2023 Volume 56 Issue 12 Pages 643-652
目的:外科専攻医が安全に待機的腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy;以下,LCと略記)を執刀し修練認定を得るために必要な症例数と適切な執刀症例選択の指標について検討する.方法:2018年4月から2021年12月の期間に当科専攻医5名が執刀した待機的LC症例124例を対象とした.それぞれの専攻医の手術時間について累積和(cumulative sum;以下,CUSUMと略記)法を用いてラーニングカーブを作成し習熟に必要な症例数について検討した.また,手術時間と13項目の術前因子との関連を調査した.結果:年齢の中央値は61歳,男女比は64対60であった.術中所見について,手術時間は中央値105分,出血量は0 mlで開腹移行や術中副損傷は認めなかった.術後在院日数の中央値は3日で,Clavien-Dindo分類II以上の術後合併症を認めた症例はなかった.CUSUM解析の結果から,本術式の習熟が得られるまでには平均10.4例を要した.また,手術時間との関連が認められたのは13項目の術前因子のうち胆囊壁肥厚の有無のみであった(P=0.005).結語:外科専攻医における待機的LCの修練認定にはおよそ10例の執刀経験が必要であった.また,胆囊壁肥厚を有する症例では手術難度が高くなる可能性があり,指導医はそのことについて十分に配慮したうえで適切な症例を選択することがのぞましい.
Purpose: The aim of the study is to investigate the indicators for optimal case selection and the number of cases required for surgery residents to perform elective laparoscopic cholecystectomy (LC) safely and achieve certification through training. Materials and Methods: A total of 124 cases of elective LC performed by five surgical residents in our department between April 2018 and December 2021 were analyzed. Learning curves were constructed using the cumulative sum (CUSUM) method for each resident's operative time to determine the number of cases needed for proficiency. Correlations between operative time and 13 preoperative factors were also examined. Result: The median age of the patients was 61 years and the male-to-female ratio was 64:60. Intraoperatively, the median operative time was 105 minutes and blood loss was 0 ml. There were no cases with conversion to open laparotomy or intraoperative complications. The median postoperative hospital stay was 3 days and there were no postoperative complications of Clavien-Dindo grade II or higher. The CUSUM analysis indicated an average requirement of 10.4 cases for achieving proficiency in the procedure. Among the 13 preoperative factors examined, only the presence of gallbladder wall thickening was significantly correlated with surgical time (P=0.005). Conclusion: Experience of about 10 cases as an operator is necessary for surgery residents to obtain certification in elective LC. Cases with gallbladder wall thickening might pose difficulties and warrant careful consideration by supervising surgeons when selecting suitable cases for training of residents.
腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy;以下,LCと略記)は1980年代後半以降,胆囊結石症や急性胆囊炎などに対する低侵襲手術として世界中で広く普及している.本邦でも1990年に初めて行われて以降1),数多くの施設で施行されるようになり,現在では外科修練を開始して間もない専攻医が執刀する機会の多い術式となっている.しかしながら,外科専攻医がLCにおいて修練認定を得るために必要な症例数について検討した報告は少ない.また,本術式の難易度は待機的ならびに緊急いずれの場合でも症例によってさまざまであるが,経験の少ない専攻医がLCを執刀し高い安全性を担保しながら修練を積むために必要な患者選択の指標についても一定の見解がない.
外科専攻医が安全に待機的LCを執刀し修練認定を得るために必要な症例数,またどのような症例を選択して執刀を行うのが適切かを明らかにする.
2018年4月から2021年12月に当科で施行したLCの総件数は555件であり,そのうち緊急手術は236件であった.5名の外科専攻医(A,B,C,D,E,いずれも卒後3年目)が執刀した待機的LCのうち,単孔式で施行したものやLC以外の術式を併施したものを除く124例を対象として後方視的検討を行った.5名の専攻医が初執刀から累計した執刀数はそれぞれA:22例,B:32例,C:24例,D:20例,E:26例であった.それぞれの専攻医の手術時間をアウトカムとして累積和(cumulative sum;以下,CUSUMと略記)法を用いたラーニングカーブを作成し,LCの習熟に必要な症例数について検討した.また,術前因子として年齢,性別,米国麻酔科学会術前状態分類(American Society of Anesthesiologists physical status;以下,ASA-PSと略記),BMI,術前の血液検査におけるCRP上昇の有無,胆囊壁肥厚の有無(画像検査で5 mm以上),胆囊萎縮の有無(画像検査で胆囊長軸長4 cm以下),胆囊頸部結石嵌頓の有無,胆石発作既往の有無,胆囊炎や胆管炎既往歴の有無,ERCPや経皮経肝胆道ドレナージ,内視鏡的乳頭括約筋切開術といったドレナージ処置の既往の有無,腹部手術歴の有無,抗凝固薬または抗血小板薬内服の有無の13項目について手術時間との関連を検討した.一般的な定義に基づき年齢は65歳,BMIは25で区切り,検討を行った.なお,手術時間は皮膚切開開始から閉創終了までとした.
当科ではdry labで結紮などを始めとした腹腔鏡手術のトレーニングを専攻医それぞれが自主的に日々行っている.また,それぞれの専攻医における待機的LC初執刀までに経験していた腹腔鏡手術の執刀数は,A:19例,B:0例,C:22例,D:8例,E:2例であった.術式は腹腔鏡下虫垂切除術,緊急LC,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術などであった.
当科では専攻医の執刀症例を消化器外科専門医である指導医が選択し,指導医自身が第一助手として手術に参加し指導にあたっている.術前にはCTやMRIなどの画像検査によって,血管破格や胆道系の走行異常の有無などを入念に確認している.当科での基本的なLCのセッティングをFig. 1に示す.全身麻酔下で仰臥位とし,執刀医が患者左側,第一助手が患者右側に立つ.スコピストは主に初期研修医(卒後1年目または2年目)が担当し,患者左側で執刀医の尾側に立つ.モニターは一つで患者右頭側に置く.腹腔内に挿入するport数は基本的に4本で,臍部には12 mm port(カメラポート)を,心窩部には5 mm port(術者右手)を用いているが,指導医によって右肋弓下の2本(術者左手と助手)には5 mm portまたは細径鉗子(Endo Relief®,ホープ電子,千葉)を使用している.基本的に切開・剥離操作には吸引付きフック型電気メスを主に使用し,エネルギーデバイスは必要に応じて高周波手術装置または超音波凝固切開装置を片手法で使用している.また,胆囊動脈および胆囊管の処理には体内用結紮クリップ(Hem-o-lokクリップ®,テレフレックスメディカルジャパン,東京)を使用している.当科でのLCの基本的な手術手順は指導医によらず定型化しており,①ポート留置,②胆囊頸部~底部に向かって漿膜切開,③critical view of safety(以下,CVSと略記)確認,④胆囊動脈処理,⑤胆囊管処理,⑥胆囊床剥離,⑦胆囊回収,⑧生理食塩水1,000 mlによる腹腔内洗浄,⑨閉創,としている.なお,術中胆道造影やドレーン留置はルーチンでは行っていない.
Setting of laparoscopic cholecystectomy performed in our department.
本研究の統計学的解析にはEZR2)を用いた.手術時間と術前因子13項目との関連についての統計学的検定にはMann-Whitney-U testを用い,有意水準はP<0.05とした.
倫理的配慮として,岡山赤十字病院Institutional Review Boardの承認(承認番号:2022-52)を得たうえで本研究を実施した.本研究では後方視的カルテ調査を行っており,個人情報の保護規定を遵守しオプトアウトを利用した.
124例の患者背景をTable 1に示す.年齢の中央値は61歳で男性が64人(51.6%),女性が60人(48.4%)であった.BMIの中央値は23.9 kg/m2,ASA-PSは2以下が107人(86.3%),3が17人(13.7%)であった.術中所見について,手術時間は105分,出血量は0 mlで開腹移行や術中副損傷は認めなかった.術後在院日数の中央値は3日で,Clavien-Dindo分類II以上の術後合併症を認めた症例はなかった.
Patient and surgical characteristics
Number of cases | Total (n=124) | |
---|---|---|
Age | years* | 61 (21–83) |
Gender | male/female | 64/60 |
BMI | kg/m2* | 23.9 (16.3–35.6) |
ASA-PS | 1/2/3 | 21/86/17 |
Operative time | minutes* | 105 (56–241) |
Resident A | 75 (58–224) | |
Resident B | 118.5 (62–241) | |
Resident C | 111.5 (67–212) | |
Resident D | 108 (77–176) | |
Resident E | 85.5 (56–179) | |
Blood loss | ml* | 0 (0–200) |
Postoperative stay | days* | 3 (2–9) |
BMI: body mass index, ASA-PS: American Society of Anesthesiologists physical status
Continuous parameters are presented as the median (range)*.
次に5名の専攻医それぞれの手術時間についてCUSUM解析を用いて作成したラーニングカーブをFig. 2a~eに示す.実線がCUSUM値,点線はCUSUM値が減少に転じる症例数を表しており,これを習熟が得られるまでに要する症例数とした(8~15例,平均10.4例).
(a–e) Learning curve for each resident using cumulative sum analysis.
続いて先に述べた術前因子13項目について,手術時間を目的変数としてMann-Whitney-U testを行った結果をTable 2に示す.手術時間との有意な関連が認められたのは胆囊壁肥厚の有無のみであった(Fig. 3,P value=0.005).
Box-and-whisker plot of gallbladder wall thickening and operative time.
Relationship between operative time and preoperative parameters
Variables | Number of cases | Operative time (min) | P-value | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Minimum | 25%-value | Median | 75%-value | Maximum | ||||
Age | 65≤ | 55 | 58 | 89.5 | 106 | 135.5 | 241 | 0.085 |
<65 | 69 | 56 | 75 | 101 | 128 | 224 | ||
Gender | Male | 64 | 62 | 86 | 110 | 133 | 241 | 0.173 |
Female | 60 | 56 | 76.5 | 97 | 129 | 222 | ||
BMI | 25≤ | 49 | 62 | 85 | 111 | 140 | 224 | 0.197 |
<25 | 75 | 56 | 78.5 | 102 | 128 | 241 | ||
ASA-PS | 3≤ | 17 | 74 | 83 | 109 | 144 | 224 | 0.313 |
≤2 | 107 | 56 | 78.5 | 105 | 129 | 241 | ||
Elevation of c-reactive protein | + | 24 | 62 | 78.75 | 104 | 116.25 | 155 | 0.372 |
– | 100 | 56 | 81 | 105.5 | 135.5 | 241 | ||
Gallbladder wall thickening | + | 25 | 58 | 89.5 | 109 | 132.5 | 241 | 0.005 |
– | 99 | 56 | 70 | 75 | 119 | 222 | ||
Atrophic gallbladder | + | 4 | 56 | 66.5 | 86 | 104.25 | 111 | 0.132 |
– | 120 | 58 | 81 | 105.5 | 132.25 | 241 | ||
Incarcerated stone in the gallbladder neck | + | 7 | 68 | 100 | 103 | 110 | 155 | 0.94 |
– | 117 | 56 | 79 | 105 | 132 | 241 | ||
History of gallstones attack | + | 82 | 58 | 81.75 | 109 | 134.75 | 224 | 0.338 |
– | 42 | 56 | 79.5 | 102.5 | 116.75 | 241 | ||
History of cholecystitis or cholangitis | + | 56 | 58 | 84.75 | 105.5 | 136.25 | 241 | 0.208 |
– | 68 | 56 | 74.75 | 104 | 129.25 | 212 | ||
History of drainage | + | 42 | 56 | 85.5 | 107 | 127.5 | 212 | 0.947 |
– | 82 | 58 | 75.75 | 104 | 134.75 | 241 | ||
History of abdominal operation | + | 33 | 56 | 84 | 111 | 129 | 212 | 0.481 |
– | 91 | 58 | 78.5 | 103 | 132.5 | 241 | ||
Anticoagulant or antiplatelet | + | 13 | 56 | 67 | 83 | 110 | 162 | 0.085 |
– | 111 | 58 | 83 | 106 | 131 | 241 |
BMI: body mass index, ASA-PS: American Society of Anesthesiologists physical status
LCは胆囊結石症や急性胆囊炎などに対する低侵襲手術として世界中で広く普及しており,現在本邦でも外科修練を開始して間もない専攻医が腹腔鏡手術の修練として執刀する機会の多い術式である.しかし,これまでに外科専攻医が執刀するLCのラーニングカーブについての報告や習熟に必要な症例数についての検討は少ない.PubMed(1950年~2022年)および医学中央雑誌(1964年~2022年)で「laparoscopic cholecystectomy」,「resident」,「learning curve」,「training」,「腹腔鏡下胆囊摘出術」,「研修医」,「専攻医」,「ラーニングカーブ」などをキーワードに検索を行ったところ(会議録除く),専攻医が執刀する待機的LCのラーニングカーブについて考察したコホート研究は海外における二つのみであった3)4).また,Reitanoら5)は,LCの修練に関する九つの文献でsystematic reviewを行ったが,習熟に必要な症例数は13~200例と文献によって大きな乖離があり,そのうえラーニングカーブの検討については標準的な方法が使用されていないことから,適切な検討が行えなかったと報告している.本研究ではラーニングカーブの作成にCUSUM法を用いたが,これは手術の習熟度を評価する標準的な手法6)7)とされ,さまざまな臨床研究で使用されている8)9).今回,当科で外科専門研修を行った5名の専攻医による待機的LCの手術時間に関するCUSUM解析を行ったところ,それぞれの専攻医によって手術時間や習熟速度に差はあるものの,初執刀からラーニングカーブが得られるまでにおよそ10例を要する結果となった.しかし,CUSUM解析について,必ずしもラーニングカーブが得られる訳ではなく,執刀医によって結果に差が出ることなどから腹腔鏡手術においては適さないという報告10)もあり注意が必要である.横軸を執刀症例数,縦軸を手術時間とした曲線と差異がない可能性もあるが,本研究ではエンドポイントを専攻医が最初に行う待機的LCの修練に必要な症例数と設定しており,それぞれの執刀医についてラーニングカーブが得られた症例数を客観的かつ具体的に同定するためにCUSUM解析を利用した.そして待機的LC初執刀までに経験していた腹腔鏡手術件数にも多少のばらつきがあったものの,当科での修練により5名ともラーニングカーブを得ることができた.これまでに海外で報告された二つのコホート研究,本邦における武藤ら11)の報告と本研究を併せた四つの研究結果をTable 3に示す.武藤ら11)は,専攻医のLCは9例を経験することで習熟が得られたと報告しており,本研究でもそれに近い結果となった.また,本研究における執刀医は外科専門研修を開始して間もない専攻医1年目のみであり,3,4年目の外科専攻医を対象としたKoulasら4)の報告による平均手術時間57分や,10年目未満の後期研修医を対象として武藤ら11)が報告した69分と比較すると,本研究の平均手術時間は110.2分とある程度長くなった.また,経験の少ない専攻医が効率よく習熟を得るためには,推奨されている安全なLCの手術手順を参考にすることがのぞましいと考える.Tokyo Guidelines 201812)(TG18)に記載されたものをはじめ,これまでに報告されているLCの手順13)14)を取り入れることで,症例数を重ねるごとに適切な手技および手順が定着し効率的に手術時間の短縮が得られると期待できる.当科でも基本的な手術手順は前述の通り定型化している.それに加え,専攻医は執刀を経験するにつれ状況に応じたエネルギーデバイスの有効活用を心がけている.当科では基本的に初執刀から同じエネルギーデバイスを片手法で使用することで,その取扱いに慣れ,効率的かつ円滑に手術を進行させて時間の削減につなげるよう指導を受けている.ただし,手術時間のみで待機的LCにおける習熟の程度を評価することには限界があると考えられる.本研究においては術中出血量がほとんどの症例で極めて少なく,術中および術後合併症も認めなかったため,これらの項目は解析に用いるには不十分であった.そこでこれまでに提唱されているthe Objective Structured Assessment of Technical Skill(OSATS)15)やGlobal Operative Assessment of Laparoscopic Skills(GOALS)16)などの手術評価スコアリングシステムを利用した検討なども期待される.当科での待機的LCの修練において,シュミレーターやアニマルラボを利用した経験は少なく,実際の執刀によるon-the-job trainingが大きなウエイトを占めている.限られた症例数で確実に修練認定を得るために上記のようなスコアリングシステムを利用することで手術における各工程ごとの自己評価および客観的評価が可能となり,1例ごとに具体的な目標設定を行いながら,より効率的に修練を積める可能性があるため,今後当院でも採用を検討したい.
Summary of published articles on learning curves for laparoscopic cholecystectomy among residents
本研究においてLCの手術時間との関連を認めた術前因子は胆囊壁肥厚のみであった.これまでの報告でも性別,BMI,頸部結石嵌頓,上腹部手術歴,急性胆囊炎および緊急手術などに加え,胆囊壁肥厚も手術の難易度や開腹手術への移行に関わる因子とされている17)~25).胆囊壁肥厚は炎症を繰り返し起こしたことによる胆囊壁の線維化・瘢痕化を反映しており,Calot三角周囲への炎症波及も来している場合がある.その際,適切な剥離層や胆囊動脈,胆囊管および総胆管などの構造物を同定することが困難となるため手術難度の上昇に関わるのではないかと考える.胆囊壁肥厚を有する症例では鋭的な剥離操作を要し,かつ剥離操作に要する時間も延長することから,副損傷を起こすリスクも上昇すると予測される.本研究において専攻医Cは8例目で一度ラーニングカーブが得られたにもかかわらず,16例目および17例目に大きな手術時間の延長が認められた.これらは胆囊壁肥厚を有する症例の執刀であり,出血量もそれぞれ50 ml,200 mlと多くなっていた.胆囊壁肥厚によって手術が難化し,結果として手術時間の延長や出血量上昇を来した可能性がある.以上から,術前に腹部CTやMRI,腹部超音波検査などによって胆囊壁肥厚の有無を同定しておくとよい.そのうえで指導医は,胆囊壁肥厚を有するLCは経験の少ない専攻医が執刀するには難易度が高くなる可能性があるため,注意しておくことがのぞましい.これまで当科でも専攻医の待機的LCの執刀症例を選択する際,胆囊壁肥厚を有する症例も特に問題視されず選択されていたが,本研究の結果から,初執刀から10例目前後まではあくまでも難易度の低い症例の執刀で修練認定を得ることを目的とし,胆囊壁肥厚を有する症例に対するLCの執刀は可能であれば避けることがのぞましいと考える.10例を超える執刀経験があり,十分な習熟を得ていると判断した場合には,胆囊壁肥厚を有する症例に加え急性胆囊炎症例や解剖学的破格を有する症例など,さらに注意の必要な症例の執刀をさせることも可能であると考える.
また,本研究においては胆汁漏などの重篤な術後合併症や胆管損傷などの副損傷を認めず,当科では安全に待機的LCの修練を行うことができていると考える.LCにおける胆管損傷の頻度は開腹手術と比較して高く,胆囊に炎症所見を有する症例で特にそのリスクが高いとされている26).手術難度に関わる術中因子としてもCalot三角部の癒着や胆囊頸部周囲の炎症の程度などさまざまなものがあり,それらを項目とした手術難度についてのスコアリングシステムについての報告も複数認められる20)~22).専攻医が執刀する腹腔鏡手術としては最も多い術式の一つであるLCにおいて,その安全性は高く保つことがのぞまれる.また,急性胆囊炎に対する緊急LCを安全に遂行するためにはStrasbergら27)が提唱したCVSの概念が重要で,緊急LCだけでなく待機的LCにおいても胆囊管切離前に確認しておくことで胆管損傷を防ぐことが可能であるとされている28)29).このことは当科の専攻医である筆者においても強く教育されている.また,CVSが確認できない場合は回避手術(bailout surgery)によって胆管損傷を防ぐことができるとされている14).本研究においても,特に胆囊頸部周囲の線維化が強く,Calot三角の展開が困難であった1例で胆囊亜全摘術が施行されていた.また,経験の少ない専攻医が安全にLCの執刀経験を積むうえで,指導医の適切な直接的アシストが必要不可欠である.当科での指導医による主なサポート方法として,言語による手術操作の指南や助手鉗子による胆囊の牽引方向の調節,必要に応じた執刀医交代なども行っている.また,スコピストはLCの経験に乏しい初期研修医が主に担当するため,そのカメラワークについて指示・教育をしている.指導医には回避手術への移行や執刀医交代など状況に応じた適切な現場判断が要求されるが,本研究の対象症例においては,胆囊頸部の処理に難渋した場合や胆囊摘出術施行前に腹腔内の癒着剥離を要した場合,止血に難渋した場合などで一部指導医への執刀医交代が行われた.当科での専攻医が執刀する待機的LCが安全に施行できている理由として,指導医と専攻医いずれもがCVSの展開を心がけて手術に臨んでいること,術前にCTやMRCPで血管破格や胆道系の走行異常の有無を確認していること,年間100例以上の待機的LCに立ち会っている経験豊富な内視鏡外科指導医が術野に入り,上記の如く適切に執刀医へのアシストやスコピストへの指導,時に執刀医交代を行いながら適切な指導を行える体制が構築されていることなどが挙げられる.
本研究のstudy limitationとして,対象症例数および専攻医数が少ないこと,単一施設での後方視的研究であること,そして手術時間のみをアウトカムとしたCUSUM解析でラーニングカーブの検討を行ったこと,などが挙げられる.
本研究で専攻医が待機的LCにおける修練認定を得るために必要な症例数ならびに適切な患者選択の指標について検討を行った.外科専攻医における待機的LCの修練認定にはおよそ10例の執刀経験が必要であり,その際胆囊壁肥厚を有するような症例では手術難度が高くなる可能性が示唆された.よって,安全面と手術時間の延長を考慮した場合,外科専攻医の修練としての待機的LCにおいては,10例前後までは胆囊壁肥厚を有する症例を避けるのがのぞましいと考える.
利益相反:なし