型であったがBRAF変異陽性であり,高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability-high;MSI-H)は認めなかった.病理組織像は前回の上行結腸癌に類似しており,精索転移として矛盾しない所見であった(Fig. 5b).

Fig. 5 

Histopathology. (a) Spermatic cord tumor with tubular adenocarcinoma consistent with metastasis from the colon cancer (HE stain, ×100). (b) Primary ascending colon cancer showing well- to moderately differentiated tubular adenocarcinoma (HE stain, ×200).

術後経過は良好で術後4日目に退院となった.病理診断では切除断端に腫瘍の露出はなかったが,術中所見より局所再発の可能性が危惧されたため,手術から3週間後に予防的局所放射線療法(2 Gy/回×30回 合計60 Gy)を開始した.術後早期のCTでは明らかな再発所見は認めず,放射線療法後にUFT+LV療法を開始して術後7か月の現在まで経過観察中である.

考察

精索に腫瘍を認めることはまれであり,その多くは良性腫瘍であり脂肪腫の頻度が高いとされている.原発性悪性腫瘍はほとんどが肉腫であり脂肪肉腫,平滑筋肉腫,横紋筋肉腫,悪性線維性組織球腫などが報告されている5).転移性精索腫瘍は非常にまれであり,原発巣は消化器癌が多いのが特徴とされる.原発部位は胃癌が約半数を占め結腸・直腸癌,膵癌,腎癌と続く6)

転移経路としては,①逆行性リンパ行性,②静脈逆行性,③動脈塞栓性,④直接播種,⑤精管逆行性が報告されているが7),特定できない場合も多い.消化器癌では逆行性リンパ行性経路が主な経路とされる.精索中のリンパ管は,傍大動脈リンパ節を介して消化器系リンパ節と交通しているとされ,広範なリンパ節転移や手術操作によるリンパ管の弁機能障害が精索への転移形成の原因になると考えられる8).また,ヘルニア囊を介した直接播種の転移経路も少数であるが報告がみられる9)10).自験例では,初回手術の切除標本でリンパ節転移やリンパ管侵襲の所見はなく,明らかな鼠径ヘルニアの合併もなかったため,転移経路は不明であった.また,再発時の精査でも腹膜播種を疑う所見は指摘されていない.

医学中央雑誌で1964 年から2022年1月までの期間で「大腸癌」,「精索転移」をキーワードとして検索したところ,自験例を含め11例の報告を認めるのみであった(Table 18)9)11)~18)

Table 1  Reported cases of spermatic cord metastasis from colorectal cancer in Japan
No. Author Year Age Sex Primary site Histological type T Stage ly v Primary Stage Synchronous or Metachronous Month from primary operation Metastasis of other organs at diagnosis of spermatic cord metastasis Metastasis route Treatment Survival period from the treatment (month) Prognosis
1 Ogura8) 2003 78 M Sigmoid tub2 T3 ly1 v0 IIIb M 13 Unknown orchiectomy not documented not documented
2 Kawashima11) 2005 75 M Sigmoid tub2 ly2 v1 IIIb or IIIc M 60 Medinastinal LN Lymphatic orchiectomy 1 alive
3 Shida12) 2006 75 M Ascending tub2 T3 ly1 v0 IIa S 0 Lymphatic orchiectomy 6 dead
4 Fujimoto9) 2010 68 M Rectum tub2 T4a ly1 v0 IIb M 20 Unknown orchiectomy 18 dead
5 Yamaura13) 2011 61 M Transverse tub2 T3 ly2 v1 IIIc M 54 Pancreas Hematogenous tumor and spermatic cord excision 6 alive
6 Ishibashi14) 2011 71 M Cecal tub1 T3 ly+ v0 IIa M 12 Lymphatic, Retrograde extention, Peritoneal seeding orchiectomy→CT 15 alive
7 Suzuki15) 2012 68 M Cecal tub2 T4a ly0 v0 IVa M 29 Liver Hematogenous tumor and spermatic cord excision 4 alive
8 Yamaguchi16) 2016 59 M Rectum tub2 T4a ly0 v1 IIIb M 57 LN, Lung Unknown orchiectomy→CT 16 dead
9 Shikata17) 2016 70s M Transverse tub2 T4a IIIc M 24 Lymphatic CT→tumor and spermatic cord excision→CT 36 alive
10 Kikuchi18) 2017 50s M Transverse tub2 T4a ly1 v2 IIIc M 33 Peritoneal seedeing orchiectomy→CT 13 alive
11 Our case 75 M Ascending tub1 T4a ly0 v0 IIb M 36 Unknown orchiectomy→RT→CT 7 alive

Stage: Japanese Classification of Colorectal, Appendiceal, and Anal Carcinoma (Ninth Edition)

S: synchronous, M: metachronous, LN: lymph node, CT: chemotherapy, RT: radiotherapy

原発部位は盲腸2例,上行結腸2例,横行結腸3例,S状結腸2例,直腸2例と偏りはなく,組織型は高分化型腺癌もしくは中分化型腺癌であった.壁深達度はT4aが6例と最も多く,T3が4例,不明が1例であった.同時性転移症例は1例のみで,異時性転移症例は10例であった.異時性転移症例における初回手術から再発までの期間は平均33.8か月と比較的再発までの期間が長いのが特徴であった.

精索への悪性腫瘍の転移はまれな病態であるためこれを考慮する機会は少ないと考えられる.Algabaら19)は転移性精索腫瘍の23.8%は無症状であると報告している.鼠径部膨隆を契機に発見されることが多いが無症状のこともあり診断に遅れが生じないよう注意が必要である.悪性腫瘍の経過観察中に鼠径部の膨隆や腫瘤を認めた場合は増大傾向にないか慎重に観察し,無症状の場合でも画像検査の際には鼠径部を含めた評価が必要であると考える.

転移性精索腫瘍の予後は極めて不良で診断後の平均予後は6.1か月~9.1か月とされる6)7)19).再発大腸癌においては,再発巣の完全切除が可能であれば切除を考慮してもよいとされ,特に肝肺転移に対しては有効性が示されている20).一方,精索転移においては切除を行っても比較的早期に遠隔再発や局所再発を来す例9)12)18)もあり,精索転移に対する明確な治療方針は定まっていない.自験例においては局所再発の可能性を危惧して切除後に予防的局所放射線療法を行い,再発リスクが高いと判断し,その後全身化学療法を開始した.

大腸癌の精索転移においては,転移経路の同定が困難であることも多く,切除しえたとしてもその後の再発経路が推測しがたい.治療に際しては予後向上やQOL改善を目的とし,切除のみならず局所治療や全身化学療法といった集学的治療を考慮する必要があると考える.

非常にまれな上行結腸癌異時性精索転移の1例を経験した.精索に生じる腫瘍は極めてまれであり,悪性腫瘍患者において精索に腫瘍を認めた場合は転移性腫瘍の可能性も考慮して精査を行う必要があると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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