The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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2023 Volume 56 Issue 2 Pages 117-120

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I. はじめに

「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進する観点から,医師の働き方改革,各医療関係職種の専門性の活用,地域の実情に応じた医療提供体制の確保を進めるため,長時間労働の医師に対し医療機関が講ずべき健康確保措置等の整備や地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組に対する支援の強化等の措置を講ずる.」

厚生労働省により出された「医師の働き方改革」の趣旨の抜粋である.つまり,良質かつ適切な医療を提供するためには,医師の長時間労働に対する改善や健康確保措置が不可欠であることは言うまでもない.働き方改革関連法自体は2019年4月から適用が開始されているが,医師を含め限られた職域のみに5年間の猶予期間が与えられている.そして,その猶予期間の終了まで1年半(2022年10月時点)に迫った現時点で,長時間労働に晒されることが多い消化器外科医としてどのような問題点や課題があり,それに向けてどのような対策を講じるべきなのかを考えなければならない.

2022年4月に消化器外科学会働き方改革WGが結成され,定期的にミーティングを重ねてきた.現時点での問題点や各医療機関の取り組みなどを共有することにより,漠然としていた「働き方改革」の輪郭がより明確になりつつあるのを感じている.

働き方改革を真の意味で進める上では,乗り越えなければならないハードルがいくつも存在する.病院の規模や地域の医療環境などによっても,取り組むべき課題は大きく異なることが想定される.

それらの課題の中で,「当直業務,宿日直申請」「時間短縮計画と勤怠管理」「 ドクターインセンティブとしての休日深夜時間外加算」に焦点を絞り,これまでのミーティングを踏まえ,それらの詳細および各医療機関の取り組みの例などの提示いただこうと考えている.これらは,改革を進める上で特に重要と考えられる課題である.

II. 労働時間とは

医師の労働時間短縮に向けて様々な取り組みを考えることになるが,その根本である「労働時間」とは何を指すのであろうか?裁量労働制の場合は,労働時間が労働者の裁量にゆだねられている労働契約なので,労働時間の長短は基本的には問題にならないため,裁量労働制以外の場合の労働時間に関して言及する.

労働時間とは,「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされている.業務に必要な準備行為(例えば,着替えや清掃など)にかかる時間も労働時間に該当する.院内で緊急時などに備えて待機する時間も労働時間に該当するが,宿日直許可申請を得た上で,許可範囲であれば労働時間としないことができることとなっている.オンコール待機中に実際に呼ばれて診療行為が行われた場合は,当該診療に従事する時間は労働時間に該当する.オンコール待機時間全体が労働時間にあたるかどうかに関しては,個別の実態を踏まえて判断される.セミナー講師などに関しては,使用者の指揮命令下で行われていないため,一般的には労働には該当しない役務の提供となるため労働時間には該当しない.また,主に大学病院に勤務する医師は,学生教育(座学や実習など)を担うこともあるが,これらに関しても自己研鑽とみなされるため労働時間には該当しないということになっている.

当院では,臨床医が行う研究や論文作成などは一律に自己研鑽とすることと決定した.事実上,使用者(教授や診療科長など)の指揮命令下にない研究や論文はほとんどないと思われる.しかしながら,もしそれらの研究や論文作成が本人の意にそぐわない内容であれば,実質上は指揮命令下において強制されていると判断されるので,その時間を労働申請することができるシステムを検討している.(この場合,「意にそぐわない」ということを伝えることになるので,使用者(教授)に申請を行うのではなく,事務に直接申請することを予定している.)

今後,これらの労働時間に関しても考え方が時代と共に変化してゆくこともあるかと思うが,現時点では各医療機関で一定の基準やルールを設けて労働時間や自己研鑽を定義し,それらに則った労働時間の短縮に向けた対策を取る必要がある.

III. 医師労働時間短縮計画

この医師労働時間短縮計画(以下,「時短計画」)を作成することが各医療機関において行わなければならない第一歩であると言える.そして,その一歩を踏み出す前の準備が必要となり,それが労働時間上限時間の設定を行うことである.これには,各医療機関で定義された労働を基準に始業・就業時間の遵守(出退勤管理)を行い,院内周知・啓蒙のほかヒアリングなどを通じて勤務実態を把握した上で診療科単位もしくは個人単位での改善を行われなければならない.なぜなら,時短計画は医療機関単位で提出ではなく,診療科(グループ)もしくは医師個人単位で水準の指定を受ける必要があるからである.

時間外労働時間の上限時間を設定する際に,現状の消化器外科領域の診療体制において時間外労働をA水準の「960時間」以内とすることは多くの医療機関において困難な場合が大半であると考えられる.そこで,時間外労働時間の上限を「1,860時間」とするために,都道府県にB・C水準(特例水準)の指定を受けなければならない.その指定申請を受ける上で最も重要な書類の一つがこの「時短計画」となる.

ここで,各水準の概要を示す.

●B水準・連携B水準(地域医療確保暫定特例水準

「救急医療提供体制及び在宅医療提供体制のうち,特に予見不可能で緊急性の高い医療ニーズに対応するために整備しているもの」とされており,具体的にはi)三次救急医療機関,ii)二次救急医療機関かつ「年間救急車受入台数1,000台以上又は年間での夜間・休日・時間外入院件数500件以上」など,iii)在宅医療において特に積極的な役割を担う医療機関,iv)公共性と不確実性が強く働くものとして都道府県知事が地域医療の確保のために必要と認める医療機関(例:精神科救急に対応する医療機関,小児救急のみを提供する医療機関,へき地において中核的な役割を果たす医療機関)とされている.

連携B水準は,上記のB水準の医療機関に医師の派遣等を行う医療機関を指し,大学病院などがそれに相当することが想定される.連携B水準の留意点としては,個々の医療機関における時間外・休日労働時間の上限が「960時間」であることが条件となる点である.

B水準・連携B水準は,2035年度末を目標に終了が予定(検討)されている.

●C-1・C-2水準

C水準は「集中的技能向上水準」とされており,医療機関を特定する必要がある.その中で,C-1水準は,初期・後期研修医が研修プログラムに沿って基礎的な技能や能力を習得する際に適用される.一方,C-2水準は医籍登録後の臨床従事6年目以降の者が高度技能の育成が公益上必要な分野について特定の医療機関で診療に従事する際に適用される.C-2水準は,他の水準とは異なり,高度技能の習得を目的としているため,医師個人の意思でそれぞれが計画を作成し,それをもって医療機関が申請する必要があるということになっており,プログラム単位や診療科単位での作成や申請を行わない点も留意が必要である.

C水準も,現時点では期限は明示されていないものの将来的には縮滅の方向で考えられている.

このようにB水準・C水準はいずれも縮滅の方向であるということは,あくまで現状の医療水準を極端に縮小することを避けるため,もしくは高度な技能の習得を妨げることがないように,時間外労働時間の上限を「960時間」から暫定的に「1,860時間」と設定されている水準であるとも言える.それゆえにA水準より厳しい「追加的健康確保措置」が義務付けられている.つまり,「連続勤務時間28時間以内」「勤務間インターバル9時間の確保」「代償休息」などである.(A水準では,これらは努力義務となっている.)

時短計画は,ひな型や作成例が閲覧可能となっている(ひな形PDF).しかし,それに沿って診療科単位もしくは医師個人単位で作成すればよいというものではない.あくまでそれに沿ってA水準に相当する時間外労働時間を960時間以内にするべく,時短計画が進んでいるかどうかを「PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクル」を回すことが重要視されているのである.

IV. 2024年4月までのながれ

先述のように第一歩が「時短計画の作成」であり,次にそれを医療機関勤務環境評価センター(以下,評価センター)による評価を受ける必要がある.この評価にどれくらい時間を要するのか,どれくらいのやり取りを要するのかなどの詳細は明らかとはなっていないが,何回かのやり取りを経て数ヶ月を要すると考えられている.

評価センターによる評価受審の上で,都道府県へ各水準の指定申請を提出し,都道府県医療審議会意見聴取を経て,指定結果を受領した後に36協定を締結し,所轄労働基準監督署へ届け出ることで,各水準の指定を公示する流れとなる.

2024年4月までにこれからのB水準・C水準の指定を受けられていない医療機関は,基本的にはA水準が適用され960時間以上の時間外労働を課すことはできなくなる.そのため,第一歩である「時短計画の作成」を速やかに進める必要があるのである.

当院におけるRoad Map(Fig. 1)を示すが,この時系列で十分に余裕をもって間に合うか,もしくはギリギリとなるかに関しては言及できず,推奨するものではないが,参考になればと思い提示した.

Fig. 1

V. さいごに

法律の改正にともない渋々重い腰を上げて動くのではなく,あくまでよりよい医療を提供するためにまず必要な,我々自身の労働環境を見直すこと,そして,これから外科医・消化器外科医を志す臨床研修医や学生への重要な道標となるように,今回の取り組みがそのような機会となることを望んでならない.そして,それは今回の改正のみで終わるのではなく,今後も考え続けていかなければならない重要な課題でもあるとも考えている.

謝辞 北里大学医学部整形外科藤巻寿子先生に院内働き方WGなどをはじめ多大なご助言,ご協力頂きました.ここに誠意の意を表します.

 

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