2023 Volume 56 Issue 11 Pages 593-599
症例は76歳の女性で,朝からの右季肋部痛と嘔気を主訴に近医を受診した.処方された内服薬を服用したが改善傾向がないため,当院に救急搬送された.腹部診察所見では右季肋部に圧痛を認めた.来院時検査所見では特記すべき異常所見を認めなかった.腹部造影CTでは胆囊は頸部と体部の移行部付近で狭窄しており,腫大した底部側胆囊では壁肥厚と造影効果の減弱を認めた.以上の所見から,胆囊捻転症と診断し,緊急腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術中所見では胆囊は腹壁から肝表面へ繋がる索状物で絞扼されており,絞扼部位より末梢側の胆囊は暗赤色に変色していたため,絞扼性胆囊炎との診断に至った.索状物を切離すると絞扼は容易に解除され,通常と同じ手順で手術を施行することが可能となった.術後経過は良好で第7病日に退院となった.絞扼性胆囊炎は,索状物により胆囊が絞扼されるまれな病態であり報告する.
A 76-year-old woman visited our hospital for right hypochondrial pain and nausea. Tenderness in the right hypochondrium was found by abdominal examination. Laboratory data were almost normal. Abdominal CT revealed a stenosis of the gallbladder between the neck and body, and a swollen gallbladder with a less-enhanced area of the fundus. Gallbladder torsion was diagnosed and laparoscopic cholecystectomy was performed immediately. The gallbladder was strangulated by a string that ran from the abdominal wall to the liver, and was dark-red in color at the body and fundus. There was no torsion of the gallbladder. Finally, the patient was diagnosed with strangulated cholecystitis. We were able to perform laparoscopic cholecystectomy by resecting the string. The postoperative course was satisfactory. There are few reports of strangulated cholecystitis due to strangulation by a string. We report this case with a review of the literature.
絞扼性胆囊炎は,索状物で胆囊が絞扼されることで血流が障害され,胆囊壊死から急激に全身状態が悪化するリスクがあるため,緊急手術を要する病態である1).今回,我々は腹壁から肝表面に繋がる索状物によって生じた絞扼性胆囊炎の1例を経験した.
患者:76歳,女性
主訴:右季肋部痛,嘔気
現病歴:以前より時々軽い腹痛や嘔気を自覚することがあったが,医療機関を受診することはなかった.当院受診した際は,朝から強い右季肋部痛と嘔気を認め,近医で投薬治療を受けるも改善しなかったため,夕方に救急搬送となった.
既往歴:帝王切開
内服薬:なし.
来院時現症:意識清明,身長140 cm,体重33.7 kg,体温36.7°C,血圧136/65 mmHg,脈拍64/min,整.腹部は平坦かつ軟で右季肋部に自発痛と圧痛を認めた.
来院時血液検査所見:特記すべき所見を認めなかった.
腹部造影CT所見:胆囊は頸部と体部の移行部付近で狭窄しており,腫大した底部側胆囊では壁肥厚と造影効果の減弱を認めた(Fig. 1).
Abdominal contrast-enhanced CT (A, B) showed strangulation of the gallbladder (arrows) between the neck (single asterisk) and body (double asterisk), and wall thickening and a diminished contrast effect in the fundus of the gallbladder.
以上の所見から,胆囊捻転症と診断し,緊急腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.
手術所見:臍部に12 mm,剣状突起下,右季肋部および右側腹部に5 mmポートを挿入し腹腔内を観察すると,胆囊は腹壁から肝表面へ繋がる索状物で絞扼されており,絞扼部位より末梢側の胆囊は暗赤色に変色していたため,絞扼性胆囊炎との診断に至った(Fig. 2A~C).索状物を切離することにより絞扼は容易に解除された(Fig. 2D~F).胆囊は腸間膜様間膜でのみ肝床部と付着したGross I型の遊走胆囊であり,可動性の大きい胆囊底部が,腹壁と肝臓の間に形成された索状物に反時計回りに360°絡まることによって絞扼されていた(Fig. 3).絞扼解除後は,胆囊と遺残した索状物を摘出し終刀した.手術時間は62分,出血量は少量であった.
Surgical findings. (A–C) The gallbladder was strangulated by a string connecting the abdominal wall to the surface of the liver, and the gallbladder on the distal side of the strangulation site had turned dark red. (D–F) The strangulation was released by cutting off the string.
(A, B) Diagrams of the intraoperative view. The bottom of the wandering gallbladder was strangulated by a string between the abdominal wall and liver.
摘出標本所見:絞扼部位を境に胆囊体部から底部の粘膜は暗赤色調を呈していた(Fig. 4).
A resected gallbladder specimen showing that the mucus membrane from the body to the fundus had turned dark red.
病理組織学的検査所見:切除標本(Fig. 5A)では,絞扼部に対応する領域(Fig. 5A青線領域)より遠位側では全層性に出血がみられた.フィブリンの析出,壊死,上皮の変性は目立たず,うっ血による出血性の変化と考えられた.一方,絞扼領域より口側では,出血性,炎症性変化は全く見られず,対照的であった.膠原線維を赤色に染めるElastica Sirius Red染色(Fig. 5B~D)では,絞扼領域の遠位側(Fig. 5D)では,線維筋層を挟み漿膜側に及ぶ線維化,漿膜内動静脈周囲の線維化が明らかであった.また,同様に口側にも線維化が見られた(Fig. 5D)が,絞扼部領域(Fig. 5C)では筋層は薄く線維化を欠いている.
Pathological findings of the gallbladder (A: 2.5 mm, B–D: 250 microns). (A) Hemorrhagic changes due to congestion on the peripheral side of the strangulation site. (B–D) Elastica Sirius Red staining. There was no fibrosis at the strangulation site, but fibrosis extending to the serosa was clear on the peripheral side of the strangulation site.
術後経過:経過良好で術後7日目に退院した.
絞扼性胆囊炎は,索状物で胆囊が絞扼されることで血流が障害され,胆囊壊死から急激に全身状態が悪化するリスクがあるため,緊急手術を要する病態である1).本邦では,成田2)が1995年に学会発表にて,新村ら3)が2003年に論文にて最初に本疾患を報告している.
医学中央雑誌で1964年から2020年の期間で「絞扼」,「胆囊炎」をキーワードとして検索した結果,原著論文で4症例と会議録で18症例認めた.また,PubMedで1950年から2020年の期間で「strangulated」,「gallbladder」をキーワードとして検索した結果,4症例の報告を認めた.その内,抄録または本文を検索しえた17症例1)3)~17)ならびに自験例を含めた計18例において,平均年齢は66歳で,性差は男性2例,女性16例と女性に多かった.年齢分布は,30歳代ならびに70歳代に多く,2峰性があるものと思われた(Fig. 6).術前診断は,胆囊捻転症と診断した症例が自験例を含めた11例で最も多く,次に多いのが無石胆囊炎の5例で,絞扼性胆囊炎と診断しえたのは1例のみであった.このように臨床所見や画像所見から,まれな疾患である絞扼性胆囊炎を診断することは困難であるが,いずれの症例も血流障害を伴う胆囊炎と診断しえており,早急な手術が行われていた.
Bar graph of the age distribution.
詳細な検討が可能な原著論文8例と自験例をまとめた(Table 1)1)3)8)10)12)15)~17).平均BMIは19.8 kg/m2とやや低い傾向があり,やせ型に多いものと思われた.画像所見に関しては,絞扼された底部側胆囊の血流障害が主な病態であることを考慮すると,絞扼部での狭窄および底部側胆囊の血流低下と壁肥厚の3点が主な所見となると考えられる.それぞれの画像所見は,狭窄を6例(67%),血流低下を5例(56%),壁肥厚を6例(67%)と高率に認めたが,全ての画像所見が揃った症例は自験例を含め2例(22%)と少なく,発症からの時間や絞扼の強さなどにより,出現する所見が異なるものと思われた.
Reported cases of strangulated cholecystitis
No. | Author | Year | Age/Sex | BMI | Image findings | Floating gallbladder | Cause of strangulation | Surgical procedure | Complication | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Stenosis | Lower blood flow | Wall thickness | |||||||||
1 | Shinmura3) | 2003 | 34/F | 22.1 | + | – | + | N/A | Band | LA | – |
2 | Benzoni15) | 2004 | 81/F | N/A | N/A | N/A | N/A | N/A | Incisional hernia | OP | – |
3 | Ueo12) | 2007 | 35/F | N/A | + | – | + | + | Lesser omentum | LA | – |
4 | Miyakura16) | 2012 | 61/F | N/A | + | + | – | + | Lesser omentum | LA | – |
5 | Kitajima10) | 2013 | 77/F | 18.8 | + | + | + | + | Band | LA | – |
6 | Kunichika8) | 2017 | 34/M | N/A | – | + | + | + | Greater omentum | OP | – |
7 | Kohga17) | 2017 | 91/F | 21.4 | + | N/A | + | + | Greater omentum | LA | – |
8 | Sato1) | 2018 | 86/F | 19.8 | – | + | – | + | Band | LA | – |
9 | Our case | 76/F | 17.1 | + | + | + | + | Band | LA | – |
N/A: not applicable, LA: laparoscopic surgery, OP: open surgery.
胆囊は,記載のない2例を除き全例が可動性の大きい遊走胆囊であった.一方,絞扼の原因は,位置や組織が異なるものの,1例を除き全て索状物によるものであった.このことから,可動性の大きい胆囊が,何らかの原因で形成された索状物により絞扼されることが,本症発症の機序であると思われる.
索状物ができる要因としては,クラミジアや淋菌感染により引き起こされるFitz-Hugh-Curtis症候群を始め18),術後の癒着や外傷が考えられるが,自験例でいずれの既往も有していなかった.一方,北島ら10)は体型がやせ型で遊走胆囊を有する場合,胆囊が肝周囲と衝突を繰り返すことで炎症が起こり,索状物が形成されると推察している.本症例もやせ型で遊走胆囊であり,病歴で軽い腹痛を繰り返していたことや,また病理組織学的検査所見で底部側に慢性炎症を示唆する広範な線維化を認めたことから,同様の機序により索状物が形成されたものと考察した.
手術に関しては自験例含めた7例が腹腔鏡手術を行っており,開腹の2例含め全例が術後合併症なく経過していた.絞扼の解除と胆囊摘出といった手術手技は比較的容易であるので,時期を逃さず緊急手術を行うことにより,良好な予後を得られるものと思われる.
索状物による絞扼性胆囊炎の1例を経験した.血流障害を伴う胆囊炎を認めた際は,本症例の可能性も念頭におき,早期に手術を行うことが重要であると思われた.
利益相反:なし