2023 Volume 56 Issue 2 Pages 108-109
医師の長時間労働に対する改善や健康確保措置が不可欠という考え方より,いわゆる働き方改革として医師に対する時間外・休日労働の上限規制が2024年4月から適用される.ここでは,時間外・休日労働が年960時間を超える医師が勤務する医療機関に「医師労働時間短縮計画」の作成が義務付けられている(新原論文引用).日本消化器外科学会の働き方改革ワーキンググルーブでは,この問題につき議論を重ねてきた結果,医師労働時間短縮のための施策「3本柱」を提案した.詳細は日本消化器外科学会ホームページに公開されている,日本消化器外科学会雑誌の先行公開された記事「働き方改革特集」を参照されたいが,
① 始業終業時間の改訂による労働時間短縮(滝口論文引用)
② 当直体制の整理(チーム制診療など)による時間外労働医師数の削減(黒田論文引用)
③ 正確な退勤管理による真の労働時間の抽出 (滝口論文引用)
以上の三項目を以って医師労働時間短縮のための施策「3本柱」としている.この施策により,大幅に労働時間は短縮されることが見込まれる.
大幅な労働時間短縮の一方で,これに伴う医師の収入減も予測される.特に外勤当直などが少なくなる事による医師の収入減は,医師の生活水準にも大きな影響があることが想像される.大学病院をはじめとして医師の収入を院外労働によるものに頼らざるを得ない病院も少なくないため,これらの減少が予想される大学病院等における二次的な人材不足(多くの収入が得られる病院への医師の偏在)が懸念される.さらに若手医師のリクルート活動にも弊害が生じる可能性があり,この結果,近年の外科医減少に拍車がかかる懸念もある.
時間外労働,休日労働などの多い医師およびその他の医療従事者へのインセンティブという考え方は従来より存在し,一部の施設では時間外労働を行った医師に対してインセンティブを支給している.一方では,働き方改革による収入減を補填するに十分なインセンティブの原資を作り出す体力のある病院は少ない.この問題に対して,日本消化器外科学会としては「休日・深夜・時間外加算」という制度を利用して,外科医へのインセンティブとして獲得することを考えている.本来,本加算は外科医を含む医療従事者の時間外勤務による負担軽減を背景として制定された経緯がある.一方では,この加算は病院収益として扱われ,必ずしも外科医の元へ十分に届いていないという指摘もある(今村論文引用).
そこで,日本消化器外科学会としての解釈は以下のようになる.「休日・深夜・時間外加算」で得られた収入が時間外労働を行っている医師(または医療従事者)に十分に支払われるべきである.
休日や時間外に勤務する医師の労働はある意味ボランティア精神と医師の善意の上に成り立ってきた.一方,時間外労働が増えることで,医師の健康状態の悪化やライフワークバランスの破綻などの問題は深刻であり,この問題を解決するために「医師の働き方改革」が提案されている.この反面,医師の収入減少およびこれに伴う外科医不足が生じることが懸念される.そこで,休日や時間外に行われる労働が「報酬のないサービス」ではなく「正当な対価が保証された労働」であることを主張した.
日本消化器外科学会の本提言であるドクターインセンティブとしての「休日・深夜・時間外加算」の医師への配分が消化器外科医減少に対する歯止めの一助となってくれることを祈念する.